ぎんちき
2024-11-25 19:12:18
5383文字
Public ブン木手
 

叫べ!

中3春休み(高校入学前)の丸井くんのお話。まだブン木手じゃないけどブン木手です。
少しだけ丸井ファミリーが登場します。

「は~あ、暇だなぁ」
 正確に言うなら、別に暇じゃない。やることはあるけどやる気がないだけだ。
 高校入学までは一週間ちょっと。もう既に新しい制服は届いてるし、教科書だって揃ってる。俺のやんなきゃいけないことと言えば、最初の方だけちょっとやったまま放置し続けてる課題たちだ。三十分前に開いてみたはいいけど、そのまま一向に進んじゃいない。まぁまだ何とかなるだろ。多分。本当にヤバくなったらジャッカルにでも声を掛けて追い込みに付き合ってもらうかな〜。

「そこなんだよなぁ!」
 立海うちは一貫校だから小中に入学したときみたいな、期待感とかちょっと不安になるあの気持ちとかでいっぱい〜みたいな、そーゆーのがねぇんだよな。今までの進級する時の春休みとあんま変わんねぇっつーか。
 それはそれでラクだとは思うけど、ワクワク度はそんなに高くない。部活もテニスを続けるつもりだから、余計に絡むメンツが大きく変わることもないだろうし。っていうか春休み中にちょいちょい高等部の方の練習に参加させてもらってるしな。このままぬるっと休みが終わって、学校と部活が始まって……。そうやって過ごしてくんだろ。

 テニスってところで言うとやっぱ今年もあんだろうな、日本代表合宿。去年の合宿と……その後のW杯は悔しい思いもしたけど、その分今の成長に繋がってると思う。何より普段は話さないようなヤツと話したり練習できたりするのが結構面白いから招集されたら絶対に参加したい。
 ……で、今俺は課題をやりつつ、そんな合宿でやたらと縁のあったヤツからの届け物を待っているワケだ。指定した時間帯にはもうなってるけど、まだかな。今回何が送られてきたのか聞いてないからいつも以上に楽しみにしちゃってる俺がいたりして。俺ってば単純だから何が来ても結局喜んじゃうんだろうな。アイツにもそれがバレてる気がする。じゃなかったら何度も荷物のやり取りなんかしないだろ。……それはお返しをしている俺にも言えることかもしんねぇけど。
『ピンポーン』
「おっ!」
 ついに来たかな。親が出るより先にインターホンに向かう。テニスで鍛えた脚力をここぞとばかりに発揮してやった。

「は〜い、ありがとうございます〜」
 配達員の人から荷物を受け取りつつ、ちゃんと俺宛のものであることを確認する。こんだけ張り切って出たのに家族の頼んだものとかだったらガックリくるからな。発送元の住所は沖縄で、名前は木手永四郎。几帳面そうな字でそう書かれてた。よしよし。
「フフフ〜ン♪」
 鼻歌なんか歌ってみちゃって。何を浮かれてるんだか、って自分自身に呆れる俺もいるけど自然と出たんだからしょうがない。

「兄ちゃん、超ゴキゲンじゃん」
 なんだか足取りまで軽いぜ、と思いながら部屋に向かってたら弟に遭遇する。ご指摘はごもっともで……なんか、恥ずい。
「ま、まぁな」
「何で……あー、わかった! それキテレツから?」
「そうそう。またお前らにやれるもん入ってたらあとで持ってくから」
「やりぃ〜!」
「あるかはわかんねぇぞ〜!?」
 颯爽と去っていく背中に伝えておく。勘だけど……何かしらはあるような気がするかな。ここのとこそうしてくれてるみてぇだし。

 そんなキテレツと弟たちを会わせたことこそまだないけど、お互いに認識はしあっているって状況がちょっと不思議な感じがする。直接会わせる……ってのはすぐにはムリか。ならせめて今度ビデオ通話で対面でもさせようかな。
 初めの方は上の弟が緊張してカチコチになりそうな気がする。チビの方はきっと平気だろうな。キテレツは妹いるらしいし意外と……って、こんなことをしてる場合じゃねぇんだ。早く戻ろ。

