あがれす@ばんちゃ
2022-02-04 20:25:41
9438文字
Public アガレスとジェーン
 

獅子の心中、名無しの見た夢

時間軸は暁月のフィナーレ直後。ありえもしない、そんな夢を見た。
※拙いながら成人向け。弊光の戦士ロスガル×リテイナーのハイランダー女。男女の性描写があります。

これはきっと、わるい夢だ。


ベッドの縁に腰掛けた赤毛の獣人の膝に、黒髪の女性が向かい合うように腰を下ろす。普段は見上げるばかりの緑の瞳を見下ろし、普段は見下ろすばかりの菫色の瞳を見上げ、互いの瞳が揺らめくような確かな熱を帯びていた。腰から下を抱きかかえるように回された太い腕、薄焦茶の毛並みに覆われた手の平が張りのある尻と太ももに触れ、静かにさすり撫で上げる。
「んくすぐったい」
両肩に添えられた白い手が、指通りのいい赤い毛並みを掻き分ける。広すぎる背中に回りきらない両腕を、彼女はゆるく首の後ろへと回した。密着させた身体からは、仄かな甘い香りがする。
抱きしめた呼吸が近い。抱きかかえた鼓動が近い。互いの体温と心温がじわじわと滲みあうように高まっていくのを、二人は確かに感じ取っていた。

