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2024-11-30 23:06:23
5172文字
Public くさひぐss
 

それから二度と彼と会うことはなかった

くさひぐ 日車が記憶喪失になる話です。
暗いです!


回游終了時に覚醒型の術式と記憶が全て失われていたら?というパラレル設定です。それ以外もふんわり差異があるはずですが細かく詰めてないのでだいぶてきとうです

★★★明らかに変すぎるとこあったら直したいので、ツッコミいただけると助かります。遠慮なく、人助けと思って!!!できればやさしくおしえてください。リプライやDMでお気軽によろしくです!!!


※※※

記憶を失った人間へのインタビュー

10代男性
何も覚えてないです。何やらオレが呪術師?高専?の人たちを助けたらしいんですが、本当さっぱり記憶になくて。覚えてないとはいえ、お前のおかげだーって褒められるのは、どうにも悪い気分しないっていうか、ちょっといいもんですね。

30代男性
2ヶ月くらい?記憶がない。弁護士先生もそう?いやほんと、びっくりするよね。結構人数いるらしいもんね〜知らない間に大ケガした人もいるらしいし。え?先生がそう?こわい!でも治ったんだ、よかったね!オレ?オレはね、なぜか死装束着てた。目が覚めたとき。身体は全然ぴんぴんしてたんだけどね。ふしぎなことに、すごく楽しくて最高に笑える夢を見ていた気がするんだよな。詳しいことは全然思い出せないんだけど。しかしあれから運が向いてきたっていうか、今絶好調なんです。サイコーに面白い相方もできたし、ええ。ピンチャンってコンビ組んでて。次のC-1絶対優勝するんで!チェックと応援、よろしくお願いします!

年齢不詳 カッパ
相撲サイコー!取ろうぜ相撲(以下、同内容の繰り返しのため省略)

20代男性
描いた覚えのないネームが手元に残っています。おそらく消えた記憶のうちでわたしがかきのこしたものです。まるで夢で出会ったみたいな突飛なキャラクターがたくさんでてきます。ほら、このキャラなんかは、あなたによく似ている気がしますね。彼は木槌を自在に操り戦います。え?全然わからないって?ネームはマンガの設計図、想像力をふくらませて読んでみなさい。ていねいな図解が欲しい?わたしは商業作家ですよ。謝礼もなく絵を描かせようとしないでください。専門スキルを無償で求めるのは無礼ですよ!先生だって法律相談料を取るでしょう。まあいいでしょう。わかればいいのです。彼のイメェジは、ちょうどこのような感じです。
(大きさ可変の木槌を持つ、地味なキャラクターの絵。背広を着て地味で暗い感じの男。30代らしい。)
※「ネーム」のコピーは別紙に添付


※※※

[日車]
数カ月分の記憶がない。そういう人間が自分を含め何人もいる。
東京をはじめとした各都市を破壊した未曾有の災害は、呪いという未知のエネルギーが関与したテロリズムである、と発表された。
本邦には呪いを祓うため呪術師が存在する。これまでその実態は隠されていたが、国家を揺るがす危機に際して事実が明かされた。まるで漫画みたいな話だが、そういうことだった。かく言う俺は気がつくと病院のベッドの上で、左腕が引き攣る感覚で目が覚めた。知らない間に大怪我をしていたらしく、意識を取り戻したのは他の記憶喪失者たちよりもだいぶ遅い、冬の最も冷える時期だった。長らく入院していてさぞかし金がかかっただろうと聞いてみれば、罹災者の入院料は国が持ってくれるらしい。寝たきりで落ちた筋力を戻すのにもう一ヶ月、退院したのはもうすぐ桜も咲くかという春の日だった。
事務所のことは清水がなにかと動いてくれていたようで、俺さえ戻れば再開できるということだった。やりかけの裁判は他の弁護士に引き継がれて継続しているらしい。もっとも法廷のスケジュールもめちゃくちゃで、進行は遅れに遅れているという話だった。
俺はあの裁判の判決が出るか出ないかというところから、記憶が抜け落ちている。

※※※
[清水の証言]
あの法廷で何があったか、ですか。私もはっきりとは覚えていないんですが。変なこと言うようですけど、私の位置からは日車さんが2人を"何か"で鏖殺したように見えたんです。
けどそんなこと絶対ありえないに決まってるじゃないですか。人間には不可能な殺され方をしていたんですよ。きっと呪術テロリスト?ってやつのせいです。間違いありません。
※※※

