ユウキ
2024-11-27 04:25:43
7500文字
Public ストグラ二次創作
 

illusion of doll

ストグラ二次創作
石楠花いのり裁判後のお話。桃園寺&〇〇〇論+α
軽くホラーっぽいかもしれない。

illusion of doll




 ―――今の警察の人数は、七名。
 いつものようにステイトを確認すると、男はふぅむ、と小さく息を吐いた。
 日常のルーティンをこなし、暇になってしまったこの時間。
 恐らくギャング達がどこかしらで大型犯罪に取り組み始める頃だろう。
 この時間なら、小型の犯罪にまで警察の手が回ることは少ない。
「どっか強盗でもしよっかなぁ……
 そう一人呟き、男は紫迷彩のパーカーに着替え、変装をする。
 足のつかない辺鄙な場所のコンビニなら、警察が来るのにも時間が掛かるはずだ。
 確保しておいた盗難車に乗り込み、男は西海岸を流すように走らせる。
 しばらくして、海沿いの人気のないコンビニで車を停めた。
 チラッと中を覗き込むと、ボブが不機嫌そうな顔でレジに立っているのが見える。
 ―――先客は、なし。
 治安の悪いこのロスサントスでは、コンビニといえば襲われる物。
 同じタイミングで強盗に入る犯罪者とかち合うこともよくある。
 襲おうとしてボブの死体を発見することもしばしばだ。
 だが、さすがにこの辺鄙なコンビニを襲う輩はそういないようだ。丁度いい。
 男は愛想よくコンビニの中へと入る。
 客を装い商品を手に取ると、飛んでくるボブの遠慮ない視線。
 懐に忍ばせた拳銃に手をかけ、バッと銃をボブに突きつける。
「はい、手ぇ上げてぇ? 抵抗したら撃っちゃうよ?」
 いつものように手を上げさせようとすると、ボブが怒りで顔を歪ませ、レジカウンターを乗り越え襲いかかってきた。その手には拳銃。
 反射的にパンッとその頭を撃ち抜く。
 ボブはその一発で床に倒れ伏した。
 撃たれる前に撃つのは、犯罪者の基本だ。
「だからぁ、撃っちゃうよって言ったのに。反抗的なんだから」
 反抗しなきゃ死ななかったのにねぇ、と小さく呟き、カウンターの中へ回ろうとする。
 その時、店のドアが開いた。
「あ」
……え?」
 店に入ってきた客が、ピタッと足を止めた。
 客は床に転がるボブの死体と、銃を手にした自分に交互に視線をやる。
「死んでる」
「あらら、見られちゃった」
……見ちゃいましたね」
 タイミングの悪いその客は、バツが悪そうに口元に笑みを浮かべると、動揺することなく足元の死体に目を遣り、溜息を吐く。
「これ、この状態で普通に買い物できるんすかね?」
 客はボブの死体になどなんの興味もないとばかりにこちらに尋ねてくる。
「いや、買い物どころじゃない状況なのは見れば分かりますよね?」
 男は思わずそうツッコミを入れた。
 この客の平然とした様子、ただの白市民ではなさそうだ。
「まぁ、そうっすよね。困ったな」
 客は頭をわしわしと掻き、うーん、と首を傾げた。
 ライトに照らされたその客の髪は、派手なピンク色だ。
 ―――あ、こいつ。
 男はそのピンク色の髪に見覚えがあった。
「ほんと、困りますよねぇ」
 そう言って、男はピンク髪に銃を向ける。
「僕今忙しいんで。別のコンビニ行ってもらってもいいですかね、桃園寺さん?」
 思い当たった名前を言うと、ピンク髪の客の目がスッと細くなった。
……あら。知り合いの方、ですかね?」
 やはり、この客は桃園寺のようだ。
 桃園寺はこちらの正体を探るように、遠慮ない視線を向けてくる。
 自分に向いた銃口など微塵も気にしていないようだ。