触れ合う温度が馴染んだ頃合いを見計らってか、アガレスの触れ方が変わった。太ももの外側を撫でていた手が徐々に内股へと近づき、尻を揉んでいた手が腰に回されゆっくりと登っていく。まだどこか遠慮がちで探るような手付きがくすぐったく、どうしようもなくじれったい。顔色を窺うようにすり寄せられた鼻先に、ジェーンは待ちきれないようにいたずらっぽく噛みついた。
「ぬあっ」
完全な不意打ちだったのだろう。聞いたことのないような間の抜けた声を上げ、アガレスが顔を顰める。見慣れた仏頂面がじとりと恨めしげにジェーンを見上げ、唸りの絡む低い声が咎めるように彼女の名を呼んだ。
「ぷっ!ふふ、ごめんごめ……ひゃっ、!?」
仕返しとばかりに、ざらつきのある舌が乳房の先端を舐め上げる。突然与えられた刺激に身体は反射的に逃げ出そうとしたが、腰から背中にかけて回された腕がそうはさせない。ジェーンはどうにか身をよじり、アガレスの両肩を押して身を引こうとするがびくともせず、滑らかな毛並みが乱されるばかり。その間にも、背中から回されたアガレスの太い指が形の良い乳房をゆっくりと揉みしだき、時折先端を掠めては爪弾き、柔くこねるように触れる。
「あっ、ちょっ、と!んっ不意打ち!」
「先にやったのはお前だろう」
指先の動きはそのままに、牙が当たらないように気を遣いながら、アガレスはマーキングでもするかのように胸の谷間や首筋に額や頬を擦りつけ、時折わざとらしく見せつけるように舌先をチラつかせた。
普段のアガレスからは想像もつかない“いじわる”に、ジェーンの頬が羞恥で赤く染まる。
「なに、なんか乗り気、なのっ?」
……そうかもな」
そう言うや否や、アガレスは乳房を弄ぶ手も尻を撫で揉む手も止め、ジェーンを抱きかかえたままゆっくりと後ろへ倒れた。
突然の浮遊感に慌てて抱きついたジェーンごと、二人分の重さが沈んだベッドがぎしりと音を立てて軋む。アガレスの思わぬ行動が理解できず、緩められた腕の拘束を訝しんだジェーンは、厚い胸板に手をついてこわごわと身体を起こした。……寝転がったアガレスを、まるでジェーンが組み敷くかのような体勢になっている。
お前を見上げるのは初めてだ」
アガレスはそう言ってくつくつと笑い、手を伸ばしてジェーンの顔にかかる髪をそっと払う。右目の傷跡を撫でる黒爪と傷だらけの指先は、いつかの日のよりもずっと、比べようもないほどに優しかった。
胸板に置いたままの手が震え、身体の火照りよりも熱い昂ぶりが込み上げる。耳まで真っ赤になったジェーンがたまらず、堪えきれないようにアガレスに口づけの雨を降らせた。
「ん、むっ」
片手は胸板から肩まで広がる赤い毛並みを掻き撫で、もう片方の手は顔の模様をなぞるように指を添え、先ほど噛みついた鼻先に唇を寄せては牙にも舌を這わせる。薄く開いた口元と舌先についばむように吸いつき、漏れ出た吐息すらも余さず飲み込むかのように、ジェーンは角度と深度を変えてひたすら口づけを贈った。
ひっそりと再開された下半身への愛撫も気にせず、呼吸も忘れそうなほどに求めるジェーンの唇を、アガレスは静かに受け入れる。絡み合った唾液は、もはやどちらのものか分からない。
……いつの間にかすっかり息の上がったジェーンを宥めるかのように、アガレスの大きな手の平が丸みを帯びた襟足を撫で上げ、ざらつきのある舌が艷やかな唇を舐めた。驚き閉口したジェーンの口元のほくろ、薄い唇、小さな鼻を確かめるようにアガレスの鼻先がすり寄せられ、じっくりと優しく食まれる。そのままゆっくりと味わうかのように傷跡の残る瞼、目尻や眉根、おでこの生え際までその口元が登りきる頃には、それが彼なりの口づけなのだとジェーンは理解してしまっていた。
「もう、いいか?」
襟足を撫でていた手で頭部を抱き寄せられ、耳元で囁かれた低い唸りの混ざる熱っぽい声に、ジェーンの肩がびくりと震える。口づけに夢中だったのも確かだが、彼女には必死で気付かないフリをしていたものがあった。……先ほどからジェーンの秘部に当たり、存在を主張している硬いモノ。アガレスが耳たぶを食みながら、すっかりと勃ち上がったそれをジェーンが無視できないようにぐいと押し当てる。
「っ!」
視線をやって確かめることも出来ないまま、息を呑み生唾を飲み込む。熱で潤み揺れる菫色の瞳を見つめながら妖艶さを秘めた緑色の瞳が細められ、先程よりも強く硬いモノが押し当てられた。
寝転び、組み敷かせ、好きにしていいと許しておきながら、アガレスは決定的な主導権を渡してはいなかった。温度を分け合うような逢瀬も甘い口づけも、ジェーンが求めることも彼は分かりきっていた。すべて、彼の掌の上だったのだ。
「あたし、が」
ずっとリードされていたという事実に気付いた瞬間、ジェーンの中で羞恥と悔しさがせめぎ合う。だがそれ以上に、目の前にある瞳に宿るものが、身体に当てられる熱が……アガレスも確かにこの交わりに興奮しているのだという事実が、心臓をばくばくと加速させた。
あたしが、その、してもいい?」
もっとだ、負けたくない、もっと応えたい、与えたい、このヒトをもっと昂ぶらせてみたい。
