ちよど
2024-12-04 00:00:00
4388文字
Public カルヨダ
 

わし様がカルナさんを調べる話

カルヨダ。ヨダナさんとカルさんのお医者ごっこ?を見ているアシュくんの話。pixivより再掲

カルさん「感覚がないとは言っていない」

 ベッドに押し倒されたカルナは、そのままのしかかってきた旦那のために黄金の鎧を解いた。
 旦那の寝室は周回で稼ぎまくったQPを使って豪華な調度品が飾られている。天蓋付きのベッドもそのひとつだ。
 今、その男が三人横になれそうな程広いベッドには仰向けに倒れているカルナと、その体の上にまたがっている旦那がいる。
 いつも魔力炎と黄金の鎧を纏った二臨姿を好んでいるカルナだが、鎧で旦那を傷つけるのを避けて三臨のほぼ武装無しの姿になっている。身体にぴったりとした黒の装束だけになっているカルナは、どこかなまめかしく見えた。
 一方旦那は一臨の軽装だ。だが、旦那、自分がドーティを履いていると理解しているか?無防備な内股がカルナの骨盤の上に座っているんだが。カルナの股間の防具がそこにあるからいいようなものの。体勢的にはその、なんだ、あれだ!あれっぽいんだよ!!!
 顔が赤くなりそうなのを俺は持っていたバインダーで隠した。
 そんな俺の気も知らず。
「アシュヴァッターマン。ほら、こっちに来い。記録を頼む」
 何も気づいていない旦那に呼ばれて俺は天蓋の中に滑り込んだ。
 香が炊きしめられているのだろう。穏やかな甘い香りがする。柔らかに沈むベッドに腰を降ろして身体をひねると、カルナがこっちを見ていた。
 助けて欲しいのだろうか?表情に乏しいカルナからは感情が読み取れない。
「カルナ、いいのか?旦那はやる気みてぇだぜ」
……構わない。俺はドゥリーヨダナが望むのならばこの心臓すらも捧げよう」
 その気持ちは分かる。
 うんうんと頷いていると、旦那が声を上げた。
「わし様心臓なぞいらんが?心臓を無くしたらおまえ達がおらんくなってしまうではないか!それは困る!すんごく困るぞ!!」
 自分のことしか考えていない言い分に心が暖かくなる。
 ろくでなしの主君はカルナの無防備な胸元に手を這わせた。
「それでは調査を開始する!アシュヴァッターマン、項目を読み上げてくれ」
 促されて俺は手元のバインダーに視線を落とした。
 そこに留められた何枚かのコピー用紙にはこう印字されている。

