でがらし
2022-11-08 22:39:16
4154文字
Public 【吸死】みっぴき・他CPなど
 

【みっぴき】新横浜ドラルク歯科医院へようこそ

どうしても書きたかったので書きました、歯医者パロディです。原作設定改変ご注意ください!
ドラヒナ要素のあるみっぴきのつもりで書きました。詳しくは以下設定ご確認ください。

ドラルク
歯医者。長い吸血鬼生の中で気まぐれに歯医者になった。新横浜に開業して10年そこそこ。
器用なので腕は立つが若干人をビビらせることを言ってからかう。特に子供とロナルドに対しては煽りが強い。
ヒナイチ
歯科衛生士(見習い)。週数回ドラルクのところでアルバイトをしている。
ドラルクに対して薄っすら好意を抱いているが自覚無し。
ロナルド
定期健診に来る患者の一人。退治人業務が忙しい。歯医者は苦手。
ジョン
受付兼マスコット。老若男女に大人気。
メビヤツ
受付兼会計担当。たまに歯科助手もする。レーザーが得意。

「では次回予約は再来週の同じ時間です。お大事に」
「ヌヌイヌヌー!」
 元気よく手を振る男の子と丁寧なおじきをした母親を見送り、ぐっと肩を伸ばして長い赤毛を結びなおす。新横浜の片隅にある小さな歯科医院。その受付に座るのは赤毛の女性と大きな目が特徴的な置物、そしてアルマジロ。赤毛の女性――ヒナイチがこの歯科医院で衛生士としてアルバイトを始めてからそろそろ一年が経つ。最初のころは慣れないことも多く慌ただしい日が多かった。週に数回、しかも日没からしか開かないという閑古鳥が鳴きそうな診察時間ではあるのに、塾などの事情で夕方には来られない子供や仕事帰りの社会人がしばしば訪れるのだ。今では少しずつ余裕が出てきたので、こうしてアルマジロのジョンとメビヤツと呼ばれる受付とともに、まめに書類の片付けをするようにしている。

「さっきの男の子、今日は泣かずに治療できてたな。ジョンが手を握ってくれると落ち着くんだそうだ」
「ヌヌヌ~」
「再来週にチェックして問題なければ治療も終わりか……少し寂しいな。次に会った時には定期健診も勧めておこう」
「ヌン!」
 ジョンが書類を取り出し、ヒナイチが仕分け、捨てても良いものはメビヤツが取り込みバリバリとシュレッダーにかけていく。暫く黙々と作業を続け終わりに差し掛かったころ、この歯科医院の主が奥からひょっこりと姿を現した。

「お疲れ様ヒナイチ君! 今日の予約は『彼』で終わりだよね?」
「えっと……ああ、そうだな」
「今日はちゃんと来るかな? もしサボったら鬼電してあげよう」
……一回留守電を入れれば十分だろう。それは私がしておく」
「えぇつまんない!」
 血色の悪い頬を膨らませるのは白衣に身を包んだ吸血鬼ドラルク。ジョンを抱き上げ、ゴム手袋を外した手でムニムニとその耳を揉む。小さな瞳孔が白い壁に掛かった青い壁時計を見やり、「そろそろ来るかなぁ」とにやりと笑う。
「おや、今日も綺麗にしてくれていたんだね。助かるよ」
「これくらい当然のことだ」
「それは頼もしい! でも無理はしないでおくれ、ただでさえヒナイチ君は学生生活との両立が大変なんだから」
……ここで働くのは……
そうゆっくりとヒナイチが口を開いた瞬間。

