77nairo
2024-12-03 12:08:14
372文字
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覗き込む


 頭の中が真っ白だった。それはまるで、盲腸の痛みで倒れたあのときのように。
 薄暗い廊下を歩いてロッカールームに引き上げる途中、沢北の泣き声ではっと意識が浮上する。山王が負けたのは悪い夢でもなんでもなく現実なのだと、ひしと感じたのはそのときだ。途端に自分の喉からも引きつったようなうめき声が漏れる。深津と河田は足を止めることなく、きゅっきゅっとバッシュを鳴らして行ってしまった。
 うずくまる沢北の姿から目を逸らして視線を上げる。すぐ隣に立っている松本は、幽霊みたいに静かだった。真っ白なタオルの下で静かに泣いているのかと思った。
 その顔を覗き込む。
 静かに炎を燃やす瞳があった。
 松本はもう、次の戦いを始めていた。
 Tシャツの袖でまぶたをごしごし拭って、痙攣する喉を鎮めるためにゆっくり息を吐き出す。このままじゃ、終われない。