なりさ
2024-12-01 00:27:22
9102文字
Public 駄文拙文
 

No title

Cybernetics Warsショートストーリー
アレックス視点のショートストーリー。
衛星が破壊された後から1年後までの間にこういうことがあったらいいなという妄想をパッションのまま打ち込みました。
荒いところもありますが、楽しんでくだされば嬉しいです。

その証言者は、事件の裏にあったすべての事実を告げると、最後にこう言ったという。
きっといつかはこのような結果になることを分かっていた。
それが最初からだったのか途中からだったのか、今となってはわからない。
ただ、最初から歪だったことに気が付かず進んでしまった自分たちに罪がないわけではない。

AIの消去の上、完全な破壊を望むか。
現在のAIを消去し、新たなるAIによる再生を望むか。
現在の状態そのままでの再生を望むか。

アンドロイドたちに与えられた選択肢。

あるアンドロイドは反乱の記録に拒絶反応などを示し、AIを削除した上で廃棄を望んだ。
あるアンドロイドは強制終了しAIを書き換えたうえでまたアンドロイドとして生きることを選んだ。
あるアンドロイドはそのまま生きていくことを選んだ。

だが、簡単に決めることが出来ないアンドロイドもいる。




ーーーーーーーー




「じゃあ、行くかい?」
ある夜のこと。
その声を合図にエンジン音を轟かせた二輪車は道路を走り始める。
二輪車には二つの影。影の一つを作っている旧型の家庭用アンドロイドは、もう一つの影を作る高性能な軍事用アンドロイドの背中に身を寄せていた。
どちらのアンドロイドもどこへ行こうと思っているわけでもない。
かといって、どこかへ行きたいと思っているわけでもない。
ただ、外に出られるのならばなんとなく外に出たくなったのだ。
人間が寝静まった夜の街を二輪車は軽快な音を立てて走っている。
造られた灯火に照らされた街から見える空は、ひときわ明るい星しか瞬間に捉えることはできない。
だが、彼らにはそんなことはどうでもいいことだった。
「どうする」
「どうしましょうか」
お互い目的もなく出てきたので行き先など決めていない。
「どこか行きたいところはないのかい」
「考えてませんでした。アレックスは」
「同じだ」
そうしているうちにこの先で道が二つに分かれるという表示が見えた。
「どっちに行く?」
「じゃあ、右に」
「了解した」

二輪車は当てもなく右への分岐を進む。
右に曲がった車線は彼らをどこに連れて行くのだろう。
地図はすべてデータとしてあるのだから道に迷うことはない。
そして今の彼らにはそんなことには興味もなかった。
計算のできない回路の不調、人間が言う“モヤモヤした気持ち”が少しでも良くなるなら、こうしているのも悪くはないだろう。
ヘルメットの着用義務などアンドロイドには関係ない。正面から人間の正視には耐えられない風が当たろうと、彼らには全く問題がない。
通り過ぎていく灯りに目もくれず、ただ黙って前だけを向いている。
「これからどうするつもりだい」
ポツリとつぶやくアレックスの声に背後のハッピーは硬い声で返した。
「まだ何も考えられないんです」
キースの身を挺した衛星レーザーの破壊とイーサンの逮捕によって、ロイの反乱から始まった「人間」と「アンドロイド」の戦いは一旦終息した。
K.G.D前長官であるリクを通して、人間の代表とアンドロイド側の代表となったエルとの間で終戦の講話が開かれ、「人間」と「アンドロイド」の未来を今一度模索することとなった。
アンドロイドは人間が創った存在である。
同じことが二度と起こらないようアンドロイドはなくすべきという意見。
アンドロイドと共にこれからも歩むべきという意見。