「遅れました!!」
 バン!とドアが開いてタイミング良く受付に赤い服を着た銀髪の男性が飛び込んできた。急いでやってきたのだろう。荒い息を吐き顔には汗が滲んでいる。
「ヌヌヌヌヌ!」
「はいロナルド君三分遅刻~」
「うるっせぇ! ちゃんと来たからいいじゃねぇか!」
「そうだぞドラルク。自動キャンセルには間に合ったんだ」
「ちぇー、じゃあ私は奥で待ってるねぇ」
ひらひらと手を振りドラルクは奥へと戻っていった。
「じゃあ診察券を……はい、メビヤツに渡してください」
 ポケットを漁ったロナルドが診察券を渡すと、「ビビッ」と返事をしたメビヤツが患者の情報を読み込んでいく。
……今日は定期健診、で間違いないですか? 前回は……五月でしたね。あれから変わりはありませんか?」
「えっと……ええはい、特には」
「では診察室へどうぞ」
……じゃあ、メビヤツにはこれを」
 そう言ってロナルドは自分の被っていた帽子をメビヤツに被せる。大きな目をぱちぱちさせたメビヤツは嬉しそうにアラーム音を鳴らした。隣のジョンも目を細めている。
「ヌヌヌッヌ」
「『頑張って』だ」
……あ、あ!! 頑張るよジョン!」
 ぐっと拳を握るロナルド。その手は少しだけ震えていたが、ヒナイチは見ないふりをする。前に一度声を掛けたらドラルクがロナルドをひどく揶揄ったのだ。アルバイトをしている身ではあるが、なぜこの歯医者にはクレームが入らないのだろうと疑問に思うこともしばしばだ。

 いつも通り患者を診察室に案内するヒナイチ。この歯科医院には診察台が一つだけなので、迷うことはない。
「はーいいらっしゃい、さあ座って座って。ヒナイチ君、問診は済ませた?」
「簡単に。特に変わりはないそうです」
「了解。ロナルド君、相変わらず市民を守る退治人業務に勤しんでいるのかな?」
……まぁ」
「それは感心。椅子倒しまーす」
 モーター音が響き、椅子がゆっくりと倒れていく。身体を硬くしつつも頭をヘッドレストの方へと動かしたロナルドは深呼吸し、その顔で照明を受け止めた。その脇ではドラルクがパチンとゴム手袋を身に着け、カチャリとトレイに乗ったミラーを手に取る。
「じゃあ、おっきくあーんしてください」
……あー……
 さっき診た子供と同じような声色で促すドラルク。しかしもうロナルドには言い返す余裕がないらしい。大人しく口を開き、薄めを開けて様子を伺っている。

「んー……ここは……あらら……
「んぁ」
「あっれ……ここもかなぁ……
「ぁ……

 口を開けたまま小さく漏れる声。きっと頭の中で最悪の想像を巡らせているのだろう。サポートのため同じくロナルドの口を覗き込んでいたヒナイチが顔を上げ、大きくため息をつく。
……あまり悪ふざけしないでくれ、ドラルク」
「はぁい。口閉じていいよ、ロナルド君。……虫歯はないです、残念!」
……ハァ!?」
「だから、虫歯無し! あーあ、つまんないなぁ……ドリル、使えると思っていたのに」
 歯医者としてあるまじき言葉を呟きながらミラーを置くドラルクと、淡々とカルテに記録するヒナイチと、腕をだらりと下げ「うぅ……ジョン……」と受付で待つ癒しの塊を求めるロナルド。その手に力強い拳が握られ、歯医者の悲鳴が響き渡るのは五秒後だった。

