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ちよど
2024-12-01 00:00:00
7098文字
Public
わし様など
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全てを手に入れるわし様と夜明けの話
カルヨダ、アシュヨダ、ビマヨダ。
アシュくんもカルナさんもビーマさんも手に入れるわし様の話。pixivから再掲。
カルナさん「俺は地獄に落ちたが、今はドゥリーヨダナの側にいる。おまえも同じだろう」
夜明け前にストームボーダーの甲板に出たい。
そんな旦那のために食堂で用意してあった軽食をもらってきた俺は部屋に戻ってあたりを見まわした。
カルデアに召喚されてすぐに部屋が狭いと駄々をこねた旦那は、隣り合った三部屋、
……
つまり俺とカルナと旦那の部屋の壁をぶち抜いてひとつの空間にするという荒業でそこそこ広い部屋を手に入れた。
そのついでに間取りや内装も変え、今の俺達はプライベート空間を共有している。
その寝室に旦那の姿はない。
決して小柄とは言えない俺達三人が余裕で眠れる大きなベッドにはカルナだけが座り込んでいた。
時刻は朝の4時。
俺達ならともかく毎日の周回で疲れている旦那はいつもなら爆睡している時間帯だ。
「旦那は?」
俺の問いにカルナは隣の浴室を指さした。
「己の視野でしか見れぬ者は他者の労力を知ることはない」
「ビーマか!!」
旦那の後に召喚されたビーマと旦那は顔を合わせる度に派手な口論をしている。
慌てて浴室に駆け込んだ俺は息を呑んだ。
大人三人が転がってもまだ広い浴槽に紫の髪が揺れている。三臨の長い髪は水に広がって、旦那の黙っていれば端正な顔を隠していた。伸ばされた素足と、胸の前で組んだ手は死者を思わせる。
ーーーそれは、俺の罪によく似ていた。
ふらふらと浴槽に近づくと湯気が俺の頬を撫でた。その暖かさに目を閉じる。
ざばり、と水が溢れる音がした。
目を開けると浴槽の縁に手を掛けた旦那が体を起こすところだった。
「
…
旦那」
「納得いかんっ!!」
旦那が生きていることに安堵した俺が声をかけるとほぼ同時に旦那が叫んだ。
「なんでわし様が馬鹿ビーマに売女呼ばわりされねばならんのだ!」
「あ゛?」
主に対する侮辱に俺は旦那を勢いよく引き起こした。
「ちょっとあいつの霊基を消滅させてくらァ」
ランサーに対しアーチャーは不利だが、今ならまだなんとかなる。
そう告げた俺に旦那は顔をしかめた。
「カルデアで召喚されたサーヴァントを消滅させるのは難しいぞ。召喚システムを弄るか、レイシフト先で事故にあってもらうしかあるまい」
「なるほど」
機会が来るまで様子見ということか。とりあえず俺は頷いた。
浴槽から出た旦那はうっとおしそうに長い髪をかき上げている。
脱衣所からカルナがバスタオルを持ってきた。ふたりして旦那の体を拭くと旦那はくすくすと笑う。
機嫌を直した旦那に俺はそっと声をかけた。
「旦那、嫌なことにイライラするのは分かるが。なにも水に沈まなくていいだろ?」
「うーん。わし様ギーが入った壺から生まれたからなぁ。サーヴァントは溺死せんし」
胎内回帰願望という奴だろうか。分かっていたが旦那はこの癖を止めるつもりはないようだ。
また水に沈む旦那を見つける度に俺の心臓は止まりそうになるのだろう。
「ドゥリーヨダナ。濡れた髪では外出もままならない」
カルナの指摘に俺達はリビングに移動する。俺が旦那の髪をドライヤーで乾かしている間に、カルナが俺が貰ってきたサンドイッチを旦那に持たせている。
はむはむと食べる旦那はいつも魔力不足だ。
それは終わらない素材集めの周回のためで。旦那には不要の丸いアレとQPを集めて朝早くから夜遅くまで働かされている。
今日も朝から周回だ。
夜明けを見た後に甲板から戻るとしたら食事をとる暇もないだろう。
本当は少しでも寝かせてやりたいし、食べさせてやりたい。
「うむ、なかなか美味かった。わし様満足。
……
で、夜明けまでどのくらいだ?」
