ガラシャ
2024-11-29 22:13:11
5461文字
Public libido
 

堕恋 ―libido番外編 ①

libidoの中で空白期間である9月中旬から年末の玲二と和也です。かなり甘いです(当社比)
ただひたすら玲二が和也に堕ちていくのが書きたいな~と思い、妄想を重ねました。じれったい感じも出したくって。
これから年末に向けて投稿していきたいと思っています。


 ――高見家で一夜を過ごし、朝食の洗い物を終えた和也は家主である玲二に声をかけた。
「じゃあ、俺帰るから」
 時計は10時前を指していた。
「なんでだよ、もっとゆっくりしていけよ」
 シャワーを浴びて、ソファで寛いでいた玲二がすぐさま反応する。思わず和也は苦笑いする。昨日初めて訪れた高見家だが、玲二は自分のプライベートな部分を和也に完全に曝け出していた。
(そんなに簡単に他人に曝け出して良いのかよ。あのレイジはどこにいったわけ?)
 無口・無関心・無表情他者に対する徹底的な冷たい態度。それが玲二のアイデンティティのはずなのに。
 ――昨日の昼に玲二にランチに連れ出され、それからずっと一緒に時間を過ごしている。レイジとしてではなく一個人の高見玲二としての姿を見てしまい、和也は正直戸惑っていた。玲二を神のように崇める者たちにとっては僥倖かもしれないが、和也にとってはただ戸惑いの連続だった。
「いや、なんでって。今日は、異母兄さんと夕食を一緒に食べる約束があるんだ。買い出しに行かないと」
「買い出しって。お前が作るのか?」
「まあ、そんなに手の込んだものはできないけど。今日は『家庭料理が食べたい』ってリクエストがあったから」
「ふ~ん」
 興味がなさそうに返事を返した玲二であるが、立ち上がり、そばに寄ってきた。
――なら、車出すから、買い出しいこうぜ」
「いや別に、そこまでしてもらう必要は
「俺もちょうど買い物に行きたかったからな。ついでだ」
 玲二は既に出かける気でいるのだろう。和也が先ほどたたんだ洗濯物から適当に服を見繕うとその場で着込む。どんなにシンプルな服でも、この男が着るだけでハイブランドに見える。端正な顔立ちだけでなく、上背もあり体格も良い。
 近寄ってくる玲二に和也はたじろぐ。見下ろされて、当然のように腕を掴んでくるので和也は逃げようがない。
 ――和也としては昨晩から始まってしまった新たな関係性を整理したい気持ちがあった。
 どうも距離が近い。出会った頃から遠慮などなかったが、昨日から更に玲二は和也との距離を詰めてくる。物理的な意味でも、心理的な意味でも昨日から行動を共にしている気安さもあるのだろう。物理的な距離が離れてしまえば、お互い少し冷静になるのではないか和也はそう思っていた。
玲二の顔を見上げる、美貌の男は片眉を上げるだけだ。
「ほら、いくぜ」
 有無を言わせない声色に、小さくため息をついて和也はリュックを手に玲二についていく。昨日と同じく、玲二に愛車の助手席に乗る。閑静な住宅街から、駅ビルへ。地下駐車場にハンドルを切った玲二は愛車をとめた。
「結構にぎわってんだな」
 和也の活動範囲は広くない。休日は高倉別荘を手伝っているため、平日は大学と居候している異母兄のマンションの行き来だけで、たまに麻原に出掛けるくらいだ。生活圏外に何があるか、未だによく分かってない。
「数年前に商業ビルがはいったからな。ここならスーパーも入ってるし、飲食店も服屋も多いから便利だぜ」
「へえ、そうなんだ」
 エレベーターに乗って、地上に出るが玲二が向かったのはセレクトショップだった。ハイブランドまではいかないが、それなりの値段であることは見てわかる。
 玲二は店に入ってすぐに棚を探っている。すると店員と思われる男が近づいてきて、何やら話し込んでいる。その玲二を横目に、和也はちらりと値段を見るとやはりやや値が張っているが、ホストとして働いている玲二には何ともない値段だろう。
「ほら、これきろ」
 玲二が手にもったシャツを出しだす。店に入った時から物色していたが、和也のものを探していたらしい。
「服って、俺の服なのか?」
「ああ。昨日から着替えてないだろ?下着も買ってやるから、ここで気がえろ」
 和也の腕の中にはボトムズと下着も渡され、着替えることを促される。後ろにいつの間にかついていた店員がにこにこと笑い、試着室に案内される。
