でがらし
2023-08-06 20:39:39
4815文字
Public 【吸死】ドラヒナ~全年齢~
 

【ドラヒナ】サムシングフォーを貴方に(20230806床パ展示版)

202"4"年6月30日ジュンブラフェスに頒布予定!のドラヒナウエディング本で書けている部分を展示します。(来年の事を言えば吸血鬼が笑う……?)
現在の構想は結婚することになったドラルクとヒナイチがサムシングフォーを貰ったり探したりするお話です(仮)今回の展示はサムシングブルーの部分です。カズサ&御真祖様出ます。
→無事に2024年6月30日に頒布いたしました!https://degarashi2525.booth.pm/items/5851125 にて宜しければ!

 ついに迎えた結婚式当日。ドラルクの目覚めよりも早くヴリンスホテルに入った私は、精鋭のスタッフにより支度を受けていた。髪は結い上げられ華やかな化粧が施される。吸血鬼対策課の制服に負けないくらいの純白に身を包めば、チュールを重ねたスカートはずっしりとしていて刀より重く感じる。一方身体の重さとは裏腹に、頭はまだふわふわとしていて今日という日に実感が持てない。
 最後に真珠のイヤリングとベールを付け、無事に支度が終わった。スタッフたちは去り、一人部屋に残される。閉じていた部屋のカーテンを覗くようにして開けると、空は橙と紫を混ぜた色をしている。快晴の空に宵の明星が輝いている。夜が始まるこの時間が私は好きだ。そして夜につれて段々と賑やかさを増していくこの街の喧騒も。

「なんだか変な気分だな。いつも過ごす街を見下ろすというのも」
 大きな窓から眼下の街並みと往来する人々、地平線の向こうへと去っていく新幹線をぼんやり眺めていると、不意にドアがノックされた。こちらが返事をする間もなく入ってきたのは――

「馬子にも衣裳だな、ヒナイチ!」
「兄さん」

 吸血鬼対策部本部長の証である上着をなびかせ、意地の悪い顔で腕組みをしている。妹の門手となる日だというのに、感動よりも面白さの方が上回っているらしい。もっとも、兄さんは中学の入学式や警察学校の卒業式など、私の節目となる日にはいつもこんな顔をしていたからとっくに慣れてしまった。むしろ兄さんらしくて安心するくらいだ。

「父さんと母さんは?」
「もうすぐ着くとさっき電話があった。式には十分間に合う」
「それなら良かった。会うのはドラルクと一緒に挨拶に行ったとき以来だな」
「感謝しろ妹よ。俺がお前らの情報を少しずつ流してたから話が早かったんだ、いきなり吸血鬼と結婚しますなんて言ったら二人とも倒れていたぞ?」

 こちらを見下ろす兄さんの顔は相変わらず腹立たしいが、それについては感謝している。あの挨拶の日、すっかり両親と打ち解けたドラルクはお土産に母さんの手料理のレシピまで入手していたくらいだ。そしてドラルクが作るとうもろこしの天ぷらも母さんのものに負けず劣らず美味しい。

「まぁ、父さんも母さんもお前が決めたことなら何も止めやしなかっただろうがな。……っと、四方山話はここまでにしよう」
 兄さんが一歩近づく。その目はどこまでも底が深く、そして楽しそうだ。
「まさかここまで懐に入れるとは、我が妹ながら恐ろしい。おめでとうヒナイチ」
 大きな手が、薄いベールにそっと触れる。視界に薄い幕が下りれば、私は目前に迫った式を待つ一人の花嫁となった。
「ありがとう、兄さん」
「随分幸せそうじゃないか、あの吸血鬼にすっかり絆されたな。まあ俺にとっても大収穫だが……

 兄さんの声が途切れると同時に、窓からこんこんと音がした。振り向くと窓の向こうに人影が立っている、いや正確には「浮いている」。

「迎えにきたよ」
「貴方は、ドラルクの……!」
「これはこれは」

 私よりも早く窓に近づいた兄さんが鍵を開けて人影を招き入れる。途端に影は無数の蝙蝠の姿へ形を変えながら部屋に入ってきた。羽音にあおられ、兄さんの上着の飾緒が激しく揺れている。
「こんな形で会えるとは思いませんでしたよ、竜の一族の御当主様」
「はじめまして、ヒナイチ君のお兄さん」