「まったく……これ以上は本当にダメだからね? 今は危ないし」
 ひとしきりゴリラのように暴れたロナルドはジョンの腹毛によって落ち着きを取り戻した。今は健診後のクリーニング中だ。ヒナイチはバキュームを動かしながらドラルクを窘める。この歯科医院ではよっぽどの治療でない限りはこうしてドラルクとヒナイチがこうして会話をしながら作業を進めている。
「ドラルクが悪いんだろう、あんな風に煽ったからだ」
「ヒナイチ君も真面目だなぁ。それならきっと次の試験も楽勝だね。いつだっけ?」
……再来週だ。実はちょっと苦手な実技もあって……その、レジンなんだが……
「へひん?」
「ほら口動かなさないでロナルド君。レジンっていうのは詰め物のことだよ、光で固まる白い方。……じゃあ今日この後練習しようか。メビヤツにも手伝ってもらおう」
……ありがとう、よろしくお願いします」
「礼には及ばないさ、私の可愛い助手の技術が上がるのは良いことだからね!」
ズオォォ、とバキュームの吸い込み口がロナルドの舌を捕らえ、ヒナイチは慌ててバキュームを取り出す。
「す、すまない!」
「ひゃ、ひゃいひょうふれす」
……うーん、これは別の特訓がいるかもしれないなぁ」
 そう呟くドラルクの意図を汲む暇は、今のヒナイチにはなさそうだ。軽く肩をすくめた電動歯ブラシを持ち直し、ロナルドの歯の汚れを細かく指摘していく。
「ロナルド君。まだ月一で吸っているでしょ?」
「うぐ」
「歯医者の目は誤魔化せないよ、特にこの私はね! ……今日は綺麗にしておいてあげるから、次回まで吸わないようにね」
……ふぁい」
「あとは……奥歯の奥の方かな? ちょっと汚れていますねぇ。ちゃんと歯ブラシは横から入れてる? この間ヒナイチ君が教えてあげたでしょ?」
……ひをつけまふ」
「フフ、よろしい! うん、でも今日はそれくらいだな。前まではもっと酷かったのに……やっぱり衛生士さんの教え方が良いのかな?」
 そう声をかけてみるが、黙ったままのヒナイチ。けれどもその頬がうっすらと赤くなっているのを見逃さなかったドラルクは、一人くすりと笑ったのだった。


……お疲れ様でした、次回の予約はどうしますか?」
 無事にクリーニングが終わり、ジョンがよしよしとロナルドの銀髪を撫でている。デレデレとしていたロナルドはメビヤツが壁に映し出しているカレンダーを見ながら「じゃあ、とりあえず三か月後の同じ時間に」と答える。
「わかりました。変更があったらお電話ください」
 診察券に次回の日時を記入し、ロナルドに手渡すヒナイチ。会計を済ませたロナルドはメビヤツから帽子を受けとり、少し名残惜しそうな頭をつやつやと撫でる。するとドラルクが満面の笑みを浮かべながら診察室とは別のドアから出てきた。
「ではこちらご褒美のお菓子でーす! 本日はバタークッキー、ヒナイチ君のお墨付き!」
「すっごく美味しいぞ!!」
 纏め切れていない赤毛をぴょこぴょこ揺らし、ヒナイチは胸を張る。この歯科医院の評判の高さはアルマジロのジョンの癒し効果とドラルク自らが作るお菓子。ドラルク曰く、「ちゃんと歯磨きしていれば虫歯にはならない」らしい。
……ども」
 このお菓子があるから内心怖い歯医者にも通えているのだ。……そう伝えると確実にドラルクが調子に乗るのでロナルドは黙って袋を受け取る。
「そうそう、あれも買ったよ! ……ほらあそこ」
 ドラルクが指し示した先は、受付横の本棚。雑誌や新聞に交じって置いてあるのは……
……俺の本」
「退治人との二足の草鞋だからあまり期待してなかったけどなかなか読ませるじゃないか! うっかり仕事をサボって読みふけってしまった。ねぇねぇ今度私のことも書いてよ、『退治人の白い歯はこの吸血鬼兼歯医者のドラルク様が守ってる』って! ……いい宣伝になるし」
「宣伝かよ! ……まあ、考えとく」

 顔を服と同じくらい赤らめたロナルドは乱暴にドアを開ける。その姿が消える直前に、軽く頭を下げるのを二人と一匹、そして一台は見逃さなかった。

……なあドラルク、クッキーまだあるか?」
……さっき食べたでしょ、もしかしておかわりしたいの?」
……ダメか……?」
「じゃあこの後の試験対策で私から合格点が取れたらね!」
……ああ、頑張るぞ!」

ジョンがぱちぱちと手を叩いて応援する中、2人は診察台へと消えていく。
歯科医院の夜はまだ終わらない。