けろか
2024-11-29 19:11:08
3278文字
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大学生竹くくクリスマス話①

現パロ、大学三年の竹くく。
へーすけが彼氏🎋のために頑張ってプレゼントは俺をするお話です。②と③が🔞の予定です🫶

 
『クリスマス 下着 エロい』

 スマートフォンの検索欄に、兵助は震える指で文字を打ち込んでいた。羞恥心よりも大きな期待が、胸の奥で熱く渦を巻いていく。

 ***

 街はもうすっかりクリスマスムードに包まれていた。薄曇りの空の下、まだ点灯していないイルミネーションの傍らを、人々の白い息が行き交う。ショーウィンドウに飾られた赤と緑のオーナメントが季節を主張し、恋人たちが寄り添って歩く姿が目立っていた。
 どこもかしこも華やいでいる街を眺めながら、兵助は革張りの椅子に身を沈めた。ちょきちょきと小気味良い音が耳元で響くたびに、少しずつ頭が軽くなっていく。
 美容院は苦手だった。誰かと会話を続けなければならない時間が、どうにも得意ではない。だから黙々とタブレットを見ていたのだけれど、前髪を切るときばかりはそうもいかなかった。
「久々知くん、前髪切るから顔あげてー」
「あ、はい」
 斎藤タカ丸の柔らかな声に、はっと画面から目を上げる。
「久々知くん、今日はクリスマスデートのおめかしとか?」
「そんなんじゃないです、たまたまですよ」
 否定の言葉が必要以上に強くなってしまったのは、先日の八左ヱ門との会話を思い出したせいかもしれない。

『ごめん、兵助!実験が入っちゃって……クリスマスの予定、家デートになっちゃうんだ。しかも帰り遅くなるかも...ほんと、ごめん!』
 謝り倒す恋人の前髪はぴょこぴょこと揺れていた。いいよ、しょうがないって、俺も同じようなことあるから分かるよ、と答えはしたものの、少しだけ胸が詰まった。

 獣医学部に通う八左ヱ門と、建築学部の兵助。二人とも大学三年の冬。八左ヱ門の方はそもそも六年制で、兵助は院進する予定なので就活はまだ先のことだが、研究室を決めたり、そもそも進級がかかった実習にテストにその他諸々――などと楽しくないイベントが目白押しの時期だった。
 でも、たまたまクリスマスは兵助の予定が空いていて、ちょっと前までは八左ヱ門も都合が合っていた。二人で幸運に喜び合って、どこかに出かけようと計画を立てていた。
 しかし、祝日に授業が当たり前にある我が大学は、クリスマスを考慮するはずもなかった。唐突に、八左ヱ門の方だけに、時間のかかる手間な――終わるまで帰れない実験実習が入ってしまったのだ。
 お豆腐の工場見学に行く予定だったのに。クリスマス限定の豆腐が食べられると聞いて、ずっと楽しみにしていたのに。

 ​​​​​​​​​​​​​​
 鏡越しに見える店内では、同年代らしい女の子たちが華やかな声を上げている。「クリスマスはね」という言葉が聞こえるたびに、彼女たちの瞳が輝きを増していくようだ。小さくため息をついた。
「というわけで、クリスマスのデートはありません」
「そっかあ、理系の大学生って忙しいよねえ。実験とかレポートとか大変そう」
「まあ、なんとかなってます」
「忙しすぎてキムワイプ食べるんでしょ?」
「さすがに食べはしないです。お豆腐みたいで可愛いなとは思いますけど」
 タカ丸の手にした鋏が一瞬止まる。いつも軽やかに動くのに、どうしたのだろう。
「そ、そっかー。でも、まあ二人のことだからお外のデートはしないけどお家で一緒に過ごすんでしょ? いいねぇ」
「......」
 顔が熱くなる。家で、二人で。まあそうなのだ。外デートじゃないけれど、世間一般的にいうおうちデートのためにここにいることには違いない。鏡に映る自分の頬が薄紅色に染まっていく。
「あ、前髪切り終わったよ」
 絶妙なタイミングでかけられた声に、兵助は密やかな救いを感じた。これ以上話を続けていれば、どんどん赤くなっていく自分の顔を誤魔化せなくなってしまう。静かな安堵とともに、タブレットに再び目を落とした。
[読みかけの画面には『彼女からもらった♡とっておきのクリスマスプレゼント』という記事が表示されていた。キラキラと輝くハートマークの装飾に縁取られた見出しの下に、いくつもの体験談が並ぶ。
『セクシーな下着をつけてお出迎え♡ プレゼントは私って言われてすっごくドキドキした!嬉しかったです 21歳 男性』
 二十一歳、男性。ものすごく大きな括りのはずなのに、兵助の頭の中では不思議なことにその声が具体的に再生された。誰でもない、恋人の竹谷八左ヱ門の声で。
『おかえり、八左ヱ門』
 想像の中の自分の声が、耳の奥で響く。
『お、おほ......兵助、そ、その格好......』
 息を呑むような声。いつも破天荒な八左ヱ門が珍しく言葉を詰まらせる姿を思い浮かべる。
『お豆腐にする?それともお風呂?それとも......プレゼントの、俺にする...?』
 セクシーな下着を目に焼いた八左ヱ門は、真っ赤な顔で目を見開いている。次の瞬間、がばっと抱きしめられて、兵助は温かな胸板に顔を埋めた。
『わ、......!』
『そんなの...兵助に決まってるだろ...?』
 耳元で囁かれる声は、いつもの明るさとは違う、甘くて色っぽい音色。そんな声でそんな風に抱きしめられたら、きっと、たぶん、絶対に、完全にめろめろにとろけてしまう。

