ちよど
2024-12-07 00:00:00
2918文字
Public わし様など
 

わし様が兄の面影を見る話

穏やかで正しいことを言うお兄ちゃんの話。pixivからの再掲

ドゥリーヨダナ「マスター。わし様、おやつが食べたい」

 魔術王を倒し人理修復を成し遂げた藤丸立香はマイルームで荷物を選別していた。
 魔女メディアからは無限に収納出来る袋を作ろうかと提案されたが、孔明が却下したのだ。
 カルデアを出て故郷に戻れば彼女はただの一般人だ。過ぎたマジックアイテムなど災いを呼ぶだけだ。と。
 椅子に座って、貰った礼装や写真などをテーブルに広げている彼女に、彼女のベッドにつまらなさそうに横たわっている男が声をかけた。
「マジックアイテムのひとつやふたつ。貰っておくべきだとわし様は思うなー」
「ドゥリーヨダナは欲しがりだからねー」
「貰えるものを貰って何が悪い。正当な報酬というものだ」
 ふふんと笑うドゥリーヨダナに彼女は困ったように笑った。
「報酬が欲しくてやってきたわけじゃないから」
 その言葉にドゥリーヨダナは黙ってごろりと転がる。背中を向けた三臨の長い髪がシーツの上を流れた。
 ドゥリーヨダナと彼女は長い付き合いだ。
 オケアノスで召喚されたドゥリーヨダナはすぐにカルデアになくてはならない戦力になった。彼女は最初はその尊大さがちょっぴり怖かったが話してみると人懐っこく、彼女が見落としがちな事を優しく教えてくれる彼をまるで兄のように思うようになった。
 実際彼は長兄らしい。偶に故郷の話をしてくれたが、残念ながら彼に連なる英霊は喚べないままだった。
「お友だちに会わせてあげられなくてごめんね」
 彼女が謝るとドゥリーヨダナはひらひらと手を振る。
「カルナとは特異点で話が出来た。それにパーンダヴァの連中が来るよりはマシだ」
「そのパーンダヴァって人。本当に嫌いなんだね」
 ドゥリーヨダナによるパーンダヴァの悪口は彼女が覚えているだけでも多種多彩だ。事あるごとに罵る割には語彙力が子供の喧嘩のようなので、彼女はついつい笑ってしまう。
 くすくすと笑っていると、不意にマイルームのドアが開いた。
「ここにいたんだね。立香ちゃん」
「クルツさん!」
 笑顔で立ち上がった彼女の背後でドゥリーヨダナがまたごろりと転がった。不穏な気配に彼女が振り返ると、彼は普段より色が薄い目で侵入してきた男性職員を見つめていた。
「ドゥリーヨダナ。こちら、技術科のクルツさん。どの礼装なら日本に持ち帰っても大丈夫か、一般人の視点で見てもらっているの」
 彼女に紹介され、ドゥリーヨダナは体を起こした。
 一般人、との言葉にクルツの目元がわずかに痙攣したのを彼女だけが気づかない。
 にかり、とドゥリーヨダナは笑った。
「このような姿で失礼した。わし様はクル族の王ドゥリーヨダナ。わし様はこの時代の一般の基準を知らぬ。ぜひマスターの力になってやってくれ」
 穏やかな人好きのする声色にクルツは表情を緩めた。
「ええ、微力ながら彼女に協力させてもらうつもりです」
「よろしく頼む」
「分かっています」
 ドゥリーヨダナにクルツは深く頷いて立香の隣の椅子に腰を降ろした。
「じゃあまず大まかに分けてしまおうか」
 彼女が広げた荷物。英霊たちから貰った礼装にクルツは手を伸ばす。
「価値があるものから並べていこう。と、言ってもどれも現代の魔術師から見れば夢のような品々だ」
「そうなんですか?」
 首を傾げる彼女にクルツは苦笑した。
「君は魔術を知らないから。……この礼装一枚で国が買えるよ」
「またまたー」
 礼装を弄ぶクルツの大げさな言葉に彼女は笑う。
 その様子にドゥリーヨダナは猫のように目を細めた。

