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三崎
2024-12-01 22:40:25
8954文字
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それぞれのメリー・クリスマス
チャ6♂のクリスマス話です
――
やあ、ビジター。私宛に連絡なんて珍しいじゃないか。どうしたんだい?
……
ふむ、なるほどねえ。荷物さえ渡してくれたらなんとかするよ。あの子は普段、ベッドの上でなんて眠らないけど
……
うまいことやっておくさ。
……
でも良いのかい? 本当は二人で過ごしたいんじゃ
……
え? ああ、まあ
……
クリスマスってのは、確かに
……
そうだね。うん、あんたの言う通りだ。じゃあ、荷物、待ってるよ。
……
ん? ウォルターの
……
? ああ、なるほどね。それは後でデータを送っておくよ。じゃあね。
――
こちら、ハンドラー・ウォルター。俺宛に連絡とは珍しいな。どうした?
……
そうか。わかった。荷物を渡してくれれば、お前の言う通りにするのは問題ない。
……
からかわないでくれ。用件はそれだけか? わかった。
シンダー・カーラとハンドラー・ウォルター、それぞれにほぼ同時刻に届いた通信の内容は、相手は違えど、全く同じだった。それはチャティ、あるいは621に、クリスマスプレゼントを渡して欲しい
……
というもの。
通話を終えたカーラは、早速621から連絡があった旨をウォルターに連絡し、それぞれが相手のサンタクロースになろうとしていると知って、大笑いしたのだった。
一ヶ月ほど前のこと。十二月になり、621はエアからクリスマスというイベントがあると知らされた。クリスマスには様々な形があり、恋人たちがロマンチックに過ごす日であったり、家族がごちそうを囲んで過ごす日であったり、子どもにサンタクロースがプレゼントを置いて行く日であったりする。
もちろん、実際にはサンタクロースではなく親や保護者が代わりにプレゼントを置いていくのだが、寝ている間にプレゼントが枕元にある、というのは、とても素敵なイベントのように621には思えたようだ。
「チャティ、は
……
まだ、三歳
……
だし、わたしが、サンタクロースに、なる
……
!」
(なるほど
……
そっちの方でしたか
……
)
エアとしては、二人は恋仲ですし、クリスマスデートのお誘いなどいかがでしょう、と提案するつもりだったのだが、あてが外れてしまった。しかし、サンタクロースになると意気込む621もまた微笑ましく、エアは喜んで協力することに決めた。
とはいえ、サンタクロースになる、と口にするのは簡単なことだが、夜中にこっそりRaDに侵入してプレゼントを置いていく訳にはいかない。どうしても協力者が必要だから、621はカーラに協力を仰ぐことにした。
クリスマスの夜、チャティが寝ているうちに、わたしの代わりに枕元にプレゼントを置いて欲しい。その依頼をカーラは快諾してくれた。
人型の体はあるものの、チャティが眠るかというと微妙なところで、メンテナンスモードが睡眠にあたるとしても、その時はベッドの上に寝ているのではなく椅子に座っており
……
と、色々と難しいところはあるが、細かいことはさておき、意識のない間にこっそりプレゼントを近くに置いておくことは出来る。
しかしクリスマスなのだから、二人きりで過ごして、直接プレゼントを渡したって良いはずだ。頼まれればチャティに暇を出す用意もある。カーラは、本当は二人で過ごしたいのでは、と621に尋ねた。だが621の頭の中では、クリスマスはサンタクロースが子どもにプレゼントを渡す日、ということになってしまって、カーラの申し出は聞き入れられなかったのだ。
少しばかり呆れつつ、それもまた621らしい気もして、カーラも無理強いすることはなく、621のプレゼントの到着を待つことにしたのである。
