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溶けかけ。
2024-12-02 20:52:37
1896文字
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ほぼ日刊
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笑顔の作り方
キミに笑顔を持ってきた。
落ち込むヌヴィレットと寄り添うフリーナのお話。
元ネタ:ラフ・メイカー(BUMP OF CHICKEN)
「ヌヴィレット
……
今日も雨だね。キミは雨が好きだから、踊りたくなったりするのかな?」
「
……………………
」
フリーナは膝を抱えて、扉にもたれ掛かっていた。向こうからは物音ひとつしない。
「
…………
また来るね」
今日で五日目だが、焦ることではない。そもそも働き過ぎな彼のことだ。たまにこんな日があってもいいのではないだろうか。
「フリーナ様、ヌヴィレット様は
……
?」
フリーナは首を左右に振る。そこかしこから落胆の溜息が聞こえて来た。
「キミたち! 最高審判官がいなくとも、この僕がいるだろう! ヌヴィレットなんて目じゃない。なんてたって、僕は天才だからね!」
フリーナが胸を張れば、人々が沸き立つ。落胆の溜息は、瞬く間に賞賛の声に変わる。
どくどくと脈打つ心臓が心底、喧しかった。
「
……
雨の音もなかなか悪くないものだね」
「
………………
」
彼は今、何を考えているのだろう?
カロレのことだろうか、それとも、ヴォートランのこと?
「今日は、久しぶりに審判官の真似事なんてしたよ。ああ、心配せずとも、裁判は恙無く進行したさ。諭示機からもお墨付きを貰ったからね。まあ! 僕には諭示機なんてなくとも問題はないんだけどね!
………………
また来るよ」
閉ざされた扉はまだ開かない。人の世界は綺麗なものばかりじゃないと知りながら、彼を招き入れ、最高審判官なんて役職で縛った「僕たち」が彼に姿を見せてくれ、なんて言える資格は何処にもない。だからこうして、扉の前で声をかけ続ける────大事なものを失ったことすらないくせに?
ああ、そうだとも。どんなに偽善であろうとも、彼には最高審判官でいて貰わねば困るのだ────それがフォンテーヌを救う為ならば。
「君は、いつまでこうしているつもりだ
……
?」
フリーナは目を見開く。ヌヴィレットが反応を示したのは初めてのことだった。
「うーん
……
。キミが元気になるまで、かな」
「私がずっと出てこなくとも、か?」
「キミがずっと出てこなくとも、だね。僕たちはお互い、永い時を生きるだろう? だから、少しくらい休んだって罰は当たらないさ。あぁ
……
罰を与えるのも神や最高審判官の仕事だったか。僕が罰を与えるつもりがない以上、キミはキミが罰するしかないかもね。
…………
また来るよ」
フリーナの足音が遠ざかる。
やがて、扉の向こうは静寂に包まれた。
「理解の出来ない神だ
……
たった一言、命令すれば済むことであろうに
……
」
出てこい、仕事をしろ、それだけで従うというのに。なぜか彼女はヌヴィレットの意志を尊重する。いや、初めにこの部屋に私を押し込んだのは、彼女だったか。
ヌヴィレットの口元が僅かに緩む。
あぁ
……
私の負けだ。
「ヌヴィレット
……
」
フリーナが目をまん丸にした。フォークに刺さっていたクレープシュゼットの切れ端が皿に落ちる。
「ごきげんよう
……
フリーナ殿。相席してもいいだろうか?」
ヌヴィレットが椅子を引きながら尋ねる。フリーナはナプキンで口元を拭うと頷き、パンパンと手を叩いた。
「ンンッ
……
あ、ああ! 勿論だとも! すまない! 彼に朝食と、とっておきの水を! 大至急!」
フリーナの号令で、控えていた料理人や配膳係がにわかに動き出す。
「まったく
……
朝食が必要なら、予め言っておいてくれなきゃ困るよ。材料だって有限なんだからな」
落ちた切れ端をフォークに刺し直し、口へと運ぶ。あまりにもいつも通りの光景にヌヴィレットは安堵した。
「すまない。キミがくれた休暇は今日までだったのでな。当然、用意されているものだと思ったのだが」
ヌヴィレットの言葉にフリーナが鼻を鳴らす。
「ふんっ
……
だったら、ちゃんと言っておくことだ。────あと数日遅ければ、新しい最高審判官の選定を始めようかと考えていたんだけど。どうやら、僕の杞憂に終わったみたいだ」
ヌヴィレットの前に水の入ったグラスとクレープシュゼット
……
ではなく、焼きたてのクロワッサンが置かれる。フォンテーヌ人にとって特別な朝食であるそれは、恐ろしく手間がかかり、怖ろしいほどのカロリーを秘めている。毎日、なんてとてもではないが食べられる代物ではない。
もしや
……
彼女は、毎朝これを作らせて待っていたのではないのだろうか?
来るのかも分からない自身のことを?
「ヌヴィレット」
不意にフリーナが名前を呼んだ。
「──やっと晴れたね」
ふ、とフリーナが花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「あぁ
……
。───そうだな」
ヌヴィレットも微かに目元を和らげた。
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