頻子
2024-11-26 12:26:54
2401文字
Public KODR二次
 

婚約破棄モノ読めるベーケス2世(KODR)

ほのぼのベケニュ
プライバシー✖

「あら、……あら、どうされましたの?」
 ニュートの部屋のベッドメイキングをしていたフランコールは、客人の姿を見てかすかに驚いた。ベーケス2世だ。
 ニュートと正式に婚約し、ようやく実体で城にこれたところだ。
「父上の用事が早くすんだからな。……ニュートは?」
「ニュート様はお出かけされておりますわ」
「ああ。わかった」
 分かったといいつつ、ベーケス2世は帰らなかった。
「お出かけを……
「俺は、部屋で待つからいい」
「まあ。お掃除中なんですよ」
「俺は、部屋で、待つ」
 婚約者だし、ニュートとは恋人同士なので、このくらいは許されるはずだ。ベーケス2世が圧をかけると、フランコールは「かしこまりました」と引き下がる。
「わかってる、わかってる、ニュートのものには触らないから」
 ほんとうかしら……と、フランコールは思ったものの、ニュートからも、ベーケス2世には優しくしてあげてね、と言われている。それは正式な婚約を発表するよりもずっと前、ほんのちょっと頬を染めて、恋人だから……と言った小さな主人の表情を、フランコールは忘れないだろう。

 フランコールが遠ざかるまで、ベーケス2世は待った。
「よし」
 ニュートのものには触らない。
 ニュートのものには触らない……。でも、いずれは結婚するし、するとこの部屋のものは、共同財産ということになる。だから多少、自分が、好き勝手したってかまわないのだ。
 というより、ベーケス2世からしたら、幼少期世話してやった相手であって、あまりプライバシーを尊重する必要を感じてはいなかった。下着の色なんてレベルではない。着替え全部を把握していた。
(どうせニュートのことだから、ベッドの下に、ヘンな本でも隠してるんだろうが……
 次期魔界王の秘密は、ちょっと気になる。いや、すごく気になる。ごそごそとベッドの下を探すと、見えづらい位置に木箱があった。
「おっ……
 開けてみると、ニュートの好きそうな感じの、セクシーな本が入っていた。ほらどうだ、あまりに思い通り過ぎて拍子抜けする。
 いくらかめくって、ふんっと鼻で笑い、半分くらい興味を失うと、箱がまだずっしりと重いのに気が付いた。
「うん?」
 二重底になっている。
 逆さにして振ってみると、底が外れた。
 出てきたのは、ざっくばらんな紙の束だ。
『結婚』という文字が見えて、さっと血の気が引いた。
(誰かと文通でもしてるのか?)
 まさか、誰か、好きなやつがいるのか?
 ことによっては、こっちのほうが重大だ。全て知っていると思ったし、知りたいと思ってはいたが、ずっと離れ離れだった。こうやって勝手に部屋を漁るのも、実際は不安だったからだ。人間モドキになんて、どう接してやればいいかわからないのだし。
「結婚、愛しているけど、結婚、できない……?」
 読み進めるにつれ、わなわなと手が震えてくる。
 人間界に恋人がいたのか?
 愛しているけど、魔界王になるから結婚できないと断っているということなのか。それは、ひどい裏切りだ。たとえ自分と結婚するとしても、そのままにはしておけない。ほかのやつに、心を奪われるなんてことがあってはいけないのだ。
 ごと、と、続けて何かが落ちる。
……なんだ?」
 表紙はやたらきらめかしく、イラストがあしらわれている。人間界の本。小説だったので、ほとんど読めない。
 ニュートの気配を感じたので、ベーケス2世は素早く箱を元に戻した。
 ニュートは息を切らせて部屋に戻ってきたのだった。
「おう、おかえりニュート! え? 何か見たかって? 見てない、見てない……
 と言いつつも、ベーケス2世は、とっさに、一冊を拝借していた。

***

 それは、人間界で流行りの婚約破棄もののライトノベルシリーズだった。
 つまり、「あなたとは結婚できません!」という断罪イベントがはさまり、婚約者に手ひどく振られた人間が、一念発起したり、恋をしてハッピーになったりする、そんな本なのである。
「婚約破棄ものだから、ニュート様、2世には、隠してたのに……
 魔界でもひそかな人気を誇り、有志により勝手に翻訳されている。ニュートが気に入って、ウルハムが訳をせっつかれていたのだ。
 よくよく考えると、あの書きつけは、手紙というには雑多な紙だったし、魔界の文字で書かれていた。ウルハムが訳したものだったのだ。
 ベーケス2世はちゃっかりと、ニュートの本を勝手に読んでいた。
 わりと、気に入ったのだ。
……っていうかそれ、二巻ですけど……
「これしか持ってこれなかったんだ」
「なんで??」
……
「面白いんですか?」
「面白い、面白い。いい気味だ。婚約者を捨てたらこーんな目に遭うんだっ。ははは。もっとみじめに落ちぶれりゃいいのに……
「ひねくれてるなあ……
 人間界の、しかも非公式の訳本だから、難しいところもあるのだろう。あんまり内容はわかっていないような気がする。
「なあ……『テンセイ』ってなんだ?」
「転生というのは……つまりこう、なんていうか。えーと、説明が難しいんだけど、生まれ変わりみたいなもので……
 ウルハムがちょっと得意になって説明を加えると、ベーケス2世の眉間のしわが深くなり、ついには、ぱたっと本を閉じた。
……転生してないやつがいい」
「ええ?」
「転生は、してないやつがいい」
 めんどくさい好みがあるようだ。
「話の展開が早くなるし、結構スタンダードな設定なんだけどなあ。っていうかさ、僕、別の本が読みたいんだけど……
「おお、ニュート!」
 ベーケス2世の声が高くなる。ぶんぶんと大げさに手を振っている。
「実は俺は、最近、これにはまっていて……えっ、ニュートも同じ本を? 偶然だなー」
(よく言うよなあ……