あとは、何をプレゼントするか決めなければならない。621はエアと共に夜な夜な相談を重ね、ハンドラー・ウォルターにも相談し、そして〝あるもの〟の手配を頼んだのだった。
それとほとんど同時に、チャティもまたクリスマスの予定に頭を悩ませていた。
RaDでは、毎年クリスマスパーティをするのが恒例になっている。その準備は十二月の頭から始まって、グリッドそのものがクリスマスツリーに見えるくらい、派手に飾りつけをするのだ。
当日は朝から晩まではしゃぎ通しで、どこかしらの設備が壊れても誰も気にしないし、侵入者があれば、それはそれで招かれざるビジター〝で〟遊ぶことが出来ると大盛りあがりになる。そんな調子だから、チャティも一日中大忙しになってしまう。
噂によると、クリスマスというのは恋人同士がデートをして、ロマンチックな一日を過ごすらしい。しかし、チャティにとってはRaDの一大イベントをよそにデートというのは、気もそぞろになってしまいそうで憚られた。
飾りつけが完了するのはクリスマスの一週間程前からだから、愛しいビジターとは少し早いクリスマスを楽しむことにして、当日はハンドラーに依頼して、621の枕元にプレゼントを置いてもらおう
……
。そう決めたのである。
ハンドラー・ウォルターもプレゼントを届けてくれることを約束してくれたし、あとは何をプレゼントするか、じっくり考えるだけだ。
……
それが一番の難題なのだけれど。
……
月日が過ぎるのは早く、あっという間にクリスマスイブの夜が来た。
ウォルターはせっかくだからと星外からチキンやスープ、サラダにグラタン、更には冷凍のショートケーキを取り寄せてくれ、豪華なディナーが食卓に並んだ。
621は、見慣れない食材の数々に目を輝かせ、これは何、あれは何と尋ねながら、湯煎や電子レンジで調理の手伝いをし、エアも楽しげにそれを見守ってくれた。
ずらりと料理が並んだテーブルの上、古ぼけたキャンドルに火を灯すと、かなりクリスマスらしい雰囲気になった。そして、621はウォルターと共に食事を始めようとし
……
。
「あ、ウォルター、ちょっと、待って
……
」
「?」
621は席を立ち、とてとてとキッチンの隅に隠しておいた〝あるもの〟を手に取り、席へと戻ってきた。
「これ、ウォルターに
……
。メリー・クリスマス」
形状を見るに、紙に包まれた瓶のようだ。ウォルターは621が差し出したそれを受け取ると、その包みを丁寧に剥がしていった。すると、そこには。
「これは
……
」
「前
……
に、美味しそうに、飲んでいた、ので」
その瓶のラベルは、以前チャティの誕生パーティに呼ばれた時、ウォルターの席に置かれていたものと同じものだ。高額で滅多なことでは手に入らない代物だし、このラベルを621が覚えていて、そこから手配したとは考えづらい。ということは。
「
……
カーラ、から、教えて、もらいました」
「
……
そうか。ありがたくいただこう」
まさか621からこんなサプライズをしてもらえるとは思わなかった。ウォルターは瓶をテーブルにそっと置くと、棚からソムリエナイフと、ワイングラスを二つ、取り出した。
「お前も飲んでみるか?」
「
……
飲んで、大丈夫
……
でしょうか」
「健康状態には問題ない。少しずつ飲んでみろ」
ウォルターはそう言って、手際よく瓶の栓を開け、二つのグラスにとくとくとワインを注いでいった。吸い込まれそうな程、深く濃い赤。どんな味がするのか、621にはまるで想像がつかない。
「
……
」
(やっぱり、きれいな色ですね、レイヴン)
パーティの日、隣でワインを飲むウォルターは大人の男性といった様子で、随分と格好良く見えたものだ。大人の味だとウォルターは言っていた。酒なんて今まで飲んだことはないし、どんな味がするのかもわからないが、その言葉に抱いた憧れは、今も忘れてはいない。
621は少しだけワインが注がれたグラスを受け取り、その濃い赤をじっくりと見つめると、ウォルターに倣って微かにグラスを掲げてから、ちびりと口をつけた。
「
……
⁉」
(レイヴン! しっかりしてください
……
!)
