夜明 奈央
2024-11-28 10:50:08
4520文字
Public 中太SS
 

問一.その想いを証明しなさい

太宰の恋心を証明するために奮闘する(?)中也くんの話(たぶん16〜17ぐらい)
2023/12/17 中太オンリーの無配
※長らく未収載に気づかずすみません

 太宰は俺のことが好きだ。絶対にそうだ、確信がある。でなきゃ忙しい合間を縫ってわざわざ俺に絡みに来て「嫌い」だなんだと宣言する必要はない。それに、いつも詰まらなそうな顔をしているあいつが、俺と莫迦をやっている時だけは楽しそうなことを知っている。
 太宰は言動はムカつくが顔は良いし、たまに素直に甘えてくる時は可愛いと思わなくもない。勃つか勃たないかという話なら間違いなく勃つ。有体にいえば一発ヤりたい。なんだよ、悪いか。ヤりたい盛りなんだ、わかるだろう。
 ただ相棒に「一発ヤらせろ」というのは如何なものかと思う。その程度の常識は持ち合わせている。あいつが俺のことを好きだと知っていて弄ぶのは少しばかり良心が傷む。いつもの嫌がらせと同じとはいえないだろう。
 幸か不幸か、俺には他に色良い相手もいなかった。やはりここはとりあえず付き合って、それから段階を経て行為に持ち込むのが後腐れもないだろう。
「なあ、俺たち付き合おうぜ」
「は? いきなり何言い出してんの? 頭沸いてるの?」
 天邪鬼な太宰のことだ。すぐに了承されるとまでは思っていなかったが、流石にもっと言い方があるのではないか。仮にも好きな奴に告白されたのだから、せめて驚くとか喜ぶとかあるだろう。何故そんな羽虫でも見るような視線を向けられねばならないのだ。
「何って、手前、俺のこと好きだろ?」
「そんなわけないでしょ? 日頃から嫌いだって言ってるのに何をどうすればそんな勘違いが生まれるのさ」
「手前の言動はどう考えたって俺のこと好きだろ」
「根拠は?」
「根拠?」
「私は別に君のことなんて好きじゃないけど? 君がそう思うんなら何か根拠があるんでしょ? 私が納得するような理由を示せたら認めてあげてもいい」
 どうにもおかしなことになってしまった。だがしかし、これで太宰を納得させることができれば、今後の関係で優位に立てるのは間違いない。
「わかった。証明してみせるから覚悟しやがれ」
 啖呵を切って、その場を後にした。

 とはいえ、いざ考えてみるとこれがなかなか難しい。例えば最初に挙げた「わざわざ俺に会いにくる」というのだって、「中也を揶揄うのが楽しいだけ」とでも言われてしまえばそれまでだった。
 仮に好きだと認めさせられたとしても、恋愛感情ではないと言われれば否定しづらい。俺だって遊びたくて友達を訪ねていったり連絡を取り付けたりすることぐらいある。好きだなどと小っ恥ずかしくて口にすることはないが、それはもちろん好んでいる奴にしかすることはない。だからといって、そこに恋愛感情が存在しないことは明白だった。
 これは想定以上の難問を引き受けてしまったのかもしれないと気づいたのは、後になってからだった。

 俺が頭を悩ませていると、たまたま通りがかった広津に「どうかしたのかね?」と話しかけられた。1人で考えていてもどん詰まりな気がして、試しに尋ねてみることにした。
「太宰って、俺のこと好きだよな?」
「どうでしょう。確かに傍目にはそう見えるが、太宰くんの考えは私には理解しかねることも多い」
「いや、それでいい! それでいいんだ! どういうところでそう思ったのか教えてくれ!」
「総合的に、と言いたいところだが……
 俺が期待に満ちた目を向けると、それに応えるためか広津はしばらく考え込んだ。広津なら人生経験も豊富だし、きっと俺の求める答えをくれるであろう。
「1番は、やはり君といる時の太宰くんは生き生きしている、というところかな」
……やっぱそうだよな?」
「そう見えるな」
 同意が得られたことで自分の意見に確信が持てた。そうだ、太宰が俺のことを好きなのは間違いないはずだ。
「そもそも一般的には好きでもなければプライベートで仕事仲間と過ごすことはないと思うが」
 付け足された意見もご尤もだ。だが残念なことに俺の交友関係は仕事仲間に偏っているから、プライベートで遊ぶ相手もほとんどが仕事仲間だった。その中でも最も一緒にいる時間が長いのが太宰であることは間違いない。
「恋愛感情だと思うか?」
「そればっかりは本人に聞いてみないことには……
 言葉尻を濁された。そう言いたくなる気持ちは大変よくわかるが、俺の方もそう簡単に引き下がるつもりはなかった。
「なら恋愛感情だろうと思ったことはあるか? 疑惑とか、そうも見えなくもない、とかそんなんで良いから」
 尚も言い募ると、広津はうーん、と唸り声を上げた。
「何がどうあっても私から聞いたとは言わないでほしいし、聞いたこと自体心の内に秘めておいてほしいのだが……
 何やら大層でまどろっこしい前置きをむにゃむにゃと唱え始めた。その様子が珍しくて、俄然興味が湧いてくる。広津は別に口が軽いわけではないが、一切の沈黙を守るような面白みのない人間でもない。何やら面白いことを知っていて、どうやらそれを教えてくれるつもりらしい。
 その後もつらつらと言い訳がましい口上を続けたが、最終的に広津から聞いたのは、『俺の入院中は毎晩こっそり病室に侵入して俺の手を握っている』というものだった。
 何度も確認したが、嘘や見間違いではないらしい。しかしいまいち決定打に欠ける。俺のことが好きなのだろうとは思えるが、やはり恋愛感情かといわれると疑問が残る。
 広津に礼を言って別れ、頭を悩ませながら歩いていると、見計らったかのようなタイミングで太宰が目の前に現れた。女連れで楽しげに笑っている。一瞬ちらりとこちらを見て、見せつけるように女の腰に手を回した。
 太宰が女なら見境なく声を掛けることも、同時に複数の女と関係を持っていることも知っている。根っからの女好きで浮気性なのだ。知ってはいるが、こうして見せつけられると面白くない。胸の内でもやもやと処理しきれない感情が渦巻き始める。太宰が俺のことが好きだというのは、俺が都合良く解釈しているだけなのかもしれない。
 そりゃあ好きか嫌いかという2択なら好きだろうとは思うが、そんなことを言ったら太宰にとっては女はみんな好きなのだ。それと比べて好きかといわれると自信はない。
「あーあー、見せつけちゃって。あの女、お前に気があるみたいだったのにぼやぼやしてるから」
 同僚の1人が俺の横に並んで話しかけてきた。視線の先では太宰と女が近い距離で何やら囁き合っている。
「どういうことだよ?」
「ん? 最近あの女によく話しかけられてただろ?」
 そうだったか? と記憶を辿る。確かにそれなりに話をしていたが、仕事の話ばかりだった。多少の雑談ぐらいは挟むが、業務を円滑に進めるためにはそのぐらいは普通だろう。
 俺がピンと来ていないのに気づいたのか「うっわ気づいてなかったのかよ。もったいねぇ」と顔を顰められた。
「にしてもあいつもすげぇよな。本人も気づいてないような相手まで毒牙にかけるなんて」
「なんの話だ?」
「え、お前マジで気づいてなかったわけ?」
 信じられないものを見るような目でまじまじと見つめられる。そうすると多少なりとも怯んでしまうが、心当たりはない。説明を促すと、呆れたような顔でため息を吐かれた。「これは苦労するわ」と何故か太宰に同情までしている。
 そいつ曰く、太宰は俺に気がありそうな女を片っ端から口説き落としているらしい。俄かには信じがたい。単純に太宰が手広く口説く相手の中にそういう女が全て入っているだけではないのだろうか。
 それでも、もしそうだとしたら、それはやっぱり太宰が俺のことを好きだということにならないだろうか。

