haru_haru0704
2024-12-02 21:10:04
2998文字
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夢見

哥舒臨×忌炎(CP要素ほぼなし) 全年齢

悪夢を見た哥舒臨将軍と、いつもと様子が違う将軍を心配する軍医忌炎の話

「ぐ・・・ぅ、あ・・・っ!」
ゴウ、と燃え盛る黒炎が、悪夢に魘される彼の腕を少しずつ灼いていく。
不思議なことに、その炎はベッドには燃え移らない。
黒炎が害するのは、その共鳴能力の主──哥舒臨の肉体のみである。

*
「はぁ・・・クソ・・・」
起床した哥舒臨は、己の爛れた腕を見て悪態をついた。
薄皮が全体的に剥がれ、嫌な汁がうっすらと滲んでいる気がする。空気に触れているだけでヒリヒリと痛い。
戦場で負傷するならともかく、基地で寝ている間に無意味な自傷をするなど。
あまりにも馬鹿げている。まったく無意味だ。痛いし熱いし痒い。苛つく。
部屋の外まで聞こえそうな舌打ちをすると、哥舒臨は己の腕に包帯を巻き直した。

哥舒臨の腕の包帯は、もはや彼のトレードマークと化している。
ゆえに、彼が包帯を巻いていても誰も何も言わない。あのお節介で生意気な軍医でさえも。
いや、あの軍医に関しては、何も『言わなくなった』という方が正しいか。
哥舒臨は以前、かの軍医に包帯を無理矢理剥ぎ取られたことがある。
だがその時、包帯の下から出てきたのは、火傷の後遺症で多少カサついているだけの腕だった。
結局その後、軍医は哥舒臨の腕にワセリンを塗ったくってべとべとにしてから包帯を巻き直した。本当にお節介な奴だ。
そんなようなことを何回か繰り返しているうちに、いつしか何も言わなくなったのだ。
カサついているだけで怪我をしていないのなら、わざわざ診る必要もないということだろう。

実際のところ、哥舒臨はそう頻繁に黒炎による火傷を負うわけではない。
なにせ、自分の共鳴能力である。
そうそう扱いを間違えてたまるものか。
では一体いつ火傷を負うのかと問われれば、それは強敵を前にした時だ。
理性を振り払って、本能の速度で対応する必要がある残像。
そういう奴を相手にした時は、黒炎を上手く扱うことにまで気が回らない。いや、気を回したら動きが鈍くなって死ぬ。
だから仕方がない。火傷を負うのは必要経費のようなものだ。
しかし──哥舒臨は、強敵と戦った時以外にも火傷を負うことがある。それは、悪夢を見た時だ。
その事実は、彼をひどく苛つかせる。
悪夢など見てしまうこと自体が腹立たしいし、無意識に自傷をしているのも腹立たしい。
厄介なことに、それはどちらも哥舒臨が意識して止められるようなことではない。
そのことがますます彼を苛立たせるのだ。