今まで嗅いだことのない匂い。苦さとも違う、不思議な味わい。渋さと評すべきその味に、621は明確に顔をしかめた。
「
……
へんな、あじです
……
」
「お前には少し早かったか」
予想通りと言えば予想通りの621の反応に苦笑して、ウォルターは美味そうにそれを味わった。深く濃い赤色は美しく、ふくよかな果実香と仄かなスパイスの香りが口に広がり、程よい渋みと酸味が心地いい。飲み下した後の香りの余韻に、思わずうっとりとため息が出た。
「
……
そのうち、お前にもわかるようになる」
「そう、でしょうか
……
」
621は微妙な顔で、また一口ちびりとワインを口に含んだ。621が理解するには、このワインの味は複雑過ぎる。それでも注がれた分をちびちびと飲む621を、ウォルターは目元に皺を寄せつつ、微笑ましく見つめるのだった。
「大丈夫か、621」
「だ、だめ
……
です
……
」
初めて飲んだ赤ワインは、率直に言って美味しいとは言えない味だった。それなのに食事の合間に飲むと、不思議ともっと飲みたくなる。621は一杯半ほどワインを飲み、気が付くとふらふらふわふわへろへろになっていて、歩く足取りも覚束なくなっていたのである。
(コーラルには耐性があっても、お酒には酔うのですね
……
)
(エア
……
それどころじゃ、ない
……
)
雲の上を歩いたら、こんな感じなのかも知れない。足の悪いウォルターに手間をかけさせていることを申し訳なく思いながら、621はウォルターに肩を借りながら、よろよろと自室のベッドへと戻った。
「うう
……
すみ、ません
……
ウォルター
……
」
「いや、俺も止めるべきだった。すまない」
ベッドの縁に腰掛けた621に、ウォルターが水の入ったペットボトルを渡す。こくこくと水を飲んだ621は、ほう、とため息をついた。体が熱くてふわふわして、以前、不意を突かれてコーラルドラッグを飲まされた時のことを思い出す。あれよりはずっとマシな感覚だが、体がとろけて、なんだか眠くなってくる
……
。
「
……
今日はもう休め、621」
「ふぁい
……
」
子どものようにウォルターに寝かしつけられて、621は柔らかい毛布に包まれながら目を閉じた。強い眠気の中でなんとかスリープモードを起動する。
明日、目が覚めたら
……
チャティは喜んでくれるかな
……
。
眠りに落ちる寸前に思うことは、一週間前にカーラに預けたチャティへのプレゼントのこと。忙しいと思うけれど、今夜、彼女はきっとチャティにあれを届けてくれるはずだ。
酔いと明日への期待で緩んだ621の寝顔を見て、ウォルターはふっと笑みを零した。自身の猟犬がよく眠っていることを確認し、部屋を出て行ったウォルターは、数分後、すぐ部屋に戻ってきた。その手には、丁寧にラッピングされた包みが一つ。先日、チャティから預かったクリスマスプレゼントだ。包み紙ごしにやわらかな感触が伝わってくる。おそらく衣服か何かだろう。ルビコンは冷えるから、彼なりの気遣いに違いない。
「俺がサンタクロースの真似事とはな
……
」
口ではそう言いつつも、ウォルターは満更でもない顔で、621の枕元にそっとプレゼントを置いてやった。
「メリー・クリスマス、621
……
いや、ここは〝ビジター〟と呼ぶべきか
……
」
明日、目を覚ました621は、枕元を見てどんな顔をするだろう。このプレゼントの主は、きっとその表情を見たがるに違いない。
依頼を受けたなら報告をすべきで、だとしたら、少しばかりのお節介を兼ねて、明日の朝の映像記録を送っておいてやろう
――
。
ウォルターはそう決めて、すうすうと寝息を立てる621に背を向け、部屋を出て行った。
621が手配してくれたワインは、まだたっぷりと残っている。それを楽しみながら過ごす、そんな素敵なクリスマスの夜なんて、自分には過ぎたプレゼントで
……
。
「いや
……
そんなこと、思うべきではないか
……
」
せっかくあの猟犬が自分のために用意してくれたものなのだから、存分に味わい、楽しむのが礼儀というものだろう。ウォルターはそう思うことにして、贈られたワインと共に、自室へと戻っていった。
チャティはというと、朝からてんやわんやの大忙しで、腰を落ち着ける暇もない。カーラと共に中央制御室に籠もり、あちこちへ指示を出したり遠隔で機器を操作したりと、一日中働き通しだった。
そこら中からひっきりなしに爆発音が聞こえ、怪我人も次々と医療棟に運び込まれてくる。クリスマスに合わせて飾り付けられたグリッド086はキラキラと輝き過ぎていて、誘蛾灯の如く光に引き寄せられるように、次から次へと侵入者がやって来るのも困りものだ。その度、酔っ払いのドーザーたちが過剰な量の弾薬で撃退しているが、消費した弾薬や諸々の修繕費をどう補填したものか、今から頭が痛くなってくる。
