ひかる
2024-11-27 10:34:44
1674文字
Public ロナドラ
 

おせちだけじゃ、ねえよ

おまけのssです。

十二月に入り、おせちの話題を目にする機会が一段と増えた気がする。
黒豆、数の子、小さい魚のやつ。甘くてホクホク栗きんとんに、かまぼこやら昆布で巻いたやつ。
そのほか、各店しのぎを削るように趣向を凝らした料理を詰め込まれ、煌びやかに飾られている。
まあ、俺はおせち、買ったこともなければ、初めて食べたのもつい最近だけど。
……小さい頃は、お正月といえばアニキが作った、少し味の薄いお雑煮と、アニキが貰ってきたかまぼこが定番だったし。
独り立ちしてからは、正月なんて関係なく、その時手に入る出来合いのものを食べていたし。
それが。あいつが転がり込んできて初めての正月を迎えるという頃。
そういえば、ちょうど数年前の今くらいの時期だった、そんな頃。

『えっ、キミおせち食べたことがないのか? 一度も?』
『うっせ。日本人なら誰でも当たり前のように食うと思うなよ。ていうか、最近じゃ食ってる人のほうが少ないんじゃねえの?』

なんて、テキトーなことを言った俺に、じゃあせっかくならと、ジョンと楽しそうに吟味しながらおせちに入れる具材を決めて。そうして大晦日には、それこそそこら辺の店で売っているよりも豪華なおせちを作り上げていた。

『すっげ……
『ふふ、そうだろうそうだろう。年が明けたら少しずつ食べるんだ。もちろん、普段のご飯も用意してやるとも』
『恩着せがましいんだよ殺す』
『ブエー! いちいち拳に訴えるな!』

除夜の鐘のあと、ジョンと二人で口にしたおせちはお上品な味がして美味かったけど、なんだかよそよそしすぎて、少しだけ食べるのに緊張したのを覚えている。
それからは、徐々におせちの中身が変化していった。
最初に変わったのは、昆布のやつから小さいハンバーグ。
数の子の代わりに入ったのは、エビチリとローストビーフ。
ジョンは、伊達巻きとかまぼこは外せないと言いながら、ちゃっかりクリームコロッケをリクエストしていた。
ドラ公には「お正月お子様ランチ」なんて言われたけど、こっちのほうがうちのおせちっぽくていいだろと思う。思うし、本人にも言った気がする。
「うちの、か……
おせちを作り始めた頃は邪険にしてたはずなのに、いつの間にか生活の一部になってしまった。
あいつの口調だけでなく、得意な料理、特に好きなもの。
それから、そういう時に少しだけ上がる体温の心地よさとかを、俺はもう二度と手放せない気がする。

「ただいまー。いよいよ店がおせちだらけになってきたな」
「おかえり。もうそんな時期か。今年は何を入れたい?」
出迎えつつ次のおせちの具材を聞いてくるので、俺とジョンはこいつで言うところの「お正月お子様ランチ」を想像していく。
「相変わらずお正月からお子様ランチだな。一応私だってちゃんとしたおせちを作れるんだぞ」
からからと笑いながらも赤い爪先をスマホにすべらせていく。
……そんなの、もうとっくに知ってる」
「ロナルドくん……?」
「お前がちゃんとしたおせちを作れるのも、おせちじゃなくてもなんでも美味いもの作れるのも、知ってる」
知ってるからこそ、手放せなくなったんだから。
「俺は、これからもお前のお正月お子様ランチを食いたいし、おせちじゃなくたって、お前の時間の尺度で、ずっとお前の飯、食ってたいよ」
それはずっと考えていて、それでも今まで口から出て行ってはくれなかった言葉。
今日うっかり飛び出したのは、店に並ぶどんなに煌びやかなおせちよりも、子供の好物を詰め合わせたようなうちのおせちの思い出の方が、とびきり輝いて見えたからだと思う。
……言ったな?」
しばらく固まっていたドラ公は、それからニヤリと不敵な笑みを浮かべて。
「それなら絶対、そのうちにお正月お子様ランチ脱却の、ちゃんとしたおせちを美味しいって言わせてやるからな」
ほのかに上がった口約束。
けれど、こいつの作るご飯はやっぱりなんでも美味しいから、そんな日が来るのかなとは思う。
だから、あえてこう返すことにしたんだ。
「望むところだ!」