「知り合い。そうですね、あなたのことは知ってますよ?」
 男はフッと小さく口元を歪め、笑った。
「無期懲役殺人犯の、桃園寺紀土さん。でしょ?」
 煽るようにそう言うが、桃園寺は顔色一つ変えない。
……もう、執行猶予は満了してるんで。今はただの白市民ですよ」
 飄々といい放つ桃園寺。
 人一人殺しておいて、まったく悪びれる様子もない。
「そうですか。ちゃんと、お墓参りはしてますか?」
「墓参り? 誰の?」
「もちろん、いのりさんのですよ、あなたが殺した。そういう話だったじゃないですか」
 男の言葉に桃園寺は小首を傾げた。
 そして口元に浮かぶ小さな笑み。
「ああ、……あなた、高橋滅論さんですか」
 返答する代わりに突然フルネームで呼ばれ、男、高橋滅論は驚き目を見開いた。
「はは、バレちゃいました? そうです、高橋です」
 滅論はそう答え、桃園寺に圧を掛けるように銃を向け直す。
「で? お墓参りはしました?」
「墓がどこにあるのかも知りませんよ。警察も誰も教えてくれないんでね」
 桃園寺は悪びれず笑う。
 この様子は、自分から聞きに行きもしていないのだろう。
 銃を向けている相手に向かって、こんな挑発するようなことを言うだなんて。
 彼女に対する自分の思いを、この男は知っているはずなのに。
「もしかして、あなた僕のこと怒らせようとしてます?」
「いや、別に。事実を言ったまでで」
「そうですか」
 悪びれず言い放つ桃園寺に、正直、ちょっとイラッとした。
 あの可愛かったいのりさんを殺したくせに、反省も何もないのだから。 
 ―――このまま一発撃っちゃおうかな?
 滅論の頭に、そんな物騒なことが過った。
 でも、今はコンビニ強盗中だ。警察が来る前に一仕事終えなければならない。
 それに人を害したら万一捕まった時に罪が重くなってしまう。
 コンビニ強盗ごときでそんなリスクは負いたくない。
 瞬時に損得計算し、撃ち殺すのはやめにしておくことにした。
 だがやはりこの街から女の子を一人奪った罪は重い。
 腹は立つので、少し怖い目にでもあってもらおう。
「立ち去ってくれるのが一番良かったけど、悪いけどちょっと気が変わっちゃいました。手ぇ上げてもらいましょうか」
 滅論は桃園寺に銃口を向け、手を上げろと促す。
 今は手錠を持っていないから、人質にするなら銃で脅すしかない。
「え、嫌です」
 桃園寺は真顔で拒否した。
「人質が嫌なら撃ち殺しますけど。どっちがいいですか?」
 選びようのない二択を突きつけてみる。
 誰だって、痛いのは嫌だろう。
 だが、予想に反して桃園寺がパッと目を輝かせる。
「あ、じゃあ撃ち殺してもらっていいですか?」
 妙に、楽しそうな声色で。
 訳が分からない。
「は? え、困ったなぁ。そう返されると思ってなかった」
 動揺する滅論に、桃園寺が一歩踏み出した。
 銃口に自ら体を押し付けるように近づく。
「ちょ、近いですって」
 間違って引き金をひいたら確実に死にそうな距離感だ。
「引き金引けばすぐなんで。ほら」
 ずい、と迫ってくる桃園寺。
 絶対撃たないと舐めてかかっているのか。
 ―――いや、違う。
 その異様にギラギラした目は、本当に撃って欲しそうに見える。
「ちょ、やめて下さい。近寄らないで」
 滅論は思わず慄き、一歩下がった。
 下がった分だけ、桃園寺が前に踏み出す。
 更に身を引こうとして、足元に転がっていたボブの死体に足を取られた。
「わぁ!?」
 情けない悲鳴を上げ、滅論は手をばたつかせる。
 咄嗟に目の前の桃園寺を掴んだが勢いは殺せず、そのまま桃園寺を巻き添えにして、滅論は後ろ向きに勢いよく倒れたのだった。
 

