ゆうな
2024-11-30 22:45:56
2839文字
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【手袋】

坊ちゃん×執事パロ
行為匂わせあり、轟→爆豪の名前呼びあり
#爆轟版深夜の真剣60分一本勝負

◆Pixiv:ログ1に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23703731

「勝己様。おはようございます」
 小鳥のさえずりと茶葉の香り。そして柔らかく心地良い低音が意識をゆっくりと浮上させていく。カーテンを引く軽やかな音と共に差し込んでくる光の線に、まぶたの下から赤い瞳を覗かせた。
「本日の紅茶はフォートナム&メイソンの……うめぇやつでございます」
……セイロンブレンドだろうが、この香りは」
「お。さすが、勝己様は紅茶にも精通されていらっしゃる」
 ふふ、と微笑む青年は、寝起きの良い男がベッドに腰掛けるのを見計らって制服の準備を整える。茶葉を蒸らす時間すら無駄にしない執事は淡々と着替えの手伝いを進めていく。ボタンをひとつひとつ留めながら跪き、色の違う双眼をゆっくりと伏せた。
「ミルクはいかがいたしましょう」
「ん、淹れる」
「かしこまりました」
 離れていく指先を視界の端で追うのは、爆豪財閥の一人息子、爆豪勝己。幼い頃はわんぱくばかりしていた彼も、十代も半ばを過ぎた今では次期当主としての威厳と気品を持ち合わせ、立派に自身の役割を果たしている。
 そんな爆豪が従えているのが轟焦凍という執事である。轟家は代々爆豪家に仕える生粋の使用人で、勿論この男も例外ではない。物心ついた頃から住み込みで同い年の勝己を支え続けている。
 今日も轟は紅白の髪を綺麗に後ろに梳き上げ、汚れひとつないモーニングコートをカッチリと着こなす。伸びた背筋のシルエットはあてやかで、まるでこの広い屋敷の美術品のひとつのようにそこに存在していた。
「本日は学校の後フランス語の先生がいらっしゃいます。授業後は緑谷グループの出久様へ感謝状の返信を。今回こそは草案に沿って丁寧に作成をお願いします。その後は麗日様を招いての会食ですね。花束を用意してございますのでお帰りの際忘れずにお渡しください」
「こっちはちゃんと覚えてンじゃねえか」
 ふんと爆豪が鼻を鳴らすと轟はぱちぱちと目を瞬かせ首を傾げる。そのまま姿勢良く立ち上がるとふわりと微笑んだ。これはどんな顔をすれば良いのか迷った時の表情だ。
「紅茶の種類より勝己様のご予定の方が大切でしょう?」
「てめェそれを理由にしてんじゃねえぞ。つーか、丸顔来ンの今日だったか。夜は和食だな」
「ええ。デザートは苺大福にでもしましょうか」
 袖から伸びる純白の手袋が滑らかな所作でティーポットと出会う。美しい薔薇の花が描かれたカップに紅茶を注ぎ、爆豪がスラックスを履いている間にミルクピッチャーを手に取った。
「お。っと……
 カップに注いだミルクを元に戻そうとした瞬間。轟はそれを手袋に溢してしまう。白手袋にグレーの染みが広がった。
「失礼致しました。どうぞ、お召し上がりください」
 ほんの少し──爆豪にしかわからない程度の乱雑さで紅茶を置いた轟が背を向けて左手の手袋を外し始める。カップを手に持つ爆豪がその様子をじっと見つめていた。こくりと喉を通った濃厚なミルクティーが体の中心に落ちていく。
「お前さあ、別に素手で良いのになんで手袋してんの」
…………銀食器に手の脂などがついてしまいますから」
「それ今は関係ねえだろ。そういや最近外さねえよな? 前まではんなこと気にしてなかったろ」
