シネコン軸のつもりですが、ただの現パロな気もするし、何なら別にこれ長生きおじさんでもいけるかも。小さい頃の抱っこと大人になってからの抱っこの話、将来的にはくっついてます。鬼くんの粘り勝ち。
水木と出かけると、明らかに似ていない風貌と、それに反して親しみのある様子から、必ずといっていい程関係性を確かめられる。少なくとも鬼太郎が小学生くらいのうちは、きっと変わらないのだろう。歯がゆいけれど…。
あ、まただ、と鬼太郎はキュッと眉間にしわを寄せ、水木をまじまじ見つめる若い女性の二人組にチラリと視線を送る。彼女達は目ざとく水木の左手を見て、うんうんと頷きあっている。鬼太郎は水木に身を寄せ、ジャケットの裾を掴んだ。
「鬼太郎?」
女性達の視線には全く気づいていないらしい水木だが、鬼太郎の変化には相変わらずよく気がつく。
軽く腰を屈め、鬼太郎の顔をのぞき込むようにして、どうした?と聞いてくれる。その青みがかった瞳は、鬼太郎だけをじっと見ている。
「疲れたか?抱っこするか?」
「ぼく、赤ちゃんじゃないので…」
そっか、と水木は苦笑し、くしゃくしゃと栗色の髪をかき回すように撫でた。その顔はほんの少し残念そうで、彼の申し出が気遣いからのみ来るものではないのがわかった。
もう…、と鬼太郎は内心ため息をついて、水木を見上げ、両手を伸ばした。一瞬きょとんとした顔が、ぱっとほころぶ。とても幸せそうに。
「おいで」
水木はからかったりせず、鬼太郎を大事に抱き上げた。
「わ、結構重くなった。大きくなったなあ」
まだ小さいつもりでいたのに、と水木は目を細める。その目はやはり鬼太郎しか見ていない。自分に向けられた視線なんて、全く眼中にない様子だ。鬼太郎はちらりと周囲を見る。こちらを見ていた女性達と目が合ったので、にこ、とできるだけ無邪気に笑った。
「みずきさん」
「ん?」
ぺたりと小さな手で水木の頬に触れる。どうしたと見つめてくれる。何を言っても許してくれそうに見える。実際は、曲がったことの嫌いな水木は内容によっては厳しく小言をくれたりもするのだけれど。
ちゅ、と水木の額に唇をくっつければ、さすがの水木も目を丸くした。
「……きたろ?」
ぽかんとした顔で見上げてくる顔にニコニコと微笑んで、「だいすきな人にはしていいんですよね?」と言ってみる。それは…、と二の句がつげない水木に、抱き上げられた体勢から抱きつく。バランスを崩しそうになり、わ、と水木も焦った声を出す。だが、転んだりはしなかった。
「…まったく、どこでそんなの覚えてくるんだか」
ぽんぽん、と鬼太郎の背中を叩きながら水木は笑う。そうして、そのまま歩き出す。結局誰も水木に声はかけられないままで、けれどそれがわかっているのは鬼太郎だけだった。
「…おい」
家の中で、他人に見られる可能性がないことだけが救いだが(同時にそれが足かせになっているともいえる)、自分の腰あたりを支えるように抱き上げている若い男を、水木はじろりと睨んだ。しかし無情なことに、そこかしこから漏れ入ってくる朝陽が微かに差した赤みを暴いてしまっている。年齢からしたら異様に若いとはいえ、やはり目尻に浮いてはいる皺の横あたりに。
「おろせ。なんだ急に」
「昔の夢、見ました。僕の気持ちを知りもしないで、抱っこするか、ってあなたが聞くんです」
水木は照れながらも顔をしかめた。そんなの知るか、と顔に書いてある。
「でも僕も現金で、あなたが幸せそうに、僕のこと可愛くて仕方ないって顔するものだから、いいかなって…」
はあ、と軽くため息をつきながら、幼い頃の面影を残しつつすっかり大人になってしまった鬼太郎は水木の腹に、薄いスウェット越し頬ずりした。
「周りの人たちがあなたを見て、水木さんは僕に笑いかけてくれてるのに、その顔見て、それから指輪がないか見て、声をかけようとするんです」
ぎゅう、と腹に頭を埋めてぐりぐり擦り付けてくるのは大型犬のようだった。水木は困った顔で結局茶色い頭を撫でる。少し乱暴になってしまったが問題ないだろう。
「…もうお前のものになったんだからいいだろ」
自分の左手薬指をちらりと見下ろしてから、水木は小さく笑ってそう言い聞かせる。がばっと鬼太郎が顔を上げた。どんぐりまなこが小さな子どもの頃のように、いっぱいに見開かれている。
それに空気をこぼすように笑って、全く、おまえも物好きだと目を細める。
「一回りどころじゃなく違うってのに、こんな…もうジジイだぞ」
「十分美魔女ですよ、自信もってください」
「それ…男に言うことか?」
美魔女ってなんだ?、とため息をついて。水木は目を細め、やっぱり、お前が可愛くて仕方ないという顔をした。
……だいたい、正真正銘いたいけな子どもの初恋をこの顔で、声で奪ったのは彼が先なのだし。
「僕の水木さんになってくれてありがとう」
「………おまえが俺の鬼太郎になったんだろ」
少し思案した後、ニヤリと意地悪く笑った水木はゆで卵のようにつるんとした額をパチンと指で弾いた。…いささか強めに。
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