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ながみね
2015-09-06 23:22:52
2255文字
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BSR関ヶ原ネタ
仲良しじゃないけど距離が近い関ヶ原の話。現パロ神様風味。
小さな蛇が、座布団の上でとぐろを巻いて休んでいる。
食後の休憩のようなものだ。普段の彼は痩せてはいるが家康と同じくらいの背丈の男で、ただし今は小さな白い蛇の姿である。
その身に受け入れすぎたのが堪えるのか、蛇はたまに身じろぎして、あとは苦しそうに目を閉じている。
家康が念入りに注ぎ込んだ力が、自分の身体に馴染むのを待っているのだ。
「三成。普段からきちんと休み、力を温存していればそんなことにはならないんだぞ?」
家康の説教など聞く耳をもたない。存在ごと無視している。
最近はいつもこうだ。ガス欠状態で動けなくなる前に受け入れてくれるのはいいが、終わればさっさと人型を解いて、手も足もない長虫になってしまう。
なるべく単純な形をとることで省エネをはかり、その分のエネルギーを消化にまわしているのだろう。
全ては元親のもとへ一刻も早く戻るため。ガソスタ扱いの身としては少々悔しい。
あぐらをかいたまま天井を見上げ、それから庭へと目を移す。
ここは家康の隠れ家だ。誰にも干渉されない小さな庵と小さな庭。季節と時間は外界に合わせているので、今はちょうど昼時だった。
元親。彼も今ごろ学校で給食の時間だろうか。現在の三成の守護対象であり、旧友の面影を色濃く残した子どもの顔を思い浮かべる。
元親は昔の記憶はないが、幸いにもこの堅物な護衛の存在を快く受け入れている。三成は生前からこれと決めた相手に尽くすタイプだったので、守り刀という在り方は案外合っているのかもしれない。
(後はもう少し自分の面倒をみてくれたらなあ
…
)
これも生前からの習い性で、何度いっても改善する様子がない。
こちらの心配など知ったことではないと、蛇はそっぽを向いている。目を閉じて黙っていると精巧な細工物のように見えた。
彼の本来の属性は闇。しかし今は家康の力が溢れており、白銀の鱗は艶やかに光を帯びている。
さわり心地はどうだろう。
ふとした好奇心で手を伸ばすと、ふれる前に小蛇は鎌首をもたげ、あむ、と家康の指先に噛みついた。あいかわらず目は瞑ったまま。
「
…
三成。断りなく触ろうとしたのは悪かったが、せめて目くらい開けてくれ。
あんまり不精していると元の形を忘れるぞ」
蛇はつれなく顔を背けた。牙はないのだ。家康の庭であるこの場では、誰も何も傷つけることはできない。
彼が不機嫌な理由の一つはそれだろう。
主君の仇たる家康のすぐ傍にいながら、手を出すこともできはしない。
それは屈辱だろうか。自分は彼を苦しめることしかできないと、分かっていても手を伸ばしてしまうのだが。
考えても詮無いことだと、家康は独り言のように話しかける。
「おまえはどんな姿をしていても、すぐにおまえだと分かるな。不思議なものだ。
ワシなんてたまに自分の顔も分からなくなるぞ」
一応聞いてはいるのか、ぴくりと尻尾の先が揺れた。
「なあ、独眼竜を覚えているか。奥州を治めていた世話好きな男だよ。
独眼竜は確かに奇抜なところがあったが、さて、本当に六爪流など振るっていただろうか。
刀を六本もだぞ? 普通は無理だろう。
忠勝もな、確かにワシを背に乗せて空を飛んでくれた記憶はある。冬の朝など、耳がちぎれるかと思うほど風が冷たくて、しかしあの高さからの眺めは最高だった。
だが、あの時代にそんなテクノロジーがあっただろうか?
――
もしかしたらワシの記憶の方が間違っているのかもしれない。後世の人々の空想に侵食されて、本当のことが分からなくなっているのかも
…
」
自分で言いかけた言葉が恐ろしくなり、家康は口をつぐんだ。
言葉は不用意に口にすれば現実になる。
しかし、黙ったところで疑念は消えるものではない。確認しようにも当時の記憶を持つ者は限られていた。信玄公や軍神はとうに眠りにつき、独眼竜はこのところ顔を出さない。いつだったか真田を見かけたと喜んでいたので、そのまま追いかけていったのかもしれない。
元親は人の子だし、三成に至ってはこの通りだ。
「思えば人としての身体はとうに朽ち、新たな名で祀られてからの時間の方が遥かに長い。
最近ふと考えるんだ。今のワシは信仰により形どられ、この体は皆の願いや想いで満たされている。どこからどこまでが元のワシかなど、こだわる意味はあるのだろうか」
たとえば戦場の記憶。血と臓物と火薬の臭いが入り混じり、砲撃の着弾と怒号により地が震える。拳を振るい人体を潰す感触。どこの誰を、何人を、この手で沈めてきたか。その過程で誰を、いつ、どこで失ったか。
そんな記憶がこの時代に必要だろうか?
知る必要などない。薄々気づいてはいるのだ、家康個人のこだわりを捨てれば、より大きく普遍的な受け皿になれるのだと。
そして、それはけして悪いことではない。
「家康」
不機嫌な三成の声が、家康を物思いから引き戻した。緑に近い、暗い金色をした目がまっすぐ自分を見据えている。
「私を忘れたら殺してやる」
その物騒な殺害宣言に呆気にとられて、それから家康は苦笑いした。この執着すら愛おしく感じる、自分の身勝手さときたら救いようがない。
「そのときは、お前がワシに思い出させてくれよ」
永い時を経ても三成の眼差しだけは変わらなかった。
願わくば彼の道行きに、溢れんばかりの幸福があらんことを。
もう一度祝福を与えようと顔を近づけ、家康は怒った三成に鼻筋を噛みつかれた。
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