唸るように降りしきる雨音がガラス窓の向こうから届く。威嚇する獣の鳴き声みたいな音を立てながら、雨はあまりの激しさに窓の外を白く煙らせていた。その様相をチラリと見遣り、叶は改めて自分の判断が正しかったと確信した。
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あの車内で獅子神の口から漏れ出た迂闊な一言は、叶にとってまさに望むところだった。リベンジというわけではないが、自分自身の発言に気恥ずかしくも期待をした表情を浮かべている目の前の男に、もっと自分を欲しがらせたいと思った。そんな思いのまま、叶は思いつく限りの方法全てで唇を合わせる。繰り返し何度も食み、舐り、吸って、絡ませ。喉奥近くまで舌を差し入れくすぐったり、歯列をなぞったり、焦らすようにゆっくりと丁寧に時間をかけて。
そうして、どちらのものとも分からない唾液が口端を伝うくらいで、叶は不意に突き飛ばされ身体を離された。それは軽い力であったものの突然のこと過ぎて叶は面食らう。何か気に食わないことでもあったのかと様子を注視した次の瞬間、顔をそむけた獅子神から堪えきれなかったらしい大きなくしゃみが聞こえた。
突き飛ばされた理由が分かり、なんだと少し気が抜けたものの、立て続けにくしゃみを繰り返す獅子神に今度は別の心配をしてしまう。仕切り直しをと思っていたが、どうやらさっさと落ち着ける場所を探すほうが良さそうだった。
心做しか雨音が少し強まった気もする。名残惜しくはあったものの、さすがに思春期の少年のような切羽詰まったがっつきは無いので多少の自制は効く。叶は運転席側に乗り出していた身体を助手席へ戻すとスマートフォンを取り出し電話をかけ始めた。一体どこへかけているのか訝る獅子神を見据えつつ、叶は応答した相手へと手早く要件を伝える。電話をかけた先はクレジットカード会社が提供するコンシェルジュだった。
たいてい、どこのカード会社も一定のグレードのカードを所持し、なおかつ年間で決まった金額以上の利用をしていると何かと融通を効かせてくれる機会が多い。お得意様へのサービスとして用意してあるコンシェルジュもその一つだ。叶が持っているカードではパーソナルコンシェルジュが用意されていて、取り付けるのが少し難しそうだったり面倒そうだったりする予約を依頼すると、代わりに手配をしてくれる。例えば、今みたいな場合で言えば「現在地から三十分圏内でこれから二人で宿泊可能な旅館を予算の上限は無しで」とオーダーすれば、難易度にもよるが比較的すぐに手配がされるという寸法だった。当日ではあるものの平日ということもあり、条件に適う宿泊先は思ったよりも早く手配された。
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今しがた通された部屋はこの旅館の中では一等広い和洋室だ。部屋付きの露天風呂とは別に、大きくガラス窓をとった広めの内風呂がある。中を覗けば石造りの湯船が備え付けられていて、そこにはとうとうとお湯が満たされ溢れ出ていた。快晴であれば色付いた山々を楽しんだり、夜ならば星空を、朝方ならば日の出をと飽きることが無さそうだが、今現在は土砂降りの豪雨ということで景色を望むことは不可能だった。
手に持っていたバッグを置き獅子神を見ると、車内で暖房は効いてたものの濡れた服で居たせいか少し肌寒そうにしている。
「いっしょに入っちゃう?」
寒いでしょ、と言外に意味を含ませると獅子神は浴室を覗き込み答える。
「あー、割と広いけど……いけっか? コレ」
「向かい合ったらいけそうじゃない? 膝は折りたたまなきゃだけど」
「オマエのなっがい脚だと膝がお湯から出そうだな」
