バラ肉
2024-11-29 04:10:39
6406文字
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戯言を謳う

🦋移住決意により募集した『リプ来たセリフで小説を書く』タグにて、
ひうがりおんさんより「「そ、そんな事はないんじゃが……っ……ぬぅ」で将スグ


初めての将スグですが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。。。

また、今後ともよろしくお願いいたします!

スグルにとって怖いものは山ほどある。

ラーメンマンが語る中国の怪談話。
テリー牧場のボス猛牛。
ロビンマスクの屋敷廊下にズラリと飾られた額入りの代々当主の自画像。
ブロッケン邸の血濡れのトレーニングマシン。
ミートの本気のお説教等々。
それこそ挙げればキリがない。
中でも一番怖いもの。それは彼にとっては思い出したくもない過去の対戦相手こと、未だにトラウマ的な存在で。

******

……
チラッ。
微動だにしない相手へ向けて、スグルはバレないようこっそりと視線を向けた。
横から見上げた巨体はまるで彫像のように真っ直ぐ立っており、頭2つ以上差があるスグルからは一体どんな表情をしているのかはわからない。ましてや目元しか見えないフルフェイスマスクだ。ほんの少しだけ……と、相手の顔色を伺おうと背伸びしたのもわざとではない。
だんまりを決め込む男はきっとこちらの存在なんて気にも留めていないだろうから。
しかし、

……なんだ。何か用か?」
「ひぎゃっ!? と、ととととんでもありましぇん!」

よもや、ギロリと赤い目がこちらを向くとは予想だにしていなかったスグルは、驚きのあまり変な声を上げてしまった。
ドキドキドキッ
何もしてません!と言う代わりにピシッと姿勢を正すものの、畏怖と緊張に鼓動がうるさいくらいに跳ねる。
(お、怒らせてしまったじゃろうか)
ドギマギする気持ちをどうにか落ち着かせるため、半泣きの瞳は真正面のご先祖様こと銀のマスクを見つめる他なかった。

***

ことの始まりは、悪魔将軍サイドからの一本の通信からだ。

『あやつと蹴りがついたことを、弟に直接報告したい』

そう、悪魔将軍直々にキン肉星の王家専属通信室へアクセスが来た時。予想外の事態にキン肉星は、それこそ文字通りの大騒ぎだった。
また、この話を飲むイコール「悪魔将軍がこの場にやってくる」ことに繋がる。
あの悪魔将軍が自分の星に来る……考えるだけでも、スグルは全身の震えを止められなかった。
正直な気持ちを言えば、断りたい。しかし、それを言ったら全てがお終いな気がすることくらい、小さいオツムでも分かっている。
ならば、と藁にもすがる思いで前大王である真弓に相談したところ。
「ええ!?儂に聞くのか!!」
完全に蚊帳の外気分だった父が役に立たないのは火を見るよりも明らかだった。
それでも居ないよりはマシ。「さあどうする?」と親子で顔を突き合わせたものの、やはり根っこの似た彼らでは中々埒が明かず。

結局、黄金の脳を持つお目付け役からの

「相手は、元を正せば銀のマスクと対になる金のマスクことゴールドマンです。話を断るのはキン肉王家としてできないでしょ!」

これでもかと正論を突き付けられた彼らは、「確かに……」と真顔で頷き合った後、了承の返事を出すに至った。
勿論他にも「タツノリ様とサダハル様、アタル様とスグル大王のように、兄弟の絆を重んじる家柄として。また、金・銀のマスクを大々的に飾っていた手前、キン肉王家がその打診を受諾するのは当然です!」と、ぐうの音も出ない説明があった上での納得なのは言うまでもない。
決して、液晶越しでも感じる悪魔将軍とその後ろに控える悪魔超人達の威圧感の屈した、という理由では断じてないだろう。

そんな彼等だから、もしもの時のために……とアイドル超人達を呼びつけ、展示室前の廊下に控えさせたのも、本人達曰く飽くまで念の為である。
ちなみにそれを察してかは分からないが、悪魔将軍側もお供と称し残存する悪魔超人達をひき連れてきたので、どちらもおあいこと言うべきか。
結果として、各陣営の面々が顔を合わせた途端、一触即発のムードになったのも、全て偶然の産物に過ぎない。



