有🍙
2024-12-04 07:41:42
3107文字
Public ARGN|ふうあお
 

キスの日のふうあお

 
「家にだれもいないときに、なんとなくあわただしくふうたくんの部屋で」がお決まりのふうあおの事後のおはなし
【読了目安:約6分】
 

 
 目が覚めて最初に感じたのは夕暮れの淡いひかり。それから濃厚な風太のにおいと、なまなましいとしか言いようのないふたりぶんの体液のにおいとがまざりあった、複雑で気恥ずかしいにおいだった。
 そんなに時間をかけたわけでもないし何度もしたわけでもないけど、とにかくくたくたになってしまったから、事が済んだあとろくすっぽ動けずにいるうちに眠ってしまったことは理解した。後始末を終えた風太が汗だくでひっついてきたこともなんとなく覚えてはいる。いるけれど、風太の胸にがっちりと抱き込まれている現在の状況はどうにも解せなかった。挙句風太はすうすうとおだやかな寝息を立てており、俺も眠っていたことはすっかり棚に放り投げてなんだかむかついてしまった。
 そりゃまあ一応身長の差だってあるにはあるけど、腕のなかにすっぽりっていうほど俺は華奢じゃない。男どうしだしぎゅってしてもやわらかくもなければむしろごつっとしてるだろうし。それでも風太が俺を腕のなかに囲ってあまやかそうとするのは事が済んだあとの習慣というか、俺しか知らない習性のようなものなんだと思う。
 いやべつにこれがわるいってわけじゃない。全然ない。けだるい肌を触れあわせれば気持ちがいいし風太のにおいもこどもみたいな体温もきらいなわけじゃないしむしろ、その、だ、だいすきだし……ぎゅってされたらしあわせなきもちになるし……なんて、絶対口には出さないけど!
 ただ、なんていうか、いつもいつも一方的に俺だけがあまやかされてるみたいで気に食わない。
 風太とこういうことをするとき、風太は思いのほかじょうずに自分の欲求をコントロールしているように見える。俺のほうばっかりだらしなくてはしたないところを見せているようで正直恥ずかしい。俺が受け入れる側であることを差し引いても、風太は事の最中はものすごく気遣ってくれるし、丁寧で、真摯で、やさしく俺を翻弄する。俺だってたまには風太を翻弄したい、あわあわさせてやりたい、なんて思うけど、未だできた試しがないのもくやしい。末っ子気質であまえ上手なところのある風太にこんなふうに扱われるなんて、からだを重ねるまでは想像すらできなかった。でも風太はきっとごく自然に求めるままに動いているだけで、俺をあまやかしてやろうだなんて微塵も思ってないんだろうけど! やっぱりむかつく! そういうところだぞ!
 わがままな不満をぷすぷすとくすぶらせながら俺はタオルケットに顔をもぐらせた。風太の腕と風太のタオルケットの二重のやさしい拘束のなかは、ひときわつよく風太のにおいがした。くやしいけれどいいにおいがして中てられそうになりながら、タオルケットにしっかりとくるまれているのも汗が冷えないようにっていう風太の気遣いなんだろうって思うとさらにくやしかった。くやしいくらいしあわせで、くやしいと思っていることがくやしかった。腹いせに風太の胸におでこをぐりぐり押しつけて背に腕をまわして思いっきり締めあげた。寝息にまぎれて「ふぎゅん」ってへんな声が聞こえてきたけど風太は目を覚ます気配がない。ほんっと太い奴。
 触れあわせた裸の肌がまだ汗ばんでいるからそれほど長いこと眠っていたわけじゃなさそうだった。寝過ごさなくてよかった。風太の胸とタオルケットの隙間でふうと息を吐くとすこし息苦しくなって、俺はタオルケットからふたたび顔を出す。
 風太はおだやかな呼吸の律動を乱すことなく眠り続けていた。俺のからだを囲っている腕は力が抜けていて、だからこそずっしりと重かった。それがいやなわけじゃない。ただくやしいだけ。俺だって風太を腕のなかに、ってまた風太の背に腕をまわしてみたけど、なんか縋りついてるふうにしかならなくてすぐにやめた。