※ ※ ※


「いてて……
 盛大に転倒して頭を強打し、滅論は情けない声を上げた。
 頭がズキズキと痛む。
 体の上にはずっしり重たい桃園寺の体。
 不覚にも、押し倒される形で転んでしまった。
 男に押し倒される趣味などないのだが。
「重っ! ちょっと、早くどいてくださいよ」
……ああ、すんません」
 のしかかる桃園寺を押し退けようとした時、滅論の顔にファサリと柔らかい物が掛かる。
「?」
 見ればそれは、艶やかな黒髪だった。
 覆いかぶさる体を何とか押し返すと、長い黒髪がカーテンのようにサラッと広がる。
 お香のような甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
 一体これは何だ?
 その顔を覗き込むと、至近距離に、恐ろしく整った顔があった。
 その長い黒髪と相俟って、ふと脳裏に鮮明に浮かぶ、ある女の子の姿。
―――いのり、ちゃん?」
 思わず口をついてその名前が出た。
 違うと分かっている。彼女はもういない。
 だけど、この美しい黒髪も、この柔らかい甘い香りも、彼女に良く似ていて。
 まるで幻覚でも見ているかのようだった。
 彼女があの世から戻って来てくれたようで。
 滅論は無意識に、顔にかかる黒髪をクルリと指に巻き付けて、唇に当てる。
「ちょっと、あの女と間違えるのやめてもらっていいすか? 気色悪いっす」
 その幻覚をぶち壊すように、呆れたように呟く低い声が聞こえた。
 滅論はハッとしてその声の主の顔を改めてまじまじと見上げた。
 黒髪の良く似合う、とても整った顔をしている。
……えっと、桃園寺さん、ですよね?」
「え、頭でも打ちました?」
 訝し気に首を傾げる桃園寺。長い髪がさらりと揺れる。
 この人、こんな綺麗な顔してたっけ?
 滅論の頭の中で疑問符が飛び交う。
 元々男の顔なんて興味がないので、しっかり見てもいないのだが。
 特徴的なピンク色の髪がないだけで、こうも違う人間に見えるものだろうか。
……ああ、ごめんなさい。髪形が違うから、ちょっとびっくりして」
「髪? ああ」
 桃園寺は近くの床を指差した。
 見ればそこにはピンク色の毛の塊が落ちている。
「カツラなんすよ。滅論さん、コケる時に僕の頭掴んだでしょ?」
「ああ、なるほど。それはすいません」
 転んだ時に偶然カツラを剥ぎ取ってしまったのか。
 それは悪いことをした。
 そう軽く反省するも、今度はその黒髪の方が気になって仕方なくなる。
 こっちの黒髪の方が断然似合うのに、なんでこの人はピンクのカツラなんかわざわざしているのだろう?
 滅論はじっと桃園寺を見つめる。
「何すか? そんなじっと見て」
 訝し気に首を傾げ、桃園寺が髪を邪魔そうに掻きあげる。
 ふわりと、あの甘い香りが届いた。
 ズキン、と頭が痛む。不意に跳ね上がる心拍数。
 何だろう、同じ顔のはずなのに、何かが、どこかが決定的に違う。
 ―――この人は、本当は一体誰なんだろう?
 そんな疑問のようなものが頭を過った。
 本当に、この人はあの桃園寺なのだろうか?
 誰か、違う別の人なのでは?
 ―――この黒髪は。
 頭が混乱して、ズキズキと痛む。
 ―――いのり、ちゃん?
 照明に照らされ、長い睫毛が彼の顔に影を落としている。
 人形のように綺麗に整った顔立ちは、明らかに男性だ。
 なのに、男だと分かっていてなお、そのエキゾチックな魅力に目が離せない。
「滅論さん?」
「え、……あっ」
 呼ばれた声に我に返って、滅論は大きく首を振った。
 高橋滅論ともあろう者が、男に目を奪われるとはなんたることだ。
 お前は無類の女好きのはずだろう。
 違う、見惚れてたなんて、そんなことは絶対、ない……はずなのに。
 滅論は慌てて身を起こすと、両手で自分の頬をバシバシと叩く。
……滅論さん、なんか危ないクスリでもやってます? 様子おかしいすよ?」
 訝しむような目で見てくる日本人形のような男。
「や、やってませんよ。ちょっと、ビックリしただけで」
 何故か言葉が上手く出てこず、しどろもどろになる。
 どうにも調子を狂わられてしまっている。
 突然目の前に現れた日本人形に、パニックになっているのかもしれない。
 そんな滅論の様子を見て、彼はコテンと首を傾げた。
「変な風に頭打ちました? 病院行きます?」
 その仕草に、何故か心臓がぎゅっと掴まれるような気がして、滅論は慌てて目を反らした。