 着心地のトップスとボトムズを着込んでいく。トップスはややネックが高く、丈が短く屈んでしまうと背が見えてしまう。腕もノースリーブを少し長くしたくらいの丈だ。ボトムズも履きやすいが細身の為、体の線に沿った感じだった。ショートブーツも履くように促される。
 試着室から出ると、堂々と真ん前のソファでスマホを操作していた玲二が顔を上げ、そのまま上から下までじっくり眺める。どこか満足げに、頷いている。
「よくお似合いですよ」
 玲二の心中を代弁するように店員が和也に言う。
「こういった服がお好みなら、いくつか見繕いますが」
 なぜか和也ではなく玲二を向いて店員は言う。
「もうすこし、体の線が出ないやつもほしい。ルームウェアも」
「はい。かしこまりました。少しお待ちくださいね」
 思わず腕をさすってしまう。
「寒いのか?」
「いや、なんかなれなくて
 袖が短いのはあまり着ることがない。もともと色が白いせいか、日に焼けてしまうとかゆくなってしまうこともあり、肩などは隠せるようにしている。
「カーディガンも頼む」
「はい、すぐにお持ちします」
 玲二に促され、和也もソファに座る。
「お前、こういうの好きか?」
 和也がソファに座り、眺めていると、玲二がパジャマらしきものを見せてきた。
うわ、きもちいい
無地ではあるが光沢のあるシルク素材が使われている。さらさらとしていて手に馴染む。驚きながらも何度か撫でていると、玲二が店員に告げる。
「色違いで二つ」
「はい。あ、こちら、カーディガンです。どうぞ」
 そういって和也に手渡されたのは、やわらかな色のカーディガンだった。網目が大きくオーバーサイズで、丈は長いが着心地が良い。
 玲二は財布を取り出して、クレジットカードを店員に渡す。
「これで」
「自分のものは自分で払うから」
 そこだけははっきりとしておきたい。普段、目的があり節約はしているが、祖父が小遣いもくれることがあるし、異母兄からはカードを持たされているので、少々値段が張るものも買えないことはない。
「いいって。ついでだしな」
 という割には、玲二のものはパジャマだけだ。
「いや、ちゃんと返すから」
 和也がはっきりとした口調で告げると、玲二は眉を上げた。どこか不満そうな顔だ。
「ありがとうございました」
 カードを受け取った玲二は紙袋も当然のように持つ。その玲二についていくが、ふと店をでた所で思わぬものを発見する。
「あ、ちょっと、あそこ見ていいか?」
「ああ?雑貨屋か?」
「欲しいキッチングッズがあって。
――あ、じゃあ、ここで解散ってことで。金も今、払うから」
 セレクトショップについつい一緒に入ってしまったが、本来の目的は二人とも違う。一緒に行動する必要はない。これ幸いと、和也は財布を取り出そうと自分のリュックに手を伸ばすが、なぜか玲二に手首を取られる。
「俺も一緒に行く」
「いや、でも。その、無理して、付き合ってもらわなくても
「買いたいものがあるって言ったろ」
 強く手首を握られて、思わず眉を顰める。その和也の顔を見て、玲二は手を離し、雑貨屋の方へ向かっていくのだった。
 ――北欧で創業されたその雑貨屋を和也は気に入っていた。東京に越してきて、自分のマグカップもかったが、全てこのメーカーでそろえた。
 シンプルだが機能的なところが気に入っていた。
 玲二がその雑貨屋に入った途端、入り口近くにいた女子たちが一斉に振り向いた。
 先ほどのセレクトショップは人がいなかったので当然こんな反応はなかったが、この男のド派手な容姿はそれはそれは目立つ。女子たちは手に持った雑貨を落としそうな勢いで色めき立っている。
 玲二はその視線を受けても平然とし、和也を振り向いた。
「どこみる?」
 玲二の視線の先を追い、女子たちの視線も和也に流れる。
 和也は居心地の悪さを感じる。平凡な自分と比べているのだろう。しかし、女子たちの視線は玲二と和也を交互にみて、なぜか表情が輝いていく。和也は玲二の視線を無視して、さっさと目的のものを探しに行く。
 キッチン用品を物色する。自炊をすることが多いので、使い勝手の良いキッチングッズをちょこちょことかっているのだった。とはいっても、あと半年ほどであのマンションもできることになるので、最低限のものにはしている。
「あ、あった」
 ブンブンチョッパーを物色していると、カゴを手にした玲二が近づいてくる。何気なく籠の中身を見ると、湯呑や茶わんなど、生活用品が中に入っている。
「それ、便利なのか?」
「使ったことないけど、みじん切りが簡単にできるって」