   *

 カッターを手に取ってクッションの上に座る。段ボールは一旦目の前に置いておいた。軽く深呼吸をする。ワクワクと、ほんの少しの緊張を感じながらいざ、入刀。

「ほ〜!」
 開けてすぐ、見事にキチッと詰められてる様子がわかって思わず声が出る。キテレツの梱包力? は回を増すごとに高くなってんじゃねぇか? 緩衝材が最低限なのは助かるし、何よりもいっぱい詰めてくれてるから色々もらえるってのが単純に嬉しすぎる!
「え〜っと……?」
 おー、なるほど。毎度のゴーヤーも入りつつそれ以上にお菓子モリモリだ。サーターアンダギーにちんすこう、まだ色々あるな……パッと見だとわかんねぇのも……お。おお! これ、この前テレビで見たってだけ伝えたクンペンとやらか! こんなすぐ食えるなんてな。ありがてぇ〜!
 ……にしても、そもそもこのやり取りを始めたのってキテレツがウチにゴーヤーを送ってくれたのがスタートだったはずなのに、最早何の送り合いなんだって感じになってきたなぁ。俺に至っては単に銘菓とか以外にもうまかったものも送っちゃってるし。
 おかげで買い物行ったときとかスイーツ食ってるときなんかにも「キテレツにあげたら喜ぶかな」なんて考える俺もいたりいなかったり。これって俺にしちゃかなり珍しいことで。それってよくよく考えてみれば変、かも。ん〜。もしかしたらこれが大人になるってヤツなのかな。自分のことじゃなく他人のことを考えて〜って感じでさ。

「ん?」
 そんなことを考えてたらスマホが震える。画面を見ると、送り主はジャッカルだ。なになに……あー……うん。やっぱアイツ、俺のことよ〜くわかってんな。『ご名答! まだ終わってねぇから付き合ってくれんの助かる』——っと。持つべきものは良き友人ってな。誰かとやるってだけでかなり集中力が変わるからマジでありがてぇや。
 あ、そうだ。ついでにキテレツにも無事受け取ったってことを報告しとかねぇとな。写真も撮って……と。え〜っと……『荷物届いた』。んで、『お菓子いっぱいで嬉しい!』……これはちょっとバカっぽいか……? 『いつもサンキューな。今回のも食べるの楽しみ』。うん、こっちのがいいだろ。あとは『次の俺からの定期便もお楽しみに』。よし、こんなもんで送信して……と。

 既読は、まだつかない。そりゃそうか。アイツは俺より忙しいだろうし。あっちは俺と違って新しい環境になるんだもんなぁ。課題とか、その他色々やることあんじゃねぇか? だからすぐ確認されなくてもしゃーない、よな。
……
 何となくそのまま画面をスワイプして、キテレツとのやり取りを振り返る。最近の話題は進学先とか、部活のこと。アイツもテニスは続けるんだよな。でもほぼ一からメンバーを集めて基礎から固め直しから、とからしい。それって俺の想像以上に超大変なんだろうな。
 『比嘉んときだってそうしてきたんだからキテレツなら大丈夫だろい』なんて返したけど、何というか、俺……無責任だったか? いやでも俺はキテレツなら絶対にやり遂げるって本気で信じてるから。そうなるとお互い日本代表として、……の前に夏の全国大会で、会いてぇな。去年の全国も同じとこにいたけど俺、アイツのこと噂くらいでしか聞いたことなかったし。
 で、夏が終わって秋……冬辺りにまた、合宿があるとして、そこでダブルスを……組んでくれっかなぁ!? 少なくとも「嫌です」って言ってる顔の方がすぐに想像できる。まぁそこは俺の腕の見せどころか。どう言いくるめ……じゃなくて説き伏せるか、ってのもあるし、テニスの腕って意味でもある。組んだほうがもっとお互いに進化できるぜって証明を……

「んぉわ!」
 急なスマホの振動に驚かされる。画面の下の方には『よかったです』の文字。……つまりはキテレツから、返信が来たらしい。驚きのロキだろい。この後何か追加で来るのかな。それとも、終わりなのか。どちらにしたってもう遅いけど、これ以上即既読を付けるのは何だか気まずい……と思うから一旦トーク画面は閉じることに。ついでにスマホの画面も消す。ひっくり返して机に置いてから息を吸って……吐く。吸って……吐く。う、うん? 何を俺はこんなに動揺してんだ。なんてことない、やり取りだってのに。
 そうだよ。動揺する必要ねぇじゃん! 画面をつけ直して、通知を確認……するけど、何もない。あー、あれ? そうなんだ……そっかあ……——あ! 違う、違うぞ! さっきの、『よかったです』の後に改行してまだ続いてんだ! なになに……『では、次も楽しみにしてますね』……か。
 ふ、ふふん……。楽しみにしてくれんだ……なら張り切って準備してやっかな。キテレツの期待に応えられるように。いつになるかは未定だけど! なるべく早く……いや、早すぎてもアレか? 難しいな……いつがいいって聞く訳にもいかねぇし……後で誰かに相談……いやそれは違う……? えーっと、何だ、こう……あ〜。落ち着け、俺! 今は次を考える前に、もらったものを楽しむターンだろい!