ひりつき、貼りつくような心地のする喉の奥からジェーンが言葉を絞りだす。その想いだけは唯一、アガレスの想像を上回っていた。驚き目を丸くしたアガレスがゆっくりと瞬きをし、微かに笑う。
……構わないぞ。できるか?」
「ん……ちょっと、ちょっと待ってね」
一度体勢を変えようと、ぎこちなく緩慢な動きで退こうとしたジェーンの足首に、名残惜しいとでも言うかのようにするりと赤い尾が巻きつけられる。狙ってやっているのか、それとも無意識なのか。そんな事はもうどちらでもいいと思えてしまうほどに、ジェーンにとってアガレスの仕草の一つ一つが愛おしかった。巻きつけられた尾の毛先を柔く弄びながら、揉みほぐすようにほどく。
そうして離れて改めて、はじめて見たアガレスの中心にそそり立つそれは、今まで見てきたモノの中でも一際大きく強暴な見た目をしていた。握りしめた尾を離せないまま固まり、先程までとは違う意味で鼓動が早まるジェーンを他所に、アガレスがのそりとベッドの上へ上がる。太い腕でシーツを均し、そのまま自分の手を膝に置いた。
「無理だと思うなら、そう言ってくれ」
自分からすると言い出したのはジェーンの方だが、アガレスはジェーンとの体格差も自身のモノの強暴さも、十分すぎるほど理解していた。無理強いは決して望んでいない。ジェーンがその身を委ねたいと言えば応えるつもりであったし、やめたいと言われれば、この情事自体をここで終わらせてしまうつもりでいた。
目の前にいる“雄”に示された選択肢が、ジェーンの頭の中でぐるぐると渦を巻く。包まれるような温もりと主張する熱は離れたはずなのに、心も身体も昂ぶるばかりで……畏怖と不安を、期待と興奮が上回る。
座って」
「あぁ、わかった」
ゆるい胡座で座り直したアガレスの正面、神妙な面持ちで座り込んだジェーンの細い指先が、太い先端へと伸ばされる。あと少しで触れそうになった直前、指を引っ込めたジェーンが窺うような上目遣いをした。握られたままの尾の先を揺らし、惑うように宙を彷徨う手を取って、アガレスがその白く細い指先を自身へと導く。
触れた熱に息を呑む。触れられた感触に唾を飲み込む。どうしようもなく、あつい。
血管の浮き出る竿は到底片手には収まりきらず、尾を離した手も添えてようやく包み込み、ぬらりと光る先端から根元の膨らみまでをゆっくりと往復する。
っ」
手の中でじわじわと硬度を増し、へそに付きそうなほど角度のついたモノを受け入れる用意をしようと、ジェーンは自身の秘部に手を伸ばす。すっかり濡れた割れ目に指先を這わせ、ゆっくりと慎重に指を出し入れし押し広げる。
「んっ、あ」
悩ましげな声を上げながら白い肌を赤く染め、時折様子を窺ってくる熱を帯びた菫色の視線と吐息は無意識でも扇情的で、アガレスの怒張が止まない。そそり立つモノから先走りが溢れるのをジェーンは見逃さなかった。あの寡黙で気難しく、不器用で優しいアガレスがこんなにも昂ぶり、目に見えるほど興奮している。それが余計に、ジェーンの高揚を燃え盛るほどに煽った。
ゆるい胡座の上に跨り、太い首に両腕を回し、ジェーンが慎重に慎重に腰を落としていく。ジェーンの腰と自身のモノを支え、アガレスは一瞬呼吸を止めた。指とは比べ物にならない太さと質量が肉壁をさらに押し広げ、中を擦り上げる快楽から逃げようと勝手に持ち上がる身体が、アガレス自身をも擦り上げる。首に回された両腕がきつく巻かれ、腰を支えている太い腕がぴくりと震えた。もどかしいばかりの上下運動でどうにか半分ほどまで咥え込んだあたりで、ジェーンがじりじりと失速し薄焦茶の太い首に縋り付き爪を立てる。
「ぁ、あ!、ぅ、くっ」
「ぐっジェーン、力を抜け!」
ジェーンの中で締めつけられたまま与えられる緩い振動が、アガレスの理性を激しく揺さぶる。思わず力の籠もった両腕に抱き寄せられる形で当たりどころが変わったのか、悲鳴にも似た嬌声を上げてジェーンの腰が深く落ちた。
「あ゛」
「ぁアっ、ァ!まっ、て奥っ!」
一息に根元まで呑み込まれ、最奥まで達した質量に、喉の潰れたようなくぐもった声と嬌声が重なった。じっとしていられずに藻掻けば藻掻くほど、深く深くに押し当てられるアガレスの怒張。互いを慣らすためにも動かないべきだと頭では分かっているはずなのに、身体の方が圧迫感と快楽に堪えられない。
ぐずる子どものように全身で慌てるジェーンの腰を、薄焦茶と赤毛の太い腕、黒爪の指先が強引に押さえつける。痛みを感じるほど強く押さえつけられたことで、ジェーンが一瞬我を取り戻した。自身を馴染ませるように最奥に押し当てたまま動かないアガレスの荒い呼吸が耳元を掠め、抱きかかえられて密着した肌越しに伝わるほどの鼓動がジェーンを落ち着かせる。息をするのもやっとといった状況にようやく慣れた頃、ジェーンがおずおずと緑の瞳を覗き込みながら声を掛けた。
っあ?が、れす……?」
生理的に滲んだ涙と情欲とで潤んだ菫色の瞳、鼻にかかる舌ったらずな声と吐息……咥え込まれた自身のモノが、先ほどよりも甘く締めつけられる。あまりにも扇情的な姿と刺激に、本能を揺さぶられ続けていたアガレスの鋼の理性がぷつりと決壊した。
「ッああ!?」
