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ちよど
2024-12-06 00:00:00
5204文字
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アシュヨダ
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三千年ずっと一緒にいてくれた話
アシュヨダ。アシュくんが特異点で死体を処理する話。ちょっとグロあります。pixivからの再掲。
アシュくん「ちゃんと死なせてやらァ!!」
俺は地面に座り込んでいた旦那を抱えあげた。
「とりあえず場所を移動するぞ」
「賛成」
旦那の声にマーリンとキャストリアが頷いてマスターの両側に立つ。
俺はマスターである少年の前を歩き、旦那は
「アシュヴァッターマン。これは姫抱きというやつではないかー!もっと格好良い持ち上げ方はないのか!?」
と、騒ぎながら俺の首に腕をまわして後方を見る。
「これが一番慣れてんだよ!」
言い返した俺に旦那はおかしそうに笑った。
「こんの果報者が!慣れるほど抱き上げていたのか?モテるにも程があろう!!」
旦那の誤解を訂正せずに俺は首を巡らせた。
辺りは一面の麦畑。太陽は傾き夕暮れを呼んでいた。俺たちが進む大きな街道は丘の上の小さな街に続いている。
マスターが硬い声で旦那を呼んだ。
「ドゥリーヨダナ。ドゥリーヨダナはどのくらい
…
だったの?」
「あやつらと違ってわし様は即死ではなかったからなぁ。翌日の朝まで生きていたぞ」
その言葉に俺は思わず太陽の傾きを確かめてしまう。日没は近く。旦那の死は迫っていた。
◆
この特異点にレイシフトした直後。6騎居たサーヴァントのうち2騎が強制的にカルデアに退去させられた。
退去したのが、ウラド三世、岡田以蔵。
残ったのが、マーリン、キャストリア、旦那と俺だ。
消える瞬間、岡田以蔵は叫ぶように首を押さえ、ウラド三世は身を守るように呻いたため何かの攻撃かと構えた俺に、旦那が口を開いた。
「アシュヴァッターマン、おまえは何ともないのか?」
「ああ」
「そこの夢魔も、妖精もか?」
ふたりが頷くと旦那は崩れるように座り込んだ。
駆け寄ると、俺を見上げた旦那は苦しそうに顔をしかめる。
「忌々しい。
……
この特異点は死因を蘇らせるようだな」
立てなくなった旦那。斬首された岡田以蔵。暗殺されたウラド三世。
「はっ、馬鹿ビーマめ。顔は死因になっとらんではないか!」
「そういう問題じゃないよ!!」
泣きそうな顔でマスターが旦那にしがみつく。
「わし様はパーンダヴァの連中を罵るチャンスは逃さんと決めておるのだ」
マスターにふてぶてしい笑顔を向けた旦那の首筋に多量の汗が浮かんでいるのが見えて、俺はマスターをそっと引きはがした。
「死因かぁ。確かにそれは僕たちには縁がないねー?」
マーリンに話を振られて、キャストリアが硬い表情を浮かべる。
人でない夢魔は死から遠い。聖剣の妖精もそれは同じだろう。そしてーーー。
マスターが俺を見上げた。なんで俺はなんともないのか?その目に浮かんでいる疑問が口に出されるより早く。声が遮った。
「アシュヴァッターマン。わし様を運べ」
言われるままに俺は地面に座り込んでいた旦那を抱えあげた。
「とりあえず場所を移動するぞ」
旦那の言葉にマスターは慌てて立ち上がった。
◆
案の定カルデアに連絡する事は出来ず。しばらく歩いて見つけたのは農作業用の小屋だった。ガタついたドアを開けてみると暗い部屋には農機具が乱雑に置かれ、休憩用の小さな椅子と申し訳程度のテーブルもある。
3脚ある椅子のひとつに旦那を座らせようとすると背中を軽く叩かれた。
「わし様に恥をかかせるな」
目線が示すのはドア。俺は何も言えずにドアの横の壁に旦那を寄りかからせた。
「うむうむ」
棍棒を呼び出し杖にした旦那は満足げに笑みを浮かべる。
そんな旦那にマーリンが声をかけた。
「私もキャストリアも戦闘は得意じゃないからね。入口を守ってもらえるのは助かる」
「わし様の強さはこの程度で損なわれるものではないからな。マスターはそこに座ってわし様の華麗な活躍を眺めておれ」
暗い小屋の中で旦那の笑い声が響く。