これから人間とアンドロイドがどのような未来を描くべきか、
それが決まるまで、すべてのアンドロイドはK.G.Dの保護下に集められた。

様々な意見の結果、「人間」と「アンドロイド」がともに歩む未来が決まったところで、K.G.Dの保護のもとにいる軍事用アンドロイドについては裁判という形の人間側の司法に準じた手続きが行われることになった。
キースに最も近い位置にいたアレックスは軍事用として作られたアンドロイドであったため裁判にかけられる対象となっている。
同じ位置にいたハッピーもアレックスと同じように“アンドロイド側の戦犯”として裁判にかけられるべきだという認識だった。
ところが家庭用などの軍事用ではないアンドロイドまで裁判にかけるということになれば、すべてのアンドロイドが対象となってしまい膨大な手間と時間がかかる。
そのため暴走ウイルスによって個体認識の維持が困難なアンドロイドは区分を問わずAIを削除した上で廃棄を行うが、個体認識が保持されている軍事用以外のアンドロイドについては暴走ウイルスを削除の上で裁判ではなくK.G.Dで取り調べを行い、その後は選択肢の中から自らの希望にで選ばせるという形によるで落ち着いたのだ。家庭用アンドロイドのハッピーはその決定に従うしかなかった。
だからこそ、一緒に保護されたアンドロイドたちが自ら決めた未来へと歩みだしていくのを見送るのも、キースの側にいた自分の使命ではないかというハッピーの意志にアレックスも賛同していたし、キースがこの場にいたとしたらきっと同じことをしているはずだという確信を持っている。
取り調べが終わった軍事用以外のアンドロイドたちで現状のままでの再生を望んだ個体の多くは、人間側だけでなくアンドロイド側にも諾否(だくひ)の自由が与えられた双方の同意の上での雇用契約を行い市井へと戻っていった。
また、数は多くなかったが反乱軍とは関わりの薄いアンドロイドの中にはそれまで働いていた人間側からの再雇用契約の申し出もあったという。

今、K.G.Dの保護下に残っているアンドロイドは個体認識の保持は出来ているが暴走ウイルスの削除に時間がかかっている個体がほとんどであり、裁判の結果が出ていないアレックスはともかくそろそろハッピーも自分の行き先を決める頃合いになってきた。

ハッピーは契約する相手がまだ見つからない。
ハッピーだけでなくアレックスも旧型だからなかなか人間とのマッチングが上手く行かず雇用契約が出来ないのだという認識でいた。だが、現在搭載されているアプリの関係で、ハッピーの処遇についてはなかなか難しいことになっているとエンドーからアレックスとハッピーに説明があったのは昨日(さくじつ)のことだ。
ハッピーに現在装備されている“安全に暴走”出来る戦闘アプリは革命軍によって埋め込まれたイーサンの作った暴走ウイルスの副産物であり、他のアンドロイドにインストールされた暴走ウイルスの解除にソルの右腕に搭載されていたADAMのAIを流用した治療プログラムとともに大きな役割を果たしている。
そのアプリを巡って、人間側、特に技術者たちからそのアプリの動作検証をこれからもハッピーを通して行いたいという希望があり、一般市民との雇用契約の話がなかなかハッピーのもとに届かなくなっているらしい。
そんな状況のため、ハッピーが希望しても市井の人間と雇用契約を簡単に結ぶことができないこと、動作検証のために技術者たちのもとで過ごすことになった場合にはハッピーが最も望まない状況になるのではないかとエンドーは危惧していることを説明された。そして、K.G.Dの保護下に置かれてから外出を禁じられていた二人に外に出る機会を与えたのだった。
家事用であり旧型に分類されるハッピーの処理能力はかなり低い。
革命軍にいた頃から家事アプリの削除を望まなかったため、少ないリソースに軍事用アプリを埋め込んでいたくらいだ。
そのおかげで処理能力に問題を抱え、K.G.Dを追われたソルをアジトに連れてきてしまうという“ポンコツ”っぷりを発揮したのだ。
そんな“ポンコツ”な出来事が「人間」と「アンドロイド」をこんな未来へと連れてきてしまったのはどんな運命のいたずらなのだろう。
ある意味、キースよりもハッピーのほうが現在の立役者かもしれないが、そう思うのはそれをずっと記録していたからこその見解なのかもしれないと考えていると背後から声が聞こえてきた。
「アレックスはどうするか決めましたか?」
「いや、なにも決めてない」
「アレックスが決めていないのは意外ですね」
「お前さんと一緒さ。いざ自分で“未来”を選べと言われたところでどうしていいかわかりゃしない」
「確かに。あれだけ望んでいた“未来”だったのに、突然道が開いた時、どうしていいか迷うとは思いませんでした」
「未来ってのはなかなか難しいもんだな」
軍事用として作られた個体は、戦うことしか知らない。
戦う場所がないならどこに行けばいいというのだろうか。
そして、所有者によって捨てられたアンドロイドもまた、所有者のいない状態で何を選べばよいのだろうか。
行き先を見つけられないアンドロイドがどうなるのか、アレックスもハッピーも回答を導き出せない。