……病院、そうですね、病院行ったほうがいいかも……
 こんな風に混乱するのは、きっと打ち所が悪かったからだ。
 男相手にこんなに動揺するなんて、そんなおかしいことがあるはずがない。
「ああそうだ、病院行くんならその前に」
 彼は冷たい感触の何かを手渡してくる。
「せっかくだから、ちょっと撃ち殺してからにしてくれません?」
「え?」
 驚き目を見開く滅論の手を、彼はふわりと笑って両手で包み込むようにして銃を握らせた。
「さっき言ってたでしょ? 『人質か、撃たれるか』って。撃ってくださいよ」
 ニコッと微笑ながら小首を傾げてくる。
 揺れる黒髪。ふわりと香る、甘いお香のような香り。
……! え、何いってるんですか、そんな……
 甘い香りが頭を朦朧とさせる。
 だから、この香りはダメだって。彼女を、思い出すから。
 ズキズキと痛む頭。
 心臓がおかしくなる。これはきっと不整脈だ。
 男がやったって可愛くもなんともないはずの仕草で、思わず動揺してしまう自分に驚く。
 早く、病院に行かなきゃ。
「いいじゃないですか、ね? 撃ってくださいよ?」
 滅論は勢いに押され、じりじりと壁際に追い詰められる。
 そんな、可愛くおねだりされても、困る。
 いや可愛いって、いや、そうじゃなくて、でも可愛く見えてる、どうしよう。
 混乱する滅論を分かっているのか分かっていないのか、こちらの目を覗き込むようにして迫ってくる、黒髪の綺麗な人形。
 壁に背中がついた。もう逃げ場がない。
「ッ、そんなこと言われても……
 さっきまで脅していたのは自分だったはずなのに、どうしてこうなったんだ?
「ほら、早く引き金引いて?」
 笑顔で壁にトン、と手を着かれる。
 心の奥底まで覗き込むような視線。
 その口元には綺麗な笑みが浮かんでいるのに、その目は真っ黒い澱みを湛えているように濁った光で満ちている。
 まるで、あの空港での別れ際の、彼女と同じように。
 ―――いのりちゃん。
 やっぱり、この人はいのりちゃんなのかもしれない。
 いのりちゃんが、この人に憑依しているのかも? 
 彼女がそんなに望むなら、撃ってあげないといけない、のか?
 ―――でも、だったらなおさら撃ちたくないよ。
 動揺と混乱。
 迫る綺麗な顔から視線を外すことが出来ず、かといって逃げることもできない。
 滅論はガタガタと震える手で拳銃を握る。
「ほら、早く撃っちゃいましょ?」
 吐息が掛かるくらい近くで、呪いを吐くように日本人形が囁いてくる。
 そんな物騒な囁きなんか欲しくない。
 僕は、ただいのりちゃんと楽しくこの街で過ごしたかっただけなのに。
……嫌です。僕には撃てません」
「そんなこと言わないで、ね?」
 手を握って、引き金を無理やり引かせようとしてくる。
 嫌だ。撃ちたくない。
 いのりちゃんに似たこの人を、撃つことなんかできない。
 滅論は必死に引き金を引くまいと抵抗した。
 銃口が、彼の腹にめり込んでいる。
 引いたら、殺してしまう。
 ―――誰か、助けて。撃ちたくない。
 何でこんな誰も来なそうな場所を選んでしまったのだろう。
 そんな後悔が今更頭を過る。
 その時、ようやく遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
 ああ、助けが来た。
……チッ、邪魔が入ったか」
 大きな舌打ちと共に、フッとその綺麗な顔が離れた。
「け、警察の人! 助けてくださいー!!」
 滅論は大きな声で叫ぶ。
 もうこの際、警察でもいい。誰か、早く助けてほしい。
―――どこだ犯人ー!! 大人しく出てこーい!!」
 叫びながら、店の中にヒロヤマモトが入ってくる。
「犯人! 犯人僕です! 高橋滅論!! 早く逮捕してください!!」
 滅論は精一杯の大声で叫んだ。
 銃を構えながら店内を見回して、ヒロヤマモトがピタリと視線を定めた。
 床に転がるボブの死体。
 荒された形跡のないレジ周り。
 壁際で何やら密談でもしているように見える、二人の男の姿。
……えーと、滅論さん? どういう状況ですか、これ?」
 戸惑う彼の声に、滅論はただホッとしてズルズルと壁にもたれる。
「犯人は僕です、早く逮捕して、くださ……
 頭がズキズキと脈打つように痛い。
 これは、本格的にマズいのかもしれない。
 視界が暗くなる。
 滅論はそのまま意識を失ったのだった。