……ぇと、」
 ソーサーにカップを置いた音が朝日の眩い光の中に消える。ベッドが軋む音に振り向くと、じっと捉えて離さない赤が轟の体を貫く。まるで柱に縛り付けられたかのように身動きが取れなくなった。
……手袋外して」
「み、見ないでいただけると……
「俺の前で外せねえってのかよ、」
 爆豪の指が手のひらまで脱げた手袋の間にするりと滑り込む。空気が揺れ、厚みのある絨毯が一歩分凹んだ。目覚めたばかりの体温を分け合うように、指を曲げて水かきの部分をゆっくりと擦り上げる。爆豪の爪が素肌をゆるく引っ掻いた。白手袋を捲り上げながら、じわじわと伝わる熱に、轟の喉がきゅうと震える。
「か、勝己様ッ」
「ンだよ」
 朝の爽やかな空気にはまったく似合わない湿度を含んだ声色。白い首筋に鼻をくっつけると、クリーニングしたてのシャツの奥にある轟の匂いを見つけて爆豪は目を細めた。それでも、ダメです、と言われれば口を尖らせて最後の一押し。
「嫌なんか」
 まるで爆豪の頭から犬の耳が垂れているような幻覚が轟には見える。締め付けられる心臓と、数センチ下からじっと見上げてくるその瞳に見つめられたら、もう、ダメだった。
「てる……だろ」
「あ?」
「外してるだろ……昨日も。勝己、の前で……
 じわ、と頬の内側から熟れた桃のようなピンクを滲ませて、轟がほとんど喘ぐように声を落とした。
 裸の指が爆豪の背中に爪をたてる。短く切り揃えられた爪先は次第に強く縋るように骨と肉の間に傷を付けた。爆豪の背筋をゾクリと駆け上がった熱は、月の明かりに照らされた、轟の。
「っ、そういうときのことじゃねえ! いいからッ」
 指を手袋の間に差し込んだまま素早く取り去る。あ、と轟が洩らす声と爆豪がそれを確認したのはほとんど同時だった。白手袋の下に隠されていた薬指の付け根には赤や紫にもなりかけている歯形が幾重にも重なりくっきりと痕が残っている。
「あなたが、最近……ここ、何度も噛むから……
 痕をなぞる指先を追って、爆豪の喉がごくりと動く。いつも暗がりで可愛がっていたそこがこんなにも生々しく、いっそグロテスクなまでに刻み付けられているだなんて。上がる口角を抑えられなくなりそうで、爆豪はつい口元を覆った。
「明るいところで見たらとっても目立つんです」
「隠してェんか」
……この前、いよいよ指摘されちまいました、メイドに。その手どうしたんだ、って。まさか勝己様に付けられたなんて言えませんから。治るまで隠しておこうと思って」
 左手の薬指。これが何を意味するのかわからないほどボヤけた時期はもうとっくに過ぎ去っていた。まったく独占欲の強い坊ちゃんに育ってしまったと息を吐く轟に、爆豪が舌打ちをする。
「治るだァ? 今から消えねえようにしてンだよ、あと二年待っとけ」
「待っとけって……こんなことしなくたって俺はずっと勝己様のものですよ?」
「わかれや。てめェの子守唄が聴けんのは俺だけだってことをモブ共によーく教えてやってんだわ」
 言いながら、よくまあこんな恥ずかしいセリフを、と爆豪が眉間に皺を寄せ、それを聞いた轟も同じように眉を寄せた。ただし、こちらは違う意味だったようで。
「勝己様、まさかまだ一人では眠れないのですか? 幼い頃はよくホットミルクとハチミツをご用意したものですが……ご所望でしたらまたお持ちいたします。何なりとお申し付けくださいね」
 あの頃は可愛かった、と時代を遡りに行ってしまった轟はもう先程までの甘い雰囲気はとっくに消え去っている。「てめェまじで泣かすぞ!」と爆豪の怒号が飛んで、二人の賑やかな一日が本日も始まるのだった。