いぬみ
2021-11-11 23:56:21
3716文字
Public ガ!!
 

きっと、溶けるほどに甘かった

ポッキーゲームをする大人デュゼオ
デュのことだしどうせしないだろうなって思ってたらスタンダードにポッキーゲームされて照れるゼ

 ポッキーという棒状の菓子を、お互いに端と端を咥えて食べ進める、先に口を離してしまった方が負け。そんな催しごと、というか遊戯があるらしい。

 手元の赤いパッケージの菓子は、間違いなくそのゲームを行うに当たって必要となるものだ。ポッキーではなくとも、プリッツやらトッポやら、棒状の菓子一本さえあれば支障はないらしい。なら棒状に細く長くなるように砕いたカツオブシチップスでも良いんじゃねえかなぁ地道に削り続けたら細くなるんじゃねえかなぁなんて深く考えずに思うが、今あるのは紛れもない甘いポッキーである。そもそもそんな私得な菓子を作ったとて、相手が魔物じゃない限り歯が欠けるか、不運なことに折れてしまうかしてしまうことは明白なので、断念した。普通に削って食べた方が美味しいし、オレ以外にカツオブシをおやつに食わせるなど言語道断だと考え直した。ひと握り程度ならやったっていいが、一本は許し難い。

 なんて与太話はやめにして本題に移るとすると、この菓子はガッシュによってオレに一箱分け与えられた代物だった。開け方が変わってしまったからあのころのような形のバルカンは作れぬが、つまりは新型ぼでーのカッチョイイバルカンの可能性が増えたということなのだ、張り切ってポッキーやプリッツを多く買ってしまって作りきれぬからぜひ食べて欲しいのだ、とよりいっそう目を輝かせていた弟を思い出す。どうやら昔からの清麿が作ってくれた友達を、これから清麿と作るらしい。

 ポッキーゲームの概要は、噂で知った。主に女性の声が大きかった気がする。カレシとやるだの乙女の夢だの憧れだのと言う声が多かった。否が応でも耳に入るから、残ってしまった、だけ。
 そう思いはするものの、少し期待して持ちかけかけている自分がいるのも言い逃れできない。このゲームの終わりは、どちらかが照れて折れない限り、最終的に唇と唇が合わさって──キスで終わる。だからこそ女が和気あいあいしていたのだ。イチャつく良い口実なのだから。顔と顔が密着しかける──運が良ければそのままキス、ができるのだから。

 一応デュフォーとそういう仲であるのだから、してみたいとオレが思うのは自然なことだろう。どういう反応をするのか、どうなるのか想像してしまうことも、夢を見てしまうのも、許されてしかるべきだろう。
「デュフォー、ポッキーゲーム、するか?」
 だから魔が差して、開けたポッキーの袋片手に実行を持ちかけることも、当然あって許されてしかるべきだろう。

 イヤまあ、わかってはいる。伊達にパートナーをやってきていたのではないし、何年もそばにいない。デュフォーのことだ。「まどろっこしいやり方をするな、したいならしたいと言え」とでも言いながら直接唇を奪ってくるだろう。ムードも情緒も欠けらも無いまま、ただ口付けを交わすのだろう。非常に道理が通っている、合理的で直接的な触れ合い方を想像して、少し呆れて、悪くないと考えた。ゲームに対しては最初から期待はしていなかった。結局このゲームの肝は接触と接吻である。要はほんのちょっとのキスのきっかけが欲しかっただけであるからして、他意はない。少し寂しいくらいがデュフォーらしくて、そういうところも好きだから今までも付き合ってやっているのだ、そういう意味でも。

 だから、オレが予想していたのはいつものように頭が悪いなと言う響きに似た、情緒のない言葉と直球な行動であったのだ。過去形、ということはつまりは裏切られた、ということなのだが。
 ──オレの言葉を聞いたデュフォーは、すぐに菓子を袋から取り出すと、まさかそんなことあるわけないだろうと完璧に油断して無防備だったオレの口の中に入れた。甘ったるく口内で溶けるチョコの味は予想外で驚いているうちに、デュフォーも端を咥えた。

 さくり、とスナック生地が軋む音がした。ゆったりとした動きで、しかし止まることはなく。それと同時に目の前の顔が近づいてきて、少しずつ少しずつ確実に距離を詰められていて、予想外が続く事態に心臓が早く跳ね出した。咥えたまま固まって、唇の、熱に溶けて柔らかくなったチョコの感触でハッとした。このまま動かないのも何だか場違いな気がして、本気にしていなかったとしてもそもそも誘ったのはオレだということにも気づいて、戸惑いながらも歯を立てた。甘い。

