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梶間
2024-11-30 00:00:00
4385文字
Public
カブライ
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11月の誕生日
ライオス誕生日おめでとう🍰
webオンリーイベント「俺はあんたと恋人になりたいんです!!」に合わせて書いたSSです。
「疲れた
……
とにかく疲れた
……
もう立ち上がる気力も出ない
……
」
「お疲れ様でした。ひと段落ついたのでしばらく休めますよ」
十一月も終わりに近づき、温暖なメリニの地も徐々に寒さが深まり冬の気配を感じられるようになった。秋の収穫祭も終え残るは一年の締めくくりとなる祭りを残すのみ、と誰しもが思っていた中、新しい国に新しい祝い事ができた。この度千年の時を超えて蘇ったメリニに、新しく王として就任したライオス・トーデンの生誕祭だ。四月に国を興して以来、目まぐるしく過ぎ去る日々の中、流石に王様の誕生日くらいはなにかした方が良いのではないかと提案があった。それもそうだと周囲が聞いたところ、本人もすっかり忘れていた誕生日が十一月であり、そこからさらに慌ただしい日々を送りながらなんとか生誕祭を終えた。そうして祭りを先ほど終えたばかりでソファにぐったりと身を投げ出したライオスは、天井を見上げて放心している。
「誕生日を祝うだけでこんなに疲れるなんて
……
」
「いやあ色んな人と知り合う良い機会になりましたね」
「そんなこと言えるのは君くらいじゃないか
……
?」
「俺なんかまだまだですよ」
放心しているライオスとは対照的に、補佐官であるカブルーは目元に疲れが見えるもののいきいきとした表情をしていた。今回の生誕祭で多くの地域から様々な人種がやってきて入れ替わり立ち替わり話ができてカブルーはすっかり機嫌が良かった。忘れないうちにと書き留めたメモと出会った人々との記憶を照らし合わせながら書類作成に勤しんでいる。
「ヤアドもさすがに疲れたからと休んでるのに」
「ヤアドさんは精神的にじゃなくて肉体的疲労が凄そうでしたね。塵になる、と呻きながら腰を抑えてましたよ」
「後で誰か回復ができる人を呼んでもらおう
……
」
「休息日明けになるんじゃないすか」
「そうだった
……
」
生誕祭の準備、本番が忙しすぎて終了後は城勤めは最低限の人数を残し全員を休みとしたことをライオスは思い出す。昔の仲間たちも総出で手伝い、全員が達成感を得ながら疲れた顔で帰っていったのだった。生誕祭に合わせてこの日ばかりはファリンも帰ってきてあちらこちらを手伝った後、マルシルとともに休息をとっている。
皆無事に休めているだろうかとライオスがぼんやりしながらそれぞれの顔を思い浮かべていると、部屋の扉がノックされた。ライオスが誰だろうと頭をあげている間に、カブルーがさっと立ち上がり扉を開ける。
「ありがとうございます、朝からずっと調理をしてくれたのにこんな時間まで頼んでしまって」
「途中で休みをもらったからわしは大丈夫じゃ。それより若い者が飲まず食わずは良くない。頼まれたものは作ってきたからしっかり食べなさい」
「センシ!?」
扉を開けた向こうには、早朝から生誕祭の食事準備を手伝ってくれたセンシがいた。手伝ってくれていたことは知っていたのに来賓への挨拶周りに忙しくてほとんどセンシの顔を見ることが出来なかったライオスは飛び上がる。慌ててセンシの姿を出迎えると、何やら覆いがかけられた大きな皿を持っていた。
「わー、久しぶり。せっかく手伝ってくれたのに今日は全然顔を出せなくてすまなかった」
「王というのは思ったより忙しそうじゃの。今は休めたのか」
「まあなんとか。カブルーが手伝ってくれたから乗り切れたよ」
「そうか、それなら良かった。ファリンやマルシル、イヅツミにも渡すものがあるからわしはこれで。また会おう」
「これは?」
「頼まれたケーキじゃよ」
「ケーキ?」
「ありがとうございます、いただきます」
ライオスが戸惑っていると、カブルーがサッとセンシの手から大皿を受け取る。カブルーがにこやかに笑うとセンシも笑い、片手を上げて去っていった。
「お茶にしましょうか、ライオス」
カブルーに中へ戻るように促され、ライオスが首を傾げながら戻るとすでに室内の小さなテーブルにはフォークとカップが置かれていた。疲れた果てたライオスが放心している間にカブルーが用意していたものだ。その働きぶりに、カブルーはやっぱりすごいなあと感心しながらライオスは席に着く。
「挨拶や話が忙しくてあまり食べられないだろうと思っていたんで、センシさんにお願いしてたんです」
そう言いながらカブルーは先ほどセンシから受け取った皿をテーブルに置き、上にかけられていた覆いを取る。すると中から茶色い羽根細工が載せられた三角形のケーキが現れた。
「これは?」
「
……
ハーピーの卵で作った軽食です
……
」
「ハーピーの!?」
口元を引き攣らせながら、それでも笑顔をなくさずにカブルーはライオスにケーキを差し出す。カブルーから出たハーピーという言葉にライオスはひどく驚いた。魔物が苦手で魔物食は食べず、極力近づかないようにしていたカブルーの口から魔物の名前が出るなんて。しかもそうとは知らずに食べさせてしまっていたハーピーで作った魔物食をカブルーから聞くとは思ってもいなかった。
「もしかして案外あの時のが美味しくて
