いを
2024-12-04 18:25:54
2542文字
Public タグ、掌編、その他
 

タグまとめ9

刀神
ブツメツフツマ
モイラと鼎と糸車
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

 蘇生する夜(刀神・天青さんと桂木)

 ちょうど頭ひとつぶんくらいだろうか。桂木が「おう」と挨拶ととれるようなとれないようなつぶやきを落とすと、天青浄纏太刀の細い肩がぴくりと動いた。そのまま視線をあげると、天青浄纏太刀は桂木をきっと睨んだ――ように見えた。「そんな睨むなよ」と笑ってみせると、眉間にぎゅっと力をいれて「なんの用だ」と言わんばかりにねめ上げた。
「あ、いや。そこの本棚に用事があって」
 指をさした場所には立派な飴色に輝く本棚が立っている。図書館にもあるけれど、そこまで行くのも億劫なので「ご自由に」という看板の言葉に甘えているわけだ。
「本……? 刀神が?」
「俺、読書が趣味なんだ」
 すす、と壁伝いに道をあけた天青浄纏太刀は、まだ不審そうに見上げている。刀神が趣味を持つことを疑問に思う同胞もいるだろう。読書となればなおさらかもしれない。
「お前、本を読むならこれがおすすめ」
 人差し指で引き抜いた本は「100万回生きたねこ」。しましま柄の猫が表紙の、人間にとってはあまりに有名な絵本だ。
 けれども見下ろした天青浄纏太刀はやはり眉間に力を入れたままで、桂木は思わず苦笑してしまった。


少女文学(刀神・ノノさんと兎塚王)

 ノノはちいさな針で布を器用に縫い合わせたり、毛糸を棒で編んだりせわしなさそうだ。それを机の上に乗ってじっと見つめることはバディの特権だろうと、兎塚王は内心満足げに笑った。
「あるじどの、なにを作っておられるのだ?」
「はい。できました」
 幼さの残る指がふと止まり、兎塚王の前に置いたのは、ちいさくてあたたかそうな服。パチパチと瞬きをすると、「つくってみました」と今度は彼女が満足げに笑った。たしかに、兎塚王のウサギサイズ――に見える。
 あたたかそうな洋服は黒い毛皮のようで、手で触ってみると本当にふわふわとしていた。
「おお、これは素晴らしい。拙僧に似合いますかな」
「絶対似合います!」
 と確信めいた言葉に兎塚王は胸中でほほえんで「では」とモゾモゾと腕を通した。
「これはとてもあたたかい。ありがとう、あるじどの」
「どういたしまして」
 ノノは嬉しそうに手を組んで笑顔を見せてくれた。
 

氷塊の巣(刀神・祭さんと月草)

 このごろ寒いようで、祭は厚着をしてくるようになった。人間は着込んだり脱いだりして調節するようだから、面倒そうだ。
「月草様は……夏は暑かったりされないのですか?」
 と、彼は不思議そうに首をかたむけた。
「そうだなぁ。夏は暑いといえば暑いけど、そんなにしんどくはないかな。異能の影響かもしれない」
「では、冬は?」
「うーん。やっぱりそんな寒いってわけでも……。でも寒すぎて折れそうっていう思いをしたことはあるよ。ずっと昔だけど」
 カサリと足もとに枯れ葉が落ちた。縁側で談笑していたはいいが、寒くないだろうか。
「そういえば祭、寒くないか?」
 陽もじき落ちる。よく見ると彼の指先がすこし青白い。よくない気がして、縁側から立ち上がる。すると祭も倣って立ち上がり、月草のあとを着いてきた。
「えーっと、確かここに……
 箪笥の中に手を突っ込んで羽織を引きずり出すと、祭に押しつけた。
「寒いだろ。それ貸すから持って帰っていいぞ。あ、でも別に持ってきてるか」
 呆然と腕の中の羽織を見つめてから、祭は軽く首を振り、「ありがたくお借りします」と言ってほほえんだ。


日曜日のねじまき鳥(ブツメツフツマ・蓮実さんと倭)
  
 倭くん、とすこし大人びた声に顔をあげる。いつもとは違う、すこしふわふわとした黒髪を見つめた。
「疲れちゃった……?」
「ああ、いや。そうじゃない。」
 潮騒がすぐ近くから聞こえる。薄いモーヴ色のワンピースを着た蓮実は、安堵の息をついて「よかった」と笑った。
 潮風は思ったよりもやわらかい。彼女のワンピースの裾がかすかに揺れる程度だ。
 ふと立ち止まる。こうして日輪家をはなれてゆっくりと過ごすのも、この先ないかもしれない。けれども倭はそれを覚悟して見合いをしたのだから、なくともいいと思う。ただ、優しい彼女が傷つくことがなければそれで。
 足もとに、綺麗な貝殻が落ちていた。腰を折ってそれを持ち上げる。力を入れればすぐに粉々になってしまうような、儚そうな貝殻だった。
「蓮実」
 手招きをすると、彼女は素直に近寄ってくる。そのあどけなさに笑いながら、貝殻を彼女の手のひらに置いた。
「きれいだね。桜貝」
「桜貝っていうのか」
「うん。本当に、桜みたいな色。くれるの?」
 うなずくと蓮実はほほえんで、宝物をそっと閉じ込めるように手のひらを丸めた。
「きっと、忘れないね」
 そうだな、忘れない。そう返す。遠くに行けなくても、近くに居られる。それでいい。


ティースプーンだけの余剰(モイラと鼎と糸車・夢見さんと大森)

 白昼社のちかくに、保が贔屓にしている喫茶店があった。歩いて数分だから、彼女が疲れる前に辿りつくことができた。臙脂色のソファに座ると、彼女も杖をおいてそれに倣った。
「いい匂い。こちらのコーヒーの匂いですよね」
「ここのコーヒーは美味しいんです。君の口にも合うとよいのですが」
「まあ。大森さんが仰るならきっと」
 長い髪をちいさく揺らして、彼女は微笑む。彼女は甘いものが好きだっただろうか。「ウィンナーコーヒーもありますよ」と伝えると、彼女は目を輝かせた。すこしでも彼女の気休めになればいいと思って誘ったのだが、功を奏したようだった。〝夢見瑠美〟の作品は読むごとに荒削りから徐々に洗練されていく。保は将来彼女は・・・・・新しい時代の先駆者の一人となるだろうと考えている。編集者として、逸材を眠らせたままではならない、とも。
 ウィンナーコーヒーとコーヒーが机に置かれると、彼女は目を細めて匂いを楽しんだ。「いい匂い」と独り言のように呟いた言葉は本心であろう。
 自身もコーヒーカップに指を差し入れて一口飲んだ。砂糖や牛乳は入れない。苦さを楽しむものだと、当時編集者になりたてだった保の、一つ上の先輩が得意げに笑っていたのを思い出した。