fedge
2024-11-29 03:49:08
3751文字
Public カピオロ
 

異質同形(前編)

5.2想定 書きかけ(中編全年齢・後編R18予定)
ただ戦闘シーンが書きたかっただけ説はある

「君に来てもらえて助かったよ、忙しそうだから、無理かもなって思ってた」
「なに、提示された場所の近くに小さな拠点があったからな。その復興状況の確認ついでだ」

謎煙の主の集落から南西に位置した崖の裏側に、新たな秘境が見つかった。だが、その秘境は特殊な元素視覚を有していないと解読できない仕掛けで施錠されていた。謎煙の主の中でもその視覚を扱えるものはそう多くなく、また、要職に就いている者が多いため動ける人間が少なかった。
部族の若者としてやれることはやらねば、とオロルンが調査を引き受けたが、解読は簡単に終えられたものの、そもそもの開錠に強い氷の元素力が必要でどうにもならなかったのだ。

「ばあちゃんだったら、自分で視て、自分で開けてってできたんだろうけど。僕じゃ開けられなくて」
「そういえばシトラリはどうした。それこそ一人で全部できる彼女に任せるのが適任だろうに」

オロルンは困ったように眉を寄せて、肩をすくめてみせる。

「イファに聞いたんだけど、3日前くらいに『八重堂からシンカンが届いた!』って叫んで以来、家に引きこもっているみたいだ。それ以降は部族のだれとも会っていないらしい」
……なるほど」

表情は見えないが、隊長が呆れているとわかる。

「とにかく、開けてくれてありがとう。これで調査が進められる」
「待て、もしかしてお前ひとりで秘境に入るつもりか」
「うん。さっと確認してくるだけだし、一人でも大丈夫かなって」
「俺も同行する、一人では危険だ」
「君が来てくれるなら百人力だけど……時間は大丈夫なのか?」
「問題ない。なんなら今日はこの後休みを取るつもりだったからな」

顔は平静を装っているが、フードから覗いている片耳がぴこぴこと揺れている。

……そんなに俺と一緒が嬉しいか?」
「どうしてわかったんだ?……嬉しいよ、君のそばにいると安心するからね」
「またお前はそうやってすぐ……
「何だい?」
……いや、なんでもない。こんなところで喋ってるのも何だ。さっさと片付けてしまおう」

二人は秘境の入口に手をかけ、門を押し開いた。


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「俺が付いて来ていなかったら、調査は日を改めることになっていたな」
「やっぱり、君に来てもらえて本当に助かったよ。えっと、そこの台の左上……そう、そこに氷塊を打ち込んでほしい」

秘境に入ってすぐ、入り口同様に特殊視覚と氷を使う仕掛けがあった。本来なら壁のラクガキから仕掛けのための氷が得られたのだろうが、かなり老朽化しているのかラクガキが使用に耐えない状態になってしまっていた。
3つ目の仕掛けを解いた時、突然、二人の間に鉄格子が落とされた。二人は離れた位置で仕掛けを解いていたため巻き込まれることは無かったが、完全に分断されてしまった。

「うわっ!危ないなぁ……隊長、そっちは大丈夫か」
「こちらは何ともない。この程度ならば壊せないこともない……が、少し危ないな」

全体的に古くなっているこの秘境で、頑丈な鉄格子を破壊するほどの力を加えれば――万が一だが、秘境ごと崩壊する危険がある。

「幸いにも両側に別の道があるようだ。これをどうにかできないか、それぞれ探すとしよう」

これ、と鉄格子をノックするように叩きながら、隊長はそれぞれの先にある扉を見やる。

「そうだね、一人になるのは少し寂しいけど……

耳がぺたんとなっている。今日は一段とわかりやすい。

――さっさと終わらせるか。早く先へ進むぞ」
「うん、わかった。じゃあまた」

各々道の先へ進み、合流方法を探ることとなった。

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……何も、ないな」

降りる階段があるだけで、仕掛けらしい仕掛けが何もない。
仄暗い階段を暫くまっすぐ降りると、大きく開けた空間に出た。
中心部に、戦争以降幾度も見かけた紫色の禍々しい植物――ミミックパピラが鎮座している。

……大量発生でもしているのだろうか。こんなものが高頻度で現れたらたまったものではないぞ」

さっさと片付けてオロルンと合流しなければ。
隊長は細身の片手剣を冰気で生成すると、ぐちゃぐちゃと圧縮を始めたミミックへ歩み寄る。
フォンテーヌに居るという海駿と魔像を模したミミックを氷刃で瞬殺する。