『人体で生成された鉱物を対象とした調査』

 アスクレピオスと署名されたその調査票は2人分ある。
 俺の沈黙に気づいた旦那がひらひらと手を振った。
「おまえの分は捨てておけ。我がカウラヴァは安売りなどせん」
 俺はこの身体にある鉱物。額の宝珠を抉り取った事がある。それは敗北の証だった。
 それを無遠慮に調べられることを良しとしないとこの人は言う。
 胸から熱がじんわりと広がるような心地に俺は目を伏せた。
 それはそれとして、安売りということは調査代行でマージンを取ってるな。これは。
 まあ、あまり親しくない医神に弄り回されるより旦那にされる方がカルナも気が楽だろう。
 気を取り直した俺は調査票の一枚目。最初の質問に顔をしかめた。
「どうした?」
……『貴方の胸の宝石は生まれついてのものですか?』」
 場に沈黙が落ちる。人の心がないと評判の医神は最初からフルスロットルだった。
 カルナは生まれてすぐに母親に捨てられた。俺の額の宝珠が生まれた時からあったことは父が何度も語ってくれたが、カルナにはそんな人はいないのだ。
 カルナが無表情のまま口を開いた。
「生まれた時からかは分からないが、目が開く前からついていたようだ」
 その返答を調査票に書きなぐりながら俺はパーンダヴァの連中に再び怒りを覚えた。
 目も開いていない赤子を川に流すなど、母親の所業ではない。
……アシュヴァッターマン、次の質問は何だ?」
 警戒の滲む旦那の問いかけに俺は視線を滑らせる。
「『全ての宝石に感覚はありますか?』」
「ふむ」
 旦那がカルナの胸に広がる小さな宝石と中央の大きな赤い宝石をコンコンコンと順番に突っついていく。
「痛いか?」
「痛みはない」
 俺はしばらく迷ってから調査票に『感覚なし』と書いた。
「次行くぞ次、『宝石の質感はどのようなものですか?それぞれに違いなどありますか?』」
「質感だぁ?硬いとか柔らかいとかか?」
 旦那が首を傾げる。旦那はその身分ゆえに宝石には飽きるほど触っているが、質感を表現しろと言われても困るだろう。
 俺たちは戦士で、鑑定士じゃねぇ。
 旦那は無造作に胸の中央の宝石を指の腹で擦った。カルナの体がびくんと跳ねる。
「驚かせたか?……普通の宝石と同じだな。温かくもないし、柔らかくもない。つるつるしているな。まるで研磨されたもののようだ」
 俺はバインダーだけを見つめて旦那の言葉を記録した。
 旦那は小さい方の宝石にも手を伸ばしたのか、どれも同じだな、と呟いている。
っ、『宝石の周辺に傷口など皮膚の切れ目はありますか?』」
 旦那の動きを遮って次の質問を読み上げる。顔を上げると旦那は不思議そうな顔をしていた。
「傷があったら沐浴の度に大惨事なんだが。……あるのか?」
 旦那の指が胸の中央の宝石の縁をぐるぐるとなぞる。
 自分で自分の身体に癒着していた黄金の鎧を削ぎ落としたカルナなら、多少の傷があっても黙っていそうだ。
「いや、ない」
 ほんの薄っすら顔を上気させたカルナの断言に俺たちは胸をなでおろした。
「『宝石の間に繋がりなどはありますか?』」
「つながり?」
 旦那の指が宝石と宝石の間を滑る。わずかに身じろぎしたカルナに旦那はさらに指を走らせた。
「くすぐったいのか?ん??」
「旦那」
 制止に旦那はこちらを見た。にやりと笑う。
「おまえは爆笑するカルナを見てみたいとは思わんのか?」
 見てみてぇ。
 だが、こんな手段はだめだろう。
「旦那」
 再度の制止に旦那は唇を尖らせた。いたずらを止めた手の下でカルナの薄い胸が微かに上下している。
……ドゥリーヨダナ。俺が笑えばお前は喜ぶのか?」
「わし様はおまえが笑ったところをみたいが。おまえを笑わせたいわけではない」
 さっきまでくすぐっていた奴の言う事ではない。
 旦那が命じればカルナは無理にでも笑うだろう。だが旦那は強欲だからそれでは足りないのだ。
「次行くか。ぁ゙!?」
「なんだ?また変な質問か?」
 旦那の問いかけに俺は唸った。
……『どんな味がしますか?』」
「ーーー舐めろと?」
 真顔になった旦那をカルナは真っ直ぐに見上げた。
「俺は構わない」
 迷いのない返答に俺は思わず自分の額の宝珠を意識した。カルナの胸の宝石も俺の宝珠と似たようなものだとすれば。

 ーーー旦那の舌の感触を想像してしまう。

 旦那なら、旦那なら、構わないが、俺はカルナのように即答は出来なかった。

 ーーーいつもカルナは旦那に対して躊躇わない。



 昔、旦那が酷く落ち込んでいた時があった。死すら望む旦那の側で俺は何日も慰めていたがそれは旦那に届く様子もなかった。
 そんな時、途中で黙っていなくなったカルナが帰ってきたのだ。土埃だらけの戦装束で返り血もそのままに。

 ーーー我が友よ。おまえの国を広げてきた。

 この数日で周辺国を平らげてきたと言ったカルナに旦那は絶句した後、笑い出した。

 ーーー手に入れたばかりの国は難しい。これはわし様が統治せねばならぬな。死ぬ暇もないではないか!
 