 じゃ今回はまずはちんすこうでも……。へぇ、これひとくちサイズになってんだ。うまそ〜! 早速……と思って個包装の袋を開けようとするけど、謎の動揺が続いているせいか上手く開けられない。クソ、何なんだよ……! なんて自分に苛つきながらも何度かの格闘の末……やっと開く。いただきます。
「ん〜〜〜ま!」
 ふんわりと黒糖の味が広がってうまい。甘さはくどくないし、生地もサクッとしてホロッと崩れる感じが心地良い。しかも、よく見る長方形じゃなくてこの丸くて小さいってのが何ともちょうどいいような。ま、俺からしたらもっともっと食いてぇ〜! ってなるばっかかな! それはそれで、何だかいいかも。
 とはいえ、この調子でなんにも考えずに食ってると数分後にはなくなりそうでちょっと嫌だ。キテレツが、俺の為にくれたもんなんだからな。ちゃんと味わわねぇと。うん。そんな訳だから、もう一個だけ食うことにしておくか。次の味は〜……コレ! おっ、チョコ!? どれどれ……ん〜! これもうまい。確かにチョコ味だ! 外れない味! ちんすこうってこういうのもあんだな〜世界が広がった気がする。もう一個……行きたいけど、自制しろ、俺! 自制、自制……

 でも視界に入ると勝手に手が伸びそうになって危険だ。こうなったら違うことを考えるぞ、……違うこと……あ、そーいや、これって自分でも作れんのかな? あとで調べてみっか。キテレツに聞いてもいいよな。でもなぁせっかくなら……作って……送る、とか? 勿論サプライズで。
 そうだ、それがいいじゃん! 次に送るもの、決定だな! あ〜、楽しみ。キテレツのヤツ、どんな反応するかな? 多分喜んではくれるだろ。で、食べてもらって……うわ〜、上手く作れてたとしてもちょっと緊張するかもだな。それを考えると通話とかして声聞きてぇかも。文章より、本心がわかる気がするし。それで言うなら会って直接、が一番だけど……
「あ〜、会いてぇな〜……
 会って、目を見て喋って……。お菓子の感想聞いて。それでテニスのことも、地元とか新しい学校のことも、それ以外の全然関係ないどーでもいいことも……、俺の考えてたこと全部話して、キテレツが何を考えてるのかも全部教えてほしい。キテレツの好きなこと、好きなとこ。全部知りてぇし、知ってほしい。そう、お前は知らねぇだろうけど、……俺って……キテレツの……
「好きなとこ……色々あんだぜ……
 だから、いきなり全部は無理でも、ちょっとずつでいいから。

——は、え、あ。え。ん!?」

 何だ何だ何だ!? ビックリした。だ、え。どういうことだ? 落ち着けよ丸井ブン太。今の今考えてたことを振り返ってみろ。キテレツの好きなところがなんだって? 誰が? 俺が? 誰を? キテレツを? 何だって? 好き? それは、どういう意味のヤツだ?
「そっか。俺、キテレツのこと……

 身体が熱い。これは本当に体温が上がってんのか、それとも気持ちの問題なのか。わかんねぇけど、何というかとにかくじっとしてらんない! うわ〜ッ!
「ブン太出かけるの? 夕食は?」
「ちょっと出かけてくる帰ったら食うから取っといて!」
 俺の身体は部屋を飛び出て玄関を通り過ぎ、気がつけばチャリを走らせていた。ひたすら漕いで、漕いで、漕いで……。体感的には一瞬で海岸へ行き着いていた。街頭と月がぼんやりと光ってる。後ろは街。あっち側には島。目の前には、波だけ。周りに人がいるかどうかも確認することすらせずに、俺はこんなことを叫んでいた。

「キテレツーッ! 好きだーッ!」
 波の音が結構大きい。……負けたくない。そんな気持ちでもう一回叫ぶ。
「覚悟しておけよーッ!!」
 何だか小物の悪党みたいだ。そんな自分を笑いたくなる俺もいた。でも、この衝動は止めらんなかった。だって、本心なんだもんな! どうもそういうことで、間違いないらしい。
 俺はキテレツのことが、好き。そうだ。それでどうしたい……とかはまだ、わかんない。けど、この気持ちはキテレツにぶつけたい。結果とかは考えずに。迷惑、かな。だけど。だから、そう……。次会うときは覚悟しておけよな、キテレツ!

「よし。帰るか!」
 あ〜、腹減った。今日の夕飯、何だろうな!