制御室のモニターにはRaD全域に設置された監視カメラの映像が次々と映し出され、そんなドーザーたちの破天荒なクリスマスの夜の様子を伝えてくれていた。
「全く
……
毎年のこととは言え、少しくらい加減は出来ないのか
……
」
「言って聞く連中じゃないだろ? 侵入者が多いってことは、その分略奪出来る量も増える。多少は足しになるだろうさ」
「
……
どうだかな」
モニターの向こうで景気よく吹き飛ばされていく侵入者の機体を見るに、それほど当てには出来そうにない。怪我人も含め、誰も彼もが楽しそうなのは何よりなのだが
……
。
「
……
先にクリスマスデートというやつをしておいて、正解だったな」
「ビジターとあんたには悪いことをしたけど
……
こりゃあ、確かに、騒々しすぎるね」
クリスマス当日は忙しい。しかし、恋人同士のクリスマスらしいことはしてみたい。そんな訳で、チャティは一週間前に621をグリッド086に呼び、少し早いクリスマスを楽しんでいたのだった。
巨大なクリスマスツリーと化したグリッドを散歩してイルミネーションを楽しみ、ドーザーたちによって二人のために打ち上げられた花火に歓声を上げ、大枚を叩いて取り寄せたチョコレートケーキやディナーに舌鼓を打ち、そして夜は
……
あえて言うまでもないだろう。
素晴らしい夜を過ごした二人は名残惜しそうに別れ、そして今日、それぞれのクリスマスの夜を過ごしている。
「ビジターは今頃、どうしてるだろうね」
「さあな
……
いつもなら、もう眠っている時間だが」
せっかくのクリスマスの夜だから、夜ふかししているかも知れない。そんな話をされているとも知らず621は酔った勢いですやすやと眠ってしまっているのだが、それはさておき。
「
……
で、ビジターには何をプレゼントしたんだい?」
「
……
」
カーラがニヤニヤ笑ってチャティに尋ねた。ハンドラー・ウォルターにプレゼントを渡して欲しいと頼んだはいいが、何をプレゼントするかチャティはギリギリまで悩んでいた。カーラもそれを知っていて、何を贈ったのかずっと気になっていたのだ。
「
……
じきに、見ることになる」
「なんだい、教えてくれたって良いじゃないか」
食い下がるカーラに、チャティは困り顔でほんの少し照れくさそうに返事をした。
「
……
一番に知るのは、ビジターがいい」
「
……
そっか。そうだね」
チャティの返事を聞いて、カーラはそれ以上詮索することは止めた。彼の言う通り、ビジターを差し置いて、先に知る訳にはいかない。カーラはぐっと一つ伸びをして、ドーザーたちからプレゼントされたシャンパンの瓶に手をかけた。
「じゃあせめて、お熱い二人に乾杯させてもらおうか」
「ボス、茶化さないでくれ」
いいからいいから、カーラは棚からマグカップを二つ取り出すと、シャンパンの栓をポンと開けた。だくだくと溢れ出す液体を勢いよくマグカップに注いでいく。しゅわしゅわ鳴るその液体は、爽やかな果実の香りを漂わせている。
「あんたとビジターの輝かしい未来に」
カーラはそう言って、なみなみとシャンパンが注がれたマグカップを掲げた。飲む前から酔っているようなカーラの様子に小さくため息をついて、チャティもまたマグカップを掲げる。
「乾杯」
「乾杯」
楽しげにシャンパンを飲むカーラとは違い、初めての炭酸、初めてのアルコール、初めてのシャンパンは、甘党のチャティの口には今ひとつ合わなかったらしい。なんとも言えない顔をした参謀にカーラはまた笑う。
「あんたには少し早かったみたいだね」
「
……
ボス、これは
……
美味い、ものなのか?」
香りは瑞々しくて好ましいが、口の中がぱちぱちするし、酸っぱくて苦くて、とにかく飲みづらい。チャティの感想を聞いたカーラは何かを思い出したようにふっと笑うと、しみじみとシャンパンを味わった。大昔、初めて酒を飲んだ時の友人の感想とそっくりだったから。
「そのうち、この良さがわかるようになるさ」
「どうだかな
……
ん?」
なんとも言えない顔でちびちびとシャンパンを飲むチャティと上機嫌なカーラの元に、また一つドーザーたちからの通信が入った。今度は西の区画で小規模な爆発があったらしい。
「
……
瓦礫撤去用のMTも出払っている。今は消火が限界だな」
「ったく、医療棟もパンパンだってのに
……
怪我人は?」
「幸い、全員軽傷のようだ」
「そうか。ならいい。あんたも少し休んだらどうだい? ぼちぼちパーティも落ち着いてくる頃だしね」