 どれほど俺が言葉を尽くしても応えなかった旦那を、カルナはその行動で揺るがしたのだ。 
 カルナの献身は無私だった。クル国に捧げるために周辺国を侵略した莫大な軍事費や損害は全て、カルナが治めるアンガ国で賄ったのだ。
 父から領土を譲り受けたばかりの俺では、カルナのように即座に戦支度を整えることも、国内の反対意見を黙らせることも、出来るはずがなかった。
 


 悔しいと思う。
 今も、宝珠を抉り取った俺と、その身の鎧を剥ぎ取ったカルナ。状況はそれほど変わらないというのに旦那は当然のように俺を守ったが、カルナに対しては配慮などしていない。
「わし様、石を舐めたことないから味の違いなど分からんが?」
「安心しろ。俺もない」
 言いながらカルナの手が旦那の肩掛けを丁寧に巻き取っていく。それを見て旦那はもぞもぞと体勢を変えた。
 カルナの上に腹ばいになった旦那に、なるほどカルナはそれで肩掛けがしわにならないよう巻き取って横に置いたのかと納得する。
 一見、カルナの細い体を体格の良い旦那が押しつぶしているようにも見えるが、カルナも鍛えているのだから少しも苦にした様子はない。それどころか、カルナの横顔にはほんの少しの喜びに縁取られているように見えた。
「ドゥリーヨダナ」
 何かが滲んだ声色に、旦那は促されたのかと思ったのか舌を伸ばす。
 赤く濡れた舌先がカルナの宝石を舐め上げた。
 体の横にあるカルナの拳が強く握り込まれたのを俺だけが見た。
……味などないな」
 旦那ののんきな感想に、俺はカルナから目を背けた。
 さっきカルナから滲んだ感情の色は俺が旦那に持つものとは明らかに異なっていた。
 俺がカルナのような事が出来ないのは旦那に対する覚悟の違いかと思っていたが、それは間違っていたのだろう。
 カルナはもしかしてずっと旦那を。
「旦那……カルナと付き合ってるわけじゃねぇだろ?」
 だったら、残酷なことするなよ。
 と俺が言うと。距離感がバグっている旦那は不思議そうに首を傾けた。
「突然何を??……まあ、わし様のカルナはいい男だからな。付き合うなら最高の恋人になるだろう!」
 高らかに宣言した旦那の背中に、カルナの手がまわされる。
 突然抱きしめられた旦那が状況を理解出来ず俺を見た。
 旦那、見るのは俺じゃねぇ。
 ちらりと見たカルナの目は宝具発動の時のように赤く染まっていた。
 俺はベッドから立ち上がる。追いかけてくる旦那の視線に事実を告げた。
「カルナの宝石だが、俺と同じなら神経が通っているぜ。それ」
 するりと天蓋から出た俺の背後で旦那が叫んだ。
「それは感覚があるということではないかー!!!」
「感覚がないとは言っていない」
 ドサリ、とベッドから音がする。旦那の質問に痛くないとしか答えなかった施しの英雄が体勢を入れ替えたのだろう。
「ドゥリーヨダナ。……俺はおまえから与えられたものを少しでも返すことが出来たならそれでいいと思っていた。だが、」
 カルナの言葉を最後まで聞かずに俺は部屋の外に出た。
 だからこの後何があったかは知らねぇ。
 ただ、この後しばらくカルナがたまに胸に手を当てて微笑んでいたり、医務室の素材がやたらと増えたと聞いたぐらいだ。
 旦那の姿はしばらく見かけなかった。施しの英雄にも独占欲があるじゃねぇか。



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