fedge
2024-12-04 02:08:38
5028文字
Public カピオロ
 

夜をも溶かす熱(前編)

※オロルンキャラスト5 前提
※今回マジで作業進捗なので半端なところです
※後半R18予定

「それで、お前の手にあるその瓶は、何だ」

いつものようにファデュイの駐屯地に野菜を届けに来たオロルンだったが、今日はもう一つ持参物があった。いつだったかの宴会の際、醸造法をこっそり教えてもらった『炎水』……やっと納得のいく品質のものを作れたので、教えてくれた隊員にお礼に、と持ってきたのだ。

……お酒だよ、僕が作ったんだ」

これは隊長にバレたらまずい、と本能が察していた。宴会であれだけ止められたのだ。だから、野菜を渡した後にこっそり彼にだけ渡して、今日は隊長にも会わないようにして、さっさと帰ろうと思っていた。
いっぱい作ったけど、そのうちの1本しか持ってこなかったから、他の隊員に見つからないようにと物陰で渡そうとしたのに。
よりにもよって、一番見つかりたくなかった隊長に見つかってしまった。

「じ、自分がオロルンさんに以前『炎水』の醸造法を口頭でお伝えしておりまして!今日は、その、その方法で作れたから、と、自分に、と。おおおおお教えする際に、国によっては、その、酒造法で作る事自体が、ダ、ダメなことがあるのは、お伝えしております!」

オロルンよりも少しだけ若そうなその隊員は、顔面を真っ青にしながら敬礼し言分を述べている。

……嘘は無さそうだな。お前は後日もう一度事情を訊く。仕事があるだろう、さっさと持ち場へ戻れ」
「はっ……!」

話が終わると、顔面蒼白の隊員は爆速で持ち場へ駆けていった。その場には隊長とオロルンだけが取り残される。

……

オロルンの視線は、気まずそうに中を泳いでいる。

……立ったままでは何だ。俺の天幕まで来い、詳しい話を聞かせろ」


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天幕に招き入れオロルンを腰掛けさせると、隊長はこめかみを指で押さえながら盛大に溜息を吐いた。

「それで、一体なんでまた酒を造ろうと思ったんだ。他国同様、ナタでも許可を得ていない物の酒類の製造は制限されているだろうが」
「ナタでも販売を伴わない、個人で楽しむ分であれば問題ないって本で読んだことがあるから、その点は大丈夫だ。作ろうと思ったのは――あの夜のことを忘れたくなくて、かな」
「ああ……お前が炎水を一気に呷っていたあの宴か。そんなにあの酒が気に入っていたのか?」
「隊長に止められなかったら、2杯目も一気にいっていた」

だって、みんなそうやっていたから。
オロルンがあのような宴会に参加したのは、今のところあれが最後だった。ただ、あの時感じたような、こういった機会は二度とないのでは、といった寂寥感は無い。アビスとの戦いが一旦ではあれど落ち着き、各地で復興活動が行われている今でもなお、それに助力してくれているファデュイの元に、オロルンは時々、いや結構な頻度で野菜を差し入れにきていた。炊き出しを手伝ったりもしており、酒こそ無いが、あの宴のような穏やかな時間は何度か過ごしていた。いつか彼らがスネージナヤに帰ってしまえばもうその機会はないだろうが……まだ、しばらくは続くだろう。

「はぁ……酒好きはシトラリ譲りか?まさか他所で無茶な呑み方をしているのではあるまいな」
「ばあちゃんよりは強いよ。今まで何度も酒で酔いつぶれたばあちゃんを家まで運んでいるから、それは間違いない」

絶対的な自信のもと、渾身のどや顔でうなずくオロルンに、隊長の頭痛が加速する。

「だからといって、炎水のような強い酒を、あんな飲み方で呷るもんじゃない。慣れていないだろうに」
……みんなああやって呑んでいたじゃないか」
「呑めるかどうかは体質的な物だってある。お前も、間近でシトラリが酔いつぶれるのを何度も見ているのだから、酒の危険性は十分に知っているだろう」

