でがらし
2022-12-30 12:37:32
1763文字
Public 【吸死】ドラヒナ~季節のお話~
 

【3月】バースデーリングは紫に輝く

ヒナイチの誕生日のお話。2人は恋人同士。指輪はドラルクのバースデーリングのイメージ。
pixivにUPしたときからタイトルを変更しました。
甘さレベル★★★★★
(初投稿2022年3月3日)

「パーティーの主役なのに手伝わせちゃってゴメンね、ヒナイチ君。眠くない?」
「こんなに良くしてもらったんだ、片付けの手伝いくらいさせてくれ。あとはこの皿を拭けばいいのか?」
「うん、軽く拭いたらそこに立てかけておいて。ありがとう」
 隣のドラルクから濡れた皿を受けとり、壁時計を見やると時刻は零時を回ったところだった。ソファでは騒ぎ疲れたロナルドがジョンと一緒に深い眠りに落ちている。

 今までで一番賑やかな誕生日だったなと一日を振り返る。狭い事務所に吸血鬼対策課の面々や退治人たちが押し寄せ、クラッカーとプレゼントの山に埋もれ、自分の背丈ほどまで積み上がったケーキの上の蝋燭を吹き消し、そしてドラルクお手製の美味しい料理をお腹いっぱい食べて。ドラルクにパーティーの開催を提案してもらった時は、自分が主役の誕生日パーティーなんてと戸惑ってしまったが、こうして皆から祝ってもらえるのはこんなに嬉しいことなんだと実感した。普段の任務とはまた違った疲れが身体を少し重くしているが、それ以上にこのふわふわした余韻に浸っていたい。

「さあこれでおしまい!お疲れ様、ヒナイチ君」
 そう言ってドラルクはダイニングの椅子にかけていたジャケットを丁寧に身に着けていく。私も拭き終わった最後の皿を食器立ての端に綺麗に整列させ、ほっと息をついた。
「改めて、今日・・・・・・ではもうないか。とにかくありがとう、ドラルク。本当に楽しかった」
「おや?まだお祝いは終わってないよ、ヒナイチ君」
 ドラルクは疲れを感じさせない笑顔でこちらに歩み寄り、ぐっと声を落として囁く。

「・・・・・・まだ二人っきりでお祝いできてないよ?」
「こ、ここじゃダメだ!ロナルド達が起きてしまう・・・・・・」
 肩をそっと掴まれ、顔に近づいてきたドラルクの口元を慌てて両手で抑える。反射的にキスを拒んでしまったというのに、ドラルクは意に介さずくすりと笑って指先を絡ませてくる。
「『ここじゃダメ』ってことは・・・・・・キス自体は嫌じゃないんだね?」
 吐息がかかる距離で囁かれると、頬があっという間に熱くなってしまう。こうして恋人同士になって暫く経ち、キスもそれ以上のこともしてきたけれど、未だにこういうことには慣れない。・・・・・・初めてこの事務所を訪れた日から、私はこの享楽主義の吸血鬼にずっと振り回されっぱなしだ。羞恥心から思わず「からかうな!」と叫びかけたが、「大きな声を出したら本当に起きてしまうよ?」と抱きしめられ、私の声はドラルクの薄い胸板に吸い込まれてしまった。

「・・・・・・それに、私からプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかな?」
 こうしてパーティーを開いてくれただけでも充分すぎるくらいだが、こうして贈り物を貰えるのは素直に嬉しい。どんなものでも大切にしようと心に誓いこくりと頷くと、ドラルクは私の後ろに回り込み「目を閉じて。いいって言うまで開けないでね」と言ってジャケットの中から何かを探し始めた。
「手、触るよ」
 細くてひんやりとしたドラルクの指先が左手に触れると、トクトクと心臓の鼓動が速くなる。やがて指にドラルクの手よりももっと冷たくて固い何かが嵌った。

「さあ、目を開けて。これが私のプレゼント」
 目を見開けば、微かな予感が確信に変わる。
 薬指を彩る銀色の指輪。その中心に輝くのは、菱形にカッティングされたアメシスト。

「シルバーリング・・・・・・は私が死んじゃうから渡せないけど、真鍮製もなかなか綺麗でしょ?」
「これ・・・・・・」
 言葉が続かないまま、振り向いてドラルクを見上げる。楽しげな表情をしているがその瞳の奥には真剣さが滲んでいた。

「・・・・・・結婚しよう。ずっと一緒にいてくれるかい?私の愛しい人」
 ドラルクが私の左手を恭しく持ち上げあの日のように口づける。自分でも分かるくらいに全身が火照っていたが、不思議と心は動揺していなかった。あの時は逃げてしまったが、ドラルクに対してそんなことをする理由はもうどこにもないのだから。
 返事をする代わりにドラルクの口元にそっと口づけると、両手で顔を包み込んだドラルクの顔が近づき目を閉じる。そのキスは、今夜味わったどんなものよりも甘い味がした。