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溶けかけ。
2024-12-03 22:57:49
1472文字
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ほぼ日刊
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冷雨
バケモノと呼ばれるヌヴィレットと虐げられて生きてきたフリーナのお話。
※死ネタです。
元ネタ:ひとごろしのバケモノ(和田たけあき)
「お前はあの男と結婚するんだ。我が家のためなんだ」
「お前如きが愛されるとでも? ああ、でもその顔と身体は悪くない
……
たまに遊ぶには丁度いい」
「出戻りなんて、世間様に顔向け出来ないわ!」
身体にも心にも傷が出来ていく。細かな傷はやがて大きくなり、僕を蝕む。
「君は
……
?」
閉じ込められていた物置の扉を開けたのは銀髪がきらきらとした綺麗な男の人だった。
「僕
……
僕、は
……
フリーナ
……
」
「そうか
……
私と一緒に来るか? ヒトの扱いは不得手だが、多少の心得くらいならある」
彼──ヌヴィレットと名乗った彼のことを僕は少しだけ知っていた。彼はみんなから「ひとごろしのバケモノ」と呼ばれていたヒトだ。
「
…………
」
どうしよう
……
。彼について行ってもいいのだろうか。
フリーナは戸惑う。
だって、選択肢が与えられたことなんて生まれて初めてのことだったのだから。
「君の人生だ。君が決めるといい。どちらを選ぼうと私は君の選択を尊重する」
良いのだろうか。僕が選んで。困った僕はヌヴィレットに助けを求めるかのように視線を向けた。彼はぎこちなく微笑むだけだった。
どうやら、自分で考えろ、ということらしい。
それからどれだけ経ったのかは分からない。ただ、僕は「行く」とだけ返事をした。彼は「そうか」と僅かな安堵の混ざった吐息を漏らした。
「では、共に行こう
……
」
ヌヴィレットが手を差し出す。彼と彼の手を交互に見つめる僕に彼は「君の好きにするといい」とだけ言った。息を深く吸い込んで、慎重に彼の手に己の手を重ねた。
「
…………
あったかいね」
ヌヴィレットの手は、泣きたくなるほど温かかった。
「
…………
そうか」
僕の手を握ってくれたのは、彼が初めてだったと今更ながらに思い出す。そして、ふと疑問に思った。
なんで、彼は「ひとごろしのバケモノ」なんて呼ばれているのだろう、と。
だって、僕の話を聞いてくれて、選ばせてくれた。誰も僕のことを顧みてくれることなんてなかったから。どれもこれも、彼が初めてなのだ。
なんでこんなに優しいひとが人殺しなんだろう。彼を追い立てて殺そうとする人間の方がよほど「ひとごろしのバケモノ」に見えるのに。
「そんな目で見ないでくれよ
……
」
「フリーナ
……
」
彼と暮らし始めて五年。彼との暮らしは楽しかったけど、人間の身体には耐えられなかった。いや、もしかしたら僕が「普通」であったなら耐えられたのかもしれない。彼ともっと一緒に居てやれたのかもしれない。
「分かってたんだ
……
僕の先は長くないって」
あの日。ヌヴィレットが衰弱していく僕に与えた薬。彼はそれを特効薬だと言った。きっと、それに嘘偽りはなかったのだと思う。あくまで、彼にとっては──というだけで。
あの小瓶の中身が人間にとって毒だと気づいていて飲んだのは僕だ。──だって、初めての友人の好意を無碍にしたくないだろう?
「泣かないで
……
なんて、泣かせてる僕が言えた義理じゃないけど。キミは僕に選択肢を与えてくれた。初めてだったんだ。選んで良いって言ってもらえたのは。ねぇ、ヌヴィレット
……
」
ぎゅっと手を強く握られる。やっぱり、キミの手はあったかいね。
「最初で最期の出会いがキミで良かった
……
僕、幸せだったよ
……
」
ゆっくりとフリーナの手から力が抜ける。ヌヴィレットは亡骸を抱き締めて外へと出た。
外には雨雲が立ち込め、大粒の雨が二人を濡らす。
雨が降る度に人々は噂する。
またバケモノが人を殺した、と。
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