ぽふむん
2024-11-30 22:12:45
2374文字
Public ワンドロ
 

死の匂い

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「白衣」「手のひら」
氷柱if

タイトルは危険な香りがしますが……
十二鬼月って病気がモチーフで、童磨は結核だという説ありますよね。
なので、氷柱様に結核になっていただきました。

正確には……ですが


いやぁな季節がやってきた。
しのぶの眉間に深いふかぁいシワが刻み込まれる。
そのシワを「跡がつくからだーめ」とか、おちゃらけた口調で笑い、指で広げてくれる人は居ない。

それは、雪国に遠征に行っているから。
気晴らしの愚痴、ぼやきすら吐き出せない。
八つ当たりも出来ない。

この季節
鬼殺隊では毎年風邪が流行る。
きたえているから丈夫……では無い。
皆筋肉質だが、筋肉量が多いということは、脂肪も極度に少ないということになる。
脂肪はつき過ぎもダメだが、落とし過ぎもいけない。
体の保温と、万が一の時の栄養の備蓄とも言えるのだから。

今日も単なる軽度の風邪から、後世インフルエンザと呼ばれる症状の者。
こじらせて肺炎になりかけているものの応対で白衣を纏い大忙しだ。

衛生指導の効果が出ていないのも悔しい。

病気予防には、質のいい栄養だけでは無い。
手洗い、うがいも大事

なのに……

(そりゃあ、お水が冷たいのはわかりますけど)

そんな些細なことで防げたであろう者たちばかりだから、尚更腹が立つ。




帰ってきた。
隊士を引連れ、あの男が帰ってきた。
八つ当たりしてやる。
精神的疲労ストレス解消だ。

その前に、風邪をひいて帰ってきたものが多いから、処置が先。
肺炎になりかけてるものも多い。

本当に筋肉ダルマ達は貧弱だこと。
おや……この隊士

胸からいやな音がする。
胸の写真を撮る

結核?
遠征した隊士は……みんな
みんなみんな結核だった。

みんなみんな
み~んな隔離された。
みんな……それは童磨も例外でなく。
喀血するところまでみてしまった。
激しく咳き込んで……喀血。

あの大きな手から滴り落ちた


肺から出た、酸素を多く含んだ鮮やかな赤い……
慌てて駆け寄って、着ていた白衣にまで飛び散った赤い


うつるから近づくな

そう叫ばれ……
あれ以来会話すらしていない。
遠巻きに隔離病室にいる、日に日に痩せ衰えていくあの男を見守る。
介護のためにも近寄らせてくれない。
白衣に付いた血は……落とさない。
それが……あの人の生きていた証。
生命の息吹の名残だから。


遠巻きに見守っていることに気づいた彼は、ハンドサインをくれた。

『さようなら』

ニコリと笑う、見る影もなく痩せ衰えたあの男

まだ結核は死病
克服出来ていない。

命の火が消えていく。
また一人残される。

嫌だ

嫌だ嫌だ嫌だ

🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷🪷

「いやぁーーーーーどぉまぁーーー!!!」
しのぶの悲鳴が響き渡る。

「しのぶちゃん?しのぶちゃん???」

恐る恐る背中に触れてくる大きな手。
しのぶは休診時間の診察室で、机に突っ伏し寝ていたようだ。
うなされていたから、優しく起こされた。
痩せ衰えていたはずの童磨は、自分の知っている、元気な筋肉ダルマ。
心配そうにオロオロとしのぶを見下ろしていた。

しのぶのまろい頬は、涙でぐしょぐしょに濡れていた。
「し……のぶちゃん。怖い夢でも見た?俺、夢の中とはいえ、なんか酷いことした?ごめんね……泣かせたりして」
なぜ謝る。
童磨は、そうっと恐る恐るしのぶの涙を拭う。
なのに、しのぶの瞳からは次々と今度は安堵の涙が溢れてきて

しのぶは童磨に抱きついた。
「良かった……夢で……良かった」

訳が分からずただ童磨はオタオタするが、すぐにしのぶの体を両腕で包み込み背中を撫でさすってやった。

「グス…………寝言言って……ぐす……ました?」

「うん、すごくうなされていたよ。俺の名前と、嫌だって……凄く悲鳴をあげていた。俺なんかした?」

夢の中のことだと言うのに、オロオロしている。
本当に、この男はしのぶの泣き顔が苦手のよう。
しのぶは少し微笑んだ。

……鍋焼きうどん」
「は?」
「鍋焼きうどん食べに行きましょう。こんな冷える日は熱いものを食べることも養生です」
「???べ……つに食べに行くのはいいけど……どうしたの?」
唐突に出てきた、鍋焼きうどんというワードに、童磨はぽかんとしているが、しのぶにとっては意味のある言葉だ。
温かいものを食べて体を温めよう。
病気にならないように。
屈んでくれているというのに、遥か上にある顔を見あげ 、しのぶはニカッと笑った。
羽織の裾を小さな手がぎゅうっと掴む。
「手洗いうがい忘れないでくださいね」
「???うん、しのぶちゃんの衛生指導のおかげで、今年は今の所風邪ひきさんも減ったよね」
にっこりと穏やかに微笑み返してくれた。

ああ、そうだった

今年は割と平和で……それでも油断はできないと思っていて
だから見たのか。
あんな夢。

病気は精神的疲労も良くないという。
この男に精神的疲労など無縁と思えるが
あんな家業だ。
隠すのが
自分の心に嘘をついて蓋をするのが上手いだけかも知れない。
それも不安の種だったのだろう。
それに、自分もこの男の好意に甘えてばかりだ。
いつか死ではなく、本当にさよならされるかも知れない。

……離しませんよ」
しのぶは童磨の羽織の裾を、さらにぎゅうっと、指の色が変わるほどぎゅうっと掴んだ。
訳が分からないと言いたげに、キョトンとしていた童磨だったが、直ぐに少し意地悪な笑みを浮かべた。
「そうだなぁ……逃げろー!あはは」

しのぶが甘えてきたことを察したからだろう。
するりと羽織の袖から腕を抜き、走り出した。
しのぶの手にはもぬけの殻となった羽織
「こら、逃げるな。逃がさないぞおらァ!」
しのぶは童磨の背に飛びついた。
そしてしがみついた。
「離さないぞ……逃げるな……

肩におぶさり頬を擦り寄せた。
「うん……大丈夫だよ」
童磨はにこりと微笑んだ。