マスターは暗さによく見えないようで椅子の位置を手探りしている。そんな彼にキャストリアが手を添えた。
「こちらです。今、窓を開けましょう」
やっと顔を通せるほどの小さな窓の切れ目から薄く光が差し込んでいる。
「開けるな」
そこの前にすっと移動したキャストリアが制止した旦那に振り向いた。
疑問を顔に浮かべているキャストリアに旦那は軽く棍棒を揺らす。
「理由はふたぁつ。わし様は昔弟達とよくかくれんぼをしたものだが、隠れる時に辺りの物を動かした奴は真っ先に見つかったものだ。
そして、もうひとつ。戦力がひとつしかない時に侵入口をふたつに増やせば
……
どうなるかわかるな?」
戦力がひとつ。旦那がドアを守っていることから、俺が戦力に数えられていないことが分かる。
それは俺が頼りにされてねぇわけではなく。
マスターが顔を上げた。
「アシュヴァッターマン。頼んでいいかな?」
「もちろんだぜ」
動けない旦那たちを置いて俺がひとりでこの特異点を解消してこなければならないのだ。
◆
闇の中街道を走り抜けてあっという間にたどり着いた街は静まり返っていた。
人影もなく、明かりが灯っている窓もない。
夜明けまで時間がないというのに、情報の集めようがなくて俺は一瞬立ち尽くした。
俺の容姿は目立つ。姿や顔ではなく額に宝珠を持つ者がめったにいないからだ。
だから俺はマスターのように街の連中に話しかけて情報を集めるということが出来ない。
自分が死亡する夜明けまで時間がないと分かっているはずなのに、夜まで俺を待機させた旦那は言った。
夜闇に紛れて侵入し、明かりがついている所から調べろ。
だが、どこにも明かりはない。
とりあえず適当な家のドアを開けた。
死体が転がっていた。
そこには生活の途中で倒れ伏したように大小の死体があった。
死の匂いに昔の記憶が蘇る。
だからこそ気づく。死体は腐乱していないのにテーブルや床などには埃が積もっていることを。
考えれば日中も日が差していた。温度が上昇すれば腐敗が進むことを俺はよく知っている。
他の家もまわる。次の家も、その次の家も、その次も。同じようにいくつか新鮮な死体が埃に包まれていた。
旦那の言葉が再び蘇る。
要は肝心な場所を見つけねぇといけねぇってことだ。
俺は町並みを横断する大通りに戻り、力いっぱい地面を蹴った。
飛び上がる。
生前はともかくサーヴァントになった今なら街の上空から全体を俯瞰出来る。
眼下には街の全てが広がっていた。
そこにひとつだけ灯る小さな淡い光。
跳躍は一瞬で終わり、地面に戻った俺は駆け出す。
街に充満している死の匂い。それに数時間前、旦那を抱き上げた時を思いだしてしまう。抱き慣れたその重み。
旦那は俺がモテて女でも抱き上げていたのだろうと思ったようだが。
俺が抱き続けていたのはーーー。
見つけた窓から柔らかい光が漏れ出していた。
ランプの光だろう。暖かな影が揺れて中に何かいることが分かる。
ここは何の変哲もない小さな家だった。庭には枯れ果てた花が並んでいる。
俺は念のため霊体化して窓の内側に滑り込んだ。
「
……
ねぇ、ハニー。僕のスィート。今度こそ飲み込んでおくれ。僕たちは愛し合っているだろう?」
ねちっこい男の声に俺は顔をしかめた。
寝台に小柄な男が覆いかぶさっている。その体の下から女の素足がまっすぐに伸びていた。
荒い息、キスの音。
昔俺も似たような事をしていた。だからこそ同族嫌悪で胸が悪くなる。
何故なら。女の体はすでに硬直しきっていたから。
俺は無言で実体化すると男の頭を鷲掴みにして引っ張り上げた。床に叩きつける。それだけで男は動かなくなった。
「情けねぇことしやがって」
吐き捨てたのは男にだろうか。過去の俺にだろうか。
見下ろした寝台の上には女の死体がひとつ。
はだけられた胸元に空いた穴に小さく光が渦巻いていた。
聖杯。
おおかた女を生き返らせようとしたのだろう。
俺はため息をついて、聖杯を取り出そうと腕を伸ばし。
突然、聖杯から溢れ出した光に飲み込まれた。
◆
初めて感じる苦しみに、痛いとか辛いとかより。誰かに縋りたかった。
クリシュナに与えられた呪いは俺の内側を食い荒らし、叫ぶ喉さえ痛みで塞いだ。額の宝珠を抉り取られ、よろめきながら歩く。
