ひおう。
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レオ司利き小説。

サークルで開催されましたレオ司利き小説の全文です。
ちょこちょこ誤字を、直しているはずですっ…

 かりかりとペン先が紙の上を滑る。その音はしばらくして止み、静かな空間には鼻歌と、指先でリズムを取る音が調和した。
 一つ一つの音が音楽となるこの瞬間が好きだと告げた、温もりをくれる朱は今はいない。仕事があると深夜帯の帰宅予定であった。
 存在がいないと認識した瞬間、音楽になるはずの音が止む。絶え間なく頭に響く音はほんの少し気に食わなかった。
 〝愛するかわいい〟末の騎士、代替わりした今は〝愛し、傅く〟存在の騎士王。彼がたったの少しでも離れてしまうだけでレオの世界は色褪せていく。強さと弱さは紙一重だなと、苦笑を漏らしてペンを机の上へと放り投げた。ころころと転がったペンが、何かにあたって止まる。視界の隅で追っていたレオは、その何かを見るために顔を上げてそれ――ラジオに手を伸ばす。アンティークのような見た目の、しかし最新式のラジオは多機能であるが、正直レオは使いこなせない。辛うじてCDを再生するのと、今日のように、大好きなKnightsが出ているラジオ番組を聴くだけの代物だ。
 ジジ、とノイズが走ったあと、芯の通った、真っ直ぐな声音が機械から広がっていく。
『すみません、脱線してしまいましたね。Ring……の話でしたか。私はやはり、愛する人とのRingはお揃いが嬉しいかもしれません。Designは……ふふふ、やはり王冠でしょうか。私とKnightsは切っても切れませんからね。』
 柔らかな声音だった。誰を想ってその言葉を選んでいるのか、レオならばよく分かる。
『王を戴く者として守るべきもの、愛すべき姫君、そんなKnightsたらしめる存在だと。指先を見て思い出し、引き締めるのも素敵だと思います。』
 芯の通った声が、愛を囁く。アガペーのような愛に見せかけた、独占的な音だと、騎士たちだけが識る声。
「はっ! 霊感!!」
 レオの頭に鳴り響く音たちは騎士王の声に応えるべく、エロースのように情熱的で、情欲を孕んだ激しいものであった。


 朝早く、待ち合わせの場所と指定された駅前でレオを待つ司の目の前に、見慣れぬ一台の車が留まった。スモークガラスで車内が殆ど見えない中、静かな機械音と共に窓が開き、橙が、乗り込めと言わんばかりに手招く。
 見慣れない車はレンタカー故であった。アイドルという職業柄、特に活動拠点である日本ではナンバーを知られないようにと、自家用車はあまり使わない。
「レオさんが遅刻しないのは珍しいですね。」
 乗り込んだ朱がクスクスと、上品に笑った。「うぐっ。」と言葉を詰まらせてみるも、視界に入る音が、耳朶に飛び込む音が、世界の全てがレオの霊感を刺激する故に所構わず作曲し始めるのは自覚している。司の言葉に揶揄するような色も、攻めるような刺々しさもない、ただ事実を告げているために口を噤んだ。
「スオ〜。」
 ハンドルへともたれ掛かったレオが恨めしそうに、ちょっとばかり拗ねたように、唇を尖らせながら名を呼ぶ。クラクションを鳴らさないようにもたれるのは、なんとも器用だなと、司は思いながら微笑んだ。
「ふふふ、すみません。貴方はそう言ったところが子供らしいので、つい。」
 妙に大人びたがる司は、いや、家が家なだけに大人にならざるを得なかったからか、年相応の扱いをすればたちまち頬が膨らむというのに。そんなアンバランスさが、いつもレオの心を離さないのだ。
「それで、今日はどちらに行かれるのです? 日時だけ指定してきて、私何も聞かされていないのですが……。」
「全くスオ〜はいつも答を聞いてばかりだなぁ! 少しは、」
「想像しても分かるわけないでしょうに……。貴方はそれでなくとも奇想天外なのですから……。」
「言葉は想像つくのにな!」
 歯を見せながら、夏の花のように暖かい笑みを零すレオに肩を竦めて、司が手を差し出した。
「では、Escortよろしくお願いしますね、レオさん。」
「任せろ! とびっきりのデートにするから!」
 騎士が忠誠を誓うかのように差し出された甲へと口付けた。へらりとした物言いに反して、表情を無くしてしまえば冷徹さを与える切れ長の瞳が、やけに熱を帯びており、彼の真剣さを如実に司へと伝えてくる。彼の力強い新芽のような若葉色に映すのが己のみという事実。独占欲に支配される胸内に、司は満足感を覚えた。


