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夜明 奈央
2024-11-28 06:30:45
4698文字
Public
中太SS
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そんな話は聞いてないっ!
どうやら中也に恋人がいるらしいと知った太宰がその恋人を嗅ぎ回る話
2024/12/1 中太オンリーの無配
会場でお手に取っていただいた皆様ありがとうございました!
太宰が少し別行動をしている間に、中也がナンパされていた。太宰が近づくと、中也は気がついてちらりとこちらに目配せを寄越す。
「悪いな、これでも俺には恋人がいるもんで」
中也の癖に随分と様になっている。声を掛けていた女性も強引に迫るつもりはなかったようで、太宰の姿を認めると残念そうに肩を竦めた。
「そっか、残念。大事にしてあげて」
女性が去っていくのを、中也は挨拶代わりに手を上げて見送った。中也が格好付けたがりなのは元からだが、ナンパされて調子に乗っているようにしか見えない。なんだか面白くない。
「なあに、あれ? ナンパくらい他人を出しにしてないで普通に断りなよ」
「あぁ? いいだろ別に。嘘は吐いてねぇんだし」
「嘘くらいいくらでも吐けばいいけど」
適当に話を続けるが、中也の台詞がどうにも引っ掛かる。嘘は吐いていない、ということは、中也には恋人がいるということだろうか。
中也に恋人? このお子様が? 1人前に? 恋人?
太宰にとっては、まさしく青天の霹靂であった。中也に恋人がいるのは構わない。好きにすればいい。しかしそれを太宰が把握していないというのは話が別である。それは絶対に許されざることだ。
だって太宰は毎週「今週の負け惜しみ中也」なる会報を発行している身だ。中也の恋人だなんてそんな最高のネタを知らないとは、太宰の高いプライドが許すはずがなかった。
そこから太宰による、中也の恋人探しが幕を開けた。
まずは中也の生活パターンを知る必要がある。素行調査の基本だ。といっても、中也の生活はポートマフィアの仕事をベースにしているから、調査するまでもなく大体の動きは把握していた。
朝起きて、身支度を整え、仕事へ向かう。そして仕事を終えた後や合間に中也曰く〝友達〟と飲み会だのビリヤードだのに繰り出す。仕事が立て込んでいなければ、週の半分くらいは仲間と騒いでいるようだった。残りの半分は取り立ててどこへ出掛けるでもなく、自宅で過ごしている。出掛けても日用品の買い出しくらいか。休みの日は自宅で過ごすか1人でバイクを走らせるか、やはりその仲間と騒いでいるか、のほとんど3択だ。他に特定の親しい人物の影はない。
なんだかんだ自宅で過ごすことの多い中也だが、基本的に自宅に誰かを招くことはない。稀に訪ねてくることはあるようだが、招き入れて共に過ごすようなことはしない。当然ながら、自宅に別の誰かが住んでいる気配はない。もちろん秘密の監禁部屋なんてものも。
一応職場恋愛の可能性についても検討してみた。会うのは仕事中だけ、という線もなくはない。だが、結果は芳しくなかった。中也に懸想している風の構成員はいくらか知っているが、何れも上手くあしらっている。中也にその気があるようには見えない。それはもちろん、取引先や傘下組織に範囲を広げても同じことだ。
いっそ潔癖ともいえる生活だった。ここまで隙のない男も少ないのではないだろうか。一応行きつけのコンビニの女性店員と仲良く話をしていたり、重い物を運ぶ女性構成員を手伝ったり、という小さな接触はあるが、それくらいで恋人だのなんだのと騒ぐ気はない。
本当に恋人など存在するのだろうか。けれど、ただの軽口だったと結論付けるには、どうにも引っ掛かる。検証を打ち切るにはどうにも決定打が足りない。どうせならもう一押しほしい。