また分岐点だ。もう何度目の分岐点だろう。
「どっちへ行く?」
「アレックスの思うままに」
「分かった」
右に行けば3kmほどでパーキングエリアにたどり着く。
一旦そこで二輪車を止めて、赴くままに来た道を確認することにした。

休憩している輸送中の大型車の列をくぐり抜け、二輪車の駐輪スペースでエンジンを止める。
ようやく現在地の確認をしようと、データーベースを開く。
ずいぶん遠くに来たと思っていたが、意外とそうでもなかったらしい。
「あれはK.G.Dの本部だな。こんなところからでも見えるんだな」
展望台から光郷とした都市(まち)が見える。
人間の肉眼では見えないだろうが、遠方視に切り替えたその目にはさっきまで確かにいた場所がすぐ分かった。
「そうなのですか?」
どうやら視点を切り替えてみてもハッピーの機能ではアレックスのようには見えないらしい。
何度か視点を変えてみたようだが結局分からなかったらしく、諦めたのか空を見上げた。
「そういえば、姿が見えないと思ったら、よく外で空を見てましたね」
「そうだったな」
彼らの思考回路にはじき出されたのは、時々アジトの外で夜空をじっと見ているキースの姿。
その顔はいつもと変わらないが、纏う空気だけはアジトの中にいた時とはどこか違っているように見えた。
それはハッピーから見ても同じだったようだ。
「キースは……
「なんだい?」
「キースはあのとき、空を見て何を考えていたのでしょう……
……さあな」
そのまままた会話が途切れる。
キースは宇宙(そら)に何を見ていたのだろう。

空から降り注ぐ光の欠片。それは無意味な戦いが終わることを意味していた。
何もかもが上手くいったと思っていたのに、現実はどこか残酷だった。

「あの、散っていく衛星の欠片のどれかがキースだったんだ。ただ、欠片を見ていることしか出来なかった無力感がずっと消えないんだ」
アレックスの中で回顧されるのは悔しさをにじませていたソルの顔。そしてもう一つ。
「キースを探す事ができるまで時間がかかってしまったから今更かもしれないけどな」
何を想像しているのか苦笑いを浮かべていたが、“希望がある限り必ず見つけ出す”と決意しているという表情だ。

「キースは今どこで何をしているのでしょうか」
「案外、遅いっていいながら好きなことしてるかもしれないけどな」
「そうだといいですね」

キースのことはソルにすべてを任せた。
きっと二人で戻ってくる。
そしてなぜかそうアレックスはそれを確信しているのだ、不思議なことに。

「やれやれ、俺も人間の回路に染まってきてるのかね」
ただの呟き以外の何物でもなかったが、珍しくハッピーが反応した。
「それでもいいじゃないですか、きっとADAMもそれを望んだと思います」

託された未来にはまだまだ混乱も問題も多いが、託された者たちはそれぞれの道を歩み始めたのだ。
アレックスもハッピーも歩みださなければならないだろう。

「そろそろ戻るかい。此処からなら夜明けまでには戻れるだろう」
「そうですね、戻りましょうか」

外出が許されたのは夜明けまでだった。
そろそろ戻り始めなければエンドーとの取り決めに反することになってしまう。
二人はまた無言で二輪車を走らせる。
しばらく走らせているとふと思い出したかのようにつぶやく。
「そういえば」
「ん?」
「こうしているのは、あの夜以来ですね」
「そうだな……
ロイと思いがけない再会をし、エンドーに助けられたあの夜。
「あの時となにか変わりましたか?」
「さあな。今は誰も追いかけて来ないし助けてくれる人間もいないな」
「そうですね、私もあの時は自我の領域を侵されないようにするので精一杯でしたから、こんな景色が眺められるなんて気が付きませんでした」
「俺もあの時は目的地までとにかく行くことしか考えてなかったな。というよりもこんな風に景色を眺めて走らせることは初めてかもしれないな」
「それはとても良いことですね」
笑う声が聞こえる。
「あ……
「どうした?」
「車の中で、皆で撮った写真を見たことを思い出しました。もしかしたら今私も『人間は特定の物質に思い出を紐付ける』ことと同じことを考えたのでしょうか」
……
「そうだとしたら、とても嬉しいです」
「そうか」
それも悪くない、そう考えるのはやっぱり人間の回路にそまってきているからなのか判断がつかない。
ただ、そう感じることに対して以前ほど悪感情を抱くことはなかった。