「あと30分といったところだ」
カルナが手元の携帯端末を見ながら答える。サーヴァントに支給されるそれはカメラ機能、通話機能、位置情報に加えSNS(サーヴァントネットワークシステム)にアクセス出来る優れものだ。
俺も同じものを持っているが、旦那は持っていない。マスターが持たせなかった。
『ドゥリーヨダナにSNSを使わせたらまわりを巻き込んで派手に炎上する未来しか見えない』
……
否定出来なかった。
今は特にビーマがいる。たまにしか顔を合わせないオフラインでさえ辺り構わず言い合っているふたりが、いつでも繋がれるオンラインでどこまでヒートアップするか予想もつかない。
まあ、携帯端末を持っている俺とカルナが旦那の側にいれば不便はないだろう。
俺も携帯端末で時間を確かめて旦那を促した。
◆
高速で空を駆けるストームボーダーの甲板の上は風が強い。風に暴れる髪に嫌気が差した旦那が三臨から一臨に姿を変えたぐらいだ。
まだ薄闇の空を旦那はきょろきょろと見回して、何かを見つけたのか甲板の端に走っていく。薄紅色のドーティが風にはためいた。
まさか落ちたりしないよな。
心配になって俺は駆け寄る。俺の後を髪がバサバサになったカルナが続いた。
甲板の端にはたまに休憩にくるサーヴァントがいるのだろう、長いベンチが固定してあった。
その空が見える特等席に座って、旦那は楽しそうに俺達を手招きする。俺とカルナで旦那の両隣に座ると、旦那は空を指した。
「昨日の夕方に出たらしいぞ」
「何が?」
俺の問いかけに旦那はくふくふと笑う。その視線が示したのは日が昇りつつある薄雲が広がる空。
夜が明けようとしていた。
空の色が変わる。薄青ではなく紫が広がっていく。またたく間に空を染めた紫は、
「わし様の色だ」
旦那が笑う。紫色に焼けた空がその背後に広がり。
……
俺は意識を失った。
◆
さほど広くない沼の水面は空模様を写して紫に変わっていた。
俺が行った夜襲の煙は夜明けの空を覆い、青いはずの空を紫に染めている。
それは腕の中の人と同じ色だった。
鬱蒼と茂った森の中、俺は命を手放した主君を抱えて沼に足を踏み入れた。
木々の影と見頃を過ぎた睡蓮が俺が起こした小さな波に揺れる。
静かだ。
この戦争で生き残ったカウラヴァは俺を含め三人。夜襲を終え、この人の嘆きを受け、この人を看取った後。他の二人とは別れた。
この先には未来はない。命が尽きるまでパーンダヴァの連中を一人でも多く道連れにするだけだ。
足元に汚泥が纏い付く。体が沈む。少しでもこの人が濡れないように庇いながら俺は沼の中央へと進んでいく。
これは俺のエゴだ。
腕の中の人の顔はひどく損壊している。額は割れ、鼻は折れて、目も片方潰れている。体を清めた時に見たふとももの傷は擁護のしようがない程大きかった。
この人の体をあのままにしておけば、いずれ誰かに見つかっただろう。
そんな事が許せるはずもなかった。
この人のこの傷を、この屈辱を、衆目に晒す事など出来るはずがない!
だから俺は死体を隠す。誰にも見つからない沼の底へ。
許して欲しいと、願うことすら許されないだろう。
本来ならば王族の、王の後継者として、美しい布に包まれ、多くの人に見送られながら王家の祭壇で荼毘に付されたはずのこの人を。こんな寂しい場所で何の装飾も付けられず淀んだ水に沈める。
誇り高いこの人はきっとこんな最期を望んでいなかった。
夜襲までしておきながら首を取り違えた事といい、俺はこの人の期待を裏切ってばかりだ。
命が絶える瞬間まで嘆かせてしまったというのに、正式な埋葬すら出来なかったことで死後も苦しめてしまうだろう。
それでも、俺は、あなたをーーー。
沼の水位が胸の高さを超えた。
俺はドゥリーヨダナを抱えていた腕をゆっくりと水につける。
この空の色より美しい長い髪が水の中に広がっていく。腹部が水に浸かり、伸ばされた足が水面に沈み、胸の前で組まれた手が水中で微かに浮き上がった。
そっと自分の腕を抜き取る。
花が沈むようにゆっくりと沼底に落ちていく大切な人を俺はずっと見つめていた。
◆
「
……