 幾人かに話を聞き、他にもいくつかの証言を得た。けれどそのほとんどが『俺と話してると睨まれた』とか『恋する人間の顔をしている』とか、本人の主観が多分に含まれたものだった。
 そうして気づいたのは、やはり第3者からの意見で太宰を説き伏せるのは難しいだろう、ということだった。相手は太宰だ。どんな証拠を集めようと本人に理由を説明されれば覆すことは実質的に不可能だ。屁理屈を並べ立てるのに太宰の右に出る者はいない。
 となればこれはやはり、本人に好きだと認めさせるか、「俺のことを好きだと言っていた」と誰かに証言してもらうのが手っ取り早いだろう。目的は好きだと認めさせることだから、なんだかわけがわからない事態になっている。けれどこれは俺と太宰の間の勝負だ。そう簡単に負けを認めるつもりはない。
 だから、1番可能性が高いであろう人物を呼び出した。織田作之助と坂口安吾だ。あの太宰が随分と気を許して〝友人〟と呼んでいるのを知っている。1番といったが、他に太宰が気を許している人物など俺ぐらいしかいないはずだ。この2人が知らなければ正直絶望的といえる。
 2人は訝しみながらも突然の呼び出しに応じてくれた。手短に事情を説明すると、坂口は呆れたようにため息を吐いた。織田は表情の読めない顔でこちらを見つめ返している。
「申し訳ないが、直接『好きだ』というようなことを言っているのは聞いたことがない」
「ええ、僕もありません。間違いなく好きだろうとは思いますけどね」
「こ、根拠は!?」
「根拠と呼べる程のものはないんですよねぇ」
 坂口は視線でちらりと織田にも問いかけたが、首を横に振られた。
「よく楽しそうに中原のことを話しているから、余程仲がいいのだろうとは思っていたが」
「本人はそれを指摘しても『嫌い』の一点張りですよ」
 呆気なく望みは潰えて、ぐったりと机に突っ伏してしまった。また新たな案を考えなければならないらしい。
 まさか付き合うためにこんな難問を突きつけられるとは思いもしなかった。どこの世界のお姫様だ。俺としては別に付き合わなくてもいいのだ。ただ一発ヤりたいだけだったはずなのに、どうしてこんな面倒なことになってしまったのだろうか。いっそ「一発ヤらせろ」と言った方が良かったのか?
 悶々と考え込んでいると、誰かがやってきて、すぐ隣のスツールに座った。ちらりと視線をやって、飛び上がらんばかりに驚く。今まで話題に上げていた太宰だったからだ。
「君さあ、そんなに私と付き合いたかったの?」
 ゆったりと余裕の微笑みを浮かべて脚を組む。
「なんでいるんだよ」
「君が僕に電話した時、隣にいましたからね」
 坂口がしれっと横から口を出してきて、恨めしい気持ちで睨みつける。けれどどこ吹く風といった様子で悪びれた気配すらない。ギリギリと奥歯を噛み締めるが、その行為に意味がないことぐらいはわかる。
「私がどうこうじゃなくて『君が私のこと好きだ』って言えば、考えてあげるのに」
「別に俺は手前のことなんて……
「ふーん。まあそれならそれでいいけど」
 太宰の勝ち誇ったような顔に舌打ちを漏らす。俺はまだ負けたつもりなどない。
 俺たちの攻防戦は、まだしばらく続きそうだ。

 
 
◾️2023.12.17 Dozen Rose FES. 2023 恋仲になってください!
◾️酸化ナトリウム/夜明 奈央


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