そんな経緯で、キン肉大神殿の金のマスク・銀のマスク……今は銀のマスクのみが鎮座する台座の前に悪魔将軍と並んで立つこととなったスグルは、居心地の悪さに苦虫を噛み潰したように口元を歪めていた。

報告をすると言っていたものの、台座を前にした悪魔将軍は特に何かを話しかけるわけでもなく、ただジッ……と弟のマスクを見つめるばかりだった。
きっと心の中で、これまでのことを語りかけているのだろう。
ザ・マンと共に果てる筈の運命が、こうして生き残ることとなった。条件をつけ、彼と牽制し合う関係に終結し、幾年ぶりに、対話をすることができた。そういうことで、自分がまだその隣に帰るのは時間がかかる——そう、サイコマンとの死闘後の出来事をシルバーマンこと銀のマスクに伝えていることは、雰囲気からでも察せられた。
だからこそ、彼等の運命を変えた張本人として、スグルはやや擽ったい気持ちになっていたのかもしれない。
これがもし相手がただの超人だったなら、彼はきっと照れ隠しにふざけたことを言って今のしんみりした空気をぶち壊していたはずだ。
しかし、実際隣に立つのは本人とっても最も恐ろしい男である。
一体どんな報告をしているのか。好奇心と恐怖心が綯い交ぜになった末に、相手の態度を気にしたのも当然のことだ。
とはいえ、やはりこっそり盗み見ていた後ろめたさはあったのか。

強張った顔で直立するスグルに対し、一方の悪魔将軍はといえば……特にこれといった反応は示さなかった。
この不遜な男にとって他人の機微など気にするに値しない。羽虫が近くで戯れたところで鬱陶しいだけ、それと同じだ。

ただ、ごく僅かにだが、傘下の悪魔達以外にも興味という感情は存在するらしく。
眼下で何か言いたげに唇をモゾモゾさせる男を一瞥すると、彼はふむと己の顎を撫でた。そして気まぐれのように、チラリとスグルへと視線を落とす。

「キン肉マン」
「は、はいぃぃっ!!!」

いきなり名前を呼ばれ、伸びていた背筋が更に伸びる。
……フッ」

その姿に、興が乗ったのかもしれない。
悪魔の長はさも揶揄うように目を細めた。

「私が何を伝えていたか気になったのか? 物好きなやつだ。……まさか、貴様のことを報告しているとでも思ったか?」

「へあ!? そ、そんな事はないんじゃが…………ぬぅ」

流石にそこまで烏滸がましいことは考えておらんわい! と反射的に言い返そうとしたものの、赤い視線と絡み合った瞬間、言葉が尻窄みになってゆく。

……フッ」

そんな言い淀む姿に、悪魔の総大将の纏う空気がほんの少し緩む。本当に、少しだけ。

「そこまで愚かではないか」

静かに呟く低音は威厳と共にどこか気安さがあり、ぐぬぬっと言い返せない葛藤に歪む顔を見つめる赤がゆっくりと弧を描く。
そして男は、どんな気まぐれか。眼下にある頭ををポンポンッと撫でるではないか。敵を倒すためではなく、柔らかなタッチの力加減はさながら愛玩動物を愛でるのに似ていて。
「っ!?」
いきなりの事態に、やられた当人は驚きのあまりすぐには理解が追いつかなかった。だが、頭に感じた感触は確かなもので、幻でもなんでもない。
「え、あ、ええっ!? ちょちょちょッ!あ、悪魔将軍しゃん?」
一瞬間を置いて慌てふためくスグルとは反対に、頭に置いた手は一向に退かない。むしろ、頭の形を確かめるように撫でる有様だ。
「貴様はシルバーマンの系譜つまり、私にとっては弟のようなものかもしれんな」
「な、ななっ!?」
おまけに、自分を“弟”だなんて!
スグルの小さな頭ではその言葉を咀嚼するキャパはなかった。混乱する表情は青褪めたり赤くなったりオーバーヒート寸前だ。
それが男の嗜虐心をそそるとも知らず。
案の定、さも愉快げな眼差しをする悪魔の首領は、ふむと顎を摩ると、