アシュ、
…
アシュヴァッターマン!」
旦那の声に目を開けると、薄い紫水晶の瞳がこちらを覗き込んでいた。表情は影になってみえない。俺の体はベンチに横になっていて、俺の頭は
……
旦那の左膝に乗せられている。
思わず飛び起きようとすると、旦那に押し戻された。
「もう少し寝ておけ」
その声色に不快感はなく、俺は少し息をついた。
旦那の大きく硬い手が俺の額を撫でる。
「顔色がまだ悪い。ーーー何を思い出した?」
喉が締め付けられた気がした。
「おまえはわし様の生前では空を見てぶっ倒れるような奇矯な癖はなかっただろう?では、これはわし様が死んだ後に起こった何かが原因に違いない。そしてそれにはわし様が関わっておる。うむ。わし様名探偵。褒め称えてよいぞ」
得意げな口調に思わず疑問を投げる。
「なんで、旦那が関わってるって思うんだ?」
「おまえ、
……
わし様以外の奴が原因であんな反応をするのか。この浮気者」
ぺし、と軽く額を叩かれて少し笑ってしまう。
「ほら話せ、話せ」
笑みを含んだ声と共に肩を揺すられて俺は泣き出しそうになる。
それでも、あんな事を告げられるはずがない。
口を閉ざした俺に影が差した。カルナだ。
驚いて顔をあげた旦那の表情に笑みが残っていて、俺はまた泣きそうになる。
カルナが旦那を見た。
「俺も、ドゥリーヨダナに言うべき話がある」
「何だ?」
カルナの真剣な表情に旦那が座り直した。
「死後の事だが、俺は地獄に落ちた」
「はぁ!?お前は
法
ダルマ
を破っていなかったではないかっ!」
旦那の叫びにカルナは頷いた。
「俺の罪は他にある。ーーーお前を裏切った事だ。ドゥリーヨダナ」
「
……
お前、わし様を裏切っていたのか?」
低い声にカルナは頷いた。
「お前は俺にパーンダヴァ五兄弟を倒す事を期待していたが。俺は母との約束によりアルジュナ以外を見逃した」
カルナの告白に旦那はしばらく黙り込んだ。
「
……
いつ約束したんだ?」
「俺が司令官に任命された朝だ」
旦那の体が震える。
「こっ、の!馬鹿者ーーーっ!!それが分かっていたらいくらでも利用出来たというのに!!」
旦那はカルナを怒鳴りつけるが、その怒りの方向性が俺が想像していたものとは違う。
「おまえはいつもそうだ!鎧を剥ぎ取られた時も最初わし様に黙って出陣しただろう!!後で話を聞いたわし様が、どれだけ
……
」
口ごもった旦那に、カルナは視線を落とした。
「すまない
……
」
「すまないで済んだら警察はいらないんですー!」
口を尖らせてそっぽを向いた旦那は、すぐに何かを思いついたのかにやりと笑った。
「かぁるな」
ご機嫌な様子でカルナを俺の反対側に座らせた旦那は、カルナに両手を差し出した。
「携帯端末かーしーて」
「ああ」
カルナからあっさりと携帯端末を受け取った旦那はすすっと操作して、ふたりの間に掲げた。
「わし様、心の友と写真を撮ってみたいなぁ」
「
……
協力する」
ちらちらと投げられた旦那の視線に促されて、カルナが体を寄せる。
その後頭部を旦那の手が鷲掴みにした。
強制的に向きを変えられたカルナの唇と旦那の唇が重なる。
シャッター音がした。
「
……
投稿、と」
キス写真をSNSに投稿した旦那は満足げに笑う。カルナに返された携帯端末がけたたましく通知音を連続で鳴らし始めた。
あまりの惨劇に旦那の膝の上で硬直していた俺に、旦那はにたりと笑いかける。
「次はお前だ」
飛び起きた!
捕まった!
腕の中でもがく俺に旦那は楽しそうに笑う。
「さあ、さっさと話せ」
まだ抵抗する俺に、カルナが言う。
「俺は地獄に落ちたが、今はドゥリーヨダナの側にいる。おまえも同じだろう」
お前が今落ちているのは炎上というSNSの地獄だ!
このままでは本当に同じ地獄に落ちてしまう。
……
恐いのは、旦那が本気で望んだなら俺は応じてしまうという事だ。
片手で俺を抑え込んだ旦那のもう一方の手が俺の体をまさぐる。意外と器用な手は鎧の隙間に挟んであった携帯端末を見つけ出した。
「話す!話すから!!」
キス写真をSNSに投稿するのはやめてくれ!!
