「ようこそわが家へ。とれたての野菜たちを使った料理をすぐ作るから、くつろいで待っていてほしい」
秘境探索を手伝ってくれた礼に、と、オロルンは隊長を家での食事に招待した。
今朝、ここに来る前に収穫したばかりの野菜があるんだ、ぜひ食べて欲しい、と上目遣いで強請られ、休みだと伝えてしまった手前断る理由もなく
……また、先の秘境でのことを訊きたかった隊長は、その誘いを受けた。
部屋のソファに通され、すぐ作るからね!とオロルンは炊事場へ消えていく。
「相変わらず散れているな」
ソファに腰を下ろし、くつろぐ姿勢になりながら部屋を見回す。部屋を訪れたのは初めてではなく、その際にも思ったが、言ってしまえば「一人暮らしの男の部屋」そのもの、といった感じだ。
汚いわけではなく、ある程度秩序的ではあるが、人から見れば散れている。
炊事場で鼻歌を歌いながら調理している家主を横目に、手慰みに一番上に積んであった本を手に取って開く。
……開いて、ぱらぱらと目を通し、閉じた。
「黒曜石の老婆から借りたのか
…?いや、それとも自分で買ったのか?」
稲妻の成年向け小説。こんなものを人目に付く場所に
……いや普段家に人を入れないなら警戒しないか。
隊長が本を手に持ったまま頭を抱えていると、見慣れぬ料理を運んできたオロルンと目が合った。
「えっ!あっ
……隊長、なんでそれっ」
トレーを机に置き、あわあわとしながら本を取り返そうとしてくる。
その慌てふためく様がかわいらしくてひょい、ひょいと躱すように本を持った手を振り回す。
「意地悪しないで、返してくれっ
……!」
頬を赤らめながら泣きそうになっているのが流石にかわいそうになり、本を返してやる。
「そんなに恥ずかしい内容なのか?」
からかうように尋ねてやると、耳をぴんと立て、ふるふると震わせる。真っ赤な顔が、口にせずともその本がどんなものなのか理解していると物語っている。
「そ、そんなことより料理を食べてくれ。熱いうちが一番だって旅人に教えてもらったのに、冷めてしまっては美味しさが失われてしまう」
ほら、とオロルンは串で刺されている揚げ団子を渡してきた。
「これは?」
手渡された串を受け取り、仮面を少しだけ持ち上げて団子を口に入れる。
もちもちとした食感が楽しく、大根のやさしい甘みと胡椒の刺激が口の中に広がった。
「璃月料理で、大根の揚げ団子というらしい。今朝とれた大根で作ったんだ!あと、これも」
オロルンは薄く焼かれた小麦の生地に、野菜や肉が包まれたものを差し出す。
受け取ってやってもよかったが、身をかがめてそのまま齧りつく。
「ひぁうっ!」
見上げた先に驚き赤らむ顔がある。自分からは平然として何かと引っ付いてくる癖に、こちらから寄るたびに反応を返してくる。可愛いものを拝めて満足したので、驚いて固まっている手から料理を受け取り、そのまま残りを食べた。
「美味いな。これも旅人から聞いたのか?」
肉の旨味とスパイシーなソースが絶妙な味で、新鮮な野菜のしゃきしゃきとした歯ごたえもいい。
「う、うん。スメールのシャワルマサンドっていう料理だそうだ」
「どちらも美味いな」
ぱっ、と明るい笑みを浮かべ、ニコニコとこちらを見てくる。
「その
……隊長は、食べるときも仮面を付けたままだろう?食器を使う料理だと、少し食べにくそうにしている気がして。いろんな国を渡り歩いた旅人であれば、各国の、片手で食べられる料理を知っているかなって思って。片手で食べられるなら、仮面をもう片方の手でちょっと上げるだけでいいから。それで簡単に作れるものを教えてもらったんだ」
「ほう、そこまで考えていてくれたのか。どちらも美味かった、ごちそうさま」
「どういたしまして。気に入ってもらえたようでよかったよ」
満足そうに微笑んで、オロルンはすっと横に腰かけた。