「いや。……血が薄まっているし、番(つがい)にしても構わんかもな」

更に爆弾発言を放つものだから、受けた本人は堪ったものではない。
ずいっと背中を丸めて顔を近付ける姿はさながら何かを値踏みするかの如く。しまいには伸びた手が腰から臀部のなだらかなラインを撫でるから、やられた方はますます混乱を極めた。
「な、ちょっ!?」
流石にこれ以上のおふざけはいただけない。
冗談は好きだが、性的な話題には疎い男だ。これ以上は黙ってられないと怯えも忘れて相手を睨む。だが、あの”悪魔将軍”相手にそんな涙で濡れた睨みなど通用するわけもない。

「ふむ。安産型だな」

言うなり、スグルの顎を掴んで持ち上げる男の目はギラギラ欲望の灯火を隠す気もなかった。
このままでは何をされるかわからない。思わずギュッと両目を瞑った瞬間。

「「「「「ちょっと待った!!!!!」」」」」

バーンッ!!と豪奢な扉が引かれたかと思えば、そこには正義超人の面々が居並んでいるではないか。そして揃って二人の元へ駆け出そうとしたタイミングで。
「「「「我らが将軍様に何をする気だ!?」」」」
今度はそこに向かって悪魔超人達が駆けつけて——その場はまさに混沌と化すのみ。

「み、みんな! 落ち着かんかい! わ、私は大丈夫だから!!」

「フンッ。……折角の場を五月蝿くしおって」

混戦模様の面々を諌めるスグルとは反対に、一気に騒がしくなった空気を鬱陶しそうに一瞥した悪魔将軍は、興醒めとばかりに肩を竦めた。
どこまでも傲慢な男は自分が元凶という自覚などないのだろう。
……低俗な争いに付き合う気はない。今回はこれで引き上げるぞ」
静かに呟くと、徐に腕を真横に上げた。すると掲げた手の先の空間がぐにゃりと歪む。見る見るうちにそれは渦のように円形に広がっていき、数分も経たない内にワープゲートが作り出されていた。
勿論、繋がる先は悪魔超人達の居城だ。
(やることは済んだ……
ここに留まる理由はない。
目の前の喧騒を横目に、彼は己が作り上げたゲートへ向き合った、その時。

「も、もう帰るのか! その……高いお茶と茶菓子と、あとその、牛丼も一応用意しとったんじゃが」

不意に、その大きな背中に震える声が飛んできた。
……
振り返れば、テリーマンとバッファローマンの仲裁をしている最中のスグルと目が合う。その顔は本当に帰るのか、と、さも残念そうで。

「キン肉マン!何を言ってるんだ!」
「ひええ! で、でも客人には変わらんし……!」

怒鳴るテリーマンの言葉は至極当然だろう。こんな場面で、呑気に相手をもてなす話を持ち出すなんてあまりにも空気が読めていない。バッファローマンへスリーパーホールドを決めていたのをわざわざ解き注意する顔は呆れと怒りが半分ずつ占めていた。
「そ、そんなに怒らんでもええじゃろがい!」
体を縮めながら半べそをかくスグルへ向ける視線は、怯えるのを承知してか、酷く厳しい。
「お前と言う男は……もう少し自覚を持て!」
「え、な、自覚ってなんじゃ? 私はただ普通のことを……
「普通も何も、今は関係あるか!」
ついには両肩を掴んで揺さぶる顔は普段の優男から鬼気迫るものに変わっていた。
気付けば他のアイドル超人達も乱闘をやめて二人の動向を見守っている。
大切な親友が“番”やら“安産型”など尻を撫でられた。これはスグルに対して親友以上の強い思いを抱いている彼等には到底許し難い態度である。
なのに当人のこの楽観的思考ときたら。

「キン肉マン、テリーマンの言う通りだぜ!」
……そうだ。私も今回ばかりはお前の肩は持てん」
見るからに憤るブロッケンJr.と静かに怒りを見せるラーメンマン。

「お前は、自分がどれだけ我々にとって大切な存在なのか思い知るべきだ、キン肉マン」
「(コーホー) 俺もロビンに同感だ」
赤い瞳を鋭く光らせるロビンに、うんうんと遠慮なく頷くウォーズマンの二人もその危機感のなさに焦燥を抱いたらしい。

