あがれす@ばんちゃ
2022-06-12 15:56:21
1875文字
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(仮)


『求ム凄腕 高額報酬 詳細別途相談』
 どう見ても怪しい。どう考えても怪しい。賞金がかかった魔物の討伐依頼……モブハント用の掲示板に貼り出されているのは豪快な文字でただそう書かれただけの紙切れで、倒すべきモンスターの詳細どころか絵姿も書かれてはいなかった。仁王立ちしたまま腕組みし掲示板を見据え、これは一体どういった内容の依頼だろうと考える。
 姿も詳細もおいそれと明かせないほど危険で厄介な相手、という事だろうか?それなりに場数は踏んできて腕には自信がある方だが、姿が判らなければ討伐出来そうな相手なのか検討もつけられない。別途で相談と書かれているからには詳しく話を聞きたいところだが、そもそもどこの誰に相談すればいいのだ?
「あら?スゥおじさん、あれ」
「あァ?あのお嬢さんまた貼り出しやがったのか。ったくよォ……
 背後から聞こえてきた話し声に振り返るより先に、視界に鈍い金髪が現れた。己の肘あたりまでしかない背丈の男はため息をつきながら、掲示板に貼り出された紙切れを勢いよく剥がす。突然の行いに目を丸くし唖然とした視線に気付いたのか、金髪の男は紙切れを丸めるでもなく丁寧に畳みながら自分を見下ろしている大柄な人物……ルガディン族の男に声を掛けた。
「あんた、この依頼が気になんのか?」
 同種族と比べても大柄といって差し支えなさそうなルガディン族の大男を見上げながら、七三分けの金髪に赤いレンズの小ぶりな眼鏡をかけた男は畳んだ紙切れをひらひらと翳して見せる。
「知ってるのか?」
「面倒な儲け話だって事は知ってるぜ。だが生憎と、こいつァモブハントの依頼じゃねぇんだよ」
 金髪の男は小さく肩をすくめて落とし、訝しげに片眉を上げたルガディン族の大男を値踏みするかのように見定めてから「ちょうどいいか」などと呟いて、紙切れの依頼の詳細を話し始めた。
「見たところ流れの賞金稼ぎか冒険者ってとこだろ?これの依頼主はリムサから来てるお嬢さんだ。何でも、アジムステップまでの護衛を探してるんだとよ」
「護衛?それなら何故モブハントのボードに」
「クガネにゃ冒険者向けの依頼ボードは置かねぇって決まりになってんだ。揉め事のタネだからな。基本こういう依頼は人伝に頼むか自力で請け負ってくれる奴を見つけるもんなんだが……このお嬢さんは何度言ったって聞きやしねぇ」
「楽座街の高札や、小金通りのマーケットボードに貼り出していたときもありましたよね」
 心底面倒そうにぼやいた金髪の男の背後でくすくすと笑いながら、長身の女性が話に参加して相槌を打つ。結い上げた黒髪を揺らすルガディン族の女性は、大男に負けず劣らずの体格をしていながらどこか可憐で朗らかな雰囲気を纏っていた。
 金髪の男は赤いレンズの奥で薄氷のような瞳を細め、女性を見上げながら呆れたように肩をすくめる。
「一度は忠告したんだが失敗だったなァ……そもそも書き方がなってねぇと言っとくべきだった」
「まぁ!また連絡先も書いていなかったんですか?困りましたねぇ……あの、腕に覚えのある方かと存じます。もしよかったらこの依頼、受けてあげてくれませんか?」
「いや、俺は」
 腕っぷしには確かに自信がある方だが、魔物退治とヒトの護衛とでは仕事の内容が全く違う。困り眉で予期せぬ提案をした女性に思わずたじろいだ大男に、金髪の男が指先に挟んでいた畳んだ紙切れを差し出す。
「金に糸目はつけねぇって話だったし、流れもんなら何かと要り用だろ?悪い話じゃねぇと思うがなァ……今頃は上で飯食ってるはずだから、話だけでも聞いてみたらどうだ?」
 その様子じゃ、あんたも昼飯まだだろ。
目線はすでに大男を見てはおらず、潮風亭の階段の先を見ていた。金髪の男の言葉と同時に、腹の中が鈍く動くような感覚がする。海風に乗って漂ってきた香りに腹の虫が騒ぎ出したのだ。
 どうにも断りきれずに指先の紙切れを摘むと、男はやたらとあくどい顔をして笑った。背後にいる女性がほっとしたように礼を言い会釈していなければ、詐欺師か何かにでも騙されているような心地だったかもしれない。
「不躾なお願いをして本当にごめんなさい。でも、依頼を出しているのは決して悪い子じゃないんです。よろしくお願いしますね」
「腕は立ちそうだし大丈夫だとは思うが……ま、無茶はすんなよ。冒険者」
 そのまま不思議な取り合わせの二人は大男に背を向け、潮風亭の前の広場に店を構える茶屋の方へと向かっていってしまった。呆然とする大男の手に、墨の滲む紙切れを残して。