……
?」
「違います」
カブルーは厳し目の口調でピシャリとライオスの言葉を遮る。ライオスの期待に満ちた瞳はあっという間に悲しそうなものとなる。
「魔物食に目覚めてくれた訳じゃないのか」
「目覚めてません。今でも魔物は嫌いですから」
厳しい口調ながらも、カブルーはいつの間にか沸かした紅茶をカップ淹れて席に座る。そうして目の前に座るライオスを見て、眉尻を下げて困ったような表情ながらも口角を上げる。
「魔物は嫌いですが、魔物が好きなあんたのことは知っていきたいなと思いまして」
どうぞ、というように向けられた手を見て、ライオスは置いてあったフォークを手に取る。
「センシさんに頼んで作ってもらったケークサレです。甘いのも良いですが軽食にするなら塩気のある方が良いと思ったんで」
「見た目はケーキのようだけど」
ハーピーの卵を使ったというケークサレは、見た目は甘いケーキと同じように白いクリームを使った三角形の形をしている。それぞれの皿のケークサレには羽根を模した細工が乗せられていた。ハーピーの卵を使用ということでケーキを横から斜めから覗き込むライオスに、カブルーは一枚の羽根飾りを差し出した。
「この羽根飾りは?」
「
……
ハーピーの羽根です」
「ハーピーの!?」
魔物嫌いなカブルーが、魔物の卵を使った食べ物を作るだけでなく魔物の素材まで合わせて用意してくれるとは思っていなかったライオスは再び驚いた。思わずハーピーの羽根を手に取ってじっと観察する。羽根の硬い羽軸部分を手に持ってくるくると回したり、柔らかい羽弁の部分を指でつついて感触を確かめたりと瞳を輝かせてハーピーの羽根を楽しんだ。一人でじいっと羽根を見つめるライオスを、カブルーは静かに見守り続ける。わあ、と小さく歓声を上げながら一通り羽根を眺めたライオスはにこやかな笑顔をカブルーへと向けた。
「君がまさか魔物食や、まして魔物で作ったものまで用意してくれるとは思ってなかったよ」
「俺も友人へのプレゼントとして相手の好きなものくらい用意しますよ」
カブルーからの友人、という言葉を聞いてライオスはより一層笑顔になる。
「友人
……
そうか、友人からのプレゼントか」
今年の誕生日は国内外を巻き込んでの祭りとなったためライオスはまだ身近な仲間たちからのプレゼントは受け取っていなかった。準備でそれどころではなかったため、後日改めて小さな誕生日祝いをしよう、と約束はしていたのだが、まだ誰からも親しい人間から言葉以外での祝いはなかったところにカブルーからのプレゼントはとても嬉しいものだった。
そうか友人からのプレゼントか、と嬉しさを噛み締めながらフォークを手に取りハーピーのケークサレを口に運ぶ。
「ん、美味い。サワークリームと
……
中には鶏肉?まさかこの肉も」
「肉はさすがに普通の鶏にしてもらいました」
「そうか
……
」
「肉は匂いがいまいち合わなくて」
「それなら無理しなくても良かったのに」
「まあ、無理はしてませんよ。俺でも食べられるように作ってもらったんで」
「それなら良いんだが」
カブルーもサワークリームとスポンジを一口分フォークですくい口に運ぶ。スポンジ部分はたっぷりのバターが練り込まれておりどっしりとした歯応えだった。生地の中にはドライトマトとチーズが入っており、爽やかなサワークリームと調和して食べ応えがありつつも軽やかに食べられる一品となっていた。
「美味しいですね」
「うん、本当に美味い。これはいくらでも食べられそうだな」
「ほどほどにしてくださいね」
カブルーが一口咀嚼している間に、ライオスはぱくぱくとハーピーのケークサレを平らげていく。
「友人に誕生日を祝ってもらえるのって嬉しいものなんだな」
「明日落ち着いたらまた皆で祝いましょう。ファリンさんやマルシルが張り切ってます」
「日中大変だったんだからそんなに頑張らなくても」
「好きな相手を祝うのって良い息抜きになるんですよ。町の人たちも悪食王伝説にならって七日七晩宴を開くぞーって、結構な規模でまだ酒盛りやってますし」
「なんか体のいい祭りにされたな」
「新興ながらも慕われてるってことです。賑やかな国になりそうで良かったですね」
心の底から嬉しそうで、それでいて力の抜けた柔らかなカブルーの表情をみて、ライオスも怒涛の日々で掴み取った確かな喜びを確かめる。そうして胸に湧き起こる感謝の念をしみじみと口にした。カブルーを真っ直ぐに見据えて、目を見つめて伝えようとする。
「カブルー、ありがとう。俺と友人になってくれて」
「俺は
……
俺はあんたと、」
カブルーならきっと俺も嬉しいです、と返してくれるだろうと期待していたライオスだったが、予想に反して詰まってしまった言葉に不安げに顔を伺う。
「
……
カブルー?」
「俺も、あんたと友達になれて嬉しいです。そうですよ、いつか言いましたが俺はずっとあんたと友達になりたかったんだ。これからもよろしくお願いします、ライオス」
そう告げてカブルーはハーピーのケークサレを一口頬張る。もぐもぐ、ごくん。すぐさま咀嚼し飲み下した後に、カブルーがにかりと笑うとそれを見たライオスも安心して紅茶を飲み干した。
カブルーが飲み込んだ言葉とその真意を、いつか迷宮で叫んだときのようにライオスにぶつけるのはまだしばらく後のこと。
陽が落ちた城下町では明かりが灯り、まだまだ祭りの賑わいが続いていた。
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