「え? え? そ、そんな……みんなして私を責める気なのか!? で、でも来客をもてなすのは大王の役目だってパパが」
「だから時と場合を考えろ、という話だ!」
一気に追い詰められて半泣きになるスグルは、しかし仲間達の言い分が納得できないのか。キョトンとする顔の幼さに、テリーは可愛いと思う反面この男にどう諭すべきか頭を掻き毟る。

対して、そんな正義超人達のやりとりを見守るしかない悪魔超人達は「なんだこいつらは?」と白けた空気を醸し出していた。一人、バッファローマンだけはその輪に入りたそうにしているものの、他からは妙な脱力感が見える。
勿論、それは彼等を従える悪魔将軍も同じだ。

「キン肉マン……
「っひゃい!!!」

こんな時でも真面目に返事をする当人とは反対に、その周りから一斉に敵意に満ちた眼光が飛んでくる。それを承知の上で、男はワープゲートに足を掛けながらスグルを一瞥した。

「私を恐れるな。そして、受け入れろ」

「!!??」

「ではな」

たった一言、簡潔に告げた悪魔将軍は正義超人達の顔色がサッと変わったのを横目で確認するなり、その身をゲートの中に潜らせた。続いて、悪魔騎士、悪魔超人の順で同行していた面々が飛び込んでいく。
ただし、完全に正義超人サイドに注意を向けていたバッファローマンだけはその中に入る直前で
「貴様はそこで馴れ合っていろ」と、ゲートを閉じられる羽目となった。
それは決して正義超人達と水入らずの話をしろ——という訳ではなく。むしろ、悪魔サイドの代表として上手い言い訳をしろという人身御供に等しかった。
案の定、行き場のない苛立ちを灯した男達の前に荒れ狂う猛牛は滝汗を流すばかり。


そんな、人柱のごとく置いていかれたバッファローマンのことなど気にも留めず。
帰って早々、己の定位置に向かう悪魔将軍にニンジャとジャンクマンは些か渋い顔を向けていた。
ちなみに、同じ悪魔騎士のはぐれ悪魔コンビは水鏡に映るキン肉星の様子を見て爆笑しているので割愛だ。

「将軍様。何故にあのようなお戯れを?」
「別にとやかく言う気はありませんが……ちっとばかし悪趣味なのでは?」
頭を垂れつつも苦言を呈する二人に、張本人はどこ吹く風だ。

「いやなに、弟には散々『兄さんは誰も娶らないのですか? 子供っていいですよー』とマウントを取られたことを思い出してな」
いわば、単なる意趣返しのようなものだ。

淡々と語る声に悪びれる気配など皆無。
答えを得た二人も、あまりにも小さな理由にどういう顔をすれば良いのか冷や汗をかく。

「はあ。それはまた……なんというか」
……そんな理由でかよ。キン肉マンのやつもご愁傷だな」
「ジャンクマン、声が大きいぞ」
「おおっと! わりぃわりぃ」

……ふぅ」

ついつい本心が漏れる部下の戯言は聞かぬふりをして、彼は不意に、かつての自分に向かって送られた弟の笑みを思い出す。

『家族は良いものです。僕と兄さんは勿論のことですが……連れ合いを持つことは酷く尊い』

いつもと同じ微笑を称えた顔は、しかし何故か自信に満ちていて。妙に眩しかったのを思い出す。

『そんなものか?』

呆れて尋ねるこちらにクスクス漏らす声はやけに明るく。

『ええ、楽しいですよ。毎日が笑っていられる。……特に愛しい人と一緒だと、余計にね』

そう、妻だと紹介した女の顔を見つめる姿は今まで見た中で最も誇らしそうだった。



(私も、あの男を隣に置けば……違った愉悦を得ることができるだろうか)

玉座に腰掛けた男は、長い足を組み替えながらそんな戯言を考える。
と、同時にクックッと低く喉を鳴らす。

(二度目の生、新しい楽しみを見つけるのも良いかもしれん)



そう、ダイヤモンドの鎧の下で黄金の唇が笑った。





【お楽しみは、まだまだこれから】