きなこ
2021-01-13 00:08:31
1860文字
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主ホメで壁ドン

ブンくんがホメロスに壁ドンする話
それ以上でも以下でもない話です
ブンくんがホメロスに片思いをしている感じです

 壁ドンをした。

 そもそもの始まりはキャンプでの雑談である。
 壁ドンとはこのロトゼタシアで最近流行っているシチュエーションらしい。意中の相手を壁際まで追い込んで、壁を背にした相手の頭の横に手を突き、顔を近づける。そして愛の言葉を囁けば、ときめきに胸を踊らせた相手との心の距離が一気に縮まるそうだ。女性陣がキャッキャと黄色い声で話していた。
 試してみたいよねー、なんて喋っている四人を尻目に僕はシチューを作っていたわけであるが、唐突に名指しで呼ばれ、端的に命じられた。

「ホメロスに壁ドンしてきなさい」

と。
 正直意味が分からない。
 いや、一応理解はできる。僕はホメロスに片思いをしているから。そして他のみんなには意中の相手なんていないから、僕に白羽の矢が当たっただけだ。
 だけど壁ドンって互いに想い合う二人でなければただの犯罪になるんじゃないだろうか。好意を持っていない相手に壁ドンされたところでどうにかなるはずがない。むしろ嫌われるだけではないだろうか。
 そう訴えたものの聞き入れられるはずもなく、マルティナに首根っこを掴まれてホメロスの前に放り出された。ホメロスにぶつかりそうだったから手を出したら木があった。両腕の中にホメロスが入った。壁ドンの完成である。
 女性陣曰く、憧れのシチュエーションらしいが、デルカダールの双頭の鷲がひとり軍師ホメロスは男の中の男である。恥じらいに視線をそらして俯くわけもなく、ときめきに頬を染めるわけもなく、僕の瞳を直視している。細い目をいっそう細めて、眉間に皺を寄せて、三徹明けの朝のような不機嫌極まりない顔をしている。腕を組んだまま仁王立ちをしている。そして地を這うような低い声音で尋ねてきた。
「これはなんだ?」
「か、かべドンです」
 ひぃぃぃと喉から出かかった悲鳴を飲み込んで、精一杯の勇気を振り絞って答える。だと言うのに、ホメロスはちっと舌打ちをして忌々しげに吐き捨てた。
「意味が分からん。分かるように説明をしろ」
「だってマルティナが……っ!」
 ひゅんっと風を切る音が響いたと脳が理解するより先に後頭部に激痛が走った。衝撃のあまりよろけて前に倒れかけたところ、ホメロスにぶつかった。
 硬いけど張りのある感触を頬に感じる。目の前には白いシャツ。はっと気付いて視線を上げると、困惑したようなホメロスが僕のことを見下ろしていた。ああ、なんと言うことだ。僕は今、ホメロスの胸に顔を埋めているのだ。
 すなわち、ぱふぱふ!!!
 ズガガーンとギガデインのような衝撃が走り、頭の中心に凄まじい熱が発生する。日に日に大きくなっていたけど発散されることのなかった僕の中の欲望やら煩悩やら何やらを凝縮したそれは、頭の中を駆け巡り、凄まじいエネルギーを生じ、勢いよく放たれた。主に僕の鼻から。赤い血潮となって。

 ……
 終わった。

 僕は膝をつき、頭を垂れた。
 胸を真っ赤に染めたホメロスは、今までに一度も見たことがない、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてその場に立ち尽くしていた。さしもの軍師殿もこんな状況を理解する事は出来ないだろう。ああ、そうだろう。僕にだってさっぱりだ。
 滴り落ちる血で染まる地面に、拳大の石が落ちているのが見えた。こんな物、当たり所が悪かったら死ぬじゃないか。いい加減にしてよ、マルティナめ。
「お、おい。まずは止血をしろ。ホイミはかけられるか? というか、そこに隠れているグレイグかセーニャよ、どうにかしてやれ」
「ごめんなさいっ」
 いつになく慌てたホメロスが早口に指示を出すのを遮るように、僕は額を地面に擦り付けて大声を出した。
「滝に打たれて、反省してきます」
 言うや否や、ホメロスからの返事も待たずにルーラで逃げ出した。
 辿り着いた先はイシの大滝。ひんやりとした空気に身も心も引き締まる。
 勢いで謝罪したけど、そもそも悪いのはマルティナじゃない? という気もしないでもない。だけどどうせマルティナはモジモジとしてはっきりとしない僕が悪いと責任転嫁する事だろう。ああ、そうだ。全ては告白出来ない僕のせいだよ。
 やさぐれた気分のままの僕はやけくそになって、その場で靴や服を脱いで川へと一歩を踏み出すのだった。

 その後、慌てて駆けつけたホメロスに保護されることとなった。そしていつになく優しい様子のホメロスによしよしされながら、膝枕で介抱された。
 過程はあれだったけど、幸せを噛み締める僕なのであった。