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吾妻
2024-12-01 22:58:39
3442文字
Public
アークナイツ
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TRICK
テキ博♀付き合ってる。
露出が多めの彼氏にやきもちをやく博の話。
「えーと
……
」
どうしていいか分からず、テキーラはようやくそれだけ口にした。
場所はドクターの私室。時間は深夜一歩手前。
テキーラは閉ざされた扉に背を預ける形で立ち、向き合って立っているドクターの手が胸元に添えられている。
それだけ見れば随分と艶っぽいシチュエーションだ。なにしろドクターとテキーラは表向きは上司と部下だが、業務を離れれば恋人同士だ。そして既に時刻は業務時間外で、つまり。
閉ざされた私室の中でどんな秘め事が行われていても構わない時間帯なのだ。
だが、向かい合っている恋人の表情はかなり硬い。もっと詳細に表現するなら、盛大に拗ねた顔をしている。
「
……
ドクター? 今日はもうお仕事終わった? ご飯は?」
さりげなくコミュニケーションを試みても返事はなく、代わりに胸元からシャツの表をなぞって滑り降りた指先が、つん、と。服に空いた隙間から露出している脇腹をつついてきた。
(やっぱり
……
)
恋人が拗ねている原因は、本日の装いにありそうだ。
本日のテキーラは、普段とは違う服装だった。
とある事情から舞台上に引っ張り出されることとなり、それに合わせた衣装を着ていたのだ。
特におかしなところはないと思う。これまでだって任務によって装いの系統を変えてきた。TPOやドレスコードに合わせて身につけるものを選ぶのは、前職で培ったスキルでもある。
……
が、なぜかドクターは不満のようで、さらに指を滑らせて今度は臍のあたりをなぞる。
「
……
私は今、君にセクハラをしてるわけだけど」
「えっ?」
露出した素肌を指で辿られながら、テキーラは思わず間の抜けた声を上げた。
「これってセクハラなの?」
てっきり恋人同士のコミュニケーションの一環だと思っていたのだが。
「服の隙間に指を突っ込むなんてセクハラだろう?」
ドクターは据わった目でテキーラを見上げ、唇を尖らせてみせる。その仕草が妙に可愛らしく見え、このままキスをしてしまいたくなったが、ドクターは(おそらく)大事な話をしているはずなので、テキーラはできる限り神妙な顔で耳を澄ました。
「もちろん君は今すぐこの部屋を飛び出して人事部に駆け込むこともできる」
「そんなことするわけないでしょ。俺はドクターに触れてもらえるのは大好きだよ」
真正面から好意を返せば、ドクターがぐっと言葉に詰まった。ストレートな愛情表現に弱いところがまた可愛い。だが、なんの話だったっけ? セクハラ?
「そ、そういう話じゃない。君だって誰彼構わずこういう悪戯をされたいわけじゃないだろう?」
「まぁ、それはそうだけど
……
。そんな奇特な人、いないと思うけどなぁ」
「いる」
妙に力強く断言されて、テキーラは目を瞬かせる。
「
……
いるかな?」
「ここにまず一人いるんだから、いるに決まってる」
テキーラはもう一度瞬きをした。ドクターは、自分が口にした言葉の意味をわかっているんだろうか?
