77nairo
2024-12-07 23:00:00
801文字
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指切り


「俺は針千本飲むのも我慢できる」
 そんな不穏なことを言いだした恋人の顔をのぞきこむ。せっかく恋人から配偶者に肩書が変わろうという日に、どうしたというのだろう。
「だからもし松本が俺と別れたくなったら言ってくれ。俺から振ってやる。そしたら約束破ったのは俺ってことになるから」
 俯いてしまった一之倉の足元に跪いて、手を握る。一之倉の手は氷みたいに冷え切って、こわばっていた。その左手の薬指をそっと撫でる。あと三十分後には、ここに揃いの指輪をはめる予定だ。
……それはできないな」
 一之倉がきっと視線を上げた。その強い視線がきれいだな、と場違いな考えが頭をよぎって、松本は思わず笑ってしまった。
「約束破って針千本飲まなきゃならんなら、二人で半分。五百本ずつだ」
 こわばった一之倉の手をほどいて、互いの小指を絡める。わざと子供っぽくぶんぶんと腕を振ったら、一之倉は泣きそうな顔のまま笑った。
「急にどうした?」
……今更だけど、怖くなった。本当に一生、松本が俺のこと好きでいてくれるなんて、そんなことあるのかなって」
「俺、そんなに信用ないか?」
 おどけてそう言うと、一之倉は力なく首を振った。
「違う。俺の自信がないだけ」
 絡めたままの小指にぎゅっと力をこめる。松本は特別信心深いほうではないけれど、彼を笑顔にするためだったら神でも仏でも信じてやろうと思うくらい、一之倉への想いは深い。
「病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、命ある限り真心を尽くすことを誓います」
 今度はゆっくり腕を振る。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、と歌って、小指をほどいた。
 ようやく晴れやかな笑顔を見せてくれた恋人に、誓いのキスをする。神でも仏でも悪魔でも閻魔でもなく、一之倉に誓うためのキスだった。