お互い身体が冷えているのは分かっているからか、一緒に入ること自体には異論はないらしい。獅子神は病み上がりなのだからと頑として譲らず叶を先に脱衣所へ追い立てる。二人同時に浴室に行ったところで洗い場は一つだ。叶が洗い終え、浴槽に身を沈めたくらいの頃合いで獅子神も来るほうが良いと判断したらしい。
叶は獅子神を極力待たせないように身に着けていた衣類を脱衣カゴに放り込むと、手早く身体と頭を洗ってしまう。頭を洗いながら、獅子神が入院セットで持たせてくれたシャンプーを使えば良かったと思ったが、気付いたところでもう遅かった。備え付けのものは指通りと香りがあまり気に入らないが仕方ない。入院の準備をしていたとき、獅子神が言っていたことを思い出し、叶は思わず笑ってしまう。本当に敬一君はよくオレを見ているな、と。叶自身が不快と感じる前に、その芽を摘んでしまえるのだから。
「敬一君、洗い場使い終わったから、もういーぞー!」
湯船に浸かる直前、少しだけドアを開けて隙間から声をかける。その声掛けに短く応答する声が聞こえ、叶はさっさと身体を浴槽の中に沈めた。一人で入っている間は湯船の中を目いっぱい占有する。浴槽の長辺は叶が足を伸ばして少しお釣りがくるくらいの余裕があった。縁にかけていた両腕もお湯の中に入れズルズルと湯に浸れば声にならないため息が漏れ出る。冷えていた身体にお湯の温度が心地良い。
その温かさを堪能していると浴室のドアが開き、獅子神が入ってくる。日々トレーニングを欠かさないこともあり、なんとも見栄えのする身体をしているなと思う。
「それ、ほんとに二人入れんのかよ」
身体を洗いながら、お湯から首から上だけがお湯から出ている叶をチラリと見た獅子神が半信半疑で問いかけてくる。
「いける、いける。気持ちいいから早くおいでよ敬一君も」
「おー」
ざばざばと泡を流し終えた獅子神が浴槽へ来たので、叶は沈めていた身体を引き上げ、縁に両腕をかけると脚を折り畳む。獅子神はその様子におかしそうに笑いながら、空けられたスペースに足を入れ温度を確認すると身を沈めた。向かい合う体勢でゆっくりと肩下まで浸かると首を仰け反らせて深々と息を吐く。
「なんか……すっげー疲れた」
お湯の中で脱力しながら、おそらく心の底からの言葉が獅子神の口から漏れ出る。まあ、確かにそれはそうだろうな、と叶は他人事のように納得した。獅子神はお湯の心地良さを味わいながら首を右に左にとゆっくり伸ばし、そのままぐるりと頭を回してストレッチをしている。お互い膝を曲げて向かい合っているものだから、足先が少し触れ合ってなんだかくすぐったい。
ガラス窓一枚隔てた向こう側は激しい豪雨だというのに、むしろそれも相まってなのか、なんだか外界から隔絶されたこの浴室がさながらエアポケットのようにも感じられた。
「あったけーな」
リラックスした声音で獅子神が言う。
「うん、あったかいね」
叶もそれに同意して、この会話自体に然程意味はないものの、こうして感じたままに口にしあっているのが心地いい。各々身体を温めながらぼーっとしていると、思い出したように獅子神が口を開く。
「そういやオマエ、傷口大丈夫か?」
おそらく今日一日の出来事でも思い返していたのだろう。獅子神からそんな言葉が投げ掛けられる。
「悪かったな、加減しないで思いっきりやっちまって」
加減も何も、そういうことを思いやれる程の余裕なんてなかったのだろうから、それは不可抗力だろう。
「平気だよ。気にしなくても大丈夫。ほら、オレも〝加減しないで思いっきり〟やっちゃったし」
「っとにオメーは……こっちは心配して言ってんのによぉ」