突き上げられる衝動に身体を丸めるが、余韻を感じる間も逃がす隙もなく、二度三度と容赦ない突き上げが続く。視界が瞬くようにチカチカと暗転し、角度を変えて肉壁を擦り上げられた四度目、五度目の時点でジェーンはすでに達していた。だが、アガレスの最奥への律動は止まらない。
「まっ、ァ!まって、イっ!」
「っすまん、俺が、まだだっ!」
「アっ、!ぅあ、くゥ!」
限界が近付き根元のコブが膨らむ寸前、アガレスは咄嗟に抱え込んだジェーンを押し倒す形で体勢を変え、根元まで咥え込まれていた自身を一気に引き抜いた。えぐられるように肉壁を擦られる感覚に、ジェーンが全身を痙攣させて達する。ずるりと引き出されたモノから溢れ出た白濁が乱れたシーツにぼたぼたと降り注ぎ、染みを作っていった。
荒い息と共に自身から吐き出され続ける白濁に、アガレスは忌々しげに顔を歪める。そんな光景を、ジェーンは大きな身体に組み敷かれながらぼうっと見つめていた。
自身を覆う熱と質量は、先ほどまで確かに己の中にもいたはずなのに。意識は朦朧としていても、じわりと滲んだ涙は決して無意識の生理的なものだけではなかった。
すまない」
無理をさせたと思ったのだろう。いまだひくひくと痙攣し白濁を垂らす自身を誤魔化すかのように、アガレスはジェーンに覆い被さり目尻に滲んだ涙を拭う。目元の傷跡と頬を撫で、髪を梳き、鼻先をすり寄せるアガレスの耳に、掠れたジェーンの声が届いた。
どうせ」
「ん?」
「どうせ、夢なら……
最後まで、いてほしかった。
音にならないほど小さく呟き、力の入らない腕を上げ、ジェーンが赤い頭髪を抱きこむように掻き撫でる。もう片方の手は、へそのすぐ下あたりを擦っていた。言葉の意図を理解したアガレスの毛がぶわりと逆立ち、弾かれたように顔を離す。ぱたりと落ちた手はそれでも、顔の真横に置かれていた大きな手に小さく指を絡めた。
「ジェーン、お前
自身の腹を擦っていた手をアガレスの胸に当て、白い手指が豊かな赤い毛並みの中を泳ぐ。動揺を隠せないアガレスを見上げ、ジェーンは眉尻を下げ、困ったような泣き声で寂しそうに笑った。
「アガレスあたしじゃ、だめかなぁ
先ほどまでの扇情的な姿とはまったく違う、これ以上ないほどまでに本心からの、必死の誘い文句だった。
頬に添えられたまま動けなかった黒爪の指先に、菫色から零れた涙が伝う。じわりと滲んだジェーンの温もりがゆっくりと、だが確実にアガレスの心を解かし、その鼓動を早めていった。
ちがう、だめじゃない、お前のせいなんかじゃないんだ。ああなったらもう、俺は自分で加減ができない」
組み敷いたジェーンにも見えるよう、アガレスは覆い被さっていた上半身を起こす。白濁を吐き出しきったはずのアガレスのモノが、すでに熱を持ち再び勃ち上がりかけていた。
お前を、ひどく扱うかもしれないさっきの様に、いや、さっきよりも。最後までというなら、尚更キツいはずだ」
アガレスが最後まで挿入れている事を躊躇い、拒み、咄嗟に引き抜いた理由はそこにあった。アガレスとてジェーンを求めていないわけではない。だが、いくら夢の中だとしても、種族としての特性からくる際限のない獣欲を欲望のままにぶつけ、ジェーンの身体を、心を傷付けるような真似をしようなどと、アガレスは微塵も思わなかったのだ。
「それでも」
最後までと、そう言うのか?
言葉には出来ずに、頬に添えていた大きな手の平がゆっくりと喉元を通り、乳房を掠めて谷間を抜け、腹筋の筋が落ちるジェーンのへそ辺りを撫でる。白い肌を這う薄焦茶と黒爪に、赤い毛並みから降りてきた白い手がふわりと重ねられた。
いいよ。あたしは」
「何故だ?」
「あなただから」
真っすぐに向けられた声と共に、重ねた手指がしっかりと絡められる。つい先ほどまで同じ温度だったはずのジェーンの手の方が、随分と温かかった。アガレスがジェーンの手をやんわりとほどき、改めて手の平を合わせ、指を絡めるように握りしめる……片手を繋いだまま、ぎしりとベッドを軋ませて、アガレスが再びジェーンに覆い被さった。
本当に、いいんだな」
「うんきて、アガレス」
意を決したアガレスの熱が籠められたモノが、ジェーンの秘部に押し当てられじわじわと侵入する。すでに絶頂を経験し脱力していたからなのか、先ほどとは打って変わってすんなりと根元まで呑み込まれた熱と質量。圧迫感は変わらず、苦しげに呼吸を乱しかけるジェーンを落ち着かせようと、アガレスは食むような口づけと乳房への愛撫を贈りつづけた。
呼吸が落ち着いたタイミングを見計らい、緩慢な動きで腰を押し進める。性急な強引さをぶつけるのではなく、確実に感じるポイントを探り当てようとするゆるやかな動きと刺激に、ジェーンは先ほどよりも過敏な反応を示した。
「んっ、ァ、!、?ゃそこ、やだ、ッ!」
「くっここかっ?」
「ッ!アっ、ぁ!」
「ぅ゛!?ぐッ、ぅ!」
ぞり、と敏感な場所を擦られたジェーンの身体が丸まり、中が強く締めつけられる。繋いだままの片手が握りしめられ、ジェーンの伸ばされた手が胸板の赤い毛並みを、掴み、縋り、押し返し、彼女は与えられるままに押し寄せる快感に、必死に抗おうとしていた。
それはアガレスも同様で、不意をつくように与えられるジェーンからの刺激も、気を抜けば暴走しそうになる己の獣欲とのせめぎ合いも、彼は必死に堪え抜こうとしていた。