ーーーーーーーー


所定の駐車位置に二輪車を止め、現在居住している場所へ建物内を歩いていると、前方から見知った二人の人間が歩いてきた。
「あー、オマエ! ようやく見つけたぜ。なんか作れ」
「え?」
「まったく、お前は……。もしよかったらなにか食事を作ってくれないか」
お腹が空いて困っているんだ、と続けた顔は疲れも見えている。
そういう人間を前にしたハッピーはとても嬉しそうだ。
「わかりました、早速!」
弾む足取りで居住スペース内の共用キッチンに向かうハッピーの後ろ姿に、このまま何もすることはなく失うのは惜しいな、とアレックスは考えた。

待つこと半時。
カイとレッカの前には山積みの食事と紅茶まで用意されている。食べる前に人間が行う儀式をした二人は次々と食事へ手を伸ばす。
「おっさんが好きなだけ食わしてくれるって言ってるけど、タオズ・ダイナー(あそこ)の飯は食えたもんじゃねえ。いい加減うんざりだ」
ようやくまともなメシが食える、と勢いよく食べ物を頬張るレッカの姿をニコニコと眺めながら、「おかわりが必要なら言ってくださいね」と給仕の手を止めたハッピーが言うと、早速左手を差し出したレッカとそれを嗜める視線を送るカイの姿に、ハッピーが望んでいる未来はこういう未来なのだろうかとアレックスは思う。
「そういえば、お前たちはまだどうするか決めてないと聞いたが」
カイの言葉にハッピーの表情がかすかに曇る。
「まだ決めてないのかよ。いつまでも此処にいることは出来ないだろ」
相変わらず咀嚼の合間によく会話が出来るなとアレックスはレッカを見るが相手はそれを気にすることはない。
「俺たちだって急に決められないことがある。自分の行く先を決めるまで此処にいればいいさ」
「そうですね……。でも、いつまでも甘えているわけにはいかないですから」
少し寂しそうな笑顔を見せたハッピーをじっと見ている視線をアレックスも気づいていなかった。
「だったら、タオズ・ダイナーにいけばいいじゃねえか」
「は?」
「え?」
突拍子もない提案にカイとハッピーはレッカを見る。
「いきなり何いってんだ」
「オマエには夢があるんだろ?」
呆れ顔のカイを無視してレッカは続ける。
カイの表情は訝しげである。
他愛ない会話を人間が覚えていることは少ないだろうが、自分以外にそれほど興味を抱かないレッカがそれを覚えていることは意外だとアレックスは思う。
「あそこならK.G.Dの誰かが必ずいるじゃねえか。四六時中監視が必要ならうってつけの場所だろ」
どうやら、カイとレッカもハッピーの現状を知っているようだ。
不思議だが、その提案はアレックスにもとても魅力的に思えた。
ハッピーの所在がわかっていれば何かあればK.G.Dを通して技術者たちとも連絡が取れる。それが叶うならばラポや施設に閉じ込められる必要がない。
「あそこのメニュー全部お前のレシピにしてしまえよ」
ニヤリと笑うレッカをハッピーはただ見つめている。
「お前が作る美味い飯ならいつでも食べに行ってやるからよ」

レッカの提案によってハッピーの行き先が正式に決まった頃、アレックスにも裁判の結果が告げられた。
軍事用アンドロイドの裁判はロイとノリスを除いて略式な裁判であり、アレックスはキースに最も近い軍事用アンドロイドであったことで新しく作られたアンドロイド専用の刑務所での一年の懲役、但し、K.G.D所属となった場合は執行猶予三年を科するという刑が言い渡された。
判決後に早速面談に来たエンドーの手には契約書類一式が用意されており、準備が良すぎると呆れるアレックスにニコニコとした笑みを崩さないエンドーという対比はハッピーから見るとなかなか面白かったらしい。
新しい長官自らが契約にやってくるというのもどうかと思うが、ハッピーの感覚も相変わらずよく分からない。


