溶けかけ。
2024-11-29 22:38:52
693文字
Public ほぼ日刊
 

温度を分け合う



 付き合い始めてから気づいたのだが、フリーナ殿は甘えたがりである。現に、今もこうして、私の膝の上に乗って本を読んでいる。
「すまない、フリーナ殿」
「うん?」
 手の中にある本は既に読み終わってしまった。次の本を読むには彼女に降りてもらわねばならない。
「その……少し……降りてはもらえないだろうか?」
 このとき、ヌヴィレットには大切な言葉が抜けていた。次の本を取りに行く──その一言が必要だったのだ。
………………帰るのかい? 帰っちゃ、やだなぁ……
 ぎゅっ……とフリーナがヌヴィレットのシャツを握りしめ、項垂れる。見た目よりずっと拙い仕草にヌヴィレットの胸が高鳴った。
「ゴホンッ……すまない。少し足が痺れてしまったのだ。組み替えてもいいかね?」
……っ! ああ、勿論だとも!」
 フリーナの顔がにわかに明るくなった。彼女はヌヴィレットの膝の上から滑り降りると彼が足を組み替えるのを今か、今かと待ち構えていた。
 仕方ない、続きはまた今度にしよう。──すぐさま膝の上へと舞い戻ってきたフリーナ眺めながら、頬を緩めた。
 先ほどの本が二巡目に突入したころ、フリーナがじっとこちらを見つめていることに気がついた。
……どうかしたかね?」
「ふふふっ……ひみつ!」
 口の前に人差し指を立て、目を輝かせる彼女の頭を撫でれば気持ち良さそうに目を細めて受け入れる。それだけで、とても満ち足りた気持ちになるのだから不思議なものだ。

 僕のちょっとした独占欲。
 いつもは冷たいキミが僕とおんなじ体温になっていること。
 キミにだって教えたくない、僕だけのとっておきの秘密。