まだ果てられない。まだ高め合える。この昂ぶる感情を最後まで、互いにぶつけるまで終われない。 

「ハッ、ハァッ
「ァ、っレス、!も、っ!」
「っ!、あぁッ、ジェーン俺もだ!」
長い長い逢瀬の夢の終わり、二人は同時に達し果てた。
















どすん、バタンと大きな物音が家中に響く。ドアを開けて「何の音!?」と室内を覗き込んだハリエットの目に、ベッドから転げ落ちたジェーンの姿が飛び込んできた。
「いっったたごめんハリエット、何でもないから!」
「やだ、顔真っ赤じゃない!熱でもあるの?」
「や、違うんだって!」
心配そうな表情で額に手を当てるハリエットを他所に、ジェーンがわたわたと慌てふためく。
いくらハリエットが相手でも、まさかあんな夢を見ただなんて言えない。絶対に言う訳にはいかない。
「大丈夫ならいいけど無理はしないのよ」
そう言って出ていったハリエットの足音が遠ざかってから、ジェーンは大きな溜め息を吐いて自身の顔を覆う。顔から火が出るとはこの事だ。自分の鼓動と脈動がうるさい。じりじりと胸を焦がすような羞恥と、確かに感じてしまった歓喜で心のざわつきが収まらない。
どんな顔して、会えばいいのよ!」
滲んだ涙の意味と理由を、ジェーンだけが知っていた。



