きなこ
2021-12-31 10:39:05
3343文字
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クロロレワンドロワンライ『舞踏会』

注意:ローレンツが女体化。原作軸の学生時代のモダモダやってる系のクロロレ(♀)先生とシルヴァンがやや絡んでいます。舞踏会のシーンで1.5時間、その後大聖堂で0.5時間、終わらないから途中だけど投下してます

 悪戯っぽい笑みを浮かべてぱちんと片目をつぶってみせた男が、壁際に立つ女の手を引いて大広間の中央へと躍り出た。
 その男、クロードは楽しそうに笑いながら、軽快な足取りでくるくると回る。正式な作法や動きを無視した身勝手な動きだ。最初は戸惑いを見せていたべレスもそれが堅苦しいものでない事に気付いて安堵をしたのか、クロードの肩に手を添えて、互いに視線を交わすと微笑み合う。
 音楽に合わせて楽しそうに舞う二人の様子に、わぁと生徒たちの間から歓声が上がった。
 そんな様子を、ローレンツは壁の前から眺めていた。
 心を占めているのは怒りの感情だ。
 次期盟主候補であり級長であるクロードは貴族でありながら正式に踊りを学んだことがないと言う。だからこの数週間、ローレンツは彼に舞踏を教えていたのだ。それだと言うのにクロードはローレンツの教えなど完全に無視をして好き勝手に踊っていた。
 それに、それにだ。
 そういった経緯があったから、ローレンツは勝手に思っていたのだ。クロードが練習の成果を見せるために、最初に自分を選ぶだろうと。それなのにあの男はローレンツになど脇目も振らず、べレスの元へ一直線に向かっていった。
 普段は表情に乏しいベレスだが、今はとても楽しそうに見える。学級の担任と級長という立場もあって二人は一緒にいることが多い。それに彼女は学級の担任という立場以上にクロードのことを気にかけているようにも思えるし、クロードも彼女に興味があるように思えるし。ああしていると、年の差はあるものの二人はとてもお似合いだ。
 どす黒い感情が胸の中に渦巻いて、重く重くなっていく。
「ローレンツさんっ」
 間近で呼ばれて我に返った。
 焦点を目の前に合わせると、そこには黒髪の男が立っていた。彼は以前に何度かお茶会の相手をしたとこがある黒鷲学級の貴族の男だ。趣味も合わないし、彼の考えには共感ができなかったので、交際を申し込まれた際に断ったのだが、どの面を下げてきたのか女神の塔に一緒に行こうと誘いにきたのだった。当然断ったが、それでもしつこく付き纏われて迷惑をしていた。
 強く拒絶をしてもいいが、こんな男でも一応帝国のそこそこの名門貴族だ。できれば穏便に事をおさめたい所だ。
 無意識のうちに握りしめていた手を横から強く引かれ、ローレンツはバランスを崩して倒れそうになった。その腰に手が添えられ、咄嗟に踏ん張った足を軸にしてくるりと体の向きを変えられる。視界に入ってきたのは赤い髪と、軽薄に笑う端正な顔だ。
「悪い、ローレンツ、助けてくれ」
「シルヴァン?」
 目を瞬かせて、背の高い男を見つめる。彼はローレンツが相手をしていた男に片手を上げて「悪いな」と軽く謝罪を述べると、やや強引にローレンツを引っ張って踊りの輪の中へ入る。
 悪目立ちをしたくないので仕方無しにシルヴァンの肩に手を置いて彼の瞳を見つめる。向こうからも真っ直ぐに視線を返され目を合わせると、それを合図にステップを踏み出した。
 視線を感じる。妬みや恨みを含んだ酷く不快な物だ。シルヴァンに惚れている女生徒達からの物だろうか。貴族の子女たるもの、心の内を隠せぬようではでは社交の場になど出られぬぞ、今まで何を学んできたのだ嘆かわしい、と視線の出処へ冷たい眼差しを送る。そこにいた青獅子のみならず他の学級の女性と数人が一瞬で青ざめ息を飲む。ローレンツが目を細めると、彼女たちは一様に顔面を蒼白にさせて蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げていった。
「さっすがローレンツ、お見事。いやぁー、誰と女神の塔に行くのか選択を迫られて困っていたんだ。彼女たちを散らすことができるのはローレンツかイングリットくらいだと思っていたよ」
「では、この一部始終をイングリットさんにも報告させてもらうからな」
「げっ! それは勘弁。そっちだって困っている風だったからちょうど良かっただろ?」
 女生徒達に言い寄られて困っていた割には周りをよく見ているものだ。
 シルヴァンはローレンツの耳元にそっと顔を近付けて問うてくる。
「俺はこのまま抜け出そうと思ってるけど、そっちはどうする?」
 確かにこのあと一人になればまたあの男に捕まるかもしれない。それに、仲睦まじく踊るクロードとベレスの姿を見ているのも気分が悪くになりそうだ。
 シルヴァンの申し出を受ける事を示すように頷くと、二人はさりげない風を装いながらゆっくりと出入り口への距離を詰めていく。そのさなか、何者かからの強い視線を感じた。それは先程の女生徒達から向けられていたようなものとは異なり、もっと重く、黒く、明らかに殺意が含まれている。
「君、声をかける相手をもう少し選んだほうが良いのではないかね?」
「命が危険に晒されているのは俺の方なんだけど」
 口先ばかりのお坊っちゃんと思っていた先程の彼からこれほどの殺気が放たれているのかと驚愕をしていると、シルヴァンは口元を歪ませてため息をつくが何も言葉を発することはなかった。
 気配を消しつつ踊りながら出入り口に近付いた二人は、人目を憚るようにしてこっそりと外へと逃げ出した。