「そうか」
 そういって玲二は、棚にあるブンブンチョッパーの箱を籠の中に入れる。
(料理はしないんじゃなかったっけ)
 和也は不思議に思いながらも、次の目当てであるトングをみにいく。手のひらサイズのものが使い勝手が良い。和也についてきた玲二もトングを手にとって、カゴにいれていく。
和也はトングとブンブンチョッパーの箱をレジに持っていく。会計をしようとすると、また玲二にとられた。
「買ってやる」
「いいって」
 少し問答するが、周りの視線がまた自分たちに集まっていることに気付いた。その隙をついて、買われてしまう。
「あとでまとめて払うから」
 何度言ったか分からない台詞をいうが、玲二はうんともすんとも言わなかった。
「腹減ったな。どっかで昼めし食おうぜ」
 完全に玲二のペースだ。和也の返事を待たずさっさと歩き出した玲二は、エレベータに乗って5階を押す。飲食店ゾーンまでいくと、一番奥にある中華料理店に向かった。
 案内されたのは、窓から街が見える一席だった。周りは昼時ということもあり、そこそこに埋まっている。和也がメニューを眺めていると、玲二はさっさと注文を終える。
「お前も一緒でいいだろ?」
「あ、うん」
 別に何かが食べたいということもない。10分ほどすると、点心のセットが運ばれてくる。色とりどりの点心が机の上に広がると、和也は感嘆の声を上げる。
「こういう彩の点心はきれいだよな。来季のメニューの参考にしよう」
「メニューはお前が決めてるのか?」
「俺じゃなくて、女将や板長が中心だけど」
「お前も料理はできるんだろ?」
「まあ、板長に仕込まれたから。厨房は遊び場のひとつだったし、自然と
 高倉別荘ではなぜか和也は後継者だと思われている。和也はそんなつもりはない。祖父にも冴子にも伝えているのだが、どうもふたりはどうしても和也に継がせたいようだった。
 支払いは当然のように玲二がクレジットを出した。しかも、和也がトイレに立った間にという手段をつかっていたため、和也はどうしようもなかった。
 スーパーは地下にある。
「先に荷物載せてくる」
 和也は頷いたものの、何度目かの首をかしげる。
(もう、解散でもよくないか?)
 和也にとっては買い物が最終目的なのだが、玲二も最後まで付き合うつもりらしい。
(まあ、いいや。さっさと買おう)
 メニューは決めてあるのでぽいぽいと籠に入れていく魚コーナーを眺めているところで、スマホが震えた。メッセージを見ると、異母兄だった。
「あ」
「どうした?」
 玲二がいつのまにか傍に近寄っていた。思いもしなかった登場に、びくりと震えるが、玲二が手元をのぞき込んでくる。
「に、異母兄さんから連絡あって、急用が入って、一緒に夕食食べられないって
「そうか」
 玲二の声は平時と変わらないが、やや柔らかな声色になりなぜか和也にさらに近寄ってくる。それに気づかず、和也はつぶやいた。
「食材、どうしようか。まあいっか、享のところにでも
「享?」
 和也はぽつりと親友の名をつぶやくが、玲二が眉をひそめて見下ろしてくる。ハッと顔を上げると、玲二の顔が思わぬほど近い距離にあった。それに驚きのけ反ってしまうが、なぜか玲二はさらに距離を詰めてくる。眼力がすさまじく、和也はそらすことができない。
 先ほど出た名は誰なのかと問いかけているようだった。
あ、エッジのことなんだけど。あいつも料理全然作れなくて、俺がたまに差し入れしてるんだ。酒のつまみが殆どだけど。
 ――だから今日も、そうしよっかなって」
「へえ」
「?」
 先ほどまでは穏やかな声色だったのに、途端に玲二の声が不機嫌になる。
どこに不機嫌になる要素が合っただろう?和也は不思議に思いながらも、スマホを操作する。メッセージを送ろうとして、ハタと気づいた。
「あ、だめだ。あいつ今日、実家に帰ってるんだった
 享の実家である黒崎家もなかなかの資産家である。あまり実家に帰ることはないが、たまに実家がらみで呼び出されるらしい。
『俺がいなくても、好きに使っていいからな。というか、毎日いて、俺を待っていてくれ』
 先日合鍵を渡してこようとするのを和也は断った。それも堂々とアモーラルでサイファの癖のある面々に生暖かい笑顔で見守られながらだったので、和也は内心悲鳴を上げていた。仲間内では笑いごとで済む話も、アモーラルでは違う。いらない噂は立てられたくない。性質の鋭さからエッジと呼ばれる男なのに、蕩けるような甘い笑顔を和也の前ではみせるのだ。