桐子
2024-12-01 22:29:53
2356文字
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この世界はすべて⑧(父水)


ゲゲ郎たちを見送った水木は、それからすっかり目が冴えてしまい、遠い朝を待っていた。
「ととぉ……
夜中に怖い思いをしたせいだろうか。幽次郎は何度もうなされていた。水木はその度に幽次郎を抱きしめ、背中をさすってやった。
「大丈夫だぞ。父さんがついているからな」
「ふぇえん……
小さな手がぎゅっと水木の服をつかむ。やがて安心したのか再び眠りについたようだった。

この胸騒ぎはなんだろう。
不吉な予感を振り払うように、水木は息子の体を抱きしめた。どうか無事でいてくれ、と願いながら。

やがて、空が明るくなってきた。そろそろ朝日がのぼるだろう。燃えるように真っ赤な空が、やがて山の端から姿を現した。
朝日を見たら、もうひと眠りしよう。そうして目が覚めたら、何事もなかったように朝餉の支度をする。ゲゲ郎たちが帰ってくるのを待って、4人で朝食を食べるのだ。
「とうしゃん」
いつの間に目を覚ましたのか、幽次郎が水木のことを呼んだ。
「どうした」
頭を撫でてやると、不安げにきょろきょろ周りを見回している。幽次郎の白い、父親ゆずりのふわふわの猫ッ毛が、なぜか一本だけピンと立っている。
「髪が……
まさかこれは、鬼太郎と同じ妖怪アンテナでは。幽次郎がゲゲ郎の血をひいているのなら、同じ力を継いでいても不思議ではない。
「とうしゃん、こわいのいる」
幽次郎は泣きそうな顔で水木にしがみついた。確かに、家の外から何かよくない気配のようなものを感じる。
「大丈夫だ、父さんがついてる」
そう言ってなだめようとしたが、幽次郎は水木に抱きついたまま震えていた。ゲゲ郎たちがいなくて心細いのかもしれない。
「父さんが絶対に守ってやるからな」
水木はぎゅっと息子を抱きしめた。
この子だけは命にかえても守らなければならない。自分のような中途半端な親を選んで生まれてきてくれた、かけがえのない子だ。
ゲゲ郎にそっくりなこの子に、ゲゲ郎が受け取れなかった分の愛情をそそいでやりたかった。
「いいか、幽次郎。今からこの物入れの中に隠れていなさい。絶対に出てきちゃいけないぞ。ととか、兄さんが帰ってくるまで出てくるな」
「とうしゃんは……?」
「父さんは今から、表の奴らをやっつけてくる。お前は知らんだろうが、俺だって結構強いんだぜ」
水木は快活な笑みをうかべて息子を安心させようとしたが、幽次郎は口をぎゅっと結んでふるふると首を横に振った。
「やだ!とうしゃんもいっしょがいい!」
この子は賢い子だ。もしかしたら、これから何が起きるか分かっているのかもしれない。
「頼むよ、幽次郎。いい子だから隠れていてくれ」
そう言って水木は息子の頭をなでた。
「とうしゃん……
不安げな息子をぎゅっと抱きあげ、物入れの中に小さな体を押し込めた。そして、安心させるように笑いかけた。ーーーー最期に見せるなら、笑った顔がいいだろう。

「約束だ。絶対声を出すんじゃないぞ」

名残惜しく思いながら物入れの戸を閉め、水木は外の気配をうかがった。この家には結界が張られているから、やつらにもそう簡単に侵入することはできないだろう。だが、ここに自分たちがいると勘づかれた以上、相手も確実にやってくるはずだ。
水木は薪を割るための斧を手に持ち、乱暴に戸を開け放った。
「よう」
家の外にいたのは、大小さまざまな妖怪たちだった。見たことがあるものもいるし、初めて見るものもいた。彼らは目元を布のようなもので覆い隠されて、異様な雰囲気をかもしだしていた。
「裏鬼道の奴らに操られてるのか」
痛ましさに、水木は思わず顔をしかめた。
妖怪たちはギイギイと耳障りな音をたてながら、水木を取り囲んだ。
水木はふう、と息を吐く。
「ーーーーかかってこい」
それからはもう、無我夢中だった。がむしゃらに斧を振り回して妖怪たちを追い払おうとした水木だったが、数の多さに次第に追い詰められていった。
「くそ……ッ!」
息が切れて、肩で息をする。腕も足も傷だらけだ。それでもまだ戦い続けなければならない。息子を守るために。
「うあぁーーーーっ!」
最後の力を振り絞り、渾身の力で斧をふるった。
「ぐ……っ!」
しかし、その一撃は妖怪に受け止められてしまう。ばきん、と斧が飴細工のように折れる音が響いた。
「はあっ、はあ……
これでもう丸腰だ。武器がなければ戦うこともできない。
「ちくしょう……っ!」
妖怪たちはじりじりと水木に近づいてくる。
そして、鬼らしき巨躯をもつ妖怪が、腕を大きく振り上げた。
ザシュッ!鮮血が飛び散った。
「う、ぁ……っ」
胸から腹にかけて爪でざっくりと切り裂かれ、水木はその場に崩れ落ちた。
とっさに口を押さえたのは、悲鳴を聞いた幽次郎が飛び出してこないようにするためだ。こんな姿を見たら、あの子を怖がらせてしまうだろう。
「は、はあ……っ」
傷口を押さえながら、水木はなんとか体を起こす。傷口からどぷりと血があふれだし、着物が赤く染まっていくのが見えた。
ーーーーとうとう死ぬな、と思った。それでもよかった。愛することを教えられ、自分もまた愛することができた。ゲゲ郎、鬼太郎、幽次郎。彼らを守ることができたのだから、もう十分だろう。最期にもう一度ゲゲ郎たちに会いたかったが、それは無理な話だろう。
妖怪たちが迫ってくるのが見える。
妖怪が再度、腕を振り上げる。その時だった。突然、背後から鋭い針のようなものが飛んできて、妖怪の体に突き刺さった。
「がぁあっ!」
うめき声をあげ、妖怪が後退する。
(いったい、誰がーーーー?)
疑問に思ったのもつかの間だった。水木は目を見開いた。

涙で頬を濡らした幽次郎が、震えながら家の前に立っていた。