◆   ◇   ◆

 大広間を出て、自室に戻るというシルヴァンと別れたローレンツは大聖堂を訪れていた。部屋に帰る気分ではなかったので、精神統一のために祈りを捧げていた。
 しかし、伏せた瞼の裏側に描かれるのは仲睦まじく踊るクロードとベレスの姿で、それを思い出すたびに心がかき乱される。
 踊りの相手に選ばれなかったことがそんなにも悔しかったのだろうか。
 あの二人が親密になることで何故こんなにも悲しい気持ちになるのだろうか。
 女神像の前に膝をついて、一心不乱に祈る。
「僕は、グロスタールにとって価値のある伴侶を選ばねばならない。当家の発展こそが領民の安寧と同盟の反映にも繋がり――
 だから、リーガン領を継ぐクロードは相手として相応しくない。だから――
 冷えた床の冷気が接している膝を伝って体の芯をも凍えさせる。自分自身を掻き抱いて、否定をするように首を振る。入学した当初からずっと監視をしてきた。次期盟主に相応しいのかを見極めるために彼の行動をつぶさにみてきた。だから、彼の駄目なところも良いところもたくさん知っている。
「僕は……
 遠くから足音が聞こえてくる。急いでいるのか駆け足の音で、それは建物の外から響いてくる。
 何事だろうと開きっぱなしの扉から通路を見やると、黄色い布をはためかせたクロードが弓矢を手に駆けて行く姿があった。
「クロード……?」
 何があったのだろうかと立ち上がり、呼び止めようとしたが動きを止めた。彼が駆けて行った方角には女神の塔がある。今日のこの日に女神の塔が特別な意味を持つ場所であることはローレンツもよく知っている。
「誰かと、待ち合わせをしているのか」
 誰か、などとぼかす必要もない。相手はきっとべレスであろう。
 張り裂けそうになる胸を押さる。しかし、舞踏会の会場で見た女生徒達の嫉妬に狂った醜い視線を思い出し、ローレンツは両手で己の頬を叩いた。パチンと甲高い音が大聖堂の高い天井に響く。
「僕は、ローレンツ=ヘルマン=グロスタール」
 だから、嫉妬に狂ったりはしない。好いた男に振られようとも醜態など晒すわけにはいかない。内心を他人に悟られてはいけない。
 背筋をぴんと伸ばして顎を引き、部屋に戻るために真っ直ぐに前を向いて歩きだした。
 数歩歩いたところで、先ほどのクロードが手にしていた物を思い出して足を止めた。そういえば彼は弓矢を持っていた。ベレスと待ち合わせをするのに武器を携帯する必要はあるのだろうか。彼女ならば自分と交際をしたければ力を示せなんて言い出しかねないが、それにしても弓矢はないだろう。
「まさか、敵襲か!?」
 数節前にこの修道院に侵入者を許したばかりだ。また何かが起こったのかもしれない。
 女神の塔に向かったのはクロードのみ。追いかけるべきか、しかし今のローレンツは武器を携帯していない。何か武器になりそうなものはないかとローレンツは辺りを見渡した。