「クルツよ。おまえはわし様の兄によく似ているな」

「ドゥリーヨダナ?お兄さんいたの??」
「腹違いのな。いつも穏やかで正しいことしか口にしない奴だった」
 考え込むかのように顎を撫でるドゥリーヨダナに、立香は首を傾げた。
「それ褒めてる、よね?」
「褒めているとも。奴はクル王家で最後まで生き残った男だぞ」
 ゆったりと笑ったドゥリーヨダナの目がずっと薄いピンクのままなのを彼女は気づいた。
「ドゥリーヨダナ?」

「マスター。わし様、おやつが食べたい」
 
 子供のように強請るドゥリーヨダナに彼女が得た違和感は消え失せた。ドゥリーヨダナがわがままなのは今に始まったことではない。言い出したら聞かないのだ。
「しょうがないなぁ」
 椅子から立ち上がった彼女にドゥリーヨダナは声をかける。
「厨房には九龍球を注文するのだぞ」
「くーろ?」
「すごーくうまい。食べてもいいぞ」
「行ってくる!!」
 舌が肥えたドゥリーヨダナの言葉に食いしん坊の彼女は駆け出した。後には、突然の展開に目を丸くしているクルツと、ベッドから立ち上がったドゥリーヨダナが残された。
「九龍球(クーロンキュウ)とは中国の菓子でな。果物などが入った丸いゼリーだ。いつでもすぐ作れるが、出来上がるのに30分はかかる」
 説明しながらゆっくりと歩くドゥリーヨダナは座ったままのクルツの背後に立つ。
「つまりは、マスターは30分は戻ってこない。厨房の連中が引き止める。そういう符丁だからな」
 立ち上がろうとしたクルツの頭部をドゥリーヨダナは無造作に鷲掴みにした。
「暴れるでない。キャスター連中に引き渡す前に潰しでもしたらわし様が怒られるだろう?」
「な、ぜ?」
 ドゥリーヨダナの手を引き剥がそうと爪を立てるクルツに彼はおかしそうに笑った。
 許可なしの入室から始まっての数々の行動でクルツがマスターを軽視しているのは明らかだった。それが他でもない英霊たちが贈った礼装に興味を示すなど。見逃しておけるはずがない。

 ーーー本当にこの男は異母兄に似ている。

 正しいことを口にしながら。父の息子でありながら。ドゥリーヨダナを軽視し常にパーンダヴァに味方していた裏切り者に。
 ドゥリーヨダナは軽く持ち上げたクルツの顔を覗き込んだ。
「わし様なら一匹や二匹の小物は泳がせておけるが。立香にそれは無理だろう。旅立ち前の餞別というものだ」
 クルツにはドゥリーヨダナの表情はどのように見えたのだろうか。面白いように青ざめていく。
 そんな彼らを囲むように次々と符丁を知ったサーヴァント達が実体化した。
 



 食堂で九龍球をいくつかつまみ食いした立香が、大きなボウルを持ってうきうきと帰ってきたマイルームにはドゥリーヨダナしかいなかった。
 また彼女のベッドでごろごろしているドゥリーヨダナに尋ねる。
「ねぇ?クルツさんは?」
「ダ・ヴィンチに呼ばれて管制室に行ったぞ。急用だそうだ」
「そうなんだ」
 よくあることなので彼女は気にせずテーブルに九龍球が山盛りに入った大きなボウルを置く。
「ドゥリーヨダナ、食べないのー?」
「わし様飽きたー」
「もう!」
 ドゥリーヨダナの気まぐれはいつものことだ。彼女は勢いよく椅子に腰を下ろすと九龍球を頬張り始めた。
「喉につまらせるなよ」
「誰のせいかな!!」
 怒られてドゥリーヨダナが彼女に背中を向ける。
「一度痛い目に合わせてやろうと思っていたが……意外とすっきりせんな。本人じゃなかったからか?」
 小さな呟きは誰に届くともなく消えた。


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