「他愛ない。所詮は只の幻術か」

おそらく次切れば消滅するだろう、と見込んだ最後の姿をミミックが模る。

――は?」

眼前には、フードを被ったヘテロクロミアの蝙蝠耳の青年――の姿を模したミミックが現れた。
何故。
困惑していると、偽オロルンが雷撃を放ってくる。

――俺を馬鹿にしているのか?魔物風情が」

踵を返し、偽オロルンに背を向けたまま数多の氷塊を展開する。ぐっ、と拳を握りこむと、凄まじい威圧感と共にそのすべてが偽者に集中して放たれ、偽物は圧壊し形を保てなくなった。

……たかが幻術で、俺が怯むわけがないだろう」

圧死したであろうミミックに背を向けたまま佇んでいると、部屋の側面の壁が透けた。
どうやら反対側の部屋が見えているようで、同じように部屋の中央にミミックパピラが居る。
丁度その部屋に、オロルンの姿――今度は、本物のようだ――が現れる。

「オロルン!」

隊長が声を上げるが、聞こえている素振りは無い。遮音されているようだ。透明な壁を叩こうとするが、その手前で阻まれ壁自体に触れることすらできない。
俺なら、俺であればこの程度の敵など造作もない。だが、オロルンはどうだ。
鍛えられたファデュイの兵士ですら、一人での討伐は厳しい代物だ。
壁ごと壊すか?
否。そんなことをすれば秘境が崩壊すると、鉄格子のところで自分で言った。
駆け戻り鉄格子を破壊するか?
否。この壁を破壊するよりは無事な可能性が高いが、間に合わない。
逡巡している間に、オロルンの眼前にいるミミックパピラが、兆載永劫ドレイクの姿をとる。

ドレイクが翼を広げ飛ぼうとした刹那。左肩が、捥げる。急所を的確に付いた紫電の矢が、ドレイクの肩の付け根の部品を破壊した。片翼を失い体制を崩したドレイクに、冥色の宿霊玉が飛ばされる。雷撃が爆ぜ、ミミックパピラはドレイクの姿を崩した。

次に模ったのは立方体の塊色を見るに、水元素の無相だろうか。
立方体が展開し、中央の核が見えたタイミングで、オロルンはおもむろに黒色の塊を投げ込んだ。それは着弾し跳ねると、回転しながら周囲に電撃波を撒き散らす。1つ、また1つと浮いていた立方体が感電して地に落ち、核が剝き出しになる。宿霊玉がそれを捉え、爆ぜた。
四散した無双の核と破片たちが、吸い寄せられるように1か所へ集う。

「アレは本当にオロルンか……?」

かつての副官の魂がオロルンを乗っ取ろうとした時のことが脳裏を過る。
あの時の動きは確かに別物だった。今もそれに近しく見えるが、杞憂だろうか。
ミミックパピラと対峙するオロルンの眼は、いつもの懐っこい愛らしさではなく、触れたら焼かれそうな光を湛えた、獲物を狩ろうとする狩人の眼だった。

三段階目、おそらく最後の変形。
その姿を視認したオロルンは目を見開いていた。見ているだけしかできない隊長も、同じく息を呑んだ。
――俺だ。
豪奢な意匠の仮面を被った、黒衣の男が、そこに居た。


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偽隊長は氷の塊を数個空中に展開し、オロルンに向かって射出した。
着弾地点に留まらないよう床を蹴り、跳躍する。空中から偽隊長の頭に狙いを定め、雷属性の矢を放った。偽物は片手剣でその紫電の矢を弾き、オロルンの真下へと駆けてくる。
足元に向かって黒色の球体を投げつける。展開した電撃が偽隊長の足を取り、動きが緩む。
緩慢な動きになったところで、すかさず頭部に向けて宿霊玉を放り投げる。
視界を奪いゼロ距離まで駆け寄ると、勢いのまま、背中を容赦なく全力で蹴りつけた。
偽物は吹っ飛び、壁に躰を打ち付けられる。見かけ以上にダメージが入っていたのか、偽物はそれで動かなくなり、紫の霧となって散った。偽物が纏った氷気とオロルンの放った宿霊玉の雷が反応し、超電導が起きていたようで、思った以上に蹴りのダメージが入ったのだろう。
……俺の見た目を借りたにしては弱すぎるが、オロルンが無事であるなら何よりだ。

オロルンが偽隊長を撃破すると同時に、間を隔てていた透明な障壁が消えた。

「オロルン!」

オロルンは障壁が消えた隣の部屋から駆け寄ってくる隊長に、キッ、と鋭い目を向けた。

「俺は本物だ。警戒を解け」
「っは!確かに本物だ、よかったぁ……
「ミミックパピラを一人で仕留めるなんて、本当によくやった」
駆け寄った隊長がくしゃっとオロルンの頭を撫でると、気が抜けたのかその場にふにゃふにゃと座り込んでしまった。

「はは……ごめん隊長、ちょっと肩を貸してくれないか。集中が切れてしまって、立てないみたいだ」

下から見上げてくる青と紫の瞳には、いつもの優しい光が戻っていた。


– 続 –