 八左ヱ門が好きそうなセクシーな下着ってどんなだろう。黒とか? 白とか? レースとか? 俺はいつもグレーのボクサーだけれども......。次々と映像が紡がれていく。顔が熱くなる。その熱は胸の奥まで染み渡って、思考さえも蕩かしていく。
「久々知くん? 久々知くん?」
 タカ丸の声が、甘い妄想の泡をぷつんと弾いた。
「ふぁ、はい!」
「切り終わったよ。前髪、もう少し切る?」
「わああああ、大丈夫です」
 慌てて両手を振る。鏡に映る自分の顔は先ほどの薄紅色とは比べものにならないほど赤くなっていた。まるで完熟トマトだ。タカ丸に妄想を見透かされているような気がして、小さく縮こまった。
 黒いケープを外される。ふっと首元が軽くなった。濃い青色のセーターを鏡越しに見て、タカ丸は目を丸くした。
「さっきも思ったんだけど、この色すっごく久々知くんに似合ってるよねえ」
「そうですか? ......ありがとうございます」
「うん! ロイヤルブルーと白い肌の対比が絶妙。ブルベの久々知くんにぴったりだよ」
「ブルベ......?」
 言葉の意味はわからなかったけれど、改めて胸元の青を見つめて、密かに頬を緩ませた。このセーターは八左ヱ門からのプレゼントなのだ。クリスマスの二十四日に用事が入ったとわかった日、彼の誕生日である十二月五日にプレゼントを交換していた。兵助は彼に橙色のセーターを贈り、そして八左ヱ門は兵助に濃い青色のものを贈ったのだ。恋人は、己にぴったりなものを選んでくれたらしい。
「竹谷くん、ブルベとかわかって選んだのかな?」
「いや、動物的な勘で選んだと言ってました」
 にっと八重歯を見せて笑った八左ヱ門の顔を思い出す。どんな勘だよと突っ込みを入れたら、『んー一番兵助の肌が輝く感じで、あと、脱がしたいと思ったのを選んだ?』と首を傾げられて、恥ずかしげもないその勢いに負けて笑うしかなかった。
「......ごちそうさま!クリスマスも楽しんでねぇ」
 タカ丸の言葉に、ああ、これは惚気になってしまったのかと気付いて、兵助は顔を伏せた。これ以上赤くなれないというのに、また耳まで熱くなってしまう。慌てて会計を済ませ、美容院を後にする。
 薄曇りの空に、うっすらと光が差し込んでいた。その光に誘われるように、心も少しずつ明るくなっていく。課題に追われている恋人に、今夜はすき焼きでも作ってあげようか。実験で疲れた体を温めるのにちょうどいい。
 コートから覗くセーターの袖口をぎゅっと握り、兵助は恋人の住むアパートへの道を思い浮かべた。普段は澄ましていると言われる口元が、今日は自然とほころんでいく。人混みをすり抜ける足取りは、小躍りするように軽やかだった。​​​​​​​​​​​​​​​​