2024-11-25 20:32:12
1977文字
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た〜んと召し上がれ♡ 1

ハーアゼ(おさなご)




 ふわふわのほっぺたがあざやかな薔薇色に色付いて、おいしそうだな、とぼんやりと思ったものだった。
 ハーデスとヒュトロダエウスはその目の特異さから早くにアーモロートにて魂とエーテルの在り方について学ぶ機会を得ていて、目を持たずしてハーデス達と同じぐらいの年頃から同じ人に師事し、学んでいたのがアゼムに見出されられた子供だった。
 よく見て、聞いて、感じて、考える子供だった。どうして、は尽きずに溢れ、それは鋭く的をいているもので、知らない観点にハッとさせられることもある。好奇心の塊に行動力を持たせてしまったようなその子供は、時折アゼムについていっては怪我をしながらも笑って帰ってきて、こんなことがあった、こんなものを見た、とハーデスとヒュトロダエウスによく聞かせるのだ。
 それを思い出しながら頬を上気させ、舌が回るのが追いつかない、とばかりに手をぱたぱたさせて話す彼女を、おいしそうだ、とぼんやり思ったのはいつからかわからない。その丸い頬に唇で触れてみたい。溢れそうな瞳を舐めてみたい。ふわふわの唇を噛んでみたい。どこか凶暴さすら滲ませた感情を、彼女はひとで、ともだちだ、と言い聞かせて込み上げる唾液を飲み込んで、今日もハーデスは甘く香る友人を眺めている。

「ハーデスって、ふわふわしてきれいで、おかしみたい!」
 にっこり笑って言われた言葉に、本に目を落としていたハーデスはぴくり、と少しだけ肩を震わせながら顔を上げる。ハーデスの太ももに顎を乗せながら寝そべって本を読んでいたはずの彼女が、いつの間にか仰向けになってハーデスを見上げていた。小さな手を伸ばして、ハーデスの顎をぴた、と触る。むにゅ、とつままれて、ハーデスの唇がくにり、とすぼまった。
……ひとは、甘くないぞ」
 同じような感情をこいつも抱くのか、と驚きながらも、少しでも大人ぶりたくてハーデスはむすりと眉を寄せる。がばり、と体を起こした彼女はハーデスの両肩を掴むと、わかんないじゃん!と叫んだ。
「食べてみないとわかんないじゃん! きみは、きっとあまい!」
 ぷっくり頬を膨らませてそんなことを言われて。そんなことない、と否定したくても、確かに食べられたことなんてないのだから、わからない。
 黙ってしまったハーデスをみて、えい、と彼女はハーデスの頬に唇を寄せると、ぺろ、とその頬を舐めた。
……!」
「ん……っ」
 ちゅー、と吸い付いて、ぷは、と吐いて。そして首を傾げる。
……? ほんのり、あまいかも?」
「そんなわけ、無いだろう……。私よりも、おまえのほうがよっぽど、」
 頬を染めながら否定しようとして、言わなくていいことまで言いかけ、ハーデスは本が落ちるのも気付かずに両手でぱっと口を塞いだ。ぱちん、と近い距離で瞬きをして、きょとん、とした顔を見せた後、にっこりと彼女が笑う。
「わたしのほうが、あまいってぇ? んふふー。あじみする?」
 ほら、と彼女が頬をハーデスに寄せる。その薔薇色の頬が、きらきらしたまつげが、ふるりとした唇が。甘く甘く、ハーデスを誘う。迷いながら彼女の背中に手を回して、ハーデスはその頬に唇を寄せる。ぺろり、と舐めて、そして目を見開く。味、とはまた違う。けれどもほのかな甘さと、多幸感がふわりと胸に広がって、もっと、とお腹の奥がぐつぐつする。
「おいしい?」
 笑う声に返事をせずに、ハーデスはもう一度唇を近付けて、甘く吸ってみる。そのままもう一度舌で頬を舐めて、ああ、これはきっと、彼女のエーテルの味だ、と気付く。
「ずるい、わたしももっとなめたいー!」
 ハーデスの手を掴むと、彼女はその指先をぱくりと食べる。温かい舌が指をなぶる感覚に、ぞわぞわとしたものが込み上げ、堪らなくなってハーデスは目の前の彼女の首筋に唇を寄せてみる。ここから、もっと甘い匂いがする。ちゅう、と吸って、舌で舐めて。くすぐっひゃい、と動く彼女を押さえるように抱き込んで。
 込み上げた衝動のまま、ハーデスはかぷん、と噛みついた。



「ぼんどゔに、だべられぢゃゔーーーーっ!!」
 わぁん、と泣き出した彼女の横で、神妙な顔で食べない、すまない、とおろおろするハーデスを眺めながら、ヒュトロダエウスはきっととても楽しいことを見逃している、と愕然とする。どうにか彼女を宥めながら、何かあったのか聞き出して。ませた子供であっても、ヒュトロダエウスも子供である。
「かじりとって血とか出なきゃ、セーフだよ。たべるまねっこ、だろう?」
 くすん、と鼻を啜って、彼女が赤い目でハーデスを見る。
……まだ、たべあいっこしてもいい?」
…………かじりとったりは、しない」
 こくん、と頷いて。そうして、意味もわからないままに互いにそっと味わう関係が、できたのだ。