きなこ
2021-02-15 01:47:57
2365文字
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エア鷲2お題「チョコレート」

エア鷲2のお題にチャレンジ
バレンタインデーがある不思議時空のデルカダールで両片思いをしているおじさん達の話

 チョコレートを貰った。

 グレイグから。

 今日はバレンタインデーである。バレンタインデーといえば大切な相手に贈り物をする日だ。大切な人とは本来家族であったり恋人であったりする。しかし近年は、意中の相手にチョコレートを渡して思いを告げるイベントとなっている。
 グレイグから渡されたチョコレートにはメッセージカードは添えられていなかった。渡される時に何かしらの特別な言葉もなかった。中身は大通りに面した店で売られている、四角い平凡なチョコレートだ。
 これにはどのような意図があるのだろうか?
 家族や友人にあげる義理チョコという意味なのだろうか?
 それとも……
 一瞬頭によぎった己に都合のいい解釈を打ち消すように頭を振る。
 期待をするな、ホメロスよ。あいつは気を持たせることにかけては天才的だ。それで何度裏切られたというのだ。どうせ甘いものが苦手だからという理由で、自分が貰ったものを寄越したなんていうオチだろう。
 気持ちを切り替えて、机上に積み重なっている書類を手に取り目を通すが何も頭に入ってこない。
 ギリリと歯を食いしばり、書類を叩きつけた。
 なぜオレがこんなに思い悩まねばならぬのだ!
 そうだ、ドルマろう!
 腹が立ったので、グレイグの顔面にドルマでも叩き込んで発散することにした。

 掃除の行き届いた廊下を乱暴に歩き、すぐにたどり着いたグレイグの部屋。右手には魔力を貯めて、いつでも解放できるように。ノックも無しに扉を開いてやると、顎髭の辺りを撫でながら執務机の傍をうろうろと歩いていたグレイグがこちらを見て頬を染める。
「おおっ、ホメロス。返事をくれるのか?」
 何のだ!?
 意味が分からなさすぎて、突っ込みを入れる言葉も出ない。チョコレートを渡して返事とはそういうことなのか? 期待感がむくむくと膨れ上がってくるが、ぬか喜びをするなと己を叱咤する。過去に何度苦汁を嘗めたのか忘れたのか、ホメロスよ。こいつの言葉に深い意味などあるはずがない。とりあえず、魔力がもったいないので顔面にドルマでもぶちこもう。
 面白いほど見事に顔面に命中したドルマに、「ぐぎゃ!」なんてスライムが潰れたような声が上がる。しかし大したダメージは与えていないようだ。チッ。
「何をするっ」
「で? 何の答えが欲しいというのだ?」
 グレイグの言葉に被せて疑問を放てば、ドルマを食らったときよりもダメージを受けたような顔をして机に両手をついてうなだれるグレイグ。
「まさか! ホメロスともあろうものが、バレンタインを知らないだと!?」
 という言葉からするに、やはりそうなのか?
 どくんどくん、と、鼓動が高鳴る。だが本人の口から聞くまでは信じてはだめだ。思い込みで身を滅ぼすつもりかホメロスよ。深呼吸をして何とか落ち着きを取り戻す。
「何をぶつぶつと言っている。私も忙しいんだ。用事があるならはやくしろ」
 額に手を当てて何かを呟いていたグレイグだが、やがて意を決したように背筋を伸ばし、ギラギラと野獣のように輝く瞳をこちらに向けた。ぞくりと背筋が震える。心臓が早鐘を打つ。顔に熱が集まる。長年封印していた想いが成就する時がきたのだろうかと、歓喜する。
 グレイグは大股でゆっくりと近付いてきた。私まであと半歩といったところで立ち止まる。うっとりとそれを見上げる私に向けて、グレイグは告げた。
「お前は俺のことをどう思っている?」
 お前は馬鹿か! 心の中で罵声を浴びせる。今は告白をする流れだっただろう。質問をしてどうする。勘違いなのか? やはり私の思いひみなのか?
 疲れた。もう一発ドルマをお見舞いしてくれようか。
 はあぁぁぁ、と長いため息をつき、答えた。
「おまえのそういうところが大っ嫌いだ」
「そ、そうか」
 目が潤んでいくグレイグ。やはりこいつは私のことが好きなんじゃないかと訝しむものの、結局のところ何も言わないのでグレイグの真意を知ることは出来ない。背中を丸めてうなだれるグレイグがだんだん面倒になってきて、「帰るぞ」と短く告げて踵を返したその時、慌てたグレイグに腕を掴まれた。熱い汗ばんだ掌で力強く引っ張られた拍子に体勢を崩す。
 ぽとりと音を立てて床に落ちた赤い包装紙で包まれた赤い箱。それを目にした瞬間、思わず舌打ちをする。どうせ今年も渡せないと思いながらも目の前の木偶の坊に渡すために忍ばせておいたチョコートだ。置いてこれば良かった!
「これは、誰かからの贈り物か?」
「違う」
「では、誰かへの贈り物か?」
「ああ」
「誰に?」
 言葉に詰まる。この鈍感馬鹿め。そんなことをいちいち聞くものではない。そもそもお前は質問ばかりだ。自分の意思はないのか。少しは察してくれ。この逸る鼓動も、赤くなった顔も、ついつい視線を逸らせてしまったのも。誰のせいだと思っている。
「お前にだっ!」
 やけくそ気味に吐き捨てて、グレイグの腕を振り払った。赤く跡のついた手首を撫でながら、仇にでも対峙するかのように睨みつける。
 グレイグは呆然と目を瞬かせて、そして問うた。
「それはどういう……
「問いばかり投げるなっ! お前こそどういうつもりなのだっ」
 途中で遮って怒鳴りつけると、グレイグは息を飲んで唇を引き結んだ。真っ直ぐな澄んだ瞳で見つめられ、ここで逸らしては負けだと力を込める。
「俺は、お前のことを好いているのだ。バレンタインのチョコレートを送ったので、気付いてもらえたかと思っていた」
「何も言わずに渡されて気付くかっ!」
 怒鳴りつけ、その勢いのままでグレイグの髪を引っ掴む。悲鳴を上げたグレイグにはお構いなしで、強引に屈ませたグレイグの唇に己のそれを重ねた。

「オレもだっ」