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桐子
2024-12-01 17:09:39
1282文字
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この世界はすべて⑦
風の強い新月の夜のことだった。
夜中に戸を叩く音で目を覚ました水木は、隣の布団で眠る息子を起こさないように、そっと起き上がった。既に起き上がったゲゲ郎は、戸口に向かっている。
「すみません、こんな時間に」
戸を開けると、鬼太郎が立っていた。ただならぬ様子だ。
「どうしたのじゃ」
ゲゲ郎は急いで息子を家の中へ招き入れた。「妖怪たちが封印された大岩のことを覚えてますか?」
「うむ、天邪鬼の
……
」
「あの封印を、人間の術士が解こうとしているらしいんです。一つ向こうの山にすむ烏天狗が教えてくれてーーー裏鬼道が絡んでいると」
裏鬼道、の言葉に水木の心臓はドッと嫌な音を立てた。
「裏鬼道じゃと
……
!?」
ゲゲ郎も驚いたように目を見開く。
「封印を解くのが目的なのか?」
「恐らくは」
ゲゲ郎はしばし考えこむそぶりをした後、水木を振り返って言った。
「水木、すまんが留守を頼む」
「
……
わかった」
そう言ってゲゲ郎と鬼太郎は足早に家を出ようとする。
「ととぉ
……
?」
いつの間に目を覚ましたのか、幽次郎が不安げにゲゲ郎たちを見上げている。今にも泣き出しそうに目を潤ませていた。
ゲゲ郎はしゃがみこみ、幽次郎の頭を撫でた。
「兄さんとととは、ちと用ができてのう。出かけてくるゆえ、留守は頼んだぞ」
「いっちゃやだ
……
とと、いかないで。ゆじろ、ととのことわすれちゃうよう
……
」
忘れてしまう、という言葉にゲゲ郎は目を見開いた。そして、くしゃっと顔を歪めて我が子を抱きしめた。
「そうか。そんな記憶までお主に背負わせてしまったか」
「やだぁ、いかないで、ととぉ」
幽次郎は小さな手でゲゲ郎の服を握りしめ、行かないでと訴えている。
「もう二度と、水木もお主も、わしのことを忘れたりせんよ」
その言葉で、水木にも分かってしまった。幽次郎は離ればなれになったあと、大切な人が自分を忘れて去ってしまうことを怖がっていたのだろう。かつて、水木は記憶をなくし、ゲゲ郎たちに背を向けた。
「幽次郎
……
」
泣きじゃくる息子を抱きしめていたゲゲ郎は、ふと鬼太郎に向き直り、
「すまぬ。ちゃんちゃんこを貸してくれ」と言った。
「はい」
鬼太郎はちゃんちゃんこを脱いで父親に渡した。ゲゲ郎は祈りを捧げるように、それを両手で持ちあげた。
「ご先祖様、力を貸してくだされ」
すると、その祈りに応えるように、2本の霊毛がちゃんちゃんこから分離した。霊毛は絡まりあい、かつてゲゲ郎がしていたのと同じような組紐になって、幽次郎の手首に巻き付いた。
「
……
わしの父と母の霊毛じゃ。これをつけておれば心を失うことはない」
幽次郎は組紐をまじまじとながめ、やがて小さく頷いた。
「うん」
「水木のことを頼んだぞ」
ゲゲ郎は幽次郎の頭を撫で、水木と視線を交わらせた。
「行ってくる」
「ああ、気をつけて」
そうして2人は、家をあとにした。
戦う力をもたない水木たちは、無事を祈ることしかできない。
「心配するな、鬼太郎たちは強いんだ。無事に帰ってくるよ」
水木はそう、自分に言い聞かせるように呟いた。
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