中也の生活で明確に親しくしている相手といえば、例の〝友達〟くらいだ。その中に秘密の恋人がいる可能性は捨てきれない。太宰はこの集まりを見張ることにした。
太宰は早速、中也が溜まり場にしている店の店主を買収し、監視カメラと盗聴器の設置を快諾させた。店主が承知しているのだから、カメラの存在に気づかれても問題はない。そして自分は、中也が訪れた時間帯の映像を後で悠々と確認するのだ。
けれど数回の監視を経ても、やはりそれらしき人物は見つけられなかった。莫迦話で盛り上がるばかりで、色めいた会話はもちろん、友人として不自然と感じるようなスキンシップもない。
やはり中也に恋人がいるというのは、やはりその場限りの冗談だったのかもしれない。ここまでやって確信を持てないまま引き下がるのも憚られるが、本当に〝いない〟のであればそれは悪魔の証明で
……
と、頭を悩ませ始めた頃、突然気になる会話が耳に飛び込んできた。
「最近恋人とはどうなんだ?」
「あ? ほっとけよ。手前には関係ねぇだろ」
「いやいや心配しているんじゃないか。最近随分忙しそうにしてるし、会う時間も取れねぇんじゃねぇかって」
「余計なお世話だっつの」
相手は馴れ馴れしく中也の肩に手を回している。カメラの死角になっていて表情は見えないが、きっとにやにやと下衆な笑みを浮かべていることだろう。中也はそれを粗雑に振り払い、強引に話を逸らした。
由々しき事態であった。中也の友達は、中也の恋人を知っているらしい。太宰は未だ見当すらついていないというのに!
太宰は衝撃を受け、今までの調査結果を振り返った。が、やはりどんなに考えても恋人らしき影は浮かんでこない。そもそも交友関係が浅く広く、という感じで特定の親しい人物というのが存在しないのだ。
太宰はうんうん悩み、そこでようやく気がついた。もしや遠距離恋愛なのでは!? それなら会う頻度が低くてもおかしなことはない。となれば、探るべきは中也の通信履歴だ。
太宰は早速その日の晩、中也の家へと忍び込んだ。真っ暗な部屋を忍び足で進み、寝室へと侵入する。中也がぐっすりと眠っているのを確認して、枕元の携帯端末をこっそりと拝借した。
寝室を出てリビングに戻ってから、端末のロックを解除する。解除コードは知っていた。中也は警戒心の欠片もなく、太宰の目の前で何度もこの端末のロックを解除している。指の動きを見ていれば、コードを把握するのは太宰にとって造作もないことだ。
電話、メール、メッセージアプリと順に確認する。けれど相手は太宰も知るマフィア関係者ばかりだ。念には念を入れ、登録名だけではなく生の番号やIDも確認するが、何れも見慣れたものだ。もちろんメッセージの中身も確認したが、恋人らしき甘い言葉はない。
もしやマッチングアプリや匿名掲示板の類だろうか。まさかとは思いながらも、チャットアプリやウェブの履歴なども思いつく限り片っ端から確認していく。けれど、その手のサイトの利用履歴はない。
どうやら遠距離恋愛の可能性も否定されたようだ。履歴を削除しているとも考えられるが、今回は突発的に侵入したから、それを復旧する程の準備はない。
今夜はひとまず諦めて出直そうと、もう1度寝室に忍び込む。ひっそりと端末を枕元に戻すと、その手をいきなり強い力で握られた。
「それで満足か?」
「
……
は?」
「俺のこと、疑ってたんだろ? 疾しいもんもねぇから好きにさせたが、手前が幹部じゃなかったら機密漏洩で俺の首が飛ぶんだが」
中也が何をどこまで知っているのかはわからないが、どうやら何かを勘違いしているらしい。中也がポートマフィアを裏切っているだなんて欠片も疑っていないが、まさか正直に「中也の恋人を探していた」だなんて言えるわけもない。本当に中也が裏切りを疑われていた場合には太宰に調査の命が下る可能性は高いだろうし、一旦話を合わせることにする。
「まぁね。今回のところは無実ってことにしといてあげるよ」