――せっかく、作ったのに。

「だったら、呑みすぎないように自分の限界を知っていればいい、ってことか。じゃあ今から帰って家で呑んで限界を調べる。自分の家でなら潰れたって問題ないだろ」

むすっとして眉を寄せているオロルンの声音は、珍しく不機嫌そうなものだった。
帰る!といって立ち上がり、天幕から立ち去ろうとするオロルンの腕を、隊長は掴んだ。

「待て、家で一人で潰れたらどうする。介抱してもらうこともできないんだぞ」
「それなら君が見ててくれよ、それなら確実な保証になるだろ」
……わかった、付き合ってやろう。今夜で構わないか?」
「いいよ。準備しておくから、夜になったら僕の家に来て。……来なかったら、一人で呑むからな」
「必ず行くと約束しよう」

夜の約束を取りつけ、オロルンは駐屯地を後にした。
……天幕を出る前のむすっとした顔はどこへやら、数時間後の楽しみが出来たオロルンの口角は上がっている。

「お酒、家にあるだけじゃ足りないだろうな。ばあちゃんにバレないようにしながら、何か所か回ってお酒を買い集めて帰ろう」

大量に買うことがバレないように、オロルンは急ぎ足で、謎煙の主、競技場、懸木の民の雑貨屋を渡り歩き、少しずつ酒を買い回った。


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畑でとれた野菜たちで酒のつまみを作っていると、ドアを叩く音がした。

「いらっしゃい。適当に掛けてて」
「ああ、邪魔をする」

隊長は外套を脱ぎ、気持ちだけ片付いているような気がする部屋のソファに腰を下ろした。
机の上には、どうやってここまで集めてきたのかという程の酒瓶がおかれている。

「まさかお前……これを全部呑むつもりか」
「限界が見つからなければ、全部呑んじゃうだろうね」

調理場から湯気の立つ料理を運び入れながら、オロルンはにっこりと笑った。いつもの、どちらかというと儚げなぽやぽやとした笑みではなく、自信にあふれているような、ちょっとした強さを孕んだ笑みだった。
瓶を少し押しのけてスペースを作り、料理を置くといそいそと調理場へ戻る。グラスを二つと、今日持ち込んでいた瓶と同じもの……だが、何かラベルが貼られている瓶を持ってくると、隊長の隣に腰を下ろした。

「まさか、こんなに早くこれを隊長と開けられるなんて」

オロルンが手にしているボトルには『星霧』という名が記されていた。

……これは?」
「僕が作った……もっと正しく言うと、何度か作り直して、やっと理想どおりにできた、最初のお酒」

ふたつのグラスにそれぞれ半分ほど、手にした『星霧』を注ぐと、片方のグラスを隊長に差し出した。

「夜の空を映せるくらい澄み切ったお酒が作れたら、この名前を付けよう、って決めていたんだ」

隊長は受け取ったグラスを覗き込む。グラスを傾け水面を揺らすと、室内の明かりをきらきらと映している。

……確かに、普通の炎水よりかなり澄んでいるようだ。あれの廉価なものは、一見透明に見えても歪んだような濁りがあるからな」
「奇麗だろう?いつかこれを隊長と開けられたらいいな、と思って、いちばん最初の一本に名前を付けて取っておいたんだ」

オロルンもグラスを傾けて水面を回しつつ、グラス越しに隊長を覗く。

「じゃあ、乾杯」

カチン、とグラスをあて、オロルンは一口で呷った。

「オロルンお前……だからその飲み方をするなと

隊長は一口静かに呑んだ。

「これは……

普通の炎水が一瞬で身を焦がすような焔だとするならば、オロルンの作った星霧は、まるで焚火のような暖かさを躰に纏うようなものだった。言ってしまえば度数がそこまで高くないのだろうが、口当たりもまろやかで飲みやすく、ほのかな甘みさえ感じさせる優しい酒だった。

「旨いな」
「気に入ってくれた?それなら、嬉しい」

にっ、と嬉しそうに笑うオロルンは、別の酒の瓶に手を掛けていた。

「もう『星霧』は呑まないのか?」
「今日の僕は『限界を調べる』のが目的だからな。大事なお酒はまた別の時に残りを呑もうと思う。あ、もしまだ隊長が呑みたかったら呑んでもいいよ」
……いや、お前が次に飲むときがあったら、また誘ってくれ」
「わかった。大事にとっておくよ」