叶の言葉に先程のことを思い出したのだろうか。獅子神は気恥ずかしさを隠すようにブツブツと文句を口にしている。そんな様子に叶はじんわりと愛しさが胸に滲むような感覚を覚える。こんな些細なことで心が震えるという事実が堪らない。恋をすると人は愚かになりがちだが、これは仕方ないなとすら思えてしまう。
「なぁ、敬一君」
浸かったお湯の温かさに目を閉じて脱力し始めた獅子神に叶は声をかける。
「んー? なんだぁ?」
獅子神は脱力したままの状態で気の抜けた返事をする。
「オレが居ない間、寂しかった?」
唐突に投げかけられた質問に、一瞬だけ間が空いた。叶の言う「居ない間」が入院中の期間だけじゃないということは、ちゃんと伝わったようだ。
「分かんねー」
「怖かった?」
「…………分かんねぇ」
「会いたかった?」
繰り返される短い質問に応じていた獅子神だったが、いよいよ流し難い質問だったのか不貞腐れたような顔で叶を見つめてくる。
「分かってんのに訊くんじゃねぇよ」
「ちゃんと言葉にしなきゃ分からないって言ったのは敬一君だろ?」
「毎日毎日四六時中、寝ても醒めてもオマエのこと考えてたかって訊かれたら答えはノーだ」
「なるほど」
依存するほどではないが、それでも恐らくは取り立てて特別に意識することも無いくらい日常的に、その心の片隅もしくは根底に自分という存在が居場所を占めていただろうことが察せられ、叶はどうしようもなく愛しくて居た堪れない心地になる。そして目の前のこの男が、こんなにも容易く自身の心を揺さぶってしまう事実に改めてどうしたものかと考えあぐねてもしまう。獅子神本人はそんなことには全くもって気付いていないのだろうが。
「ねえ、敬一君?」
「次はなんだよ」
揶揄うような質問が続いたせいか、獅子神は少し呆れたように応じる。
「オレたち、どうしよっかね」
だが続いた叶の言葉が先ほどまでのそれとは毛色の違うものだと分かったらしい。雨粒がガラスにぶつかり弾けるのを見るともなしに見ていた獅子神の視線が叶の方へと移る。
「現状維持? それとも……なんか、どうにかなっちゃう?」
「どうにか、ってなんだそれ」
おそらく叶の言わんとしていることを理解できてはいるのだろうが、獅子神はそれに対する明確な回答を持ち合わせてはいないようだった。それでも、今自分が抱えている思いや考えをどうにか言語化しようと難しい顔で少し押し黙った後で、心の底を浚うように言葉を拾い上げ伝え始める。
「オレは……オレとオマエの間だけの話でいい。他の奴に示すような明確な名前とか、そんなん無くてもいいよ」
「え?」
そうして考え考え紡ぎ出された獅子神の言葉は叶の意図していたものとは違い、思わず虚を突かれる。
「オマエがさ、オレを求めてくれるなら納得できる限りなんだって渡してぇって思ってる、正直なところ。我ながら重いなと思うけど、オマエに期待されたり求められたりするのは……なんか、嬉しいからよ。でも、あくまでオマエと二人の間での話だから、こう……オマエと他の誰かとの関係にまでは口出したり干渉する気は今のとこねぇよ。オマエの世界にオレの居場所があるならそれで……」
「ストーップ!」
どんどんとおかしな方向に進んでいきそうな事態に黙っていられず、叶は獅子神の話を遮る。
お互いに好意を抱いていると分かって、それが情愛を伴うものだっていうのは伝わっていたはずだ。この先は薔薇色の未来が待っている、なんて頭に花が咲いたようなことを手放しで思うことは流石にないが、それにしても、叶は困惑を隠せない。本当に獅子神の言うとおり、人間言葉にして伝えないと分からないことが多々あると叶は今まさに痛感していた。
「なんか、敬一君の言葉だけなぞるとオレが割とクズ前提で話されてない? オレ、敬一君に恋に落ちましたって恥ずかしいこと言ってんのに、その上でなんでそんな話になっちゃうの?」