「今回ねぇ
……
むしろそれ見たんなら手前以外にそういう相手がいねぇっつーのは十分証明されたと思うんだが」
どうにも引っ掛かる台詞に内心疑問符が湧く。そういう相手とはどういう相手だ。
「まあいいけど。流石にもう仕事は終わってんだろ? 風呂入るか? 飯食ったか?」
中也は納得したわけではないようだが、諦めてさっさと話題を変えた。眠そうに欠伸を溢すくせに、生来の世話焼きを発揮している。
「
……
まだだけど」
「もう日付変わってんぞ。とりあえずシャワー浴びてこいよ。その間になんか飯用意しとくから」
「私は別に
……
」
「まさかまだ仕事あんの?」
「ないけど」
「んじゃいいじゃん」
「泊まるのはいいけど、私に構ってないで君はさっさと寝なよ」
なんだか押し切られそうなのが腹立たしい。すると中也は如何にも不服そうに太宰を睨み、それから大きなため息を吐いた。
「最近あんま仕事でも顔合わせねぇし、家にも来ねぇから、ちっとくらい顔見て話したいって言ってるつもりなんだけど
……
」
歯切れ悪く、最後の方はもごもごと口の中に取り残された。
中也のペースに乗せられるのは癪だが、素直に要求される分には悪くない。色々と言いたいことはあったが、喉の奥に飲み込んだ。
促されるままに浴室へと向かいつつ考えを巡らせる。中也の恋人とは、もしかして太宰自身のことではないだろうか。
先程の「そういう相手」などという意味深な発言、恋人とは最近忙しくてあまり会えていないだとか「顔を見て話したい」だとか。太宰の端末チェックは浮気調査とでも思われたのだとすれば、辻褄も合う。「中也に親密な相手がいない」というのは、枕詞に「太宰を除けば」があるのが前提だ。
中也の家に唯一頻繁に出入りするのは太宰だ。他の誰かが招かれることはない。気紛れにセックスをするかと思えば、何をするでもなく無為に過ごすこともある。ただ一緒に食事をしたり、眠ったりするだけのこともある。さっきみたいに食事や体調の心配をされることもある。中也が最も長い時間2人きりで過ごす相手は間違いなく太宰だ。客観的に見れば、恋人といって過言のないポジションにいるという自覚は少なからずあった。
けれど、太宰は中也に「付き合おう」だとか「好き」だとか、その類のことを言われたことがない。太宰はともかく、中也はそういう曖昧さを嫌っていると認識していた。だからどれだけ交際に近いことをしていようと、少なくとも自分たちは〝付き合っている〟わけではないと思っていた。だからてっきり他の誰かが存在すると思ったのに。それがどうだ。何故だか中也の友人にまで恋人だと認識されているようだ。
なんだか沸々と怒りが沸いてくる。何故本人の預かり知らぬところで勝手に恋人にされているのだ。これはなんとしてでも中也にはっきりと認めさせる必要がある。
シャワーを終えて出ていくと、中也はちょうど太宰の夜食を作り終えたところだった。タイミングの良さに満足そうに笑顔を見せる。それを尻目に、この場に一石を投じた。
「ねぇ、君のお友達が中也には恋人がいるって言ってたんだけど、それ本当? 私の知ってる人?」
「
……
は?」
中也は笑顔をぴしりと凍り付かせた。
「いや、知ってるも何も
……
」
ごにょごにょと語尾が消えていくのを確認して、その先に続くものが何かを確信する。もう一声を促すために、部下を叱る時と同じ冷たい目を向けると、中也の口元がひくりとひくついた。
「俺は、手前と付き合ってるつもりだったんだけど」
「えー、私は同意してないけどなぁ。だって私、君に『付き合って』なんて言われたことないし。もちろん私も言ったことないはずだけど」
中也がぐっと言葉を呑み込んで、それから覚悟を決めたようにゆっくりと口を開く。
それを太宰は、勝ち誇った気分でじっと見つめていた。
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