時刻は深夜を回り、昨日の夜から騒ぎ通しのドーザーたちも、そろそろ力尽き始める時間だ。例年通りなら、酔っ払って床で眠っている連中が目覚めるまでの間、しばらく静かになるはずで
……
。
「ボス、俺は別に疲れたりしない」
しかし、チャティはカーラの提案を受け入れはしなかった。チャティの言うことももっともで、ドーザーたちが静かな間、荒れたグリッドの片付けを進めた方が効率的だと考えるのは、いかにもチャティらしい思考だった。
「
……
いいから。昨日の夜から働き詰めだろ? そろそろバッテリーも少ないはずだ」
「しかし」
「早く休まないと
……
酔っ払った私の世話もしなきゃならなくなるよ」
「
……
わかった。何かあれば起こしてくれ」
働き詰めなのはカーラも同じで、生身の体がある分、休むべきはあんたの方だ
……
と言い聞かせたくもなったが、妙に食い下がられてはチャティも無理強いは出来ない。実際、バッテリー残量が少なくなりつつあるのも事実だし、人には、一人で飲みたくなる日もあるという。ボスにとっては、今日がそういう日なのかも知れない
……
。チャティはそう思うことにして、専用の椅子に腰を下ろし、充電用のケーブルに接続した。
「
……
ボス」
「なんだい?」
メンテナンスモードに切り替える直前、シャンパンの入ったマグカップを片手にキーボードを叩くカーラに、チャティは声をかけた。
「メリー・クリスマス。良い夜を」
「ははっ、ありがとよ」
おやすみ、チャティ。チャティの言葉にカーラは心から嬉しそうに笑うと、眠りにつこうとする息子へ手を振った。
「
……
」
この忙しい日に、わざわざ人型の体に入る必要はない。コンピュータの中にいた方が監視をするにも便利だし、何があってもすぐに対応出来る
……
。そう渋ったチャティに、せっかくのクリスマス、人の体で楽しむのも乙なものさ、と無理を言ったのはカーラだった。バッテリー残量がちょうどよく少なくなるように働かせたのもカーラだ。結局、働き通しになってしまったことは悪いと思っている。けれど、どうしても今夜、その姿で眠ってもらう必要があった。
「さて、と
……
」
シャンパンをもう一口味わうと、カーラはゆっくりと椅子から立ち上がった。棚に隠しておいたプレゼントの包みを取り出して、寝息も立てず静かに眠るチャティの側へと近づく。
「枕元
……
ってワケにはいかないが、許しておくれよ、ビジター」
シンプルな包み紙でラッピングされたそれは、それなりの重さがある。どうやら分厚い本のようだが、ただの本を贈るとは思えない。何か気の利いた品だろう。これを受け取ったチャティがどんな反応をするのか
……
是非ともビジターに教えてやらねばならない、とカーラは思う。
「今夜、ウォルターもサンタクロースになってるんだろうね
……
」
チャティの膝の上へと包みを置いて、カーラは思わず、ふふ、と笑った。
「メリー・クリスマス、チャティ」
眠ったままのチャティに優しく声をかけ、カーラはモニターへと視線をやった。落ち着いてくる頃と思っていたが、今度は北の区画で酔ったドーザーたちが爆竹を弾けさせながら喧嘩をし始めてしまったようだ。
「どいつもこいつも、パーティが大好きなんだから
……
」
やれやれとため息をついたカーラは、北区の該当地域に設置されたスピーカーをオンにした。今日の自分はサンタクロースの代理、であるならば、大騒ぎするドーザーを嗜めるにしても、まずはこの言葉から始めなければならない。
「メリー・クリスマス! あんたたち、喧嘩はその辺にしときな‼」
お叱りという突然のボスからのプレゼントに、大喧嘩していたドーザーたちは歓声を上げ、喧嘩の経緯なんてすっかり忘れ、コーラルドラッグと酒を煽りながら大騒ぎをし始めた。
「
……
余計うるさくなったけど
……
まあ、いいか
……
」
せっかくのクリスマス、喧嘩をして怪我をするよりは、馬鹿騒ぎをして怪我をする方がいい。カーラはそういうことにして、シャンパンのおかわりを注いだ。
「
……
ふふ、まったく、いい夜だね」
明日の朝にも楽しみは続き、賑やかな夜が更けていく。
ルビコンの寒空の下、コーラルを巡る争いの只中であっても、たまにはこんな日があったって良い。何と言っても、今日はクリスマスなのだから。
始まりの逸話なんて誰も覚えていなくても、誰かが笑顔になるきっかけになるなら、それはきっと、些細なことだ。
明日の朝、息子たちがどんな顔でプレゼントの包みを開けるのか
……
それを想像しながら、カーラとウォルターは、それぞれのクリスマスの夜をほろ酔い加減で過ごしたのだった。
おしまい
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