 レオは滅多に被らない貴重な休みだからと、様々な場所へと連れて行ってくれた。
 水族館やら、併設されている植物園。お昼の喫茶店。
 水槽の中でも従来の生態をガラス越しに見せ、学ばせてくれる施設。まあ予想通り、レオが事ある毎に音楽の女神をその身に降ろして作曲し始めていた。
 次に行ったのは併設されている植物園だ。地域ごとに植えられた花々も、人の手が加わっているはずなのに大自然で育まれた光景を切り取ったかのような展示であり、司は大いに楽しんだ。勿論、レオも楽しんだ。道端の小石や、草木、果ては雨粒が地面に描いた模様ですら霊感が降りてくるレオには、その刺激も十分作曲する動機になっていた。
 休憩だと入ったカフェでは、作曲して司を放置してしまった詫びだと、パフェを二人でつついた。気にしていないと言いつつ、眼の前に運ばれてきた季節のフルーツがふんだんに使われたそれに釘付けで、一口含めば頬は蒸気し、瞳を輝かせる。一口、二口と、珈琲を挟みながらレオも食べ進んでいたけれど、司の口の端についたクリームが、まるで音符のように見えてきて「霊感!」と、己の世界に入り込んでしまったのは言うまでもなく。
 そんな楽しい一時は、夕食を残すのみとなってしまった。
「うーん、やっぱり楽しい時間は一瞬だなぁ。」
 しみじみと呟いて、レオは車に乗り込んだ。司も乗り込み、シートベルトを締めながら、頷く。
「あなたと一緒だと尚更ですね……。それでレオさん。」
 司が真面目な表情でレオを見つめる。菫色の瞳に映されるだけで、レオの心臓はいつも忙しないスタッカートのよう。
「おそらくDinnerの途中で渡してくれる予定なのでしょうが……。私は、それと共に、レオさんとの時間を刻みたいです。」
 それと指さされる、ポケット。まったくどうして、こういう所は勘が良いのか。
「スオ〜のケチ! カッコつけさせてくれても良いだろー!」
 いじけたように言葉を発してみるが、内心気がついてくれた、それを求めてくれた喜びのほうが大きい。表情で読み取ったらしい司は、してやったりと得意げの顔である。愛らしく腹立たしい。
「プロポーズみたいな演出も考えてたのに! 全部スオ〜のせいで飛んじゃった!!」
 取り出した、手のひらに収まる小箱を開けば、輝く金が顔を出す。まるで王冠の形をしたそれに、朱、橙、薄い水色、藍、黄の五色があしらわれている。
「Knightsの、王冠のようです……。Radio、聞いてましたか?」
「そのおかげで良い曲が書けた! スオ〜、これからも、おれの隣で王様で、騎士で、恋人で、いて」
 婚約指輪のかわりの王冠が、司の薬指にぴたりと嵌まる。
……はい。レオさん、Radio聞いたということは勿論……
「うん、おそろい!」
 服に隠れていたチェーンを引っ張り見せてくれたのは司の指に嵌まるものと全く同じものだ。レオのものはシルバーで、色違いらしい。
「これで、レオさんがFlorenceにいても、Knightsと、あなたを想いながら過ごせます。」
 目尻を染めて、随分と可愛らしいことを告げるものだから。その頬を捕まえて、呆気に取られる司の唇をそっと喰んだ。