 不定形が兄さんよりも頭一つ大きい男性に変貌する。光を飲み込む外套に身を包むドラルクの御祖父様はまさしく吸血鬼の祖らしい威厳が滲み出て、反射的に半歩後ろへ下がる。相対する兄さんはまるで戦の大将を見つけた時のように目を輝かせている。神奈川県警吸血鬼対策部の本部長と吸血鬼最強の真祖が顔を合わせるなんて、本来ならばまるで大国同士の首脳会談のような歴史的な一コマだ。張り詰めた緊張が数秒流れたと思えば、ドラルクの御祖父様はさっと携帯を取り出す。

「RINE交換しない?」
……喜んで。いやぁまさかそちらからお誘いいただけるとは! 何かありましたら遠慮なくご連絡を」
「ありがとう」

 これから親族になるとはいえ、あまりにもあっさりと現代的なホットラインが成立してしまった。先ほどまでの緊張感はどこへやら、早速目の前でメッセージのやり取りをする二人。ドラルクによると、御祖父様のRINEでのスタンプの量は相当なものらしい。兄さんもソシャゲのキャラクタースタンプを大量に送るタイプだから、案外似たもの同士なのだろう。しばしあっけに取られていると、高速で指を動かしていた二人がこちらに柔らかな視線を向けてくる。

「そろそろ連れていくね」
「ではまた後程。不束な妹ですがよろしくお願いします」
「さあ行こうか、ヒナイチ君」
「え、行くって、どこに……うわっ!」

 ドラルクの御祖父様に一瞬で抱きかかえられる。この後は新郎控室で支度を終えたドラルクと過ごすことになっていたはずだ。状況が全く読めない。

「あの、これは一体」
「しっかり掴まってて」

 助走をつけて窓から飛び出した御祖父様の背中から翼が生える。それは蝙蝠の羽根というよりも神話に出てくるドラゴンのような大きさだった。一瞬ふわりと落下すると見せかけ、ヴリンスホテルの最上階を軽々と越えて上昇していく。なびくベールが飛んでいってしまわないように、片手でベールを抑えながら飛行する吸血鬼を見上げる。ストラップのある靴で良かった。普通のウエディングシューズだったら途中で脱げてしまっていたかもしれない。

「どこへ行くんですか!?」
「ドラルクのところ。すぐ着くよ」

 見下ろす新横浜の街は灯りで輝き始めた。空の紫色は濃い藍色へと変わり、小さな星々も良く見える。今までで見てきた街の中で一番美しい光景に思えた。

「綺麗だな」

 思わず呟けば、私を見下ろす顔と目が合う。不思議な瞳だった。私の何もかもを見透かしているようにも、私ではない何かを見ているようにも見える。

「懐かしいな。あの子とも、こうやって……

 びゅうと風切り音がしてそれ以上は聞き取れなかった。代わりに伝わってきたのはがっしりとした腕の強さ。幼いころに兄さんに抱きかかえられた時のことを思い出す。実家近くの野山を駆け回り、遊び疲れた私を布団まで運んでくれたあの時が、温かくも懐かしい。ドラルクもこの腕に抱かれて空を飛んだことがあるのだろうか。街から木々の茂る山々へと移り変わる景色を見ていると、次第に翼は下降し始めた。

「降りるよ」

 ゆっくりと身体が地面に近づく。目線の先には草花に覆われた小高い丘があり、その先で人影が手を振っている。

「ドラルク!」
「ヒナイチ君!」

 軟着陸したドラルクの御祖父様に降ろされ、駆け寄ってくるドラルクと対面する。真っ白で細身のタキシードに月光が淡く反射している姿は、いつもの恰好とは真反対で新鮮で、なんだか照れ臭い。

「ヒナイチ君を連れてきてくれてありがとうございます、御祖父様」
「ノープロブレム」
「ドラルク、ここは一体……予定では控室で会うことになっていなかったか?」
「ヒナイチ君には内緒のサプライズさ。どうしてもこの場所で最後の贈り物をしたかったんだ。静かな場所で綺麗な君を見たかったし。ほら、新郎控室なんて絶対誰か乱入してくるでしょ? 今はジョンに留守を頼んでいるよ」

 客の応対をしつつロナルドにもふもふとされているであろうアルマジロの姿を思い浮かべる。確かに二人きりというわけにもいかないだろう。私と同様にくすりと笑ったドラルクの背後から現れたのは小さな花束。この丘に咲く花と同じ青空の色が散りばめられている。