普段のドクターは、自分の発する言葉の重みをきちんと理解している。戦う術を持たない彼女にとって、思考と弁舌こそが何よりも強力な武器になるからだ。
並外れた観察眼と判断力、そして巧みな話術を用いて、彼女は数多の苦難を乗り越えてきた。だから本来ドクターは、自分の発言が他者に及ぼす影響をしっかりと理解している。
けれど、今夜のドクターはやたらとムキになっているように見えた。そうでもなければ、あんな迂闊な発言をするわけがない。
(だってドクターは、俺に〝悪戯〟したくなったってことだし)
彼女は遠回しに、服の隙間から覗くテキーラの肌に触れたくなったと白状しているのだ。そして、それが劣情を伴うものであり、後ろめたいものだと自覚している。さらにはテキーラが自分以外の誰かにこのような辱めを受けるのを案じていて、だからこそ拗ねた顔をしているのだ。
つまり彼女は、恋人のやや開放的な服装にときめきを覚えた上で、ヤキモチを焼いていることになる。
普段は動きを自制できるはずの尻尾が勝手にふさっと揺れてしまった。なぜなら、目の前で拗ねているドクターがあんまりに可愛いので。
確かに今日の格好は少しばかり露出が多めかもしれないが、このあたりは暑い地域だし、場にそぐわない装いをしたつもりはない。ドッソレス育ちゆえに自身の服装の好みが多少開けっぴろげであることは認めるが、場の空気を崩さないよう弁えられる。
何よりテキーラは上背のある成人男性であり、腕に覚えもある。たとえ武器を携帯していなくとも、そのへんの輩に遅れを取るはずもない。そういう意味において、テキーラは常にドクターの方を心配している。
ドクターは人たらしが服を着て歩いているような人物だ。物静かではあるものの人当たりはよく、親しげに相手に接するが、嫌がる部分には決して踏み込まない。冗談も言えば、時に真剣に相手を嗜めるもする。
ロドスにはテキーラ以上に複雑な来歴を持つオペレーターたちが多数在籍しているが、彼ら彼女らがドクターに信頼を寄せるのは、その作戦指揮能力が飛び抜けているからだけではない。おそらくはドクターの人柄自体に魅力を感じ、親しみを覚えているのだろう。中にはテキーラのように親愛以上の情を抱いている者もいるに違いない。残念ながらそんな好敵手たちにチャンスを与えるつもりは毛頭ないのだけれど。
ドクターは唇をわずかに尖らせながら、テキーラの大きく開いた胸元に掌を滑り込ませてくる。だが、彼女が与えてくるむず痒い感覚も、拗ねたような表情も、テキーラにとってはご褒美でしかないのだ。
多くの人々に慕われて必要とされている恋人が、自分にヤキモチを焼いてくれているなんて。子供みたいにむくれる顔を、自分だけに見せてくれるなんて。
喜ぶなという方が難しい。
「俺はドクターにならいくらでも悪戯されてもいいけど」
テキーラは、胸元を這う女の手を取り、自身の頬に当てさせる。すっぽりと包めてしまいそうなほど細い指先は、いつものように少し冷たい。常時体温が低めの彼女も、眠くなると体温が上がる。それを知っている男が自分だけであればいいと、テキーラは折に触れて思う。
「そういう話をしているんじゃなくて」
「わかってる。ドクター以外に見せないように気をつけるから」
頬に当てさせた女の掌に唇を擦り寄せて、その中心に優しく口付けを落とす。ドクターがひくりと身を竦ませるのが可愛らしくて、ついつい尻尾が揺れてしまった。
「
……
どうしてそんなに嬉しそうなんだ」
捕えられた掌に何度もキスを受けながら、ドクターは居心地悪そうに目を伏せる。その眼差しが背後の扉を元気に叩いている青年の立派な尾に向けられた。
「ドクターが嫉妬してくれたんだって思ったら嬉しくて」
あんまりブンブンと尾を振るのはみっともないことではあるけれど、今は二人きりなのだし抑える必要もないだろう。
するとドクターは視線をうろうろと彷徨わせて口を噤む。
テキーラは捕まえたままの腕を引き寄せ、自身の方へ倒れ込んでくるドクターの体を抱き留めると、くるりと体勢を入れ替えた。
ドクターの体をドアにもたれ掛けさせて、その体の両側に手をつく。いわゆる壁ドンの形で覆い被さり、目を白黒させている恋人の顔に、自身のそれを近づけて。
「
……
今日の格好にドキドキしてくれたの? ドクター?」
耳元でそっと囁いてやる。
すぐそばで「う、ぐ
……
」とうめく声が聞こえ、テキーラはさらに上機嫌になった。このあとは妬かせてしまった埋め合わせをしたいが、どういうふうに撫で回したらいいだろう? 尾を揺らしつつ、恋人のこめかみにそっと唇を押し当てていたら、不意に。
首筋に吸い付いてきたものがあった。
喉仏に小さな唇が食らいついてきているのだと、遅れて気づく。痛みを感じない程度の甘噛みの後、骨の形をたどるように舌先が触れてきた。
「ドク
――
」
「欲情したのは君の格好のせいだし」
大きく開いた胸元から服の内側へ。女の掌が滑り込んできて、明確な意図を持って撫で回してきた。
思わず少し体を離してドクターを見下ろせば、彼女の目には熱っぽい光がチラついている。
「これから君に〝悪戯〟するから、覚悟して」
テキーラは返事をする代わりに、艶やかな笑みを浮かべる恋人の唇に自身のそれを重ね合わせた。
【おわり】
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