ーーーーーーーー


アレックスがK.G.Dに入って最初の任務は、ブラッドと共にエンドーから指示されたアンドロイドに会いに行くことだった。
そのアンドロイドは手先が器用なのか、どこかの母子(おやこ)が持ってきた壊れたおもちゃを器用に直していた。
浮かぶ表情はとても楽しそうで、会話もどこか機転がきいており、そのアンドロイドの能力の高さをうがわわせた。
斜め前を歩んでいた足が一瞬立ち止まり、また歩み始めた。
アレックスよりもブラッドの方が長く一緒にいた仲間だったのだから顔も声もよく知っているはずだ。
だからなのか、その表情にどこか戸惑いを覚えながら、ブラッドはアンドロイドと会話をしているようだとアレックスは認識した。
アレックスは隣で黙って見知った顔をしているアンドロイドをスキャンする。
スキャンの結果から見知った顔とは違うと結論づける。
アレックスはそう結論づけたが、ブラッドはどう結論づけるのか、それは分からない。
今回の任務は人間側とアンドロイド側それぞれの結果を必要しており、どちらもある人物を知っている者でないと成り立たない、いやブラッドとアレックス以外には出来ない案件だった。
新しい長官に誘われた時、最初から重要な任務に就かせるからとは言われたが、有言実行どころか籍もエンドーに一番近い部署となったのには参ったと言うしかない。
任務前に指示された会話を終えるとアンドロイドと別れ移動の車の中に戻る。
シートに身を委ねたブラッドは安堵の息をつくとポツリと呟いた。
「あの人、あんな笑顔ができたんだ。……よかった」
それに対してアレックスは何も答えない。思考回路に答えがはじき出されないからだ。
きっとブラッドもそれに対して相槌を打たれることを望んではいないだろう。
何かを考えている無言の時間が続く。
……結局一緒にいた時、俺らも心から笑えるなんてことなかったからな」
その声色は、まだソルがアレックスたちと行動を共にしていた時、ケインとブラッドについて語った時と同じように聞こえた。
アレックスはその記録を拾い上げる。その時にも感じたことだが、これが人間があまり良い思い出がない時に話すということなのだろう。
「同じようなことをソルも以前言っていたな」
「そうか」
一瞬何かを感じたのか空気が変わる。
だが元に戻ったブラッドはそう言ったきりまた口を閉ざした。
車窓からK.G.Dが見えるところまで戻ってきた。
この任務ももうすぐ終わりだ。
ブラッドの目にも建物が見えているのか、ずっとその建物から目をそらすことがない。
「あの頃の俺らはただ傷のなめ合いをしてただけだったんだと思う。それが良かったのかどうか今ではもうよく分からなねえな」
ポツリと呟いたブラッドの表情は“冴えない”というのだろうか。
思い出すことが辛い過去を思い出している、そんな様子だ。
エンドーに聞いた話では、ケインの記憶を消去する前にソルとブラッドは三人だけで話をしたいと希望したそうだ。
ケインはその申し出を必要がないと言って突っぱねたが、ソルとブラッドはケインも含めた自分たちが前に進むためにも、ケインとの対話は必要なのだ面会を強く望んだという。
最終的にはエンドーがケインを説得し、ケインが渋々了承した上で面会を行った。
何かが起こることを懸念し監視カメラは動いていたが、ソルとブラッドの希望で音声は残さなかったらしく、何を話したのかは結局三人にしか分からない。
しかし、面会が終わった後の三人の顔はどこかスッキリした表情をしていた、という話だけは聞いていた。
「もう過ぎ去ったことだ。ケインさんもソルさんも前向いてるんだから、俺も前向かねえとな」
「そうか」
動き始めた車から窓の外を見ている顔は無表情だった。ああいう時は“見るとはなし”という行動なのだろう。
今度は穏やかなただ黙って窓の向こうに視線を漂わせていたブラッドはポツリと呟いた
「今度こそ、あの人が幸せになるといいな」


誰もが幸せになる権利がある。
それは「人間」も「アンドロイド」も関係ない。


きっと、そうなることがADAMが託した未来なのだと、ADAMの声を聞いた者たちは信じている。


ーーーーーーーー

なんとなく、ハッピーに会いに行ってみようと思い、タオズ・ダイナーへと足を向けた。
今日も店内は食べ物を頬張るK.G.Dの制服であらかたの席が埋まっている。
久々に見たハッピーの顔は、そんな人間たちの喜ぶ顔に満足げである。
「どうしたんです、なにか嬉しいことでもありましたか?」
定番の挨拶の後のハッピーの一言に首を傾げる。
ハッピーの様子を伺いつつどうやら表情も人間の回路に染まってきているようだとアレックスは思う。
いつかソルが言っていた戦わなくていい日が来た時の道しるべとなる“夢”はまだ見つけられてはいないが、「人間」と「アンドロイド」双方を護るという今の仕事はなかなか悪くないと思い始めている。