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「オロルン、いくつか聞いておきたいんだが」
食事も済んだところで、ここに来た本題に移す。
「先ほどの秘境で見せたあれは、自分自身の意志で動いていたのか?」
「え!もしかして、見ていたのか?」
「ああ。俺の方にいたミミックを倒し終えたら、お前の方の壁が透明になってな」
戦闘が苦手だ、と言っていた。その代わり体質を活かした索敵や援護射撃は、訓練された兵士と何ら変わらない、否、索敵に関しては部隊にいる誰もが叶わなかったか。
そんな奴が、手練れの兵でも倒せるか怪しい強敵を、一撃も貰わずに、倒した。
「
……意識はあったよ。ものすごく集中してたから、終わった後ああなってしまったけど」
「あれを相手にできるのは、俺の部下にもそう居ないぞ」
「そうなのか?」
「ああ。ミミックパピラは様々な形状を取るからな。対応した戦い方を選択できる知識と、それを遂行できる技術が必要だ」
「ドレイクも無相の水も、資料で見たことがあったんだ。ドレイクの翼が弱点なのも知っていたし、無相は立方体が剥げたあとの核の部分を狙えばいいことも知っていた。狙う場所が分かっているなら、僕でもなんとかなる、って思った」
「その知識も力の一つだ。
……お前は自信が無さ過ぎる癖に、すぐ人のために身を投げようとする。もう少し正しく自分を評価しろ。お前は充分、強い」
執行官第一位の
……最強格の男から、強いと言われたオロルンは目を丸くした。
「
――しかし体質的に脆いのも事実だ、驕らないようにな」
照れて何も言えなくなってぽすんと寄りかかってきた頭を撫でる。
「あと、俺の偽物が出てきたときは流石に肝が冷えたぞ」
「あれは僕も本当にびっくりした
……でも、あれは隊長じゃないし、あいつが隊長の姿を真似たことが
……なんか許せなくて、無我夢中になって戦ってた」
「背を思い切り蹴り飛ばすくらいに、か?」
「
……うん。あんな濁った魔物の魂で、隊長の形をとってるのが、本当に許せなかった」
あんなに隊長は弱くない、あのミミックは観察眼がない、と憤慨している。
「それで思い出したが
……吹っ飛ばせてこそいたが、動きがちょっと甘かったな、オロルン。お前、きちんとした体術を習っていないだろう」
「へっ!?」
隊長はソファから立ち上がると、オロルンにも立つように促した。
「回し蹴りをしただろう?こうやって、もっと身体を倒したほうが、蹴りの威力が上げられる」
オロルンの上体を挟むように両腕で抱え、斜めに傾ける。
「わっ!」
「利き足は左か?そっちは地面についておけ。体をここまで倒せばもっと高く足が上がるだろう」
上体を抱えられている所為で、隊長の低い声がオロルンの耳の近くで響く。
「このくらい
……肩と骨盤が軸になるまで倒せ。脚は上がるか?」
下で支えている腕はそのままに、もう一つの手で脚を上げようと、内腿に手が入れられる。
「
……ひぁん!」
熱を孕んだ声が、オロルンの口から洩れる。
内腿に差し込まれた隊長の手を、オロルンはぎゅっと挟んで捕まえる。
「たいちょ」
上体を起こし、潤んだ二色の瞳が訴えかけてくる。オロルンの手が隊長を掴み、ぎゅっと顔を埋めた。
「今日やけに
……その、ドキドキする。隊長のせいで、心臓がうるさい。耳に直接心臓がくっついてるんじゃないかと思うくらい、うるさい」
捕まったままの手で揉むと、オロルンはびくりと震えた。身体を掴みながら、不安げに見上げてくる。
焚きつけすぎたか、と思いつつ、内腿をやわやわと味わいながら、寝室へと促した。
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