オールドシャーレアンの一角、ルヴェユール家が管理する離れの一室に、星の海を渡り、絶望に打ち克った件の英雄が療養しているという。
見舞いに訪れたサンクレッドとウリエンジェの目に飛び込んできたのは、ベッドの上で丸三日ほど昏睡していたはずの獣人が床に倒れている姿だった。
「アガレスさん!」
「どうした!」
慌てて駆け寄り、大柄な体躯を助け起こす。意識はあるがまだどこかボンヤリとした様子のアガレスが、鈍い声を返す。
すまん、手洗いに向かおうとしたんだが、上手く動けなかった」
来たのが双子でなくお前たちで良かった。と、情けなさそうに苦笑し顔を顰めるアガレスに、二人が顔を見合わせる。と、サンクレッドが異変に気付いた。
回復は順調みたいだな。本調子には程遠いようだが」
「あぁ全く、情けない話だ。すまないが、手を貸してくれ」
?アガレスさん、あなた!」
「おっと、皆まで言うなよ、ウリエンジェ。生理現象はいつでも誰にでも起こる。無論、こいつにだってな」
サンクレッドが肩を借し、アガレスがよろめきながら立ち上がる。目元を押さえて首を振る様子は、相当な疲労が溜まっているように見えた。
食事と着替えを用意しておきましょう。何しろ、三日も眠ったきりだったんですから」
「ああ、ついでに湯浴みもさせてくる。傷の具合も見なきゃならないからな」
背中を預け肩を並べた同僚に付き添われ、巻き貝の意匠が施されたタイルを一歩ずつ踏みしめ歩く。足取りは重いがその背にのしかかるような重圧はなく、つい先日まで感じていたはずの切迫感もない。肉体の疲労に反して、アガレスの心は今まで感じた事もないほど穏やかな充足に満たされていた。













〜あとがきと言う名の言い訳だよ〜
※二人とも「どうせ夢なら」という発言をしていますが、まさか本当に本人同士で意識があるだなんて露ほども思ってません。

公式キャラ崩壊か!?と思われそうなすけべ話ですが、ロスガルのアガレスというキャラの人物解釈的にはこうなんです……光の戦士や暁の血盟や一族の生き残りなんていう外聞も責務もなく、過去に起因する憎悪や憤怒や後悔も脱ぎ捨て、鋼の理性が溶かされてしまえば……ここまで素直に真っ当に情に絆されてしまえば、ただの強引で強欲で甘ったるいだけの男になるんですよ……
逆に言うと現実でここまで内面が露呈することはほぼありえません。伴侶どころか想い人を作ることすら忌避している彼にとって、ジェーンを抱くなどと行為は彼女の意志と尊厳を無視して支配しようとする獣欲の肯定そのものを意味する「悪夢」に他ならない。
でももしも、万が一、ジェーンに受け入れられたとしたら?アガレスにとっても、ただの「わるい夢」になったのだとしたら……
そんな産物。公式だけど二次創作みたいなもん。……現実じゃ隣を許して食事するのが精々、手を繋げるかどうかもわからないぐらいが精一杯の「一見距離が近くて健全に仲を深めてる二人に見えるけど、絶対に踏み込めない領域分の距離が開いてる二人」なんだよ……もっと自分のことも周りのことも見ろ……大事にしろ己を……


反対に、好意を自覚していて想いを伝えたい、思いきり愛してみたいという欲を抱えたまま「アガレスはそんな事を望まない、望んだらきっと離れてしまう」と思っているジェーンにとって、こんな風に思いきり愛して愛されて触れ合い、繋がりを求められる事は、どれほど喜ばしく変えがたいものであっても「わるい夢」に過ぎないのです。
覗いてはいけない、踏み込んではいけない側面。望んではいけない、本来ならありえないはずの出来事を「夢だから」と甘受するなんて……と思ってしまう。
夢の中という状況だったとはいえ、いや、そういう状況だったからこそ、彼女にとって「自分を心まで受け入れて、惜しみなく与えてくれるアガレス」は心も身体も許してしまえるぐらい理想の存在で、違和感なく優しい人物像のままで、どうしようもなく愛おしいヒトだった。
ジェーン本人は「年頃の乙女じゃあるまいし、我ながら夢見がちにも程がある」と当惑し赤面していましたが……夢オチだけど夢じゃなくて間違いなくアガレス本人だったんだよ……心底愛し合えてたんだよ……


内面には溢れんばかりの情がありながら、お互いを大切に思い大切にしたいからこそ、つかず離れずの関係のままでいたいし近付きたくても我慢してる。関係性が壊れてしまうのが怖いから。喪ってしまうのが怖くなるから。
そんな二人が何の憂いも何の臆面もなく、“ただのアガレスとジェーン”として向き合えるのはあくまでもこんな夢の中でしかない。
なんでこんな事になったんだ、たすけてくれ。