そう叫んだ俺に旦那はにやりと笑って腕を離してくれた。
自由になった体で旦那の隣に座りなおす。視線を落とせば、旦那が俺の携帯端末を弄んでいるのが目に入った。カルナの携帯端末からはまだ通知音が響いている。
目を閉じる。
思い出すのは紫に染まった沼。
「ーーー旦那が死んだ後。俺は、旦那の死体を
……
沼に沈めたんだ」
「それだけか?」
拍子抜けしたような旦那の声に思わず顔をあげる。旦那は考え込むように首を傾けていた。
「本当は
……
荼毘に付すべきだった」
「まあそうだな」
「家族の元にも連れて行かなかった」
「あんな状態のわし様を触ったら、母上は卒倒しかねんからなー。それでいい」
俺の行動をあっさりと肯定して、旦那は視線を巡らせた。
「まあ、パーンダヴァの連中の手に渡らなかったのはお手柄だ。わし様が祝福されてビビって逃げ出したくせに。後でろくでもない事を思いついたかもしれんからな」
「ろくでもない事?」
葬儀も行わず沼に沈めるより酷いことがあるのかと問えば、旦那は嫌そうに言う。
「パーンダヴァ主催のわし様の葬儀。
……
権威付けにはぴったりだろう?」
思い出す。俺はあの即位式を見たのだ。俺から抉られた宝玉が王冠の中央で誇らしげに飾られているのを雑踏に紛れて見上げていた。
あの時はなんとも思わなかった。
でも。もしかしたら、あんな風に旦那の骸が扱われていたかもしれない。
背筋を冷たいものが滑り落ちていく。
動けなくなった俺の後頭部を熱い大きな手が掴んだ。
顔の向きを変えられる。
さっと近づいてきた顔が触れた。
シャッター音。
「投稿、と」
「旦那ぁああああ!!」
叫んだ俺に旦那は子供のように笑う。
「わし様約束してないもん」
可愛く言う旦那の手の中で、俺の携帯端末が通知音を鳴らし始めた。
「ほい」
返されるが、画面を見るのが恐い。
俺とカルナの携帯端末がずっと鳴り響いている。旦那はその間で空を仰いだ。
「わし様の色じゃなくなってしまったなぁ」
空はもうただの薄青に染まり、太陽は白い地平の彼方から姿を見せていた。
風が吹く。俺達三人は心地よい沈黙の中、空を見上げ。
……
上空から降ってくる人影を見つけてしまった。
俺が立ち上がると同時に、その人物は槍を片手に旦那の前に着地する。
旦那の色とは異なる紫の髪が揺れた。
「ビーマか」
旦那の呆れたような声に、ビーマは不愉快そうに片眉をあげた。
「サボってんなよ。トンチキ野郎。もうすぐ周回の時間だろうが」
「まだ充分間に合うなぁ。
……
厨房係が何をしに来た?」
旦那の後に召喚されたビーマはQPが足りないため二臨の姿で再臨が止まっている。その為、奴はほとんど厨房でしか活躍出来ていなかった。
あからさまな煽りにビーマは持っていた携帯端末を旦那に突き出す。
「破廉恥な投稿してんじゃねぇぞ」
見なくても分かる。さっきの俺とカルナと旦那のキス写真だろう。
旦那はビーマの言葉に唇を笑みの形に歪ませた。
「売女なわし様が破廉恥でも何も問題がないのではないか?ん?」
やっぱりこいつ殺しておこう。そうカルナと視線を交わしていると旦那が手のひらをビーマに向けた。
「そもそも売女と言われても。わし様。生前の妻、カルナ、アシュヴァッターマンと数えても5人にはふたり足らんが?」
言葉通りに三本曲げられた指。ビーマの視線が残りの二本の指に絡みついたかのように旦那は手を振り払った。
生前兄弟五人でひとりの妻を共有した事を当てこすられても唸るしかないビーマは今にも破裂しそうだ。
それよりも俺は旦那がごく自然に婚姻の数に俺達を入れた事にびっくりしていた。
確かにそういう関係ではあるが、そこまで認めてもらえているとは思っていなかったのだ。
「ドゥリーヨダナ」
呼ばれて旦那はカルナに振り返った。目線が合う。旦那が悪巧みをしている顔で微笑んだ。
その顔にカルナが顔を寄せる。
唇が重なった。
「!!!」
ビーマの髪の毛が面白いように逆立つ。
「アシュヴァッターマン」
呼ばれて俺も意趣返しに参加する。唇を触れ合わせるだけの外向けのキスだが、ビーマにとっては耐え難いものだったようだ。
……
旦那に惚れてんだろうな。
こんな反応をされて気づかない奴はいない。案の定旦那はこの上もなくご機嫌に立ち上がった。
脈絡なく旦那の手がビーマの頬を挟む。旦那は少し背伸びをした。
目を逸らした俺の耳を旦那の笑い声が擽る。
「まだ四人目は空いているぞ」
ビーマの声はしない。
旦那の四人目がビーマ?笑えねぇが。この人が望むならそうなるのかもしれない。
熱量を持つ旦那の手が俺の手をすくい取る。
「さて、そろそろ周回の時間だ。わし様面白いモノを見たので今日はすごく頑張れる気分」
その周回で集めているのが、どこぞのランサーのスキル上げ素材とQPだと知ったらこいつはどんな顔をするだろうか。
動かないビーマを置いて俺達は甲板の外へと歩き出した。
俺の隣で旦那が笑う。
夜明けはとうに終わり。太陽は雲を超えて高く昇っていた。
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