[日下部]
どうやら高専を嗅ぎ回ってるやつがいるらしいと聞いてみれば、日車だった。
決戦後、覚醒型の術師達の記憶と術式はすっかり失われた。回復が早いやつらは少し対応が雑になって高専のやつらと接触させてしまったが、基本的には呪術師界隈と関わり合いを持たせないことにした。
思い出せないことをつつかれても混乱を招くだけだし、彼らはそもそも一般人で被害者だったのだ。
というのを強く主張したのはおれだ。いらぬ疑いを持たれぬよう元・覚醒型に対しては原則呪術師は接近禁止として、情報を辿られることのないようネット上から戦闘配信データを物理的呪術的両面から削除させた。目玉が飛び出るだけじゃおさまらないほど金がかかったが背に腹は代えられない。
そこまでしてきれいに忘れてもらったのに、日車は自らの記憶の空白を追求せずにはいられないようだった。
裁判中に呪力に覚醒した日車は相手方の検事と裁判官を殴殺しており、本人は罪の意識に苛まれていた。訓練中の日車は死に向かい研ぎ澄まされる刃そのもので、日に日に壮絶に強くなった。あの時は世界存亡の危機だったし、その強さが確かに必要だった。回游終了の功労者であることは間違いない。それが、罪も力も綺麗に忘れたという。神など信じちゃいないが、日車はきっと許されたのだとおれは思った。異能の力もそれでもって犯した過ちも何も知らずにもとの自分に戻る、そういう奇跡に恵まれたのだ。なのに自ら奇跡をかなぐり捨てようとしている。余計なことしてんじゃないよ半分、まあお前ならそうするよねって気持ちが半分。近頃は他の覚醒型のやつらにも話を聞いて回ってるらしいと聞いて、いよいよ放っておけなくなりアポイントを受ける。こうしておれは日車法律相談所の扉を叩いた。

※※※
[日車]
5月の中旬あたり、盛岡では葉桜の頃だった。
事務所を訪ねてきた男は日下部と名乗った。「高専」の教師で、呪術師らしい。
ペットボトルの茶を出すが、手を付けずに話し出す。
「弁護士先生がうちの学校にご興味があるとは、意外でした。ただの宗教系の学校なんですが。何か心をくすぐる要素でもありましたか」
「あなたがたの学校は呪術師を多数擁していると専らの噂だ。先の呪術テロに伴う集団記憶喪失について、ご見識をうかがいたい。」
なにしろ私もその一人なもので。じっと見つめてみるがどうにも表情が読めない。
「はあ。呪術に関してはまだお話できないことも多く、どう説明したらよいやら」
のらりくらりとかわされてどうにも埒が明かない。
「私には、空白の期間に取り返しのつかない罪を犯した疑いがある」
すると日下部は目を大きく見開いて、自分の向こうに他の誰かを見るような素振りをした。そうして大きなため息をもらす。
「覚えてもない自分の罪を知りたいって?あんた弁護士なんだから、依頼人ばかりじゃなく自分のこともかばってやりなよ」
敬語が面倒くさくなったのだろう。とたんに馴れ馴れしい口調になった。
「擁護するとしても事実確認は不可欠だ」
「そうなのか?あんたの取引先は犯罪嫌疑がかかったやつらで、そいつらの罪を軽くしてやんのが仕事だろ」
「前半は正しいが後半は説明が不十分だ。私の仕事は被告人の権利を守り適切な裁きを受けられるように弁護することだ。弁護は事実に基づき行う、その結果求刑よりも量刑が軽くなる場合は当然ある。」
「おっと。不勉強ですまんな。俺が言いたいのはそこじゃなくて。被告人とさ、やりとりしてて思うことはないかい?そもそも全部が勘違いの間違いで、嫌疑自体なしで何にも起こってなければよかったのに、ってさ」
「起こり得ない仮定は無意味だ。しかし被告人自身がそう感じることはあるだろう」
「そうさ。何もしてない時と、やっちまった後では、人間はすっかり変わっちまって絶対もとには戻らないもんだ。でもあんたは変わってないだろ?ほらやっぱり何もなかったのさ」
「詭弁だな。人が変わるような"何か"に目を瞑って、のうのう生きてるだけかもしれない」
「知らない見えないものはないと同じだろ」
「それは違う。確かな事実はこの世にひとつしかない。真実から目をそらすことはできない、したくない」
思わず熱くなって声が大きくなった。