誰かに助けて欲しかった。誰の助けも望んではいけないと分かっていた。それだけのことをしたと分かっていても。誰かがこの醜く荒れた体に触れてくれれば、それだけでこの苦しみは和らぐのだと、願ってしまった。
けれどクリシュナの呪いで俺は人に近づけない。
ただがむしゃらに人を求めて森の縁を行き来していていた時、ふと思い出した。思いだしてしまった。
俺にはあの人がいることを。
気が狂いそうな痛みの中、ずっと覚えていた道筋を足をもつれさせながら辿る。自分の他にはふたりしか知らない場所。優しいあのふたりはきっとそのままにしているだろう場所。
果たして、あの人はそこにいた。
あの夜明けに布に包んで隠した塊を木の上からそっと下ろす。冒涜に胸が痛んだが、絶え間ない苦しみの前ではすぐに霧散した。
長細い塊を布越しに抱きしめると人の形がした。
「ドゥリーヨダナ」
返事なんてなくても良かった。ただ、人間に、この人に触れていられるだけで良かった。
痛みも苦しみも少しも軽くならないけど、それでも良かった。
俺は旦那を抱きかかえて歩き出した。ずっとずっとずっと歩いて、旦那の形が溶けても、軽く硬くなっても、それすらもすり減らしてしまっても、ずっと。
……
旦那は俺と一緒にいてくれたのだ。
ーーーこの時聖杯があれば彼を生き返らせた?
女の声が囁く。
柔らかく囁くその声に俺は首を振った。
「生き返らせたりしねぇ」
そうだ。旦那を生き返らせればクリシュナの呪いで会えなくなるだろう。
しかし、俺が願うのはそんな情けない理由からではない。
俺は知っている。カルナが死んだ夜の旦那の嘆きを、弟達が次々と殺されていく日々の旦那の横顔を、俺が首を取り違えたと分かった時の旦那の震える声色を。
卑怯な手段で命を刈り取られようとしていてもなお、死にたくないとは言わなかったこの人の誇り高さを。
「ひとりだけ生き返って喜ぶ人だったら、俺たちはついて行ってねぇよ」
そんな人だからこそ、俺は安心してその亡骸にすがりついていたのだろう。
きっと身内に甘い旦那はそれを知っても困った顔こそするかもしれないが、俺の行為を赦してくれただろう。
どこまでも旦那に甘えてしまう俺にそっと気配が寄り添った。
「ああ、なるほど。あんたは生き返りたくなかったんだな」
俺の言葉に聖杯を胸に埋め込まれた女は微笑む。
街の死体の時を止めたのは、女を生き返らせたい男と、蘇りたくない女のどちらだったのだろうか。
そこにどんな感情のすれ違いがあったのか俺には分からない。
分かるのは
「覚悟はいいか?」
この女が死にたがっている事だけだ。
「ちゃんと死なせてやらァ!!」
微笑んだまま動かない女の胸から俺は聖杯を抉り取った。
◆
「それで結局アシュヴァッターマンの死因は何だったの?」
マスターの部屋で俺はこの前の特異点のレポート作成につきあわされていた。
「俺が思うにあれは死因が原因じゃねぇよ」
話をそらした俺にマスターは目を丸くする。
椅子に座ってノートパソコンに手を置いているマスターと、その隣に立っている俺。
ふたりきりの部屋は死の匂いがしないほど明るく清潔に保たれている。
「俺が思うに。死んでいる状態、
……
生きていない状態に持っていく手段が死因なんだろうな」
「死因があるから死亡するんじゃなくて、死んだことがあるから死因が働くってこと?」
「たぶんな。ーーーほら、手が止まってんぞ」
促すとマスターは慌ててノートパソコンに向かう。
まだ幼さを残す少年はほとんどの英霊達と違って死を知らない。だからこそあの特異点の影響を受けにくかったのだろうが。不用意に元凶に近づいていたらどうなっていたことか。
文字を打ち始めたマスターの手はすぐに止まってしまう。
「
……
それだと、やっぱりアシュヴァッターマンが無事だった理由が分からないよ。ーーーアシュヴァッターマンは人間、だよね?」
どうしても気になる様子のマスターに俺は苦笑した。
「俺は人間だな。まあ、ちょっと呪われて三千年ぐらい生きてたが」
「三千年!!
……
寂しくなかった?」
心配そうなマスターに俺は笑いかけた。
「いいや。ずっと一緒にいてくれた人がいたからな。ーーーまあ、だいぶ情けねぇところは見せちまったが」
俺が頬をかくとマスターは何も知らないまま微笑んだ。
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