「別にそういうつもりじゃねーよ。なんつーか、オレとオマエの間でどうしたいかって話だけで、その関係の所為でオメーに枷つける気は無いっつーか、オマエの行動にオレが制限かけられるとも思ってねぇっつーか」
叶は頭の手術痕とは違う部分が痛むのを感じながら、獅子神の思考を遮るようにその大きな手を広げて目の前に突き出す。ちょっと待った、の意思が伝わったのか獅子神は叶の出方を探る様に注視する。叶は浴槽の縁に預けていた背中を離すとそのままずいっと向かい合って座っている獅子神の方へ水面を滑る様にして上体と顔を近付ける。
「敬一君がなんというか……聞き分けの良さ? を発揮してくれてるところ悪いんだけどさ、オレは嫌だよ? オレは敬一君の中心に居座る気満々だし、男にしろ女にしろ敬一君が一番に欲しがるのはオレじゃなきゃ嫌だ。他の奴が敬一君の根っこまで触れるくらいに干渉してきて、敬一君がそれを受け入れるなら黙ってられない。ってか黙る気も無いし、思いつく限りのありとあらゆる手段の中から一番効果的なのを取る。敬一君がそれで悲しむことになっても多分止められない気がする」
目の前でじっと顔を覗き込みながらそんなことを言う叶に獅子神は目を丸くする。叶がそこまでの思いを当たり前のように抱えているという事実が想定外だったらしい。
「オマエ、クズよりもそっちの方がよっぽどタチ悪ぃじゃねーかよ……」
「オレとしては事前にお知らせしている誠意を買ってほしいところだけど。しょうがないじゃん。オレ、自分の気持ちの深刻さに気付いちゃったんだから。この先一生絶対に心変わりしないなんてこと言うつもりもないけどさ、それでもいつかどうにもならない理由でお別れするまでは、こんなに好きなのに敬一君のためを思って身を引くとか無理」
叶の告白に獅子神はただただ呆気に取られているようだ。そんな獅子神の目を叶はじっと見つめる。少しの感情の揺らぎも見逃さないように。
「オレが敬一君に求めてるレベルってここまでいっちゃうけど、それでも敬一君は応じたいって思える? 敬一君まるごと全部に近いよ? オレが欲しいの」
この先一生絶対に心変わりしないなんて言うつもりはない、と言いはしたが、言うつもりがないだけで本当はこの先ずっと、気持ちの色や形が変わることはあっても好きで居続けるんだろうなという予測というか確信はしている。死ぬまでなんて嘘みたいなことを今この瞬間は本気で思えるくらいには、観測できなかった空白の時間への悔いが消えずに残っているから。
目の前の獅子神はその瞼を下ろすとズルズルと湯の中に身体を沈ませて小さくため息を吐く。
「はぁー……タチ悪ぃ……」
小さく呟かれた言葉に叶は思わず苦笑いをする。正直、その自覚は叶にもあるから。
「後悔してる?」
そう問えば、獅子神は閉じていた目を開き叶の顔を恨みがましいような表情で見つめてくる。
「ちげーよ……悪い気しねーのがタチ悪ぃって言ってんだよ」
その口から出てきた言葉の意味を理解すると、叶は満面の笑みを浮かべる。目の前のこの愛しい男が、自分と同じように呆れるくらいに恋の只中に居るという事実が伝わってきて、溢れる喜びにどうにかなってしまいそうだ。浮かれからだろうか、いつも以上に饒舌に言葉が口から滑り落ちてしまう。
「オレらってさ、一応は明日をも知れぬ身じゃない? だからさ、もちろん先のことも考えはするけど、今この瞬間の気持ちを大事にするのも悪くないって風にも思うんだよね。あの時ああすれば良かったっていうの嫌いなんだ、オレ」
獅子神は叶の言わんとすることを逃さないようにじっとその言葉に聞き入る。
「未来永劫とか死ぬまでずっととかさ、そういう約束はできないかもしれないけど、今、オレが敬一君と一緒に居たいって思う気持ちだけで敬一君をオレのものにするのはダメ?」