「ネモフィラの花言葉は『可憐』、ブルースターの花言葉は『幸福な愛』。まさに今日のヒナイチ君にぴったりだ。これが私から君に送るサムシングブルーだよ」

 差し出された花束を受け取ると、爽やかな緑の匂いがする。
「ありがとう。……とても綺麗だ」
「あとはこれを靴の中に」
「靴の中?」
 ドラルクの手の平にあったのは古いコイン。ドラルクが跪いて私の靴を脱がせながら、サムシングフォーの詩の一節にあるんだと教えてくれる。これもドラルクの御祖父様からの贈り物だそうだ。今まで捉えどころの無かった、これから結婚するのだという実感が押し寄せてくる。

「痛いところはない?」
「ああ、ちょっと変な感じはするが問題ない。ありがとう」

 靴を履き直し、もう一度ドラルクと向き合う。柔らかく涼しい風が草花とベールを揺らしている。

「これから式を挙げるなんて、ちょっと不思議な感じ」
……そうだな」
「とびっきり楽しい一日にしよう。余興もお涙頂戴も盛りだくさんの、一生忘れられない……いや、永遠に忘れられない日にするんだ」
「ケーキとクッキーもな!」
「ヒナイチ君はブレないなぁ……君のリクエストのケーキを用意したから楽しみにしててね。さて、ここでもう一個したいことがあるんだ」
「したいこと?」
「誓いの言葉……かな。この後式もするけれど、今この場で、竜の一族に加わるものとして、御祖父様にまず誓いを立てたい」

 我々よりも数歩高い場所に立ち、こてんと首を傾げる吸血鬼の真祖。「ダメかな?」と無言で問いかけてきているその顔は、どことなくドラルクに似ていた。今日からこの人が、私の義理の祖父になるのか。そう思うと、不思議と畏怖よりも愛嬌を感じてしまう。断る理由などない。

「ああ、分かった」
「ありがとう。……では御祖父様、お願いします」

 丘に吹き抜ける風と共に、一歩近づいた御祖父様は私たち二人を見下ろして問いかける。

「ドラルク、ヒナイチ。二人は互いを永久に愛することを誓う?」
……はい、誓います」
「誓います。この竜の一族の血にかけて」
……この指輪を、お互いに嵌めて」

 目の前に現れる小さな箱の中から、小さな紫水晶が付いた指輪をドラルクが取り出す。竜の一族の証であることを示す古い指輪だ。グローブを脱いで左手を差し出すと、指輪は私の薬指に収まった。ひやりとした感触は次第に不思議な温かさを持ち始める。初めて見る指輪なのに、懐かしくも思えるのは何故だろう。

「私のも付けてくれる?」

 ドラルクの冷たい手を取り、もう片方の指輪を嵌めていく。直系の証であることを示すドラルクの指輪は、私のものよりも一回り石が大きい。きらきらと光る紫は、まるで竜の鱗のようだった。

「おめでとう、ドラルク。昼の子を大切に。おめでとうヒナイチ君。ドラルクのこと、よろしくね」

 眩しそうに細められた目がこちらを見る。嵌めた指輪も、嬉しそうに輝いている。そう思うと自然と言葉が零れていた。

「はい、御祖父様」
……もう一回言って」
……御祖父様?」
「もう一回」
「御祖父様……
「あー! そういうのは後にしてください、ほらヒナイチ君困っているでしょ!」
「嬉しいな、家族が増えた」

 腕をワキワキさせた御祖父様は話を聞いているのかいないのかよく分からない。やはり不思議な人だ。これから私もドラルク同様に振り回されることもあるのだろう。これは大変だ、と思いつつもどこかわくわくしている自分もいる。

「さあ行こうか、ヒナイチ君。そろそろ戻らないと式に遅れてしまう!」
「主役の二人が遅れたら大変だな。すぐに行こう」
「オッケーじゃあマッハで」
「マッハは止めてください! 私が街中に散ってしまう……
「じゃあ快速くらいで」

 軽々と我々二人を抱きかかえ、再び竜の姿へと変わる御祖父様。大地が蹴られ急上昇する身体。花束を抱きしめ全身で風を受け止める。月明りがスポットライトのように式場を照らしていた。