※ ※ ※


 誰かが話している声が聞こえる。
―――で、何であんな状況に?」
「いやぁ、買い物に来たら強盗してたんで、ちょっとお話してただけです」
「ちょっと話を? そうですか。お怪我はありませんか?」
「僕はないですけど、滅論さんが怪我しちゃって」
 滅論はうっすらと目を開けた。
 そこにはもう黒髪の日本人形はおらず、いつものピンクの髪をした桃園寺がいるだけだった。
「滅論さん、転んだ時に頭を打ったみたいで。なんか様子が変だったから早く搬送した方がいいかもしれないです」
「なるほど、すぐ手配します」
 無線に連絡を入れるヒロヤマモト。
 ズキリと頭が痛む。
 ―――あれは、幻覚だったのだろうか。
 あの、黒髪の人形のような人は。
 ヒロヤマモトと話す桃園寺の方に視線をやった。
「ああ、気が付いたみたいですよ、滅論さん」
「滅論さん、大丈夫ですか?」
 体を起こそうとして止められる。
「ああ、そのままで。今救急隊がきますから。治療の後で、事情を聴きますからね?」
 甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼の後ろで、腕を組んで様子を見ている桃園寺。
 ふと、目が合うと、彼は人差し指を軽く唇に当てる。
 そして、ぱちりと片目を瞑った。
 まるで、先程の事は秘密にして、とでも言うように。
 その表情に既視感を覚えて、滅論の心臓がドキリと跳ね上がる。
 ―――やっぱり、幻覚じゃ、ないのかもしれない。
 滅論は頭を抱えると、呻いた。
 こんなのは、困る。
 早くいつもの自分に戻してもらわなければ。
「早く病院お願いします、頭痛くて死んじゃいそうです」
 滅論は頭に手を遣ると、大きく溜息を吐いた。
 頭が激しく痛い。
 痛みに目を閉じると、いつまでもあの黒髪が脳裏にチラつく。
 彼女と同じ、美しい黒髪が。
 ―――あとで、いのりちゃんのお墓参り、行こう。
 きっとこれは、最近お墓参りをサボっている僕に対する彼女からのお仕置きだ。
 そう思わないとやっていられない。
 いつまでも落ち着くことのない鼓動に戸惑ったまま、滅論は頭を抱えたのだった。



おわり