 ただしずかに寝息を立てている姿はいつもさわがしいだけに新鮮でもある。眠りが深いのか、わりと寝相がいいことも知っている。もうすこし寝かせてあげても、いや、でもなんかむかつくし起こしちゃおうかな、なんてささやかな葛藤が生まれ、ちょっとした思いつきとともにすぐに霧散した。
 たわむれに風太の肌にくちびるを寄せてみる。胸のまんなか。呼吸とともにかすかにうごめく胸郭と、やがてその奥で脈打つ鼓動がくちびるに伝う。すこしずつ場所を変えて何度も、未だ汗ばんでいる胸にくちづけた。
 風太もよくこうして俺の胸や腹や、そんなところまでって思うほどいろんなところに口をつけるけど、なんとなく気持ちはわかる。欲望、亢奮、こんなことをしてゆるされるのは自分だけって優越感。事の最中にわけがわかんなくなるほどめちゃくちゃになってしまえば、俺からねだらなくても風太はくちづけをくれる。望んで、望まれて、求めて、求めあって、何度でも、息が止まりそうなやつをくれる。俺たちはもう、そうすることを互いにゆるしているしゆるされているから。それでも風太はくたくたになってうとうとして目覚めたあと、そうした昂りや不文律がリセットされてしまうことがたびたびあった。出し切って賢者になったからとかじゃなく、キスひとつするにも「ちゅーしてよか?」と了承を得ようとしていた、交際をはじめて間もない頃に戻ってしまうみたいな。ふしぎで、めんどくさくて、でもまあ律儀でちょっとかわいいのかも、と思えるような、これもまた俺しか知らない風太の習性なのかもしれない。
 ふと漏れ出そうなあえかな笑いを飲み込んで、いとおしい肌を上へ上へと辿る。鎖骨の上のうすい皮膚を啄んで音を立てて吸いあげても未だ風太の呼吸は乱れない。いっそ乱したいと思った。だから首筋にくちびるを滑らせて喉仏の繊細な尖りに辿りついたとき、皮膚の表面をほんのわずか、舌先でくすぐってみた。汗の味を感じるより早く風太の呼吸が乱れ、たちまちに俺はやわらかく抱き寄せられてしまった。
「んー……オレ、あおいにいたずらされてしもうた……?」
「してないよ」
 眠たげな声への返答は笑いまじりになった。いたずら、ということば選びに性的な含みがある気がして、風太のくせに、なんてちいさく吹き出してしまった。さっきまでいたずらどころじゃ済まないことしてたのに、なんて思うともっと可笑しい。
「なん笑いよっと?」
「っふ、なんでもないよ」
「えー、なんでもなくなかろー?」
 風太も笑いながら抱擁を緩めて俺をじいっと見つめる。目覚めたばかりのひとみがあっという間に、よく晴れた空みたいな明瞭さをとりもどしてゆく。まっすぐに俺だけを映すひとみを、そのかがやきを、ああ好きだなと思った。そしていとけなく睫毛をまたたかせながら笑む顔を見せられ、次の風太の行動も容易に予想がついた。
「なあ、あおいぃ……
 ひどくあまえた声色に予想は当たっていると確信した。
「なに?」
「ちゅーしてよか?」
「だめ」
 即答して風太のほっぺたを両方のてのひらで捉えた。なしてさ、あおいはオレにちゅーしとったとに、あおいばっかこすか、と風太が不平を述べるので力を込めてほっぺたを潰して黙らせた。
「俺からしたいから、だめ」
 ささやきながら風太のくちびるを掠めとり、さらにつよく自分のそれを押しつけた。すぐさま舌を使うと俺の背で風太の腕がこわばるのがわかって、すこしくらいはあわあわさせられたかなってなんだか胸がすく。
 でもわかってるんだ。きっとこのあと、嵐みたいな仕返しのキスが降ってくるんだろうってこと。それでもいま、このくちびるを離すまではせいぜい風太を翻弄してやる。あわよくば息の根を止めてやるんだからな! 覚悟しろ!
 
<了>
 


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