「なんだよ。矛盾してねーか? オレが良いとか悪いとか言ったところで、オマエはオマエのしたいようにするんだろ」
なにを改めて伺いを立てているのか理解できないといった思いを前面に出して、獅子神は不可解そうな表情を浮かべる。
「そうなんだけどさー。めんどくさいことに今オレは敬一君に望まれてそうなりたいって思ってるの。だから、敬一君の気持ちと同意が必要になっちゃってんだけど……」
そう言い至近距離で様子を伺う叶の視線に少し怯むものの、目を離さず催促に応じる。
「答えなんて分かってんだろ……って言いたいけど、口に出して伝えろって言ったのはオレか」
叶はこくりと頷いて見せ、その先を促す。
「あー……なんだ? なんつーか……オマエが欲しいっつーならくれてやっからよ……オマエもオレにくれよ。時間も気持ちも、オマエにできる限りでいいから。オマエの傍にオレの居場所が欲しい」
抱えている思いを正しく伝えられる様に考えながら言葉を紡ぐ獅子神に、叶は堪え切れずその首に腕を回すとそのまま軽くキスをする。広めの浴槽とは言え、大の男二人が何も考えずに引っつけば途端にスペースは無くなる。無理のある体勢で密着しているのが可笑しかったのか獅子神が笑うので、その眦にもキスをする。
「それは、いわゆる恋人になるでいいってこと?」
額がくっつきそうになるような距離で見つめると、叶の言葉に獅子神はその目を瞬かせる。
「……あー、それが一番近いのか? そっか……恋人、か」
改めて、その関係性を口にすると獅子神は少し考え込み、浮かんだ疑問を問いかける。
「恋人と友達って両立できんのか?」
「どういうこと?」
「いや、もちろん、その……恋人っつーのが嫌なわけじゃねーんだけどよ。なんつーか、オマエがうちに居た時みたいな感じも割と気に入ってたから、それがちょっと惜しいなって」
獅子神の言わんとするところは理解できた。何故なら叶自身もまた、あの期間限定の日々を確かに楽しんでいたのだから。自分だけではなく獅子神もあの日々を大切にしていたことを告げられて、どうしたって口許がにやけてしまう。
「別に恋人だからこうしなきゃとか、今までと同じようなことはしないとか、そんなのいーよ。どうしたいのかをさ、擦り合わせていこう? 幸い今日だけでも時間はまだたっぷりあるんだし」
止む気配のない雨のせいで外は薄暗いものの、時刻はまだ夕方にもなっていない。
暴風雨に閉ざされた旅館の離れの一室。夕食までの時間も程遠い時間帯で二人きり。こんなにも余計な物事に邪魔されない環境もないだろう。これまでのことや、これからのこと、そして今この瞬間のことも含めて、知りたいこと、知って欲しいことなんて山ほどある。
手始めに、間違っても「他の人間と関係を持っても良い」なんて今後言い出さないように、どれだけ自分が獅子神を好きなのか分からせた方が良いのかもしれないな、なんてことを考えると、何かを感じ取ったのか獅子神の顔が引きつる。察しの良い恋人に叶は思わず笑ってしまう。
「敬一君はちゃんとオレのことを見ていてエライな」
そう言って頭を撫でれば、獅子神は半ば諦めたような表情でため息をつく。
「こっちはなにかと必死なんだ。お手柔らかに頼むわ、本当」
完全には逃れられないと悟っている恋人の言葉に、叶はイエスともノーとも答えずにただ笑っている。まずは湯冷めをする前にそろそろ浴室から出て、そうしてその後はどうしたものかと目の前の濡れた髪の毛を掻き混ぜながら叶は思案する。
幸いなにをするにも時間はまだまだたくさんあるのだから。
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