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コーラル発酵中テキサスシャーク
2024-11-28 01:52:58
2084文字
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【解放√ラス6♀】nomad
解放√ラス6♀
風の噂でラスが結婚すると耳にし、置いて行かれたような気持ちに打ち拉がれる6の話
ルビコンの空は解放され、その地で生きる人々は歓喜に打ち震えた。
とはいっても状況がすぐに変わることは無い。アイビスの火という災禍からの復興もままならないまま半世紀にわたる惑星封鎖に急激に寒冷化した環境をどうにかするためには、物資も人も何もかもが不足している。
生き残った人々は。少しでもこの星の未来をよくするため、昼夜問わず動き続けていた。
その様子を遠目から眺める少女の姿があった。
621はもとより外部の人間であり、一度ルビコン解放に立ち上がったとはいえ所詮雇われの傭兵でしかない。立場があったとはいえ何度もルビコンのために戦った居た彼らと敵対したこともある。そんな621は今を生きる彼らの情熱に加わることができず、ただ指を咥える様に立ち尽くすほかなかった。これならまだ忙殺されている方がマシだが、ここしばらく621の元へ仕事の依頼は舞い込んでいない。ルビコン解放の英雄という肩書が想像以上に彼女の価値を吊り上げてしまったためか、はたまた大金で人を気軽に叩く企業が星の外に締め出されたためか。戦い以外を知らぬ621には想像もつかない。仕方がなく621はただ時間を潰すため、復興が始まった集落の中に足を向けた。
ルビコンの濁った空に阻まれ、大地に落ちる恒星の光は彼女の行く先を照らすにはあまりにも頼りない。
近くにいるというのに、不可視の壁で阻まれている。自由なはずなのに、酷く窮屈な空に溺れている。リードを握る手を失った猟犬は、群衆の中で孤独に白い息を零した。
そんな彼女の脳波の澱みを心配した目に見えぬ友人が言葉を掛けるが、621は上の空で相槌を返す。自分はこの選択を選んだはずなのに、繋がりを自ら断って空に飛んだというのに、今が過去の彼女を責める。じくじくと痛みを主張する、いびつに空いた胸がその証だろう。
いや、この痛みの原因は一つだけではない。
ラスティ。621を「戦友」と呼び、彼女をルビコンの人々と繋ぎとめる唯一の存在。彼が近々結婚すると風の噂で耳にしたとき、621の胸に言いようもない衝撃が襲い掛かった。
結婚。
世間に疎い621とて知識としては知っている。伴侶と資産と権利を共有する契約。そうだ、単なる契約だ。雇用契約等と何ら変わらない。そう彼女は頭で理解したのに、うまく息を吸うことが出来ない。喉につかえる不快感を吐き出そうにも、自身の意志に関係なく乱れた呼吸が阻む。何故ラスティのことを思うと、胸の奥がえぐられるような痛みを感じるのか、わからない。彼が独り身ではなくなると知っただけで息ができなくなるのか、理解できない。偶々助け合いの精神で戦場を共にしただけだというのに。姿なき友人と共に立ち上がった時、真っ先に手を貸してくれたのが彼だったから? どれだけ思考を回しても、621の体から酸素が失われるだけ。せめて人のいない場所は無いかと、よろめく足取りで彼女は郊外を目指した。
拠点にしている集落の片隅の朽ちたガレージ。何度も持ち主を変えたであろう年季の入った場所に、今は621とラスティのACが格納されている。
最近のラスティは非常に忙しいのか、ACを置いてどこかへ行ってしまうことが多い。ここならば少しは息が吸えるだろうと、621埃っぽい空気を取り込んだ。
「戦友?」
完全に油断していた621の胸が跳ねる。ACの影からラスティが姿を現したのだ。
今、一番会いたくて会いたくない二律背反に混乱するあまり、衝動的に621はラスティに背を向け外へ駆け出していた。何故逃げるのか彼女自身にもわからない。ルビコンの冷え切った風が621の肺を突き刺す。ふらつく足は重い雪に取られ、まともに進まないまま白い海に倒れ込んだ。
「大丈夫か!」
雪原を駆け、無様に倒れ込んだ621をラスティは丁寧に起き上がらせる。重なった彼のたくましい指から伝わる体温が、雪に奪われた熱の代わりに621の華奢な手を満たした。どこまでも愛おしく、いつまでも浸っていたい優しさが、彼女の胸を覆う暗雲を激しくかき乱した。
621は感謝の言葉をたどたどしく述べる。だが言葉はすぐに途切れ、沈黙が二人の間に落ちる。しんしんと降りしきる雪に音が吸われ、まるで白い世界にはこの二人しか居ないのでは? そんな勘違いを621は首を振って否定する。二人などではない、彼はもう自分とは違う場所に行ってしまうのだ。
621は湿り気を帯びた目で、弱弱しくも現実と向き合う。自分を戦友と呼ぶその男の隣には、自分ではない誰かが──
「だれと、結婚をするのですか」
しまったと後悔するも既に遅い。621の口から胸につかえていた言葉が、不意に漏れてしまったのだ。星のような輝きを携えたラスティの瞳が大きく開かれる。
そして、
「君と、だが?」
きょとんとした顔で彼は答えた。
「
……
は?」
この時の621の表情は、完全に眼前の男と鏡映しだった。
とりあえず621は、結婚を前提としたお付き合いから始めることにした。
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