 近づいてくるオレほどではないにしろ白い肌に、今は閉じられている綺麗な螺旋の瞳、すっと通った鼻筋、ふわふわな髪の毛。どれも直視しがたくて、でもずっと見ていたくもあった。こいつ、まつ毛長いな。そんなことを漠然と思った。下まつ毛が特に長いなとありふれたことを思いながら、観察していた。

 そうしているうちにばちりと目線がかち合った。螺旋がオレを捉えかけたのを見て、間に合うも間に合わぬもバレるもバレぬも関係なしに目をぎゅっと閉じた。閉じる直前に見たデュフォーの瞳が愛おしげに細まったように見えて、その真相すらわからずに暗闇を見た。しかし、今どこまで進んでいるのか、終わりにどう近づいているのかが知ることができないのは不安要素であり、チラチラと目を開けて確認する妥協を行っていた。ちまちまと口を動かしながら、甘さを感じていた。

 どれくらい経ったのだろうか、三十分も経っていないはずなのに、何時間も経ったような心地がしていた。人差し指ほどの長さがあったはずのポッキーは親指にも満たないほどの短さとなり、このゲームも終わりに近づいていた。最後どうにもならずに固まる唇に触れた、ポッキーとは違う柔らかな感触は、随分前から知っているものだった。

 チョコとプレッツェル生地と唾で混沌としている口内を飲み下す。正直味はもうわからなかった。ただやっと終わったと安堵したし、もう終わってしまったと寂寥感さえ覚えたし、理解が追いつかずに残っていた疑問さえあった。それらがぐじゃぐじゃに混ざった末、羞恥心としてまとまって顔を赤く染めあげ火照らせた。何に照れているのか掴めなかった。唇に触れた感触にか、焦らすように近づいてきた顔か、その顔の秀麗さにか、ゆったりと進んでいくキスの過程にか、デュフォーの情緒が〝ポッキーゲーム〟に乗り気になるほどにまで成長したことにか、それによって予想を越えて行動されたからなのか、全然わからなかった。強いていえば、強行突破すれば、全てに照れたのだと言える。

 わかっていなかった。わからないふりをした。あいつが愛を知ったこと。あいつが愛を知った上で起こす行動ほど照れくさいものはないということ。あまりにも慣れない。慣れないから、あんな風に煽って誘ってしまった。

 デュフォーの手がこちらに伸びてきて唇に触れて、びくりと肩を震わせてしまった。拭い取るように指が動くとそのまま去っていき、主の口元へと引かれていった。オレの口周りに溶けたチョコが付着していたらしい。そのままぺろりと舌が出て、拭い取られたチョコが舐め取られる。それを見て、ナチュラルな優しさと大胆な間接キスに、声を出しそうになってしまった。
 今考えれば、最初からチョコの方をオレに咥えさせるだのと紳士的で、気づいた瞬間に気が狂ってしまいそうになった。デュフォーらしくなくデュフォーらしくて、意味がよくわからなかった。

「お前のまつ毛も白銀色なんだな」
 乱れかけていたオレの髪を耳にかけながら、デュフォーが何でもなさげに言った言葉は爆弾のように威力は高く、チョコのように甘くとろけそうな響きだった。改まったように、新しいパン屋ができたと報告するようにさらりと告げられたものは、少なくとも軽い気持ちで受け取れるようなものではなかった。
「つい見てしまった」
 さらりと撫でられて、いよいよどうにかなってしまいそうだった。ああ確かにやたらと視線をまぶたに感じると思った。それを言ったらお前も人のこと言えねえくらいには下まつ毛長かったぞ、なんて軽口を叩く余裕も今のオレにはなくて、押し黙って受け止めるしかなかった。
「ちょっと黙ってくれ」
 そのキャパシティすら限界が近づいていて、顔を伏せながら絞り出した言葉は拒絶に近いものだった。むしろなぜこんなに散々恥ずかしいことを行っておきながら、平然と口説けることができるのだろう。オレよりも王子様然としている。
「消化させろ……
 『愛するものに愛を伝えることを恥ずかしがる気持ちもわからんでもないが、伝えない方がおかしいだろう』とでも言いそうなデュフォーに、懇願するように伝える。このままだと消化不良を起こしたまま燃料を投下されそうで。
 「……わかった」と言ったデュフォーは『誘ったのはそっちだろ』とでも言いたげな目線をこちらに向けたが、すぐに平然と姿勢を正すと、残ったポッキーを食べだした。オレにも差し出すから、甘んじて口に含んだが、これもいわゆる「あーん」だということに気づいて、また顔から火が出るかと思った。

 胃もたれでも起こしそうなほど甘ったるい報復を感じ入って、もう二度と侮らずにいようと思った。