chiri_onigiri
2024-12-03 01:55:14
1693文字
Public 玑灵
 

刀九十九

転生宣璣と盛霊淵の話。続かない

 盛玑は生まれたときから赤淵にいた。赤淵には砕けた石碑とコミュニケーションをとるのが難しい器霊しか存在しない。多くの人間たちが住む外の世界に比べるとつまらなく、寂しい。
 いや、一体だけ違う。刀九十九は他の器霊とは異なる美しい人型をしており、多少古臭いものの人間よりもずっと綺麗な言葉を使った。刀九十九の他に刀一という器霊が人語を扱えたが、かろうじて聞き取れる程度で、美しいもの好きの盛玑が刀九十九に懐くのは必然だった。
 刀九十九は非常に美しく、盛玑は何度か赤淵の外に出て人間と交流を重ねたが、彼ほど美しいものに出会ったことは一度もない。さらに彼は博識だった。目覚めたばかりの盛玑を見つけ、甲斐甲斐しく世話をし、様々な知識を与えてくれたのも彼である。盛玑を見つけたとき、刀九十九はその美しい目を見張り、青白い肌を薄紅色に染めて優しく微笑んだ。まるでこの世で一番大切な宝物を見つけたかのような反応だった。
 刀九十九は優しく、盛玑が欲しいと強請ったものはなんでも与えてくれた。盛玑が頼めば抱き締め、子守唄を歌い、寝物語を聞かせてくれた。腹を空かせればどこからか甘い梨を持ってきて食べさせてくれた。盛玑という名も刀九十九が名付けてくれた。盛玑は美しく優しい刀九十九が大好きだった。
 そんな刀九十九も一つだけ盛玑の願いを叶えてくれない。彼は決して盛玑とともに赤淵の外に出てはくれないのだ。盛玑は人間の知り合いに美しい刀九十九を紹介したり、刀九十九と遊びに行きたいのに、彼が首を縦に振ることはない。だが、盛玑が拗ねて不貞寝をすると夢の中で刀九十九が盛玑の願いを叶えてくれた。彼は博識なので、赤淵の外にあるものも知っており、盛玑が望めば貸切の遊園地で一緒に観覧車に乗ることもできた。
 盛玑が外から帰ってくると、刀九十九は必ず砕けた三十六の石碑の前にいた。そこで刀九十九は美しい黒髪に挿した赤い羽根を指先で弄り、石碑を愛おしげに撫でるのだ。
 盛玑はそんな彼を見るのが嫌いだ。彼には自分だけを見ていてほしいのに、彼の目は砕けた石碑と盛玑のものではない羽根を映す。
 一度、刀九十九と神識を共有したことがある。それは一瞬で途切れてしまったが、どうやら刀九十九は盛玑の先代である三十六代族長と親しかったらしい。彼はそれなりに力のある優れた族長だったらしいが、盛玑からすれば最低最悪野郎でしかない。
 だって、先代は百年も前にこの世を去っており、盛玑に南明守火人としての能力を一欠片も残さなかったのだ。その癖して自分は一枚の羽根を遺し、未だに刀九十九の心を縛っている。
 盛玑は何度も刀九十九に己の赤い翼を広げ、綺麗な羽根を手渡したが、刀九十九が古びた羽根を捨てることは決してなかった。



◾︎裏設定
 宣璣死後の世界線。盛霊淵を残して去る宣璣が「生まれ変わってまた霊淵に会いたい」とか言ってしまったので、盛霊淵は宣璣を待ち続けた。
 盛霊淵は一度聞いた話を忘れない。そして、宣璣が器霊たちに名前をつけて寂しさを紛らわせていた事実を知ってしまったのと、「待つことには慣れない」「待てば待つほど、少しの希望でさえも耐え難いものになる。」(118章)と語っていたのを覚えているので、もう二度と宣璣を待たせたくはなかった。ので、自分は死なずに待つことを選択。
 宣璣の生まれ変わりを見つけた盛霊淵は、自身の姓を与え「盛玑」と名付ける。
 盛玑には今度こそ自由に苦しみもない世界で生きてほしいと族長の能力権限を取り上げ、盛霊淵自身が南明守火人となる。(盛玑が望めば取り返すことは可能)
 盛玑が幸せに生きることが第一なので、数多の可能性は取り上げたくない。から盛霊淵は名乗らない。あくまで器霊の一体として振る舞い、盛玑が困ることのないよう教え導く。再び父兄として盛霊淵は盛玑を見守ると決意したのだから。
 九十九は本国で倍増の意味を持ち、長寿や幸福、永遠を強調する表現として用いられる、らしい。
 なお、数多の選択肢を与えられた盛玑は当然ながら盛霊淵を選びます。三千年待ち続けた族長を舐めるなよ。