オロルンは『星霧』の栓を閉め、別の瓶を開けた。
開けたボトルから琥珀色の酒をグラスに並々と注ぎ、口を付ける。味わうように目を細め、ごくりと喉を鳴らす。

――うん、美味しい。……そうだ、ねぇ隊長」
「何だ」

隊長のグラスも空になっており、そのグラスに向けて、今開けたボトルを差し出す。

「折角だから、どちらが強いか勝負しないか?」
「何を言い出すかと思えば、そんなこと……

いつもより大分挑戦的な振舞い――いや、競技場に助けに割り込んだ時もこんな感じだったか。

――もしかして、負けるかもって思った?」

オロルンはやや下から見上げるように……上目遣いでそう言い放った。

「お前……明らかに意図して煽ってるだろう」
「ふふ、ばれたか」
「いいだろう、乗ってやる。だがお前の様子がおかしいと判断したらすぐに止めるからな」

ほら入れろ、とばかりにグラスを前に差し出し、それに応えてオロルンが酒を注ぐ。
――長い夜になりそうだ。


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「へぇ、執行官って役職みたいなコードネームだけじゃなくて、別の名前もあるんだ。ほんとの名前じゃなくて、通称、ってやつか?」

手料理と互いの話を肴に酒が進み、気づけばあれだけ用意した酒も三分の二ほど無くなっていた。空になった瓶が机の下に転がっている。

「ああ、執行官になるときに与えられるのでな。11位の『公子』はタルタリヤ、4位の『召使』はアルレッキーノといった具合だ」
「じゃあ隊長の通称は?……あれこれって聞いていいやつか?」
「構わん。別に隠していないしな。『カピターノ』という」
「『カピターノ』かかっこいいね」

にこにことしながら、また空になったグラスに赤い酒を注ぎ入れる。自分のグラスに並々と注ぎ入れた後、空になったままの隊長のグラスにも注ぎ入れる。オロルンの頬は多少赤らんでいるようだが、ふらついている様子もなく、呂律もしっかりしている。

「オロルン……まだ、だいぶ、余裕みたいだな」
「だから言ったろ、ばあちゃんよりも強いんだって。だてに何度もおぶって帰ってないよ」

酒を注いだばかりのグラスをぐっと傾け、まだまだ余裕と言わんばかりに飲み干す。

「君もまだまだいけるでしょ?」

もう空にしたグラスを一旦机に置き、ぽふん、と躰を隊長に預ける。

「ね、かぴたーの?」
……

酒のせいでほんのり赤らんだ頬で見上げる、青と紫の双眸。

「隊長?カピターノ?おーい」

反応がない隊長の前に、手のひらをかかげてひらひらとする。

……飲み比べは僕の勝ちかな?――んむっ」

僕でも執行官第一位の隊長に勝てることがあったんだな、と思って満足げに微笑んでいると、空いていた方の手で仮面を外し、持っていたグラスの酒を一気に呷った。
グラスを置くとそのままオロルンの顎を掴み、ぐいと自分の方へ向け――

――接吻を、した。

合わさった唇から、赤い酒が流れ込んでくる。隊長で温められた液体が、オロルンの中に入ってくる。

「ん……

酒なんかよりよほど己を溶かしてくる口付けに、オロルンは思わず甘い声を漏らす。
びちゃびちゃになっている口内に、熱い隊長の舌が滑り込む。口の端から赤い液体が垂れ、さながら贄を得た吸血鬼のようだ。くちゃくちゃと水音を立て、隊長の舌はオロルンを蹂躙する。

「すんんむんんっ……

頑張って鼻で息をしながら、オロルンは長い長い口付けを受ける。
歯列をなぞられ、舌を捉えられ、苦しいくらい奥まで隊長の舌が入ってくる。
顔を離して解放される頃には、ぜぇぜぇと息が上がっていた。

「んどう、したの、隊長」
――お前はいつだってそうだ、俺の気も知らないでずっと煽ってくる」

ぎゅっと抱きしめられ、耳元で低い声が囁く。その声は熱と寂寥を帯び、下手したら泣きそうでもあるような気がした。

「俺はファデュイの執行官で、そのうえ不死の呪いを受けている。立場も躰も邪魔をする」

痛いほど抱きしめ、耳元で囁いた。

「心はこんなにも、お前を求めているというのに」