*
もう遅い時間だからか、シャワーブースには誰もいなかった。
適当に選んだ場所のシャワーヘッドを手に取り、蛇口を捻る。途端にあふれ出した湯を、まずは足元にかけ、それから上へと移動させていく。
腹まで移動させたところで、哥舒臨は一瞬だけ躊躇した。
だが、腕だけ洗わないというわけにもいかない。
一思いに、左腕全体に湯をかける。
「ぐ、・・・~~~ッ!!」
腕全体がびりびり、ずきずきと痛む。
肌色でもなく、茶褐色でもなく、桃色になってしまっている両腕に、湯がひどくしみる。
率直に言って、めちゃくちゃに痛い。
日中の間につい引っ掻いてしまったせいで、瘡蓋がつききっていない傷があちこちにあるのも良くなかった。
「あ~~ックソ!」
苛立ちに任せて壁を殴る。穴を空けない程度に。
なぜ、戦場に出たわけでもないのにこんな痛みを味わわなきゃならんのだ!
「将軍、どうしたんですか」
「あ?」
唐突に後ろから聞こえた声に、振り返る。
そこには例の、お節介で生意気な軍医がいた。
まだ体のどこも濡れていないところを見るに、つい今しがたシャワーブースにやってきたらしい。
「何でもない」
「腕、どうして火傷してるんですか?昨日も今日も、戦闘には出ていないはずですよね?」
はあ、と溜息を吐く。
鬱陶しい。絶対に理由など話したくない。話してたまるものか。
そんな雰囲気を察したのか、軍医はそれ以上詮索しようとはしなかった。
「シャワーを浴び終わったら、一緒に医務室に行きましょう。傷が一番よく治る薬を塗ってあげます。魔法みたいに治りますよ」
軍医はそう言いつつ、哥舒臨の隣のブースに入った。
きゅ、と蛇口を捻る音と共に、ざあざあと流れる湯の音が2人分に増える。
「薬だけ寄越せ」
「駄目です。けっこう強い薬ですから、塗り方をちゃんとしないと。それに、口や目に入るととても危険です」
「・・・・・・」
哥舒臨は黙り込み、シャワーヘッドを左手に持ち替え、右腕を濡らした。
やはり、ひどくしみる。痛い。ふざけるな。
「薬を塗れば、明日はきっとシャワーを浴びても痛くありませんよ」
・・・・・・。
・・・まあ、いいか。
このお節介な軍医の言う通り、医務室に行ってやろう。
どうせもう火傷は見られてしまったことだし、これ以上減るものもない。
適当に腕を差し出して、薬をまぶされて、包帯を巻かれて、それで終わり。
自傷でできた傷を手当てされるのは何だか屈辱のような気がしていたが、よく考えてみると別にそうでもないな。
「分かった。行ってやる」
それだけ言うと、湯を頭からざばざばと被った。
軍医が何か言ったような気がしたが、湯の音でよく聞こえない。
まあ、大した話ではないだろう。

***
医務室の椅子に座り、腕を差し出すと、軍医は改めて哥舒臨の腕を診察した。
「Ⅰ度熱傷と掻き傷ですね。薬を塗ります。べとべとして気になるかもしれませんが、触らないように」
軍医は薬のチューブを手に取り、ゴム手袋をはめた指に軟膏を絞り出した。
そして、そっと哥舒臨の腕に薬を塗りこんでいく。
多少痛いが、湯で濡らした時よりは断然マシだ。
しんとして静かな医務室に、薬を塗るにちゃにちゃという音のみが響く。
「・・・もしまた火傷をしたら、すぐにここに来てください。怪我した理由を話さなくても、医者は処置をします。それが仕事ですから」
「まあ・・・気が向いたらな」
哥舒臨は曖昧な返事をした。
彼は、己がかなりの気分屋であるということを自覚している。
戦に関することであれば、きちんと合理的な判断のもと動くのだが。どうも、こういう事に関しては駄目だ。
次に火傷をした時、医務室に来るかどうかは半々くらいの確率だろうか。
「はい。それで構いません」
あっさりと引き下がった軍医に、やや違和感を覚える。
前はもっと、ガミガミと口うるさくなかったか?こいつ。
軍医の顔を見る。目は合わない。熱心に哥舒臨の腕の傷を見ているせいだ。
「お薬塗れましたよ。次は包帯を巻きますね」
軍医は薬まみれになった手袋を新しいものに交換すると、器用に包帯を巻いていく。
その様子をぼんやりと眺めていると、あっという間に両腕の処置が終わった。
「できました。明日の朝くらいまでは包帯を取らないようにしてください。万が一薬に触ってしまった場合は、よく手を洗うように」
「ああ」
哥舒臨は椅子から立ち上がり、くあ・・・と欠伸をした。
もう夜も遅いことだし、部屋に戻って寝るとするか。
医務室の出入口に足を向けると、背後から「おやすみなさい。哥舒臨将軍」という声が聞こえた。
軽く振り返り、返事をしてやる。
「お前も早く寝ろよ、忌炎」
「えっ!?俺の名前、知って──」
騒がしい声を後に、今度こそ医務室を出た。
名前を知っている程度で驚くとは。変な奴だ。