彼はふう、と息を吐いて、くしゃりと笑う。場にそぐわぬてらいのなさに少し面食らっていると、やっぱりあんたはあんただ、と呟いた。泣きそうな声だった。きみは私を知ってるのか?問いかけを待たず彼は語り始める。
「じゃああんたに起こったことについて、真実を話そう。空白の期間、あんたの脳は呪術テロリストに改竄された、がことの終わりでなんやかんやあり元にもどった。考えてみてくれよ、脳がいじられてんだぜ?何やらかしてたにせよ記憶はどこにもない。ないものを思い出すことは絶対にできない、そして何が起こったかは誰一人証明できない。疑わしきは罰せず、素人でも知ってる大原則だろ。よってあんたはに罪はない。何も気にすることはないんだ、このまま弁護士を続けなよ。」
にわかには信じづらいが、彼の語る話の筋は通っていた。記憶喪失者へのインタビューとも矛盾しない。しかし核心はぼかされたままだ。
「空白の期間、私はいったい何をした」
「さあ?呪術師の俺が知ってるのは呪力による脳改造テロのことだけだ。それ以外は何も知らん。」
本当にそうだろうか。不覚にも疑念が顔に出ていたようで日下部が再び大きなため息をつく。
「あんたさあ弁護士より刑事のが向いてるんじゃない。ひとのこと疑いすぎだよ」
「君の方こそ、佇まいや口ぶりが刑事か何かみたいだ。呪術師というのはみんなそうなのか?」
さて、どうだろうね。刑事と間違えられることもたまにあるけれど。でもおれはあんたを逮捕しにきたわけでも、調べに来たわけでもない。ただ呼ばれたから来ただけ、せっかく会えたんだから言っておくけど。
「あんたの目は弱い立場の人を見逃さないし、そのアタマで人を助ける。これからずっとそうやって生きていくんだ」

とつぜんかけられた言葉はまるで祈りのようだった。切実な声が全然知らない相手に対するものとは思えない。やはり彼は何かを知っている。
「それは全てが明らかになったときに私自身が決めることだ。また話を聞かせてもらう」
「そうかいまあ、それもそうだな。何か分かったら連絡するよ」
ドアが閉まって、事務所には日車一人きりになった。


※※※
「精神操作ができる術師の紹介を頼みたい。高専つながりで手ごろなやつがいない」
「日車寛見か。どうせこうなるとわかってたなら最初から人に任せればよかったのに」
「あいつはあの戦いに深く関わった。すっかり何も覚えてないことを確認しときたかったんだよその点では問題なしだった。しかし真っ白に抜けたままでは本来の性分で真相を探ろうとする、歯抜け部分を埋める必要がある。裁判の最中、呪詛師があらわれて裁判官と検事を鏖殺した、あたりでどうだ。やつと周辺の人間に同じ筋書きの夢を見せる」
「たとえ嘘でも皆同じ夢の中にいれば、それは現実と変わりがないものね」
「嘘じゃない、本当のことにする。真実をつかむまであいつは絶対に諦めない」
はぁ~面倒なやつだよまったく、とぼやく日下部の声色に少しの喜色が混ざるので、冥冥は吹き出しそうになった。失恋したってのに、相手の本性が変わらないことに安心しているのかな?きみって本当に優しい男だよね。指摘したら泣いてしまいそうだから、今は言わずにおくけれど。心当たりを数名ピックアップしてリストを転送すると、礼金は即座に振り込まれた。
※※※

[日車]
あれから夢を見た。
あの裁判の日のことだ。
突然現れた謎の男が恐ろしい術で検事と裁判官を屠った。
不思議なことに自分だけでなく、清水もその場にいた他の人間も同じ夢を見た。中には男の顔をはっきり覚えている者すらいて、証言を突き合わせた結果空白の期間に死亡した人間のようであった。
タイミングよく日下部から連絡があり、事の顛末を聞く。あんたの件をよくよく調べてみたら呪詛師の仕業とわかった、災難だったな。あの時は詳しいことがわからず焦らすようなことを言って悪かった、それじゃあ元気でな。
それを聞いたきり番号はつながらなくなって、彼と二度と会うことはなかった。

今でも葉桜の頃になると、あの祈りのようなつぶやきを思い出す。全て忘れたままでいいと言いながら、何故きみは「空白の時間」を懐かしむように笑ったのか。疑問をそのまま残しておくのは嫌な性分だった。だがしかし、この蟠りだけが忘れ去った時間とのよすがであるとも感じられて、たまに取り出してはもてあそんでみて、結局解けないまま同じ場所にしまってある。