織音
2024-12-01 09:34:43
1607文字
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落日ワールドエンド

「また来世で。」
世界の終わりIFの里指。
弊社指揮官の容姿に関する記述があります。

「明日世界が終わるんだって」
 指揮官は紺色が溶け始めたマジックアワー、黄昏時の空を見上げながら言った。
 夜空の色をそのまま映したような髪に橙色の光が反射して綺麗だ。僕は眩しい光に目を細める。
……正確には20分後ですけどね」
「確かにそうだけど、1回で良いから言ってみたかったんだよ」
「それなら昨日言うべきでしたね。今それを言うならもうすぐ世界が終わる、になりますから」
「仕方ないだろ、まさか予定より早くなるなんて思ってなかったんだから」
 指揮官はどこか楽しげに言う。明日という未来のない世界最期の日、しかもあと20分も残っていないというのに楽しそうにしてるのはきっとこの人くらいだろう。
「でも、本当に良いの?僕が君を消して」
 指揮官は先ほどの楽しげな声から一転して静かな声でこちらに問う。
 数日前、世界が終わる前に機体の制御プログラム及び意識海と全データの削除。それら『僕』の全てを消去して欲しいと、指揮官に伝えたのだ。
 その時の指揮官の表情はよく覚えている。何処か悲しそうで寂しそうで。それでいて嬉しそうな複雑な表情。そして今も、その時と同じ表情をしている。
「君が良いなら良いんだけど、本当に僕の手で君を消して良いのか分からない。だからちゃんと聞いておこうと思って」
「終焉という結末が変わらないのなら、世界に終わりを告げられるよりも貴方の手で終わらせて欲しいと思っただけです。それが理由ではいけませんか?」
「随分熱烈なラブコールだな、嫌いじゃないけど僕と一緒に終わりを迎えてくれるっていう選択肢は?」
「ないわけではありませんが、僕の最期の我儘だと思って聞いてくれませんか?少し先にいくだけです。貴方のことを、待っていますから」
「ふふ、そう言われたら断れないな」
 指揮官のその声が消えてしまう刹那、音もなく罅割れ、空が崩れ落ち始めた。
もう始まったみたいだ」
 終わりというには綺麗すぎる景色。それを眺める灰色に色と光が反射し、宝石と見紛うほどの綺麗さに目を奪われる。
「世界の終わりって、こんなに綺麗なんだな」
そうですね」
「ねぇ、リー」
 眩しすぎる夕日が浮かぶ空が崩れ落ちた向こう、黒に塗りつぶされた空間を背景に指揮官は静かに笑んだ。
「来世は、幸せになろうね」
 指揮官の手が伸びてくる。顔の輪郭を指がなぞり、優しく引き寄せられるとほんの一呼吸の間だけ唇が触れ合った。重なった呼吸が焦げつくように、意識海に記録される。
「ありがとう、バイバイ」
 その囁きを最後に、目の前の景色全てが黒に掻き消えた。
 全てを包容する黒の中、電脳上に存在する自身が消えていくのを感じる。機体を制御するプログラムが消えていく。書き連ねられた文字もコードも意識海も、全てが崩壊する。
「終わり、ですか」
 『リー』を構成するデータが繊維のようにほどけ、自分に対しての認識さえ曖昧になる。ブロック状に欠けて抜け落ちていく全てを、静かに眺める。僕にできるのは、それだけだ。
 ああ、でも許されるなら。
「最後に1つだけ貴方に伝えたかったことが」
 もう届かないなんて分かっている。それでも。
 全てが崩れる直前、叶わなかった願いが掻き消える『リー』に残された。
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 -全プログラムの消去が完了しました。

 冷たくなり、美しいままのリーの機体を静かに抱きしめる。きっと『リー』を構築する全てが消去された頃だろう。もう、僕が愛したあのひとは二度と戻らない。
「愛してたよ、僕の僕だけの愛しいひと」
 本当に来世があるなら、そこで待っていて。必ず会いに行くから。僕は静かに目を閉じた。
 明けることのない夜が世界を包む。日が、落ちる。